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第八章 二年次
第202話 驚愕のお値段
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二年次の後期が始まり、学園祭の準備が始まった。今年の学園祭では、ロゼリアたちはチェリシアを中心としてマゼンダ商会のブースを出すつもりでいる。学園への許可を申請しに行くと、あっさりとOKがもらえた。
その日の帰り道、
「二年次のゲームイベントは去年起きてしまったから、各攻略対象との交流が中心になるかな」
チェリシアはそんな事を言っている。実際、ゲームの流れをメモしたノートに、二年次の武術大会で魔物の襲撃が起きると記されていた。襲撃が一年前倒しになった事で、一年次の交流イベントが入れ替わりでメインになるというのは、実に自然な思考であろう。
だがその前に、夏季休暇の話を振り返ろう。
ロゼリアたちは去年同様、コーラル伯爵の領地に赴いた。だが、今回訪れたのはシェリアだけで、訪問には新しく入ったキャノルも連れて行った。
主な目的は小型の調理窯の可能性の調査だ。シェリアは海の幸が獲れるので、可能性を試すにはちょうど良かったのである。
ちなみに、キャノルのおかげでルゼからの協力が得られたので、ルゼの生み出したアルタンで調理窯を作成した。その結果、ストンが作った物の約半分ほどまでに重量が減り、なんとチェリシアですら持てるくらいに軽くなったのだ。ストンは泣いていい。
小型の調理窯で焼いた海産物は、通常の窯とも比べても遜色のない焼き加減を実現していた。そして、通常なら焼き加減を見るために張り付きっぱなしになる調理を手放しにできるとあって、伯爵邸の使用人やシェリアでの実演を見た人たちはとても驚いていた。
シェリアに持って行った試作機は、なんとタイマー機能付き。温度設定の魔石に触れて魔力を流す際に時間を指定する事で、その時間の分だけ中を加熱し続ける事ができるのだ。
この機能を目の当たりにした人たちからは購入希望が殺到したのだが、一台あたりの価格が金貨十五枚。希少金属を使っているし、何と言ってもハイテク満載なので、どうしても値が張ってしまうのだ。通常の調理窯が金貨二枚もあれば作れてしまうので、どれだけ高いかが分かる。
「アルタンが安定的に採れればいいんだけど、鉱脈は不明だし、ルゼさんに負担を掛けるだけだからどうしてもね……」
チェリシアはそう言って残念がっていた。ちなみにストンが作った調理窯の方は金貨五枚だ。ストンの方は結構採掘量の多い金属を使うので、重量に目を瞑れば比較的お手頃である。まあ、模様替えでもしなければそうそう動かす事もないので、ストンの作った調理窯でも十分そうである。
日本人だったチェリシアからすると、この価値も大概おかしいらしい。百枚ごとに硬貨のランクが銅→銀→金→白金と上がっていく。市井調査の結果、銅貨一枚がおおよそ十円程度と分かった。なので、金貨十五枚はその十五万倍、つまりはアルタン製の調理窯はなんと百五十万円程度の価値になるらしい。とはいえ、ストンの作った重い方も五十万円くらいなので、家電が出始めた頃みたいな感覚である。いやいや、いくらなんでも高過ぎである。
これに関しても、
「アルタンが、チェリシア様の言う通り、合金として作れれば価格は下がりますよ」
とルゼに言われてしまった。これを聞いたキャノルが顔を真っ青にしたのは言うまでもなく、
「あたいは、そんな銭投げみたいな事をしてたのか……」
という感じにしばらく放心していた。
「チタンはアイヴォリー王国所有の鉱山で採れるわよ。あの犯罪者が送られる鉱山ね。アルミニウムは、よく分からないわね」
どうやら、鉱石のエキスパートであるルゼも知らない金属のようだ。
「だったら、ボーキサイトっていうのは?」
チェリシアが別の名前を出して尋ねると、
「あぁ、それならチタンと一緒に採れるわね」
ルゼから即答された。これにはチェリシアは思わずガッツポーズをする。
「そのボーキサイトは、アルミニウムの原料よ。アルミニウムって単体ではなかなか存在してないらしいからね。ボーキサイトからアルミナっていう酸化アルミニウムを取り出して、それを精製してアルミニウムにするのよ」
チェリシアは、なけなしの化学知識を披露する。しかしそれは、ルゼたちを感動させるには十分だった。
「分かりました。チェリシア様、このルゼにお任せ下さい」
チェリシアの説明に、金属のエキスパートの意地に火が灯るのだった。
その日の帰り道、
「二年次のゲームイベントは去年起きてしまったから、各攻略対象との交流が中心になるかな」
チェリシアはそんな事を言っている。実際、ゲームの流れをメモしたノートに、二年次の武術大会で魔物の襲撃が起きると記されていた。襲撃が一年前倒しになった事で、一年次の交流イベントが入れ替わりでメインになるというのは、実に自然な思考であろう。
だがその前に、夏季休暇の話を振り返ろう。
ロゼリアたちは去年同様、コーラル伯爵の領地に赴いた。だが、今回訪れたのはシェリアだけで、訪問には新しく入ったキャノルも連れて行った。
主な目的は小型の調理窯の可能性の調査だ。シェリアは海の幸が獲れるので、可能性を試すにはちょうど良かったのである。
ちなみに、キャノルのおかげでルゼからの協力が得られたので、ルゼの生み出したアルタンで調理窯を作成した。その結果、ストンが作った物の約半分ほどまでに重量が減り、なんとチェリシアですら持てるくらいに軽くなったのだ。ストンは泣いていい。
小型の調理窯で焼いた海産物は、通常の窯とも比べても遜色のない焼き加減を実現していた。そして、通常なら焼き加減を見るために張り付きっぱなしになる調理を手放しにできるとあって、伯爵邸の使用人やシェリアでの実演を見た人たちはとても驚いていた。
シェリアに持って行った試作機は、なんとタイマー機能付き。温度設定の魔石に触れて魔力を流す際に時間を指定する事で、その時間の分だけ中を加熱し続ける事ができるのだ。
この機能を目の当たりにした人たちからは購入希望が殺到したのだが、一台あたりの価格が金貨十五枚。希少金属を使っているし、何と言ってもハイテク満載なので、どうしても値が張ってしまうのだ。通常の調理窯が金貨二枚もあれば作れてしまうので、どれだけ高いかが分かる。
「アルタンが安定的に採れればいいんだけど、鉱脈は不明だし、ルゼさんに負担を掛けるだけだからどうしてもね……」
チェリシアはそう言って残念がっていた。ちなみにストンが作った調理窯の方は金貨五枚だ。ストンの方は結構採掘量の多い金属を使うので、重量に目を瞑れば比較的お手頃である。まあ、模様替えでもしなければそうそう動かす事もないので、ストンの作った調理窯でも十分そうである。
日本人だったチェリシアからすると、この価値も大概おかしいらしい。百枚ごとに硬貨のランクが銅→銀→金→白金と上がっていく。市井調査の結果、銅貨一枚がおおよそ十円程度と分かった。なので、金貨十五枚はその十五万倍、つまりはアルタン製の調理窯はなんと百五十万円程度の価値になるらしい。とはいえ、ストンの作った重い方も五十万円くらいなので、家電が出始めた頃みたいな感覚である。いやいや、いくらなんでも高過ぎである。
これに関しても、
「アルタンが、チェリシア様の言う通り、合金として作れれば価格は下がりますよ」
とルゼに言われてしまった。これを聞いたキャノルが顔を真っ青にしたのは言うまでもなく、
「あたいは、そんな銭投げみたいな事をしてたのか……」
という感じにしばらく放心していた。
「チタンはアイヴォリー王国所有の鉱山で採れるわよ。あの犯罪者が送られる鉱山ね。アルミニウムは、よく分からないわね」
どうやら、鉱石のエキスパートであるルゼも知らない金属のようだ。
「だったら、ボーキサイトっていうのは?」
チェリシアが別の名前を出して尋ねると、
「あぁ、それならチタンと一緒に採れるわね」
ルゼから即答された。これにはチェリシアは思わずガッツポーズをする。
「そのボーキサイトは、アルミニウムの原料よ。アルミニウムって単体ではなかなか存在してないらしいからね。ボーキサイトからアルミナっていう酸化アルミニウムを取り出して、それを精製してアルミニウムにするのよ」
チェリシアは、なけなしの化学知識を披露する。しかしそれは、ルゼたちを感動させるには十分だった。
「分かりました。チェリシア様、このルゼにお任せ下さい」
チェリシアの説明に、金属のエキスパートの意地に火が灯るのだった。
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