逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
197 / 544
第八章 二年次

第194話 軽量化

しおりを挟む
「おう、チェリシアの嬢ちゃんは居るかい?」
 マゼンダ商会にストンがやって来た。
「チェリシア様ですか? はい、いらっしゃいますが……。ストン様、どういったご用件でしょうか」
 受付に居る女性が対応する。どうやらストンの名と容姿は知っているらしい。
「こないだ見せてもらった小型の調理窯。軽くしたいとか言ってたからな、作ってみたんだ。それを見せたい、それだけだ」
「まあ、調理窯をですか。畏まりました、ご案内致します」
 受付の女性は席を立ち、ストンを案内する。
 ストンが手に持っている大きな包み、これが調理窯らしいのだが、案内している女性はどうにも気になっているのか、チラチラと目をやっていた。
「……案内してもらえれば見られるから、そんなにじろじろ見るな」
「……失礼致しました」
 これ以外は特に会話もなく、この日チェリシアが居る作業所へとやって来た。
「お忙しいところ失礼致します。チェリシア様、ストン様がおいででございます」
 姿を確認すると、女性はチェリシアに声を掛ける。
「あっ、ストンさん、いらっしゃい」
「おー、チェリシアの嬢ちゃん。ほれ、先日話してたやつができたぞ」
 振り返ったチェリシアが挨拶をすると、ストンはすかさず要件を話した。
「えっ、できたんですか。み、見せて下さい」
「何を持って来られたのですか?」
 興奮するチェリシアと、戸惑いつつ質問する受付の女性。それを尻目に、ストンは作業台の上に包みを置いた。
「軽くて頑丈で、しかも中の熱を遮断となると、材質の選定が難しかったぞ」
 ストンが包んだ布を取り払うと、中から出てきたのは何とも不思議な光沢の箱だった。
「核となるのは魔鉄鉱だ。内側には耐熱素材として出回っている黒鉛、外側は魔法銀の魔力線に干渉しない金属の合金で覆った。俺が両手で軽く持てるくらいの重量になったぞ」
 ストンが説明してくるが、鉱物知識のないチェリシアにはさっぱりだった。
「まあ何にせよ、魔石を取り付けて動かしてみない事にはいかんがな。あくまで経験を踏まえた理論上の話だからな」
 ストンはドカッと椅子に座った。
「持ってみても大丈夫ですかね」
「構わん。ただ、お前さんの細腕で持てるとは思わんがな」
 ストンは興味なさそうにチェリシアを見ながら言う。チェリシアは気にせず、調理窯を持ち上げようと手を掛ける。
「う……ん……。重い……」
「そりゃそうだ。だが、前に見せてもらったあれよりは、かなり軽くできたはずだ」
 ストンは腕を組んで、チェリシアから視線を外しながら言う。
「確かに、引きずって動かせるあたり、だいぶ軽くなってますよ」
 チェリシアの感想は当然である。前回の試作品は、収納魔法を使わなければピクリとも動かなかった。全部が魔鉄鉱を使った物だったので仕方がない。魔鉄鉱は物理も魔法もかなり防ぐものの、いかんせん重量があり、壁役用の装備に合金として使われる代物なのだから。
 新しい小型調理窯を見て、チェリシアの目は輝いていた。
「じゃ、早速試運転……」
 魔石を軽量化された調理窯の中に設置する。これも設置場所は上下の二ヶ所だけだ。前面は耐熱性のクリスタル素材で、中身がよく見えるようになっている。
 天面には操作用の魔石も設置して、早速パンやピザを焼いてみる。
 結果としては、どちらもちゃんと焼けた。魔石も調理窯も問題はない。
 ストンを連れてきた受付の女性は、焼いている間に飲み物を用意していた。さすが、気が利く。そして、パンとピザを試食すると、満足したように受付へと戻っていった。
「あの嬢ちゃんは、結局休憩を兼ねていきおったな」
 ストンは少し呆れていた。
「まあ、この程度では怒りませんよ。他にも受付の方はいらっしゃいますし、ちょうどお腹も空いていたでしょうから」
 その様子を見ていたチェリシアは、笑いながら言っていた。
「ストンさん、この調理窯、あと四台ほどお願いできませんか?」
「四台? ああ、構わないが」
 チェリシアにしては珍しく、何かを企んだような笑みを浮かべている。ストンが二つ返事で了承すると、チェリシアはこの上ない笑顔を見せる。
「今度の学園祭、これを目玉にしましょう。これ以上の軽量化が図れそうなら、よろしくお願いします」
 チェリシアはそう言うと、マゼンダ家のリモスを呼んで価格交渉に入るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。 どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。 少女は過労死で死んだ記憶がある。 働くなら絶対にホワイトな職場だ。 神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。 少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。 そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。 だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。 この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...