逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第170話 正念場

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 逆行前ともゲームともまったく違った展開となった学園二年次の春。
 シルヴァノの婚約者発表があり、これを以てペシエラが正式に婚約者となった。
 会場では祝福のために貴族がひっきりなしに挨拶に来ていたが、その姿の中にパープリア男爵の姿は無かった。会場には来ていたようなのだが、挨拶もせずに帰ったようだ。
 これだけの貴族が集まる場だったので何か起こすかとも構えていたロゼリアたちだったが、何事もなく無事に夜会はお開きとなったのだった。
 瞬く間に婚約者決定の報は国中に広がり、コーラル伯爵邸にはお祝いが届くようになった。これは領地の方も同じで、シェリアにある分邸はもちろん、本邸の方にも祝福の贈り物が多く届いていた。もちろん、すべてが安全かどうかのチェックは怠らない。稀に危険物が紛れているからだ。
 ちなみにシェリアではお祭りまで開かれた。浮かれ過ぎである。
 あの婚約者発表の席で、ペシエラのそばには常にアイリスが居たのだが、そこでパープリア男爵に生存がバレたのではないかとアイリスは内心バクバクしていた。そして、その席やその後しばらくも何も無かった事で、アイリスはようやく気を楽にしていた。
 ペシエラとアイリスは、それぞれ王宮に通う事になり、それぞれに教育が本格的に始まった。
 ペシエラは女王教育。政治や立ち振る舞い、武術や魔法など、その教育は多岐に渡る。一度は経験しているので、ペシエラ自身は苦にもならなかったし、教える事が少なくて教育係が驚いていた。ただ、十一歳という事もあり、学園を卒業するまで余裕がある。教育係もペシエラにはかなり期待を抱いているようだった。
 アイリスは女王付きの女官としての教育で、身の回りの事はもちろん、女王を補佐するための知識や武術に魔法といった事を叩き込まれていく。こちらも武術は暗殺術の応用で難なくこなしている。ただ、政治や魔法は苦手なので、これは苦戦をしていた。
 しかし、望んだ立ち位置になったものの、ペシエラはどちらかと言えば不満を抱えている。
 それというのもマゼンダ商会の存在だ。なにせ取り扱い品の中にはペシエラが深く関わっている物も少なくない。このまま女王教育の時間が増えてしまうと、経営に支障が出かねなかった。
 それに、ロゼリアやチェリシア、それにアイリスと過ごす時間も減ってしまって、ペシエラは少々ストレスを溜め込みそうになっていた。
 なのでペシエラは、学生の間は学業を極力優先させてもらえるように、女王に直談判を試みた。
 すると、意外にもあっさりと許可が下りた。ただ、週に二度ほどは必ず教育を受けるようにと釘は刺された。本来なら毎日行うのだから、かなり譲歩してもらえたものだろう。
 ただ、アイリスの方はそうもいかなかった。こちらは週に三度ほどで、それ以外はペシエラたちの方で補助するように言われた。他の学生よりは筋が良くて優位に居るものの、教育係から言わせればまだまだ下手との判断を下されたから仕方がない。なにせ、訓練の後にふらついていたらしい。これは魔力切れの症状なので、訓練内容に対して明らかにおかしいと言われたのだ。
 原因としては二つ考えられる。
 一つは魔力の使用効率が悪い。うまくコントロールできずに、魔力を無駄遣いするパターンだ。
 もう一つは、単純に魔力の絶対量が少ない。だが、これは神獣使いであるために考えられないはずだ。
 そこで蒼鱗魚に聞いてみたところ、
「魔力の消耗が激しいんだろうね。これだけ神獣や幻獣と契約しているんだ。もうそれだけで魔力がいっぱいいっぱいなんだろうねぇ」
 という答えが返ってきた。
 つまりは、契約を維持するために、常に魔力を消耗し続けているという事だ。アイリスが未熟なので、この消耗がかなり大きいのだと言う。
「疲れやすいと思ったら、そういう事だったのね……」
 しかし、授業中やたまに行う特訓ではふらつくような事はなかったので、女官としての教育による精神的負担もあるのだろうと、蒼鱗魚は付け足していた。
 何にしても、ロゼリアたちの周囲の状況は、ペシエラの婚約者正式決定で大きく変化した。
 学園祭以来、すっかり表立って行動しなくなったパープリア男爵一派の動きも気になる。ニーズヘッグの報告では、特に目立った行動は見られないし、他所でコソコソしてるという事もなさそうだった。
 しかし、平和で安心できる未来のためには、今はまさに正念場にあると言えるのだった。
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