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第八章 二年次
第194話 軽量化
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「おう、チェリシアの嬢ちゃんは居るかい?」
マゼンダ商会にストンがやって来た。
「チェリシア様ですか? はい、いらっしゃいますが……。ストン様、どういったご用件でしょうか」
受付に居る女性が対応する。どうやらストンの名と容姿は知っているらしい。
「こないだ見せてもらった小型の調理窯。軽くしたいとか言ってたからな、作ってみたんだ。それを見せたい、それだけだ」
「まあ、調理窯をですか。畏まりました、ご案内致します」
受付の女性は席を立ち、ストンを案内する。
ストンが手に持っている大きな包み、これが調理窯らしいのだが、案内している女性はどうにも気になっているのか、チラチラと目をやっていた。
「……案内してもらえれば見られるから、そんなにじろじろ見るな」
「……失礼致しました」
これ以外は特に会話もなく、この日チェリシアが居る作業所へとやって来た。
「お忙しいところ失礼致します。チェリシア様、ストン様がおいででございます」
姿を確認すると、女性はチェリシアに声を掛ける。
「あっ、ストンさん、いらっしゃい」
「おー、チェリシアの嬢ちゃん。ほれ、先日話してたやつができたぞ」
振り返ったチェリシアが挨拶をすると、ストンはすかさず要件を話した。
「えっ、できたんですか。み、見せて下さい」
「何を持って来られたのですか?」
興奮するチェリシアと、戸惑いつつ質問する受付の女性。それを尻目に、ストンは作業台の上に包みを置いた。
「軽くて頑丈で、しかも中の熱を遮断となると、材質の選定が難しかったぞ」
ストンが包んだ布を取り払うと、中から出てきたのは何とも不思議な光沢の箱だった。
「核となるのは魔鉄鉱だ。内側には耐熱素材として出回っている黒鉛、外側は魔法銀の魔力線に干渉しない金属の合金で覆った。俺が両手で軽く持てるくらいの重量になったぞ」
ストンが説明してくるが、鉱物知識のないチェリシアにはさっぱりだった。
「まあ何にせよ、魔石を取り付けて動かしてみない事にはいかんがな。あくまで経験を踏まえた理論上の話だからな」
ストンはドカッと椅子に座った。
「持ってみても大丈夫ですかね」
「構わん。ただ、お前さんの細腕で持てるとは思わんがな」
ストンは興味なさそうにチェリシアを見ながら言う。チェリシアは気にせず、調理窯を持ち上げようと手を掛ける。
「う……ん……。重い……」
「そりゃそうだ。だが、前に見せてもらったあれよりは、かなり軽くできたはずだ」
ストンは腕を組んで、チェリシアから視線を外しながら言う。
「確かに、引きずって動かせるあたり、だいぶ軽くなってますよ」
チェリシアの感想は当然である。前回の試作品は、収納魔法を使わなければピクリとも動かなかった。全部が魔鉄鉱を使った物だったので仕方がない。魔鉄鉱は物理も魔法もかなり防ぐものの、いかんせん重量があり、壁役用の装備に合金として使われる代物なのだから。
新しい小型調理窯を見て、チェリシアの目は輝いていた。
「じゃ、早速試運転……」
魔石を軽量化された調理窯の中に設置する。これも設置場所は上下の二ヶ所だけだ。前面は耐熱性のクリスタル素材で、中身がよく見えるようになっている。
天面には操作用の魔石も設置して、早速パンやピザを焼いてみる。
結果としては、どちらもちゃんと焼けた。魔石も調理窯も問題はない。
ストンを連れてきた受付の女性は、焼いている間に飲み物を用意していた。さすが、気が利く。そして、パンとピザを試食すると、満足したように受付へと戻っていった。
「あの嬢ちゃんは、結局休憩を兼ねていきおったな」
ストンは少し呆れていた。
「まあ、この程度では怒りませんよ。他にも受付の方はいらっしゃいますし、ちょうどお腹も空いていたでしょうから」
その様子を見ていたチェリシアは、笑いながら言っていた。
「ストンさん、この調理窯、あと四台ほどお願いできませんか?」
「四台? ああ、構わないが」
チェリシアにしては珍しく、何かを企んだような笑みを浮かべている。ストンが二つ返事で了承すると、チェリシアはこの上ない笑顔を見せる。
「今度の学園祭、これを目玉にしましょう。これ以上の軽量化が図れそうなら、よろしくお願いします」
チェリシアはそう言うと、マゼンダ家のリモスを呼んで価格交渉に入るのだった。
マゼンダ商会にストンがやって来た。
「チェリシア様ですか? はい、いらっしゃいますが……。ストン様、どういったご用件でしょうか」
受付に居る女性が対応する。どうやらストンの名と容姿は知っているらしい。
「こないだ見せてもらった小型の調理窯。軽くしたいとか言ってたからな、作ってみたんだ。それを見せたい、それだけだ」
「まあ、調理窯をですか。畏まりました、ご案内致します」
受付の女性は席を立ち、ストンを案内する。
ストンが手に持っている大きな包み、これが調理窯らしいのだが、案内している女性はどうにも気になっているのか、チラチラと目をやっていた。
「……案内してもらえれば見られるから、そんなにじろじろ見るな」
「……失礼致しました」
これ以外は特に会話もなく、この日チェリシアが居る作業所へとやって来た。
「お忙しいところ失礼致します。チェリシア様、ストン様がおいででございます」
姿を確認すると、女性はチェリシアに声を掛ける。
「あっ、ストンさん、いらっしゃい」
「おー、チェリシアの嬢ちゃん。ほれ、先日話してたやつができたぞ」
振り返ったチェリシアが挨拶をすると、ストンはすかさず要件を話した。
「えっ、できたんですか。み、見せて下さい」
「何を持って来られたのですか?」
興奮するチェリシアと、戸惑いつつ質問する受付の女性。それを尻目に、ストンは作業台の上に包みを置いた。
「軽くて頑丈で、しかも中の熱を遮断となると、材質の選定が難しかったぞ」
ストンが包んだ布を取り払うと、中から出てきたのは何とも不思議な光沢の箱だった。
「核となるのは魔鉄鉱だ。内側には耐熱素材として出回っている黒鉛、外側は魔法銀の魔力線に干渉しない金属の合金で覆った。俺が両手で軽く持てるくらいの重量になったぞ」
ストンが説明してくるが、鉱物知識のないチェリシアにはさっぱりだった。
「まあ何にせよ、魔石を取り付けて動かしてみない事にはいかんがな。あくまで経験を踏まえた理論上の話だからな」
ストンはドカッと椅子に座った。
「持ってみても大丈夫ですかね」
「構わん。ただ、お前さんの細腕で持てるとは思わんがな」
ストンは興味なさそうにチェリシアを見ながら言う。チェリシアは気にせず、調理窯を持ち上げようと手を掛ける。
「う……ん……。重い……」
「そりゃそうだ。だが、前に見せてもらったあれよりは、かなり軽くできたはずだ」
ストンは腕を組んで、チェリシアから視線を外しながら言う。
「確かに、引きずって動かせるあたり、だいぶ軽くなってますよ」
チェリシアの感想は当然である。前回の試作品は、収納魔法を使わなければピクリとも動かなかった。全部が魔鉄鉱を使った物だったので仕方がない。魔鉄鉱は物理も魔法もかなり防ぐものの、いかんせん重量があり、壁役用の装備に合金として使われる代物なのだから。
新しい小型調理窯を見て、チェリシアの目は輝いていた。
「じゃ、早速試運転……」
魔石を軽量化された調理窯の中に設置する。これも設置場所は上下の二ヶ所だけだ。前面は耐熱性のクリスタル素材で、中身がよく見えるようになっている。
天面には操作用の魔石も設置して、早速パンやピザを焼いてみる。
結果としては、どちらもちゃんと焼けた。魔石も調理窯も問題はない。
ストンを連れてきた受付の女性は、焼いている間に飲み物を用意していた。さすが、気が利く。そして、パンとピザを試食すると、満足したように受付へと戻っていった。
「あの嬢ちゃんは、結局休憩を兼ねていきおったな」
ストンは少し呆れていた。
「まあ、この程度では怒りませんよ。他にも受付の方はいらっしゃいますし、ちょうどお腹も空いていたでしょうから」
その様子を見ていたチェリシアは、笑いながら言っていた。
「ストンさん、この調理窯、あと四台ほどお願いできませんか?」
「四台? ああ、構わないが」
チェリシアにしては珍しく、何かを企んだような笑みを浮かべている。ストンが二つ返事で了承すると、チェリシアはこの上ない笑顔を見せる。
「今度の学園祭、これを目玉にしましょう。これ以上の軽量化が図れそうなら、よろしくお願いします」
チェリシアはそう言うと、マゼンダ家のリモスを呼んで価格交渉に入るのだった。
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