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第八章 二年次
第173話 師匠ペシエラ
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翌日、魔法科の訓練において、他学生たちが騒めいていた。というのも、騎士科のプラティナが現れたからだ。ただそれだけではなく、その公爵令嬢のプラティナが、ペシエラに対して跪いているのだから、騒ぎが大きくなるのは必然であった。
「ちょっ、プラティナ様、お立ち下さい。私はまだ婚約者であって、普通の伯爵令嬢なんですのよ?」
周りの視線にペシエラは慌てている。しかし、プラティナの決意は固いようだ。
ペシエラはとても悩んだ。プラティナはペシエラの事を未来の女王と信じて疑わない様子だし、このままでは他の学生からの視線が痛い。ペシエラは大きな大きなため息をついて、意を決した。
「お姉様、ロゼリア。私はプラティナ様と二人で特訓してますので、アイリスたちをお願いしますわ」
「いいわよ」
「ペシエラ、無理な事はしないでね」
ペシエラの言葉に、ロゼリアたちはそれぞれ返事をして見送った。
さて、他の学生たちと少し距離を取ったペシエラとプラティナは、独自の特訓を始める。
ペシエラが距離を取った理由は単純。多分本気でやり合うと、剣戟やら魔法やらで周りに迷惑が及ぶからだ。ペシエラの規格外の魔法に比べれば可愛いものだが、実はプラティナの魔法もそれなりのレベルのもの。一般学生に被害が及ぶのは、何としても避けたいのだ。
ちなみにプラティナの得意属性は、スノーフィールドの名に恥じぬ水属性。あとは風と闇に若干の適性が見られる。闇に適性がある事は、本人は知らない模様。多分、秘匿されたのだろう。光属性を得意とする王家の分流たる公爵家なのだから、理解できなくはない話である。
特訓に話を戻そう。
昨日の事もあるので、まずは剣術を見ている。さすがに幼少時から鍛えられてきたプラティナの剣筋は見事なものだ。しかし、それはあくまで型の話。技術で見れば、死線を体験した事のあるペシエラには遠く及ばない。なにせペシエラは、細腕に両手持ちのサーベルでありながら、あれだけの立ち回りをして見せたのだから。それをプラティナにしてみろと言っても、無理な話である。
ペシエラは土魔法を使って土人形を作り出す。剣術のお供である木偶人形だ。
「そこそこの魔力を込めたので簡単には壊れませんわ。学園にある物よりは強度があると思って下さいませ」
「なるほど、これを壊せるようになれば、剣の腕は上がっているというわけですね」
「ええ、ですが、力任せにすると腕の骨が折れますわよ」
プラティナの理解も早いが、ペシエラは一つ釘を刺しておいた。ペシエラの剣術も実は力任せではない。女性はどうしても非力になりがちである。なので、そこを補うのが技術であり、ペシエラは無尽蔵に近い魔力と俊敏さをもってあの剣術を編み出したのだ。着用機会の多いドレスでもっても戦えるように、と。
つまりは、ペシエラはプラティナに、その技術を叩き込むつもりである。公爵令嬢ともなれば重要な場への露出は多くなる。ともなればどうしてもドレスにヒールという出立ちになってしまうのだ。
プラティナには普段の制服で来るように伝えておいたので、彼女はチェリシアやペシエラ以上にフリフリふわっふわの制服を着ている。さすがは公爵令嬢、デコりまくりである。足元こそ踵の低いブーツではあるが、制服のワンピースだけで動きづらそうだった。
しかし、プラティナは真剣だった。
剣を思い切り振りかぶると、人形目掛けて斬りかかった。ところが、人形に当たったところで、剣が弾かれてしまった。
「くっ、どういう事なのです?」
木剣とはいえ、ちゃんと振り抜いた剣がまるでゴムに弾き返されるように、押し戻されたのだ。訳が分からないといったところだろう。
「プラティナ様、力任せは確かに一番簡単ですが、単純がゆえに、一番消耗が激しいのですわ。その服装ではなおのさら。いかに最高の状態を長く持続させ、瞬間的に最大を引き出せるか、この特訓の目的はそれでしてよ」
そう言って、ペシエラは軽く人形に向かってひと薙ぎする。すると、剣の通った場所がずるりとずれて人形の上半分が地面に落ちた。
「よろしいかしら」
人形が崩れ落ちた事に驚くプラティナに、ペシエラは笑顔で話し掛ける。
このペシエラにしばらく圧倒されていたプラティナだったが、ぎゅっと剣を握り締めると、
「ええ、お願いします」
凛とした顔で返事をするのだった。
「ちょっ、プラティナ様、お立ち下さい。私はまだ婚約者であって、普通の伯爵令嬢なんですのよ?」
周りの視線にペシエラは慌てている。しかし、プラティナの決意は固いようだ。
ペシエラはとても悩んだ。プラティナはペシエラの事を未来の女王と信じて疑わない様子だし、このままでは他の学生からの視線が痛い。ペシエラは大きな大きなため息をついて、意を決した。
「お姉様、ロゼリア。私はプラティナ様と二人で特訓してますので、アイリスたちをお願いしますわ」
「いいわよ」
「ペシエラ、無理な事はしないでね」
ペシエラの言葉に、ロゼリアたちはそれぞれ返事をして見送った。
さて、他の学生たちと少し距離を取ったペシエラとプラティナは、独自の特訓を始める。
ペシエラが距離を取った理由は単純。多分本気でやり合うと、剣戟やら魔法やらで周りに迷惑が及ぶからだ。ペシエラの規格外の魔法に比べれば可愛いものだが、実はプラティナの魔法もそれなりのレベルのもの。一般学生に被害が及ぶのは、何としても避けたいのだ。
ちなみにプラティナの得意属性は、スノーフィールドの名に恥じぬ水属性。あとは風と闇に若干の適性が見られる。闇に適性がある事は、本人は知らない模様。多分、秘匿されたのだろう。光属性を得意とする王家の分流たる公爵家なのだから、理解できなくはない話である。
特訓に話を戻そう。
昨日の事もあるので、まずは剣術を見ている。さすがに幼少時から鍛えられてきたプラティナの剣筋は見事なものだ。しかし、それはあくまで型の話。技術で見れば、死線を体験した事のあるペシエラには遠く及ばない。なにせペシエラは、細腕に両手持ちのサーベルでありながら、あれだけの立ち回りをして見せたのだから。それをプラティナにしてみろと言っても、無理な話である。
ペシエラは土魔法を使って土人形を作り出す。剣術のお供である木偶人形だ。
「そこそこの魔力を込めたので簡単には壊れませんわ。学園にある物よりは強度があると思って下さいませ」
「なるほど、これを壊せるようになれば、剣の腕は上がっているというわけですね」
「ええ、ですが、力任せにすると腕の骨が折れますわよ」
プラティナの理解も早いが、ペシエラは一つ釘を刺しておいた。ペシエラの剣術も実は力任せではない。女性はどうしても非力になりがちである。なので、そこを補うのが技術であり、ペシエラは無尽蔵に近い魔力と俊敏さをもってあの剣術を編み出したのだ。着用機会の多いドレスでもっても戦えるように、と。
つまりは、ペシエラはプラティナに、その技術を叩き込むつもりである。公爵令嬢ともなれば重要な場への露出は多くなる。ともなればどうしてもドレスにヒールという出立ちになってしまうのだ。
プラティナには普段の制服で来るように伝えておいたので、彼女はチェリシアやペシエラ以上にフリフリふわっふわの制服を着ている。さすがは公爵令嬢、デコりまくりである。足元こそ踵の低いブーツではあるが、制服のワンピースだけで動きづらそうだった。
しかし、プラティナは真剣だった。
剣を思い切り振りかぶると、人形目掛けて斬りかかった。ところが、人形に当たったところで、剣が弾かれてしまった。
「くっ、どういう事なのです?」
木剣とはいえ、ちゃんと振り抜いた剣がまるでゴムに弾き返されるように、押し戻されたのだ。訳が分からないといったところだろう。
「プラティナ様、力任せは確かに一番簡単ですが、単純がゆえに、一番消耗が激しいのですわ。その服装ではなおのさら。いかに最高の状態を長く持続させ、瞬間的に最大を引き出せるか、この特訓の目的はそれでしてよ」
そう言って、ペシエラは軽く人形に向かってひと薙ぎする。すると、剣の通った場所がずるりとずれて人形の上半分が地面に落ちた。
「よろしいかしら」
人形が崩れ落ちた事に驚くプラティナに、ペシエラは笑顔で話し掛ける。
このペシエラにしばらく圧倒されていたプラティナだったが、ぎゅっと剣を握り締めると、
「ええ、お願いします」
凛とした顔で返事をするのだった。
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