203 / 522
第八章 二年次
第200話 アルタンという金属
しおりを挟む
「ちょっと待て、なんでそれが分かる? これを知るのは暗器を専門に作ってる鍛冶のおっさんだけだぞ。本人はたまたま作れたって言ってたからな」
チェリシアの驚きの反応に、キャノルも驚いている。
「お姉様、そのチタン、アルミニウム合金って何ですの?」
それを無視して、ペシエラはチェリシアに尋ねる。
「そのままよ。金属のチタンとアルミニウムを適切な分量で混ぜ合わせた合金、……合成金属なの。両方の金属の性質を持ち合わせている事が多いわね。それによって単体の弱点を補い合えるのよ。チタンは軽くて強いけど、単体での加工がしづらい。アルミニウムは軽くて加工はしやすいけど、柔らかくて強度に難があるの」
チェリシアの説明で、ペシエラはなんとなく分かったようである。
「なるほど、軽くて丈夫で加工がしやすいようにした金属って事ね」
「そういう事。両方の金属とも、王都では流通してないから、ストンさんも用意できなかったのね」
チェリシアは調理窯を触りながら話している。
「それでしたら、ルゼに言えばどうにでもなるのでは?」
黙って聞いていたアイリスが、手を挙げながら進言する。
「あっ、そっか。ルゼさん、メタルゼリーで世界中の金属食べてたって言ってたものね」
アイリスの言葉で、チェリシアは思い出したかのように言う。
「め、メタルゼリー?! あんたら、魔物とも知り合いなのか?」
「ルゼは私の従魔です。私は神獣使いというものらしくて、魔物も眷属にする力があるようですよ」
キャノルにとって、驚きの連続だった。アイリスの事を一緒に仕事をした事のある可愛い妹だと思ったら、魔物すらも従えられるとんでもない人物だったのだ。驚くなという方が無理である。
「いや待て。もしかして、あたいは今、とんでもない事に巻き込まれてないか?」
「私どもの命を狙った時点で、既にとんでもない事です。諦めなさい」
ようやく事態の重さに勘付いたキャノルだったが、去年の時点で“時、既に遅し”である。シアンから「今さら何を」と突っ込まれるのであった。
というわけで、ドール商会に先触れを出して、チェリシアたちはドール商会に向かう。
「さっき言ってたルゼってのは、ドール商会に居るのか」
「ええ。ドール商会は金属を扱っているからね。あなたの武器を作ってくれてた職人さんにも、悪い話じゃないと思うわ」
「いやー、あのおっさんは表舞台で有名になるのは嫌がると思うけどな」
チェリシアの言葉に、キャノルは頭を掻きながら困惑した表情で言っている。
まあ、それは十分に理解できる。裏稼業相手に商売をしているのなら尚更だ。しかし、腕のいい職人を闇に埋もれさせておくのは、国としても損失になりうる話なので、特にペシエラがその職人に興味を示していた。
「あれ、主人様、ペシエラ様、チェリシア様。どうされたのです?」
チェリシアたちは、ドール商会では真っ先にルゼに会った。商会長一家は揃って留守だったので仕方ない。
「久しぶりね、ルゼ。早速だけど、これ見てもらえる?」
「何ですか、これは」
ペシエラに見せられた金属の針を見せられて、ルゼはすぐに固まる。
「ちょっと、これ、なんでこの金属が存在してるんですか?」
慌てたように言うルゼ。どうやら知っているようだ。
「知ってるのね」
「知ってるも何も、これ、アルタンっていう金属ですよ。人間界に存在してるんですか?!?!」
思いっきり混乱している。
「私の前世の世界じゃ、天然なり人工なり、そこそこ存在してるんだけど? というか、アルミニウムとチタンが存在するなら、可能性はあるでしょう」
チェリシアは両手を腰に当てて、ため息混じりに言っている。ルゼは相変わらず混乱している。
「えええ、人工的に作れる? 本当ですか? これ、魔法銀と似てますけど、あれと違って魔法はかなり遮断しちゃう金属なんですよ」
なんか口調が崩れている。驚きすぎて、素が出てるのかも知れない。
「固い喋り方って演技だったのですわね」
ペシエラに突っ込まれて、ルゼはハッとする。
「えへへ、いや、最近雰囲気変えてみただけです。淡々とするよりこっちの方が親しみやすいかなって」
照れ照れと可愛らしく笑うルゼ。金属スライムという無機質感など、もはやそこには存在していなかった。
そこへ、チェリシアが収納魔法から小型の調理窯を取り出して、ルゼに見せる。
「ルゼさん、そのアルタンでこれを作れないかな?」
そう、調理窯の軽量化作戦の始まりだった。
チェリシアの驚きの反応に、キャノルも驚いている。
「お姉様、そのチタン、アルミニウム合金って何ですの?」
それを無視して、ペシエラはチェリシアに尋ねる。
「そのままよ。金属のチタンとアルミニウムを適切な分量で混ぜ合わせた合金、……合成金属なの。両方の金属の性質を持ち合わせている事が多いわね。それによって単体の弱点を補い合えるのよ。チタンは軽くて強いけど、単体での加工がしづらい。アルミニウムは軽くて加工はしやすいけど、柔らかくて強度に難があるの」
チェリシアの説明で、ペシエラはなんとなく分かったようである。
「なるほど、軽くて丈夫で加工がしやすいようにした金属って事ね」
「そういう事。両方の金属とも、王都では流通してないから、ストンさんも用意できなかったのね」
チェリシアは調理窯を触りながら話している。
「それでしたら、ルゼに言えばどうにでもなるのでは?」
黙って聞いていたアイリスが、手を挙げながら進言する。
「あっ、そっか。ルゼさん、メタルゼリーで世界中の金属食べてたって言ってたものね」
アイリスの言葉で、チェリシアは思い出したかのように言う。
「め、メタルゼリー?! あんたら、魔物とも知り合いなのか?」
「ルゼは私の従魔です。私は神獣使いというものらしくて、魔物も眷属にする力があるようですよ」
キャノルにとって、驚きの連続だった。アイリスの事を一緒に仕事をした事のある可愛い妹だと思ったら、魔物すらも従えられるとんでもない人物だったのだ。驚くなという方が無理である。
「いや待て。もしかして、あたいは今、とんでもない事に巻き込まれてないか?」
「私どもの命を狙った時点で、既にとんでもない事です。諦めなさい」
ようやく事態の重さに勘付いたキャノルだったが、去年の時点で“時、既に遅し”である。シアンから「今さら何を」と突っ込まれるのであった。
というわけで、ドール商会に先触れを出して、チェリシアたちはドール商会に向かう。
「さっき言ってたルゼってのは、ドール商会に居るのか」
「ええ。ドール商会は金属を扱っているからね。あなたの武器を作ってくれてた職人さんにも、悪い話じゃないと思うわ」
「いやー、あのおっさんは表舞台で有名になるのは嫌がると思うけどな」
チェリシアの言葉に、キャノルは頭を掻きながら困惑した表情で言っている。
まあ、それは十分に理解できる。裏稼業相手に商売をしているのなら尚更だ。しかし、腕のいい職人を闇に埋もれさせておくのは、国としても損失になりうる話なので、特にペシエラがその職人に興味を示していた。
「あれ、主人様、ペシエラ様、チェリシア様。どうされたのです?」
チェリシアたちは、ドール商会では真っ先にルゼに会った。商会長一家は揃って留守だったので仕方ない。
「久しぶりね、ルゼ。早速だけど、これ見てもらえる?」
「何ですか、これは」
ペシエラに見せられた金属の針を見せられて、ルゼはすぐに固まる。
「ちょっと、これ、なんでこの金属が存在してるんですか?」
慌てたように言うルゼ。どうやら知っているようだ。
「知ってるのね」
「知ってるも何も、これ、アルタンっていう金属ですよ。人間界に存在してるんですか?!?!」
思いっきり混乱している。
「私の前世の世界じゃ、天然なり人工なり、そこそこ存在してるんだけど? というか、アルミニウムとチタンが存在するなら、可能性はあるでしょう」
チェリシアは両手を腰に当てて、ため息混じりに言っている。ルゼは相変わらず混乱している。
「えええ、人工的に作れる? 本当ですか? これ、魔法銀と似てますけど、あれと違って魔法はかなり遮断しちゃう金属なんですよ」
なんか口調が崩れている。驚きすぎて、素が出てるのかも知れない。
「固い喋り方って演技だったのですわね」
ペシエラに突っ込まれて、ルゼはハッとする。
「えへへ、いや、最近雰囲気変えてみただけです。淡々とするよりこっちの方が親しみやすいかなって」
照れ照れと可愛らしく笑うルゼ。金属スライムという無機質感など、もはやそこには存在していなかった。
そこへ、チェリシアが収納魔法から小型の調理窯を取り出して、ルゼに見せる。
「ルゼさん、そのアルタンでこれを作れないかな?」
そう、調理窯の軽量化作戦の始まりだった。
1
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
火事で死んで転生したトラストン・ドーベルは、祖父の跡を継いで古物商を営んでいた。
そんな中、領主の孫娘から幽霊騒動の解決を依頼される。
指輪に酷似した遺物に封じられた、幻獣の王ーードラゴンであるガランの魂が使う魔術を活用しながら、トラストン――トトは幽霊騒動に挑む。
オーバーラップさんで一次選考に残った作品です。
色々ともやもやしたことがあり、供養も兼ねてここで投稿することにしました。
誤記があったので修正はしましたが、それ以外は元のままです。
中世と産業革命の狭間の文明世界で繰り広げられる、推理チックなファンタジー。
5月より、第二章をはじめました。
少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる