逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第165話 オーロ・ドール商会長

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「これはこれは、ロゼリア嬢ではございませんか。本日の要件はどのような事で?」
 出迎えてくれたのは予想外な人物だった。ブラッサとロイエールの父親であるオーロ・ドール商会長、その人だった。
 成金というには、かなりシュッとした細身の体だ。しかし、よく見れば服の下はかなりの筋肉質。短めの金髪の中で長く伸びた前髪が外へとはねている。口髭はある。
「お久しぶりでございます、オーロ商会長。今回は豆と呼ばれるものをご存知かどうかと思い、伺いました。もちろん、それ以外にも商談はございます」
 ロゼリアは挨拶をするが、豆の単語が出た途端に、オーロの眉がかすかに動いた気がした。
 ロゼリアはそれを見逃さなかった。
「オーロ商会長、豆をご存知なのですね?」
「な、何の事ですかな?」
 ロゼリアのツッコミに、オーロはとぼける。
 しかし、ロゼリアの勘は告げている。オーロは確実に豆なる存在を知っていると。しかし、今は追及はせずに、商談のために応接間へと案内してもらう事にした。
「では、ロゼリア嬢。改めて、本日の用件をお伺い致しましょう」
 応接間で腰を下ろしたオーロは、落ち着いた様子でロゼリアに尋ねてきた。どう見ても探りを入れてきている。
 一方のロゼリアだって落ち着いている。ここまでの人生の長さなら、ロゼリアだって負けてはいない。見た目は十四の娘だが、実際は合わせて二十五年生きているわけなのだから。
 いざロゼリアが口を開こうとした瞬間、どこからともなく声が響く。
「ちょっと待ったぁっ!」
「チェリシア?!」
 そう、響いた声はチェリシアのものだった。辺りを見回すと、何もない空間に突然チェリシアが降って湧いてきた。
「ちょっと、まさかテレポート? というか何故ここに?」
 当然ながらロゼリアは混乱して慌てる。というのも、怪しげに呟いていて困ったものだから、ペシエラに押し付けて学園から帰って来たのだ。ここに現れる事など、あり得るわけがない。
「ペシエラと別れて、マゼンダ商会に寄ってリモスさんから聞いたのよ。それで、飛んで来たわけ」
「飛んでって、あなたね……」
 文字通り飛んで来たチェリシアに、ロゼリアが呆れて今にも怒りそうだった。しかし、チェリシアはオーロに気が付いて淑女の挨拶をする。
「突然の訪問で大変失礼致しました、オーロ・ドール商会長」
「い、いや、とんでもない魔法の使い手だとは聞いていたが、瞬間移動が使えるとは……。この目で見たのは初めてだが、文献通りの魔法なのだな」
 とても驚いてはいるが、どこか落ち着いている雰囲気のあるオーロ。やはりこの男は、只者ではないようだ。
「魔法はイメージですから」
 チェリシアもチェリシアで動じていない。
「イメージ……、確かにそうですな。それはそうと、チェリシア嬢もどうしてここに?」
 気を取り直したオーロは、今度はチェリシアに尋ねる。
「それは、新たな味覚のために、豆を求めているからです!」
 ドヤァっと胸を張って言い放つチェリシア。いや、どうしてそこまで自信満々な言い方ができるのか。
「豆ですか。ロゼリア嬢といい、どこで豆なる物を知ったのですか?」
「その反応、オーロ商会長はご存知なのですね!」
 どこか渋った反応をしてきたオーロに、チェリシアは目を輝かせて迫る。あまりに顔を寄せてくるものだから、オーロはちょっと引いて身構えた。
「先に私の質問に答えて下さい。そしたら、こちらもお答えしますから」
 勢いに負けて、オーロはたじたじになっている。しかし、チェリシアはそれもそうだなと思ってロゼリアの隣に腰掛けた。
「どこで知ったかと言われたら、夢です」
「夢ですか」
「はい、こことは違う世界を夢で見まして、そこで食べた豆を使った食品が美味しかったのです。だから、それを再現したいと思うのです」
 目を輝かせてドヤ顔を決めるチェリシア。オーロは少し困惑の表情を浮かべながらも、チェリシアの言葉で何かを悟ったようである。
「そうですか、
 オーロが気になる単語を呟いた。
「ん? その単語どこかで?」
 その単語にチェリシアとロゼリアが共に反応する。
「まあいいでしょう。豆について情報を提供致しましょう」
 どこか諦めたかのような期待するかのような、妙な声の感じではあったが、オーロは豆について話をする気になったようだ。
「豆はモスグリネ王国にあります」
 オーロの口から、チェリシアたちの期待通りの言葉が飛び出てきたのだった。
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