逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第159話 少女に敵う者なし

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 訓練場を光の壁が取り囲む。
 バチンという音が響いたかと思うと、黒の装束を纏った人物が降ってきた。
 その人物はくるくる回って、無事に地面に着地した。
「なんだ、お前は」
 二人の王子が、揃って剣を向ける。
「くそっ、なんだ今のは!」
 黒装束は質問には答えない。何が起こったのか分からないようだ。
 仕方のない事だ。黒装束が逃げる瞬間、一秒もしないうちに訓練場は防壁に囲まれたのだから。わずかな瞬間に、見えない壁が現れ、黒装束はそれにぶつかって落っこちたというわけだ。
 怪しさ満点なので、王子二人はペシエラの近くに居てもらっている。ロゼリアとチェリシアの魔法によって、黒装束は見えない壁に囲まれた状態になっている。
 黒装束はそんなものを感知できないようで、物理的に逃げようとしてぶつかっては転けている。上下左右前後、どこに逃げようとしても全部ダメだった。チェリシアが使えるテレポートなんてものは、使える者など存在していない。つまり、逃走不可能なのである。
「くそっ、何がどうなってるんだ」
 黒装束は焦っている。
「さぁて、何をしに来たのか、洗いざらい吐いてもらいましょうか。……嘘は許しませんわよ?」
「ひっ……!」
 大の大人が本気でビビっている。
 ところが、ペシエラたちの後ろに居るアイリスを見つけると、何やら急に態度が変化した。
「……はっ、お前は死んだはずじゃないのか?! そうか、旦那を裏切ってそっちについたのか。所詮は蛮族の娘か、やはりな。くははははっ!」
 すごい勢いでアイリスを侮辱し始めた。しかし、変装を一発で見抜くのはすごいが、この言葉でこの男がパープリア男爵の手の者である事が明白となった。……間抜けは見つかったようだ。
召喚サモン、インフェルノ」
 アイリスは表情を変えずに、ポツリとそう呟く。すると、目の前で激しく炎が燃え上がった。
「ん、どうした主人。俺の力が必要か?」
 呼び出されたインフェルノは冷静だ。そして、目の前に黒装束を見つけると、アイリスの視線を確認してギロリと睨んだ。
「ほう、主人が敵とみなした輩か。俺の主人を敵に回すとは、見上げた根性だな」
「ひっ!」
 燃え盛る狼の睨みに、黒装束は更に震え上がる。そして、泡を吹いて気を失った。
「ふん、口ほどにも無い」
 インフェルノは首を背けて、黒装束を見下した。
「ありがとう、インフェルノ」
「なあに、主人の命とあれば、どこでも駆けつけようぞ。気にするな」
 アイリスがお礼を言うと、インフェルノはそう返す。そして、その場で炎が燃え上がったかと思うと、あっという間に姿を消した。
「見慣れない巨大な生き物が出てくれば、魔物とでも思うわよね……」
 ロゼリアは気絶した男を見ながら、困惑した表情で言う。その目の前で、ペシエラはまったく動じずに、魔法で男を縛り上げていく。触ると何があるか分からないからだ。
「これで、パープリア男爵の悪事を少し炙り出せそうですわね。まあ、当の本人は知らぬ存ぜぬでしょうけど」
 土魔法でロープを作り、黒装束の男を縛り上げたペシエラは、ため息をつきながら言う。
「そうでしょうね。こういう事にはしっかり対処しているでしょうから」
 アイリスも同じようにため息をついて、実の父親の姿勢を嘆いた。
 この一方的な捕物劇を見ていたシルヴァノとペイルは、ますますロゼリアたちを敵に回してはいけないと感じた。これだけの大規模な防壁を一瞬で張り巡らせられるだけの、魔法の才の塊なのだ。敵に回せば一人でもあっという間に軍が壊滅させられる。そう思わざるを得ないレベルだった。
 何にしても、ペシエラとの間にはまだまだ大きな壁が存在していると、シルヴァノとペイルは認識する事となった。
「ペシエラ、僕はまだまだ君の隣に立つには遠いみたいだね」
「まったくだ。本気で敵に回したくない」
 二人の王子が照れくさそうにしている。
 この様子を見たチェリシアが、顔を両手で挟んで高揚している。恋愛とは程遠いチェリシアだったが、こういう事には敏感なようだ。
 その傍らで、ロゼリアは少し面白くなさそうにしていたが、二人の反応は頷けるものだったので、なんとも複雑な顔をしていた。
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