逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
176 / 473
第八章 二年次

第173話 師匠ペシエラ

しおりを挟む
 翌日、魔法科の訓練において、他学生たちが騒めいていた。というのも、騎士科のプラティナが現れたからだ。ただそれだけではなく、その公爵令嬢のプラティナが、ペシエラに対して跪いているのだから、騒ぎが大きくなるのは必然であった。
「ちょっ、プラティナ様、お立ち下さい。私はまだ婚約者であって、普通の伯爵令嬢なんですのよ?」
 周りの視線にペシエラは慌てている。しかし、プラティナの決意は固いようだ。
 ペシエラはとても悩んだ。プラティナはペシエラの事を未来の女王と信じて疑わない様子だし、このままでは他の学生からの視線が痛い。ペシエラは大きな大きなため息をついて、意を決した。
「お姉様、ロゼリア。私はプラティナ様と二人で特訓してますので、アイリスたちをお願いしますわ」
「いいわよ」
「ペシエラ、無理な事はしないでね」
 ペシエラの言葉に、ロゼリアたちはそれぞれ返事をして見送った。
 さて、他の学生たちと少し距離を取ったペシエラとプラティナは、独自の特訓を始める。
 ペシエラが距離を取った理由は単純。多分本気でやり合うと、剣戟やら魔法やらで周りに迷惑が及ぶからだ。ペシエラの規格外の魔法に比べれば可愛いものだが、実はプラティナの魔法もそれなりのレベルのもの。一般学生に被害が及ぶのは、何としても避けたいのだ。
 ちなみにプラティナの得意属性は、スノーフィールドの名に恥じぬ水属性。あとは風と闇に若干の適性が見られる。闇に適性がある事は、本人は知らない模様。多分、秘匿されたのだろう。光属性を得意とする王家の分流たる公爵家なのだから、理解できなくはない話である。
 特訓に話を戻そう。
 昨日の事もあるので、まずは剣術を見ている。さすがに幼少時から鍛えられてきたプラティナの剣筋は見事なものだ。しかし、それはあくまで型の話。技術で見れば、死線を体験した事のあるペシエラには遠く及ばない。なにせペシエラは、細腕に両手持ちのサーベルでありながら、あれだけの立ち回りをして見せたのだから。それをプラティナにしてみろと言っても、無理な話である。
 ペシエラは土魔法を使って土人形を作り出す。剣術のお供である木偶人形だ。
「そこそこの魔力を込めたので簡単には壊れませんわ。学園にある物よりは強度があると思って下さいませ」
「なるほど、これを壊せるようになれば、剣の腕は上がっているというわけですね」
「ええ、ですが、力任せにすると腕の骨が折れますわよ」
 プラティナの理解も早いが、ペシエラは一つ釘を刺しておいた。ペシエラの剣術も実は力任せではない。女性はどうしても非力になりがちである。なので、そこを補うのが技術であり、ペシエラは無尽蔵に近い魔力と俊敏さをもってあの剣術を編み出したのだ。着用機会の多いドレスでもっても戦えるように、と。
 つまりは、ペシエラはプラティナに、その技術を叩き込むつもりである。公爵令嬢ともなれば重要な場への露出は多くなる。ともなればどうしてもドレスにヒールという出立ちになってしまうのだ。
 プラティナには普段の制服で来るように伝えておいたので、彼女はチェリシアやペシエラ以上にフリフリふわっふわの制服を着ている。さすがは公爵令嬢、デコりまくりである。足元こそ踵の低いブーツではあるが、制服のワンピースだけで動きづらそうだった。
 しかし、プラティナは真剣だった。
 剣を思い切り振りかぶると、人形目掛けて斬りかかった。ところが、人形に当たったところで、剣が弾かれてしまった。
「くっ、どういう事なのです?」
 木剣とはいえ、ちゃんと振り抜いた剣がまるでゴムに弾き返されるように、押し戻されたのだ。訳が分からないといったところだろう。
「プラティナ様、力任せは確かに一番簡単ですが、単純がゆえに、一番消耗が激しいのですわ。その服装ではなおのさら。いかに最高の状態を長く持続させ、瞬間的に最大を引き出せるか、この特訓の目的はそれでしてよ」
 そう言って、ペシエラは軽く人形に向かってひと薙ぎする。すると、剣の通った場所がずるりとずれて人形の上半分が地面に落ちた。
「よろしいかしら」
 人形が崩れ落ちた事に驚くプラティナに、ペシエラは笑顔で話し掛ける。
 このペシエラにしばらく圧倒されていたプラティナだったが、ぎゅっと剣を握り締めると、
「ええ、お願いします」
 凛とした顔で返事をするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...