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第八章 二年次
第183話 紫の陰謀
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「旦那様、カーボニルの息子どもが失敗したようでございます」
「そうか、所詮奴らは無能な捨て駒よ。取るに足らん、つまらん奴らだ」
薄暗い部屋の中で、二人の男性が話をしている。どうやら、ダルクとデプスの起こした魔物氾濫に関する内容のようだ。
「だが、これでカーボニル子爵家は完全に取り潰しが確定したわけだ。はっ、ひとまずその祝杯だけでもあげようではないか。なぁ、インディ」
パープリア男爵は、執事のインディを狂った目で見る。
「左様でございますな、旦那様。すぐに支度致します」
一礼すると、インディは部屋を出ていく。
だが、その直後、パープリア男爵の顔が憎悪に歪む。
「……くそっ、アイリスにあれだけの能力があるとは予想外だった。コーラルの娘にしてもそうだ。……忌まわしい小娘どもが、俺の邪魔をしくさりやがって」
苛立ちからか、激しく爪を噛んでいる。表情もまるで鬼の形相だ。それにしても、パープリア男爵は、しっかりアイリスが生きている事を把握しているようだ。
「邪魔になる奴を消し去ろうにも、どういうわけか手が出せぬし、アメジスタも毒が効いている感じがしない。一体何がどうなっていると言うのだ!」
今度は頭を掻きむしるパープリア男爵。地団駄を踏み、机を激しく叩いている。インディの前で我慢していた怒りが溢れ出ているようだった。
アメジスタ・パープリアは、アイリスの母親の名前だ。かつて存在した神獣使いベルの血を継ぐ一族の娘だった。
今から二十年くらい前に村にやって来た、当時のパープリア男爵の嫡男が一目惚れして、彼のもとへ嫁いでいったという経歴を持つ。
しかし、この一目惚れは演技であった。今では歴史から消えた神獣使いの事をどこかで知り、その血を狙ってアメジスタに近付いたのであった。
当のアメジスタがそれに気が付いたのは、長女であるアイリスを産んだ後の事だった。アイリスへ向ける目が異常だったので、気が付けたのだ。
しかし、二人も子を産んでしまった時点で、もう手遅れだった。神獣使いの子孫として持っていた道具のいくつかは、既に夫の手に渡った後。それを使って悪事を働いている事にも気が付いた。嫁いできてからほぼ軟禁状態のアメジスタにできる抵抗など、長男ヴィオレスへの間接的な教育ぐらいだったのだ。それ以外は病気と偽り、一切を拒み続けた。
もちろん、男爵が毒を仕掛けてきていた事も知っていた。だが、神獣使いベルの恩寵は今も健在で、アメジスタは毒が効きにくい。その上、去年末あたりからはそもそも毒が効かなくなった。
それは、ペシエラからの指示で接触してきたニーズヘッグの力のせいである。自身が厄災の暗龍とも呼ばれるニーズヘッグは、毒も呪いも効かない存在となっていた。アメジスタにはそのニーズヘッグの鱗をこっそりと与えておいたのだ。それによって、パープリア男爵からの陰湿な攻撃は効果を失っているのである。
そのニーズヘッグの鱗が、アメジスタの一体どこに着いているのか。その場所は左手小指の爪。ペシエラの指示でアメジスタにアイリスの事を伝えに行った時、やり取りの中でさりげなく手に触って同化させておいたのだ。見た目はイケメンだからできるのである。そして、その爪に同化した鱗こそ、ニーズヘッグがパープリアの動きを把握するための道具なのであった。
ついでにこの爪を通じて、アメジスタにアイリスの近況を伝えている。その事がこの環境の中でも、アメジスタが気丈で居られる支えとなっているのだ。
この年の合宿で、アイリスが新たに魔物とも契約して、男爵の企みを潰したと爪を通じて聞いたアメジスタは心底安心したようだ。
しかし、この情報は、アメジスタの中に気持ちの変化をもたらした。
そう、いつまでも籠の鳥ではいられない。立派に成長する子どもの姿に、アメジスタは自分にできる事はないかと模索し始めたのだ。
男爵がカーボニル子爵家の取り潰し確定を喜んだ翌日、パープリア男爵家の扉を一人の女性が叩いた。
「ここが主人様の実家ね」
淡い紫の髪に濃い藍色の瞳を携えた女性は、そう言ってパープリアの屋敷を眺める。
この女性は、ハイスプライトの魔物だったライである。なんと驚いた事に、敵陣ど真ん中へと、堂々と乗り込んでいったのであった。
「そうか、所詮奴らは無能な捨て駒よ。取るに足らん、つまらん奴らだ」
薄暗い部屋の中で、二人の男性が話をしている。どうやら、ダルクとデプスの起こした魔物氾濫に関する内容のようだ。
「だが、これでカーボニル子爵家は完全に取り潰しが確定したわけだ。はっ、ひとまずその祝杯だけでもあげようではないか。なぁ、インディ」
パープリア男爵は、執事のインディを狂った目で見る。
「左様でございますな、旦那様。すぐに支度致します」
一礼すると、インディは部屋を出ていく。
だが、その直後、パープリア男爵の顔が憎悪に歪む。
「……くそっ、アイリスにあれだけの能力があるとは予想外だった。コーラルの娘にしてもそうだ。……忌まわしい小娘どもが、俺の邪魔をしくさりやがって」
苛立ちからか、激しく爪を噛んでいる。表情もまるで鬼の形相だ。それにしても、パープリア男爵は、しっかりアイリスが生きている事を把握しているようだ。
「邪魔になる奴を消し去ろうにも、どういうわけか手が出せぬし、アメジスタも毒が効いている感じがしない。一体何がどうなっていると言うのだ!」
今度は頭を掻きむしるパープリア男爵。地団駄を踏み、机を激しく叩いている。インディの前で我慢していた怒りが溢れ出ているようだった。
アメジスタ・パープリアは、アイリスの母親の名前だ。かつて存在した神獣使いベルの血を継ぐ一族の娘だった。
今から二十年くらい前に村にやって来た、当時のパープリア男爵の嫡男が一目惚れして、彼のもとへ嫁いでいったという経歴を持つ。
しかし、この一目惚れは演技であった。今では歴史から消えた神獣使いの事をどこかで知り、その血を狙ってアメジスタに近付いたのであった。
当のアメジスタがそれに気が付いたのは、長女であるアイリスを産んだ後の事だった。アイリスへ向ける目が異常だったので、気が付けたのだ。
しかし、二人も子を産んでしまった時点で、もう手遅れだった。神獣使いの子孫として持っていた道具のいくつかは、既に夫の手に渡った後。それを使って悪事を働いている事にも気が付いた。嫁いできてからほぼ軟禁状態のアメジスタにできる抵抗など、長男ヴィオレスへの間接的な教育ぐらいだったのだ。それ以外は病気と偽り、一切を拒み続けた。
もちろん、男爵が毒を仕掛けてきていた事も知っていた。だが、神獣使いベルの恩寵は今も健在で、アメジスタは毒が効きにくい。その上、去年末あたりからはそもそも毒が効かなくなった。
それは、ペシエラからの指示で接触してきたニーズヘッグの力のせいである。自身が厄災の暗龍とも呼ばれるニーズヘッグは、毒も呪いも効かない存在となっていた。アメジスタにはそのニーズヘッグの鱗をこっそりと与えておいたのだ。それによって、パープリア男爵からの陰湿な攻撃は効果を失っているのである。
そのニーズヘッグの鱗が、アメジスタの一体どこに着いているのか。その場所は左手小指の爪。ペシエラの指示でアメジスタにアイリスの事を伝えに行った時、やり取りの中でさりげなく手に触って同化させておいたのだ。見た目はイケメンだからできるのである。そして、その爪に同化した鱗こそ、ニーズヘッグがパープリアの動きを把握するための道具なのであった。
ついでにこの爪を通じて、アメジスタにアイリスの近況を伝えている。その事がこの環境の中でも、アメジスタが気丈で居られる支えとなっているのだ。
この年の合宿で、アイリスが新たに魔物とも契約して、男爵の企みを潰したと爪を通じて聞いたアメジスタは心底安心したようだ。
しかし、この情報は、アメジスタの中に気持ちの変化をもたらした。
そう、いつまでも籠の鳥ではいられない。立派に成長する子どもの姿に、アメジスタは自分にできる事はないかと模索し始めたのだ。
男爵がカーボニル子爵家の取り潰し確定を喜んだ翌日、パープリア男爵家の扉を一人の女性が叩いた。
「ここが主人様の実家ね」
淡い紫の髪に濃い藍色の瞳を携えた女性は、そう言ってパープリアの屋敷を眺める。
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