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第八章 二年次
第167話 その頃のペシエラ
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さて、チェリシアたちが商談に臨んでいる中、一人別行動になってしまったペシエラ。実はこの時、アイリスを伴って王宮に招かれていた。理由は簡単、正式な婚約者になったためである。
現在ペシエラは、婚約発表の日程や当日のドレスなど、様々な事を王宮の女官に一方的に説明されて、打ち合わせという名の拷問を受けている最中だった。
逆行前でも経験したこの打ち合わせだが、今回はまだ十一歳という年齢のせいか、かなり苦痛に感じている。とはいえ、今回もシルヴァノとの結婚は望んだ事なので、仕方なく甘んじているという感じだ。
(あの時は十九という落ち着いた時でしたから、なんとも思いませんでしたが……)
説明を聞きながら、周りをチラチラ見ながら考え事をするペシエラ。ちゃんと耳を傾けても、前回聞いた事とまったく変わらないので、どこか身が入らない。そのせいで、何かと考え事をしてしまうようだった。
「聞いてますか、ペシエラさん!」
「はいぃっっ!」
急に怒鳴られて、反射的に返事をするペシエラ。その姿に、説明をしている女官にため息をつかれてしまった。
ところが、話の内容について何問か尋ねられたが、ペシエラはそのすべてをきちんと返答したので、女官は驚いていた。なにせ、まともに聞いていたようには見えなかったのだから。
何はともあれ、説明も終わった事で打ち合わせに入る。早い方がいいが、準備に少し手間ががかかる。なので、一回休日を飛ばして、その次の休日に夜会を開いて、その席で婚約者発表を行う事となった。
その後は、シルヴァノと会う事もなくコーラル邸に戻ってきたペシエラは、ため息をついた。しかし、まだチェリシアは屋敷に戻ってきていないようだ。
「まったく、お姉様はどこに行かれたのかしら」
「慌てた様子で走って行かれましたものね。あの様子では商会に赴かれたのでは?」
ペシエラのため息に、アイリスが心配そうに答える。そのアイリスの回答に、ペシエラは納得がいったようだ。
「そういえば、豆がどうこう仰ってましたものね。十分考えられる話ですわ。……つまりは、いずれモスグリネに向かう事になりそうですわね」
「どうしてです?」
ペシエラの言葉に、アイリスは発想の理由が分からず、疑問をぶつけた。
「時渡りの話はしましたでしょう? あの時、戦争になる前のモスグリネに行った事がありましてね、その時に豆の事を聞いたのですわ」
ペシエラは少し顔を歪ませたが、素直に答えていた。やはり逆行前とはいえど戦争になった事で、モスグリネにはあまりいい感情を持てないようだ。
「でも、お姉様が望むのなら、私は我慢してでもついて行きますわ。私たちは、この国が滅ぶ未来を回避しなければなりませんもの。そのためであるなら、好き嫌いも言ってられませんわ」
ペシエラは真剣な表情で言ってのけた。もはや駄々をこねるだけの、思い上がりのヒロインではない。一国の将来を担う主人公なのである。
ロゼリアやチェリシアとすっかり和解したペシエラの成長は著しい。というよりも、女王時代に培った能力が、余計な感情を取っ払った事で復活したと言った方が正しい。逆行前に持っていたロゼリアへの歪んだ感情も、今ではすっかり無くなっている。曇りが取れたペシエラは、的確な判断の取れる規格外な能力を持ったスーパーヒロインとなったのだ。
「ペシエラ様の気持ち、よく理解しました。でしたら私も、せっかく救われた命。お三方のために存分に働いてみせましょう」
ペシエラの表情を見ていたアイリスは、何かを察したのか、改めて誓いを立てる。
「ええ。ですが、死ぬ事だけは許しませんわよ」
ペシエラはアイリスの鼻に指を当てて、意地悪そうな顔で言う。するとアイリスは、
「もちろんですよ。チェリシア様には悪いですが、私はペシエラ様に一生お仕え致します」
ペシエラの手を掴んで、苦笑いを浮かべながら言い切った。
「頼もしいわね。でも、さすがにお姉様に悪い気がしますわね」
「何を仰るんですか、私は神獣使いなのでしょう?」
ペシエラが困った顔をすると、アイリスはそう言い返す。
「そうでしたわね。……頼りにしてますわよ、アイリス」
「御意に」
アイリスがペシエラの手を握ったまま、二人はしばらく笑い合っていた。
現在ペシエラは、婚約発表の日程や当日のドレスなど、様々な事を王宮の女官に一方的に説明されて、打ち合わせという名の拷問を受けている最中だった。
逆行前でも経験したこの打ち合わせだが、今回はまだ十一歳という年齢のせいか、かなり苦痛に感じている。とはいえ、今回もシルヴァノとの結婚は望んだ事なので、仕方なく甘んじているという感じだ。
(あの時は十九という落ち着いた時でしたから、なんとも思いませんでしたが……)
説明を聞きながら、周りをチラチラ見ながら考え事をするペシエラ。ちゃんと耳を傾けても、前回聞いた事とまったく変わらないので、どこか身が入らない。そのせいで、何かと考え事をしてしまうようだった。
「聞いてますか、ペシエラさん!」
「はいぃっっ!」
急に怒鳴られて、反射的に返事をするペシエラ。その姿に、説明をしている女官にため息をつかれてしまった。
ところが、話の内容について何問か尋ねられたが、ペシエラはそのすべてをきちんと返答したので、女官は驚いていた。なにせ、まともに聞いていたようには見えなかったのだから。
何はともあれ、説明も終わった事で打ち合わせに入る。早い方がいいが、準備に少し手間ががかかる。なので、一回休日を飛ばして、その次の休日に夜会を開いて、その席で婚約者発表を行う事となった。
その後は、シルヴァノと会う事もなくコーラル邸に戻ってきたペシエラは、ため息をついた。しかし、まだチェリシアは屋敷に戻ってきていないようだ。
「まったく、お姉様はどこに行かれたのかしら」
「慌てた様子で走って行かれましたものね。あの様子では商会に赴かれたのでは?」
ペシエラのため息に、アイリスが心配そうに答える。そのアイリスの回答に、ペシエラは納得がいったようだ。
「そういえば、豆がどうこう仰ってましたものね。十分考えられる話ですわ。……つまりは、いずれモスグリネに向かう事になりそうですわね」
「どうしてです?」
ペシエラの言葉に、アイリスは発想の理由が分からず、疑問をぶつけた。
「時渡りの話はしましたでしょう? あの時、戦争になる前のモスグリネに行った事がありましてね、その時に豆の事を聞いたのですわ」
ペシエラは少し顔を歪ませたが、素直に答えていた。やはり逆行前とはいえど戦争になった事で、モスグリネにはあまりいい感情を持てないようだ。
「でも、お姉様が望むのなら、私は我慢してでもついて行きますわ。私たちは、この国が滅ぶ未来を回避しなければなりませんもの。そのためであるなら、好き嫌いも言ってられませんわ」
ペシエラは真剣な表情で言ってのけた。もはや駄々をこねるだけの、思い上がりのヒロインではない。一国の将来を担う主人公なのである。
ロゼリアやチェリシアとすっかり和解したペシエラの成長は著しい。というよりも、女王時代に培った能力が、余計な感情を取っ払った事で復活したと言った方が正しい。逆行前に持っていたロゼリアへの歪んだ感情も、今ではすっかり無くなっている。曇りが取れたペシエラは、的確な判断の取れる規格外な能力を持ったスーパーヒロインとなったのだ。
「ペシエラ様の気持ち、よく理解しました。でしたら私も、せっかく救われた命。お三方のために存分に働いてみせましょう」
ペシエラの表情を見ていたアイリスは、何かを察したのか、改めて誓いを立てる。
「ええ。ですが、死ぬ事だけは許しませんわよ」
ペシエラはアイリスの鼻に指を当てて、意地悪そうな顔で言う。するとアイリスは、
「もちろんですよ。チェリシア様には悪いですが、私はペシエラ様に一生お仕え致します」
ペシエラの手を掴んで、苦笑いを浮かべながら言い切った。
「頼もしいわね。でも、さすがにお姉様に悪い気がしますわね」
「何を仰るんですか、私は神獣使いなのでしょう?」
ペシエラが困った顔をすると、アイリスはそう言い返す。
「そうでしたわね。……頼りにしてますわよ、アイリス」
「御意に」
アイリスがペシエラの手を握ったまま、二人はしばらく笑い合っていた。
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