逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第204話 準備中が一番楽しい

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 学園祭に向けての準備は順調だった。
 結局、小型の調理窯は、アルタン製が二台とストン作が五台という内訳になった。これを使って去年同様に魚やら肉やらを焼く事になった。
 この調理窯はとにかくアピールポイントが多い。重量はそこそこあるものの、持ち運びができる。火を使わないので燃える危険性が低い。タイマー設定で付きっきりをしなくてもよい。以前作った魔石コンロも、アルタンやストンの作った合金により軽量化が行われ、アウトドアグッズとして売り出せそうである。なにせ組み込まれた魔石は、人工的に起こされたあの魔物氾濫で手に入った上等な魔石だ。一年休まず使っても魔力切れになる事はあり得ないものだった。
「合法的に大衆の前でプロモーションが行えるのは、学園祭ならではって感じよね。とはいえ、野生生物や魔物が居る時点で、野営から焚き火が消える事はないけど」
 学園祭の準備をしながら、チェリシアはロゼリアたちを交えて話をしている。ペシエラとアイリスは相変わらず王宮に出向いており、この日も不在だった。
「あたいらみたいな暗殺者や野盗が居る限り、護衛の仕事は無くならないから、その辺は気にしないでいいと思うぞ」
 学園祭に持っていく商品で悩んでいると、キャノルがロゼリアたちに言葉を掛ける。ロゼリアたち、特にチェリシアの表情を見て察したのだろう。魔物除けの話もしていたので、キャノルにはピンと来たようである。
 キャノルのひと言で、チェリシアは黙々と魔道具の作製に取り掛かる。
 実は言うと、王国広しと言えども六属性の使い手は、コーラル伯爵の娘であるチェリシアとペシエラの二人しか居ない。その貴重な六属性の使い手にしか作れない魔道具も多く、そういった点において、マゼンダ商会は唯一無二の取扱商品も多い。しかし、独占を避けるため、既存の商会の得意とする物へは極力手を出さず、技術協力程度の優位性に留めている。やり過ぎは良くないからだ。
 そういう経緯もあってか、マゼンダ紹介の信用はかなり厚い。過去には粗悪品で貶めようとした者も居たらしいが、しっかりと返り討ちにあっており、下手に手を出そうと考える者は居なくなっていた。ドール商会の例もあり、むしろ協力的にした方がいいと学んだらしく、今では持ちつ持たれつの関係になっているそうだ。
「お嬢様、チェリシア様、オーカー商会の者がお見えでございます。いかがされますか?」
 ノックして入って来たのはリモスだ。食料品を扱うオーカー商会の面会らしい。
「それでしたら私が向かいます。チェリシアはそのまま作業を続けていてちょうだい」
「うん、任せたわ」
 ロゼリアが席を立って、リモスについて出て行く。
「オーカー商会ですか。何の用でしょうね」
 シアンもロゼリアと一緒に出ていったので、こう尋ねて来たのはキャノルだ。
「学園祭で使う食材の件だと思う。オーカー商会には、うちの食料部門を委託したので、間違いないと思うわ」
「ほほう、食材ですか」
「キャノル、よだれよだれ」
「おっと、これは失礼」
 チェリシアはキャノルに注意しながらも、作業の手は止めない。無防備に見えて、キャノルのよだれに気付くあたり、チェリシアも隙はない。
「殺せそうで殺せない。暗殺者をしてた身からすると、本当にやりづらい相手だよ」
「一応、褒め言葉として受け取っておくわ。もう少しで一応の調整が終わるから、テストを手伝ってもらうわよ」
「仰せのままに」
 チェリシアは、学園祭で使う装置の調整をしていた。
「何なんですかい、それ」
 気になったキャノルは質問するが、
「見てもらった方が早いから、黙ってて」
 チェリシアは答えなかった。
 小さな箱のような物を前に、チェリシアは深呼吸をする。そして、収納魔法から過去に作った料理を一つ引っ張り出すと、それをカメラで撮影した。
「……出来たての料理が空中から出てきたよ」
 キャノルは驚きの言葉を漏らすが、チェリシアは反応しない。そのままカメラから小さな魔石を取り出すと、目の前の小さな箱の凹みに魔石をはめ込んだ。
「見てて」
 チェリシアが小さな箱の魔石に魔力を流すと、空中に先程撮影した料理の画像が浮き上がる。
「な、何なんだ、これ」
「立体投影っていうものね。キャノルやアイリスに持たせてる撮影魔法と同じものよ。こうやって撮影したものを映し出せるの。立体ホログラムがこっちでも再現できるなんてすごいわ」
「へえ」
 浮き上がった料理の画像に手を伸ばすキャノルだが、料理に手をつける事ができず、手は虚しく空を切った。
「うへぇ、幻影魔法なのか」
「うふふ、これも学園祭に出してみるつもり。食堂とかの料理の見本なんかに使えると思うのよ」
「なるほど、そいつは面白いかも」
 チェリシアとキャノルは、ノリノリで学園祭の打ち合わせを始めるのだった。
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