173 / 431
第八章 二年次
第170話 正念場
しおりを挟む
逆行前ともゲームともまったく違った展開となった学園二年次の春。
シルヴァノの婚約者発表があり、これを以てペシエラが正式に婚約者となった。
会場では祝福のために貴族がひっきりなしに挨拶に来ていたが、その姿の中にパープリア男爵の姿は無かった。会場には来ていたようなのだが、挨拶もせずに帰ったようだ。
これだけの貴族が集まる場だったので何か起こすかとも構えていたロゼリアたちだったが、何事もなく無事に夜会はお開きとなったのだった。
瞬く間に婚約者決定の報は国中に広がり、コーラル伯爵邸にはお祝いが届くようになった。これは領地の方も同じで、シェリアにある分邸はもちろん、本邸の方にも祝福の贈り物が多く届いていた。もちろん、すべてが安全かどうかのチェックは怠らない。稀に危険物が紛れているからだ。
ちなみにシェリアではお祭りまで開かれた。浮かれ過ぎである。
あの婚約者発表の席で、ペシエラのそばには常にアイリスが居たのだが、そこでパープリア男爵に生存がバレたのではないかとアイリスは内心バクバクしていた。そして、その席やその後しばらくも何も無かった事で、アイリスはようやく気を楽にしていた。
ペシエラとアイリスは、それぞれ王宮に通う事になり、それぞれに教育が本格的に始まった。
ペシエラは女王教育。政治や立ち振る舞い、武術や魔法など、その教育は多岐に渡る。一度は経験しているので、ペシエラ自身は苦にもならなかったし、教える事が少なくて教育係が驚いていた。ただ、十一歳という事もあり、学園を卒業するまで余裕がある。教育係もペシエラにはかなり期待を抱いているようだった。
アイリスは女王付きの女官としての教育で、身の回りの事はもちろん、女王を補佐するための知識や武術に魔法といった事を叩き込まれていく。こちらも武術は暗殺術の応用で難なくこなしている。ただ、政治や魔法は苦手なので、これは苦戦をしていた。
しかし、望んだ立ち位置になったものの、ペシエラはどちらかと言えば不満を抱えている。
それというのもマゼンダ商会の存在だ。なにせ取り扱い品の中にはペシエラが深く関わっている物も少なくない。このまま女王教育の時間が増えてしまうと、経営に支障が出かねなかった。
それに、ロゼリアやチェリシア、それにアイリスと過ごす時間も減ってしまって、ペシエラは少々ストレスを溜め込みそうになっていた。
なのでペシエラは、学生の間は学業を極力優先させてもらえるように、女王に直談判を試みた。
すると、意外にもあっさりと許可が下りた。ただ、週に二度ほどは必ず教育を受けるようにと釘は刺された。本来なら毎日行うのだから、かなり譲歩してもらえたものだろう。
ただ、アイリスの方はそうもいかなかった。こちらは週に三度ほどで、それ以外はペシエラたちの方で補助するように言われた。他の学生よりは筋が良くて優位に居るものの、教育係から言わせればまだまだ下手との判断を下されたから仕方がない。なにせ、訓練の後にふらついていたらしい。これは魔力切れの症状なので、訓練内容に対して明らかにおかしいと言われたのだ。
原因としては二つ考えられる。
一つは魔力の使用効率が悪い。うまくコントロールできずに、魔力を無駄遣いするパターンだ。
もう一つは、単純に魔力の絶対量が少ない。だが、これは神獣使いであるために考えられないはずだ。
そこで蒼鱗魚に聞いてみたところ、
「魔力の消耗が激しいんだろうね。これだけ神獣や幻獣と契約しているんだ。もうそれだけで魔力がいっぱいいっぱいなんだろうねぇ」
という答えが返ってきた。
つまりは、契約を維持するために、常に魔力を消耗し続けているという事だ。アイリスが未熟なので、この消耗がかなり大きいのだと言う。
「疲れやすいと思ったら、そういう事だったのね……」
しかし、授業中やたまに行う特訓ではふらつくような事はなかったので、女官としての教育による精神的負担もあるのだろうと、蒼鱗魚は付け足していた。
何にしても、ロゼリアたちの周囲の状況は、ペシエラの婚約者正式決定で大きく変化した。
学園祭以来、すっかり表立って行動しなくなったパープリア男爵一派の動きも気になる。ニーズヘッグの報告では、特に目立った行動は見られないし、他所でコソコソしてるという事もなさそうだった。
しかし、平和で安心できる未来のためには、今はまさに正念場にあると言えるのだった。
シルヴァノの婚約者発表があり、これを以てペシエラが正式に婚約者となった。
会場では祝福のために貴族がひっきりなしに挨拶に来ていたが、その姿の中にパープリア男爵の姿は無かった。会場には来ていたようなのだが、挨拶もせずに帰ったようだ。
これだけの貴族が集まる場だったので何か起こすかとも構えていたロゼリアたちだったが、何事もなく無事に夜会はお開きとなったのだった。
瞬く間に婚約者決定の報は国中に広がり、コーラル伯爵邸にはお祝いが届くようになった。これは領地の方も同じで、シェリアにある分邸はもちろん、本邸の方にも祝福の贈り物が多く届いていた。もちろん、すべてが安全かどうかのチェックは怠らない。稀に危険物が紛れているからだ。
ちなみにシェリアではお祭りまで開かれた。浮かれ過ぎである。
あの婚約者発表の席で、ペシエラのそばには常にアイリスが居たのだが、そこでパープリア男爵に生存がバレたのではないかとアイリスは内心バクバクしていた。そして、その席やその後しばらくも何も無かった事で、アイリスはようやく気を楽にしていた。
ペシエラとアイリスは、それぞれ王宮に通う事になり、それぞれに教育が本格的に始まった。
ペシエラは女王教育。政治や立ち振る舞い、武術や魔法など、その教育は多岐に渡る。一度は経験しているので、ペシエラ自身は苦にもならなかったし、教える事が少なくて教育係が驚いていた。ただ、十一歳という事もあり、学園を卒業するまで余裕がある。教育係もペシエラにはかなり期待を抱いているようだった。
アイリスは女王付きの女官としての教育で、身の回りの事はもちろん、女王を補佐するための知識や武術に魔法といった事を叩き込まれていく。こちらも武術は暗殺術の応用で難なくこなしている。ただ、政治や魔法は苦手なので、これは苦戦をしていた。
しかし、望んだ立ち位置になったものの、ペシエラはどちらかと言えば不満を抱えている。
それというのもマゼンダ商会の存在だ。なにせ取り扱い品の中にはペシエラが深く関わっている物も少なくない。このまま女王教育の時間が増えてしまうと、経営に支障が出かねなかった。
それに、ロゼリアやチェリシア、それにアイリスと過ごす時間も減ってしまって、ペシエラは少々ストレスを溜め込みそうになっていた。
なのでペシエラは、学生の間は学業を極力優先させてもらえるように、女王に直談判を試みた。
すると、意外にもあっさりと許可が下りた。ただ、週に二度ほどは必ず教育を受けるようにと釘は刺された。本来なら毎日行うのだから、かなり譲歩してもらえたものだろう。
ただ、アイリスの方はそうもいかなかった。こちらは週に三度ほどで、それ以外はペシエラたちの方で補助するように言われた。他の学生よりは筋が良くて優位に居るものの、教育係から言わせればまだまだ下手との判断を下されたから仕方がない。なにせ、訓練の後にふらついていたらしい。これは魔力切れの症状なので、訓練内容に対して明らかにおかしいと言われたのだ。
原因としては二つ考えられる。
一つは魔力の使用効率が悪い。うまくコントロールできずに、魔力を無駄遣いするパターンだ。
もう一つは、単純に魔力の絶対量が少ない。だが、これは神獣使いであるために考えられないはずだ。
そこで蒼鱗魚に聞いてみたところ、
「魔力の消耗が激しいんだろうね。これだけ神獣や幻獣と契約しているんだ。もうそれだけで魔力がいっぱいいっぱいなんだろうねぇ」
という答えが返ってきた。
つまりは、契約を維持するために、常に魔力を消耗し続けているという事だ。アイリスが未熟なので、この消耗がかなり大きいのだと言う。
「疲れやすいと思ったら、そういう事だったのね……」
しかし、授業中やたまに行う特訓ではふらつくような事はなかったので、女官としての教育による精神的負担もあるのだろうと、蒼鱗魚は付け足していた。
何にしても、ロゼリアたちの周囲の状況は、ペシエラの婚約者正式決定で大きく変化した。
学園祭以来、すっかり表立って行動しなくなったパープリア男爵一派の動きも気になる。ニーズヘッグの報告では、特に目立った行動は見られないし、他所でコソコソしてるという事もなさそうだった。
しかし、平和で安心できる未来のためには、今はまさに正念場にあると言えるのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる