逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
162 / 488
第八章 二年次

第159話 少女に敵う者なし

しおりを挟む
 訓練場を光の壁が取り囲む。
 バチンという音が響いたかと思うと、黒の装束を纏った人物が降ってきた。
 その人物はくるくる回って、無事に地面に着地した。
「なんだ、お前は」
 二人の王子が、揃って剣を向ける。
「くそっ、なんだ今のは!」
 黒装束は質問には答えない。何が起こったのか分からないようだ。
 仕方のない事だ。黒装束が逃げる瞬間、一秒もしないうちに訓練場は防壁に囲まれたのだから。わずかな瞬間に、見えない壁が現れ、黒装束はそれにぶつかって落っこちたというわけだ。
 怪しさ満点なので、王子二人はペシエラの近くに居てもらっている。ロゼリアとチェリシアの魔法によって、黒装束は見えない壁に囲まれた状態になっている。
 黒装束はそんなものを感知できないようで、物理的に逃げようとしてぶつかっては転けている。上下左右前後、どこに逃げようとしても全部ダメだった。チェリシアが使えるテレポートなんてものは、使える者など存在していない。つまり、逃走不可能なのである。
「くそっ、何がどうなってるんだ」
 黒装束は焦っている。
「さぁて、何をしに来たのか、洗いざらい吐いてもらいましょうか。……嘘は許しませんわよ?」
「ひっ……!」
 大の大人が本気でビビっている。
 ところが、ペシエラたちの後ろに居るアイリスを見つけると、何やら急に態度が変化した。
「……はっ、お前は死んだはずじゃないのか?! そうか、旦那を裏切ってそっちについたのか。所詮は蛮族の娘か、やはりな。くははははっ!」
 すごい勢いでアイリスを侮辱し始めた。しかし、変装を一発で見抜くのはすごいが、この言葉でこの男がパープリア男爵の手の者である事が明白となった。……間抜けは見つかったようだ。
召喚サモン、インフェルノ」
 アイリスは表情を変えずに、ポツリとそう呟く。すると、目の前で激しく炎が燃え上がった。
「ん、どうした主人。俺の力が必要か?」
 呼び出されたインフェルノは冷静だ。そして、目の前に黒装束を見つけると、アイリスの視線を確認してギロリと睨んだ。
「ほう、主人が敵とみなした輩か。俺の主人を敵に回すとは、見上げた根性だな」
「ひっ!」
 燃え盛る狼の睨みに、黒装束は更に震え上がる。そして、泡を吹いて気を失った。
「ふん、口ほどにも無い」
 インフェルノは首を背けて、黒装束を見下した。
「ありがとう、インフェルノ」
「なあに、主人の命とあれば、どこでも駆けつけようぞ。気にするな」
 アイリスがお礼を言うと、インフェルノはそう返す。そして、その場で炎が燃え上がったかと思うと、あっという間に姿を消した。
「見慣れない巨大な生き物が出てくれば、魔物とでも思うわよね……」
 ロゼリアは気絶した男を見ながら、困惑した表情で言う。その目の前で、ペシエラはまったく動じずに、魔法で男を縛り上げていく。触ると何があるか分からないからだ。
「これで、パープリア男爵の悪事を少し炙り出せそうですわね。まあ、当の本人は知らぬ存ぜぬでしょうけど」
 土魔法でロープを作り、黒装束の男を縛り上げたペシエラは、ため息をつきながら言う。
「そうでしょうね。こういう事にはしっかり対処しているでしょうから」
 アイリスも同じようにため息をついて、実の父親の姿勢を嘆いた。
 この一方的な捕物劇を見ていたシルヴァノとペイルは、ますますロゼリアたちを敵に回してはいけないと感じた。これだけの大規模な防壁を一瞬で張り巡らせられるだけの、魔法の才の塊なのだ。敵に回せば一人でもあっという間に軍が壊滅させられる。そう思わざるを得ないレベルだった。
 何にしても、ペシエラとの間にはまだまだ大きな壁が存在していると、シルヴァノとペイルは認識する事となった。
「ペシエラ、僕はまだまだ君の隣に立つには遠いみたいだね」
「まったくだ。本気で敵に回したくない」
 二人の王子が照れくさそうにしている。
 この様子を見たチェリシアが、顔を両手で挟んで高揚している。恋愛とは程遠いチェリシアだったが、こういう事には敏感なようだ。
 その傍らで、ロゼリアは少し面白くなさそうにしていたが、二人の反応は頷けるものだったので、なんとも複雑な顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。 そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。 

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...