逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
204 / 519
第八章 二年次

第201話 ライの潜入生活

しおりを挟む
「あの新人、しっかり働くねぇ」
「本当。雰囲気が軽いからすぐ辞めると思ったのにね」
 ベテラン侍女が噂をしている。
 その視線の先で、一人の薄ピンクの髪の少女が洗濯物を干していた。
 ハイスプライトのライである。
 彼女は今、パープリアの屋敷で働いている。ペシエラたちの命を受けての潜入調査だ。
 ハイスプライトはイタズラ妖精であるスプライトの上位種で、豊富な魔力を持つ若い姿をした人間ほどの大きさを持つ妖精である。もちろん、男女どちらも存在しているが、あの一件で巻き込まれたライは子ども体型の女性型妖精である。
 とはいえ、普通の妖精とは違い、イタズラという単語に違わず悪さばかりをするので魔物扱いで討伐対象にされるくらいの存在である。
 しかし、ライは従魔となってからはすっかりイタズラは鳴りを潜めた。ちなみにライは土と闇の適性があり、念動力と催眠系の魔法を得意としている。そういう事もあって、仕事は結構手を抜きつつ、よく見せていた。
(新人って事だから、まあ雑用ばかりなのは当然かしら。こんな事したくはないけど、主人様の命令だから仕方ないわね)
 という感じに、使用人としての仕事はやりたくないという気持ちでいっぱいだった。それでもその雑用をこなすのは、主人であるアイリスが文句も言わずにしている事である上に、なによりあのペシエラが怖かったのだ。上級の魔物であるライはなんとか凌いだものの、何百という魔物を一瞬で葬り去ったあの少女に逆らう気が起こらなかったのだ。逆らえば殺される。それがライのペシエラへの印象である。
 ライが住み込みで働くようになってから、掃除と称して屋敷の中を見て回ったが、これといって怪しい点はない。使用人たちも待遇は悪くないようで、文句の一つも転がってこない。ただ、奥方と呼ばれている男爵夫人アメジスタの姿だけは見た事がない。使用人の話では病弱で面会できないそうだ。
 しかし、それは嘘だと、ライは知っている。というのも、幻獣であるニーズヘッグが接触しているからだ。そのニーズヘッグはライとも接触しており、屋敷の情報をペシエラたちに流している。こういう重要な任務があるからこそ、気ままな妖精であるライがひと所に留まっていられるのだ。
(何かやらかせば、ペシエラ様にどんな目に遭わされるか……)
 ライたち従魔の行動原理は、すべてアイリスのためである。そこにペシエラが怖いという感情が加わる事で、彼女たちの意図の通りに動かざるを得ないのである。ライは今回従魔となった魔物の中では最弱なので、仕方のない事だ。
(うう、ルゼみたいに好き勝手やりたいわよー)
 ライは少々ストレスを溜め始めていた。
 とはいえ、両親を亡くした子どもという設定で使用人となった事で、一部の使用人からは同情を買っており、やたらと親切にされる。そこに不満はないので、魔物としての性質との間で、複雑な心情を抱えているようだった。
 こういうのが人間なんだなと割り切ったライ。とりあえずは一週間の潜入結果を、ニーズヘッグを蒼鱗魚を通じてアイリスに伝える。
 屋敷の使用人は、パープリア男爵の裏の顔を知らないという事。それと、アイリスの母である男爵夫人のアメジスタの詳細を、使用人の誰も知らない事など、知り得た事はすべて伝えた。ライの報告に、中に居たはずのアイリスは驚きを隠せないようだったが、調査を続けるように落ち着いて話していた。
 それと、ニーズヘッグに会った際に、身に付けていた魔石も渡すように伝えておいた。この魔石はアイリス自身も身に付けている、見聞きした事をそのまま記録できる撮影魔法の込められた魔石である。プライバシー完全無視な代物だが、ライの行動範囲の全てが証拠になる。この魔法を使えるのはチェリシアとペシエラだけだし、記録されたものを魔法で改竄する事もできないので、これほどまでの証拠などあり得ない話なのだ。
 アイリスとの定期通信を終えたライは、使用人の部屋のベッドの上に転がる。明日からはパープリア男爵邸内での仕事の幅が増える事になっている。試用期間が終わって、本格的な雇用となるのだ。
(さーて、これでいよいよ屋敷の中でも動きやすくなる。主人様のためだ。面倒だけど精一杯やらせてもらおうかな)
 ライはそう考えると、翌日に備えて眠りにつくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...