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第八章 二年次
第164話 豆を探して
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チェリシアが息を荒くしていたのを見て、ロゼリアはその日の下校後、マゼンダ商会へと赴いた。この日はシアンと共にリモスも紹介に来ており、ロゼリアが執務室に入ると二人に出迎えられた。
「ご苦労様でございます、お嬢様」
「あら二人ともちょうどいいわ。二人に質問だけど、豆って知っているかしら?」
出迎えた二人に、早速質問をぶつけるロゼリア。なにせあれだけチェリシアがご執心なので、自分としても探りを入れたかったのだ。というわけで、商会の中枢とも言える二人といきなり会えた事は好都合だ。
「豆でございますか? 私は聞いた事はありませんね。シアンはどうです?」
「いえ、私も……。しかし、その豆がどうかされたのですか?」
ところがどっこい、表情を変えずに首を振るリモスに、困惑したようにロゼリアに聞き返すシアン。完全に肩透かしではあるが、ロゼリアの表情は特に変わらなかった。
「いえ、チェリシアがやけにこだわっていたので、気になったので聞いてみただけよ。やはり、アイヴォリーには無いって事かしら」
ダメ元で聞いてみたので、この結果にロゼリアは特に驚きはしない。
「しかし、その豆とやらは一体どのような物で?」
聞かれた方のリモスは、とても気になっているようだ。
「チェリシアが一方的に話してただけだから、私も詳しくは知らないわ。これくらいの大きさの丸い物らしいけど」
ロゼリアは答えながら、指先で大きさを示す。親指と人差し指で作った隙間に挟まる程度の大きさという事だ。
「ふむふむ、かなり小さいのですな」
「そのようよ。チェリシアは豆の名前として、大豆、小豆、いんげん、そら豆、落花生とか挙げていたわ」
「ほうほう」
反応を示しているリモスだが、どれも聞き覚えのない単語ばかりだった。隣に立つシアンも知らない単語であった。チェリシアから聞いたおおよその大きさと色と形を話しても、二人の反応は芳しいものではなかった。
「うーん、やっぱりモスグリネ王国の話を聞かなければならないかしら」
ロゼリアは悩んでいたが、ついぞ決意する。
「ドール商会に向かいましょう。あそこなら私たちよりも彼方には詳しいですから」
ロゼリアはドール商会に出向く事にした。というのも、ペイルは国賓として王宮で暮らしているので、ホイホイと会いに行けるような状態ではないからである。なので、モスグリネ王国と取引実績のあるドール商会を頼る事にしたのだ。
「では、先触れを出しておきましょう」
「ええ、よろしく頼むわ。さて、手土産くらいは持って行った方がいいわね」
リモスが先触れの手配のために出ていくと、ロゼリアはマゼンダ領の果実を使った新しい商品を取り出した。これを菓子折りにするつもりのようだ。
「お嬢様、それは?」
シアンが尋ねると、
「私が使える魔法の中で、水と風の魔法を使った乾燥果実よ。チェリシアが言ってたドライフルーツという物ね」
ロゼリアは素直に答える。そして、シアンにその中の一つを食べさせた。
「これは……!」
見た目こそは干からびているので少々悪いが、口に入れた瞬間に広がった甘みは今までに無い物だった。
「水分を飛ばして、甘みなどが凝縮されているから、体験した事のない甘さでしょうね。乾燥させているので、多少の保存が効くのも強みよ」
ロゼリアが微笑んでいる。
「なるほど、それならいろいろと売り込み先がありそうでございますね」
シアンがぶつぶつと考えている。
しばらくは動きそうにないシアンを放っておいて、ロゼリアはいちごとぶどうのドライフルーツを手に、ドール商会に出向く支度を終える。
「では参りましょうか」
ロゼリアとシアンが、立ち上がって移動を始める。
「リモス、任せますわ」
「畏まりました、お嬢様」
リモスに商会の業務を任せると、ロゼリアはシアンを伴ってドール商会へと赴いた。
王都の二大商会同士の商談が、今ここに始まろうとしていた。
「ご苦労様でございます、お嬢様」
「あら二人ともちょうどいいわ。二人に質問だけど、豆って知っているかしら?」
出迎えた二人に、早速質問をぶつけるロゼリア。なにせあれだけチェリシアがご執心なので、自分としても探りを入れたかったのだ。というわけで、商会の中枢とも言える二人といきなり会えた事は好都合だ。
「豆でございますか? 私は聞いた事はありませんね。シアンはどうです?」
「いえ、私も……。しかし、その豆がどうかされたのですか?」
ところがどっこい、表情を変えずに首を振るリモスに、困惑したようにロゼリアに聞き返すシアン。完全に肩透かしではあるが、ロゼリアの表情は特に変わらなかった。
「いえ、チェリシアがやけにこだわっていたので、気になったので聞いてみただけよ。やはり、アイヴォリーには無いって事かしら」
ダメ元で聞いてみたので、この結果にロゼリアは特に驚きはしない。
「しかし、その豆とやらは一体どのような物で?」
聞かれた方のリモスは、とても気になっているようだ。
「チェリシアが一方的に話してただけだから、私も詳しくは知らないわ。これくらいの大きさの丸い物らしいけど」
ロゼリアは答えながら、指先で大きさを示す。親指と人差し指で作った隙間に挟まる程度の大きさという事だ。
「ふむふむ、かなり小さいのですな」
「そのようよ。チェリシアは豆の名前として、大豆、小豆、いんげん、そら豆、落花生とか挙げていたわ」
「ほうほう」
反応を示しているリモスだが、どれも聞き覚えのない単語ばかりだった。隣に立つシアンも知らない単語であった。チェリシアから聞いたおおよその大きさと色と形を話しても、二人の反応は芳しいものではなかった。
「うーん、やっぱりモスグリネ王国の話を聞かなければならないかしら」
ロゼリアは悩んでいたが、ついぞ決意する。
「ドール商会に向かいましょう。あそこなら私たちよりも彼方には詳しいですから」
ロゼリアはドール商会に出向く事にした。というのも、ペイルは国賓として王宮で暮らしているので、ホイホイと会いに行けるような状態ではないからである。なので、モスグリネ王国と取引実績のあるドール商会を頼る事にしたのだ。
「では、先触れを出しておきましょう」
「ええ、よろしく頼むわ。さて、手土産くらいは持って行った方がいいわね」
リモスが先触れの手配のために出ていくと、ロゼリアはマゼンダ領の果実を使った新しい商品を取り出した。これを菓子折りにするつもりのようだ。
「お嬢様、それは?」
シアンが尋ねると、
「私が使える魔法の中で、水と風の魔法を使った乾燥果実よ。チェリシアが言ってたドライフルーツという物ね」
ロゼリアは素直に答える。そして、シアンにその中の一つを食べさせた。
「これは……!」
見た目こそは干からびているので少々悪いが、口に入れた瞬間に広がった甘みは今までに無い物だった。
「水分を飛ばして、甘みなどが凝縮されているから、体験した事のない甘さでしょうね。乾燥させているので、多少の保存が効くのも強みよ」
ロゼリアが微笑んでいる。
「なるほど、それならいろいろと売り込み先がありそうでございますね」
シアンがぶつぶつと考えている。
しばらくは動きそうにないシアンを放っておいて、ロゼリアはいちごとぶどうのドライフルーツを手に、ドール商会に出向く支度を終える。
「では参りましょうか」
ロゼリアとシアンが、立ち上がって移動を始める。
「リモス、任せますわ」
「畏まりました、お嬢様」
リモスに商会の業務を任せると、ロゼリアはシアンを伴ってドール商会へと赴いた。
王都の二大商会同士の商談が、今ここに始まろうとしていた。
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