逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第163話 次なる野望

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 二年次のイベントは、一年次とあまり変わり映えはしない。夏に合宿、秋には学園祭があるだけだ。後は個別の小さなイベントがあるのだが、パープリアの動き次第ではイベントをこなしていこうなどと悠長な事を言ってられる状態ではなくなるかも知れない。実に悩ましい限りだ。
 だが、これ以外にも懸案はある。モスグリネ王国の王子ペイルだ。彼は翌年の三年次が終了すると、留学を終えて祖国に帰ってしまう。
 乙女ゲームでは、その三年次の末で共通ルートを終了して、六年次まで個別ルートを進む。だが、共通ルートと違って、攻略キャラによって時間の進み方がまちまちで、その中でもシナリオは分岐していく。多いキャラでは、ルート分岐だけで六個くらいにエンディングが分かれている。そこに好感度による分岐があるので、どれだけのマルチエンディングなのかと言いたい。
 ただ、どのルートでもヒロインはチェリシアだし、ロゼリアは悪役令嬢なのだ。乙女ゲームとはそういうものなのだ。
 だが、現実はそうはいかなかった。
 既にゲームのシナリオとは異なり過ぎていて、物語が崩壊しかけている。チェリシアとロゼリアは敵対関係にはないし、居ないはずの妹ペシエラや、死んでいるはずのアイリスも健在。物語の強制力も存在しないようなので、この世界の行く末は、まったくもって未知なのである。
 それを知ってか知らずでか、今日もチェリシアは、新しい商品を開発しようとしていた。魔道具の方はカメラやビデオカメラのような物ができたので、とりあえずこれ以上はいいとして、次は食の方と意気込んでいた。
 マゼンダ、コーラル、アクアマリン三領の特産品を組み合わせて、何かできないかと考えていた。
 そこで目をつけたのが、去年の夏に訪れたコーラル伯爵領のカイスで見つけた米である。なんと、お米が存在したのだ。暮れにはニーズヘッグに頼んで取り寄せ、前世の記憶を頼りにお米を炊き上げる事に成功したチェリシアは、これを次のマゼンダ商会の目玉にしようと考えていた。
「というわけでアイリス。蒼鱗魚を通じてレイニさんと話がしたいのです」
「はぁ、分かりました」
 という事で、レイニを通じてカイスの稲作の状況を確認する。そうすると、チェリシアの残した教本通りに、稲の苗が準備されており、水田も準備万端のようである。苗を植えるのは春の三の月で、収穫は秋の二の月だ。上手くいけば、この年の冬からお米食べ放題(言い過ぎ)になるはずである。夏には確認に行くとカイス村への伝言も頼んだ。
 お米の料理となるとレパートリーは多い。普通は炊いてからの調理になるが、炊かずに粉にしても作れる物は多い。今の時点からチェリシアの脳内ではあれこれ料理が展開している。
「気持ち悪いわよ、チェリシア」
「えっ?」
「何をニヤニヤ笑っているの。周りも引いてるわよ」
 想像のし過ぎで、学園でも顔がにやけていたらしい。ロゼリアに思いっきりツッコミを食らう事になった。
「いや、ね。カイスで見つけたお米。あれであれこれ作れないかなって今から楽しみなのよ」
「米って、確か今年から栽培する事になった植物だったかしら」
「そうそう。今のカイスなら気候も安定してるから、成功すれば毎年相当量が収穫できるようになるわ。もちろん、植物の病気とか害虫とか注意する点はあるけど」
 呆れ気味に尋ねるロゼリアに、チェリシアは嬉々として早口で答えている。オタクとまではいかないまでも、それなりに農業に詳しいのでついつい語りたくなるようである。
「元日本人なら、醤油と味噌も外せないけど、大豆が無いのよね。小豆も無いし、豆ってこの世界には無いのかなぁ」
「アイヴォリーでは見かけた事はないわね。モスグリネ、ペイル殿下に尋ねてみたらいいわ」
 頬に手を当てて、憂いの表情を見せるチェリシアに、ロゼリアは呆れたように提案する。
「それはいいわね。あっ、それならドール商会にも掛け合ってみたいわ。水着の生地をモスグリネから仕入れたって言ってたし」
 希望が持てたのか、チェリシアの表情が明るくなる。
 意気込むチェリシアを見て、ロゼリアはまた大きくため息をつく。
「暴走しなければいいけど……」
 ロゼリアには不安しかなかったのだった。
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