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第八章 二年次
第158話 二対一
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「さて、私が剣と魔法を織り交ぜた戦い方を見せてあげますわ」
剣を構えたペシエラは、意気揚々と言い放つ。ただの挑発である。
「息が上がってきてますからね。お二人同時に相手して差し上げますわ」
この人、どこまで傲慢なのだろう。
剣術の腕を上げた王子二人を、三つも年下の少女が一人で相手するなど、いくら疲れているからといっても思い上がりすぎだろう。
普通ならば誰もがそう思う。
ところが、ペシエラは魔法無しでも十分ペイル渡り合える実力は持っているのだ。そこにほぼ無尽蔵の魔力から繰り出される魔法が加わったらどうなるか。それは誰にも分からないと言っても過言ではない。
ペシエラと対戦経験のあるペイルは、それが十分分かっている。一方のシルヴァノも、近い年頃ならトップクラスの実力の持ち主であるオフライトと、あれだけの善戦をしたので、ペシエラの実力を評価していた。
結果、二人は目の前のペシエラを、三つ年下の少女とは見ていない。実力の伴う騎士だと見て剣を構えた。
この事態をチェリシアはおどおどして見ているが、止めようとしたところをロゼリアが制止する。
「しっかりしなさい。ペシエラの事を信じられないの? そらに、アイリスも止めようとしていないわ。とにかく落ち着きなさい」
ロゼリアはチェリシアの前に手を出しているが、視線はまっすぐペシエラたちを見ている。チェリシアの後ろに居るアイリスも、真剣な表情でペシエラたちを見ていた。二人がここまで見守るつもりなので、チェリシアも駆け出そうとした前提姿勢を正し、直立してペシエラを見る。ペシエラはそれに気が付いたのか、チェリシアを見て口をしっかりと閉めて力強く微笑んだ。
「……始めて大丈夫か?」
ペイルが問う。
「こちらは万全ですわ。そちらがよろしければどうぞ」
ペシエラはさらっと答えるが、これは当然である。今まで打ち合っていた人間と、ついさっきここに来た人間。体調の差は歴然だからだ。
答えを返したペシエラは、ぐっと剣を握って深く構える。相変わらずのサーベル両手持ちである。
これを合図に、シルヴァノとペイルが動く。二人ともペシエラに向けて一直線だ。ペシエラは迎撃のために力を込める。
が、途中でペイルがシルヴァノと離れるように横へと動く。
「そう来ましたのね」
ペシエラは動じない。
ガキィンと、シルヴァノとペシエラの剣がぶつかり合う。シルヴァノはできるだけ力を込め、ペシエラを押しとどめようとしているようだ。
当然ながら、この間にペイルがペシエラの死角から詰め寄ってくる。それを見ているロゼリアだが、チェリシアが声を出さないように口をしっかりと押さえていた。チェリシアがもごもご言っているが気にしない。
「殿下、それで気を引いたおつもりで?」
「なにっ?!」
ペシエラがそう言うと、突然ペシエラの背後を守るように土壁が出現する。しかも、ペイルが斬りかかろうとしている、その方向にピンポイントで。
斬りかかろうとしたペイルの剣は、当然ながら土壁に弾かれる。
「くっ、見破られたか」
ペイルは悔しそうだ。しかし、その瞬間もペシエラは見逃さない。目の前のシルヴァノの剣を弾き返しつつ、ペイルを牽制するように土壁を通して魔法を放つ。土壁の一部が棒のように変化して、ペイルに襲いかかったのだ。
「なっ!」
攻撃を防がれたショックの一瞬の隙。それを突かれたペイルは、まともにその攻撃を喰らってしまった。
「まだまだ甘いですわね」
剣で押し込まれているはずのペシエラは、どういうわけか余裕がある。
それもそうだろう。ペシエラは六属性全てに適性があるのだ。背後に土魔法を使いながら、シルヴァノに対しても魔法を使っていた。その魔法も少しずつ強くなってきているので、さすがにシルヴァノも気が付いたようだ。
「これは、風か!」
「ご名答」
だが、時既に遅し。シルヴァノは風によって弾き返されてしまった。ちなみに、ペシエラは更に二人が怪我をしないように、風で包み込んでおいた。剣が刺さらない様にもちゃんと対応済み。この幼女、強すぎる。
「まったく、単調すぎますわ。騎士の試合ならそれで十分でしょうけど、戦争や魔物との戦いでは、その甘さが命取りになりますわ」
尻餅をつく王子二人に、バッサリ言い放つペシエラ。そして、ペシエラは二人から視線を外し、訓練場の上の方を見る。
「文字通り高みの見物とは、いいものですわね。私の魔力に干渉しようなど、片腹痛いですわ」
ペシエラが大声で語りかけた方向を見るが、そこには誰も居ない。どういう事だ。
「無視を決め込むのですわね。……よろしいですわ。ならばこの場に引き摺り出すまで!」
ペシエラから膨大な魔力が解き放たれた。
剣を構えたペシエラは、意気揚々と言い放つ。ただの挑発である。
「息が上がってきてますからね。お二人同時に相手して差し上げますわ」
この人、どこまで傲慢なのだろう。
剣術の腕を上げた王子二人を、三つも年下の少女が一人で相手するなど、いくら疲れているからといっても思い上がりすぎだろう。
普通ならば誰もがそう思う。
ところが、ペシエラは魔法無しでも十分ペイル渡り合える実力は持っているのだ。そこにほぼ無尽蔵の魔力から繰り出される魔法が加わったらどうなるか。それは誰にも分からないと言っても過言ではない。
ペシエラと対戦経験のあるペイルは、それが十分分かっている。一方のシルヴァノも、近い年頃ならトップクラスの実力の持ち主であるオフライトと、あれだけの善戦をしたので、ペシエラの実力を評価していた。
結果、二人は目の前のペシエラを、三つ年下の少女とは見ていない。実力の伴う騎士だと見て剣を構えた。
この事態をチェリシアはおどおどして見ているが、止めようとしたところをロゼリアが制止する。
「しっかりしなさい。ペシエラの事を信じられないの? そらに、アイリスも止めようとしていないわ。とにかく落ち着きなさい」
ロゼリアはチェリシアの前に手を出しているが、視線はまっすぐペシエラたちを見ている。チェリシアの後ろに居るアイリスも、真剣な表情でペシエラたちを見ていた。二人がここまで見守るつもりなので、チェリシアも駆け出そうとした前提姿勢を正し、直立してペシエラを見る。ペシエラはそれに気が付いたのか、チェリシアを見て口をしっかりと閉めて力強く微笑んだ。
「……始めて大丈夫か?」
ペイルが問う。
「こちらは万全ですわ。そちらがよろしければどうぞ」
ペシエラはさらっと答えるが、これは当然である。今まで打ち合っていた人間と、ついさっきここに来た人間。体調の差は歴然だからだ。
答えを返したペシエラは、ぐっと剣を握って深く構える。相変わらずのサーベル両手持ちである。
これを合図に、シルヴァノとペイルが動く。二人ともペシエラに向けて一直線だ。ペシエラは迎撃のために力を込める。
が、途中でペイルがシルヴァノと離れるように横へと動く。
「そう来ましたのね」
ペシエラは動じない。
ガキィンと、シルヴァノとペシエラの剣がぶつかり合う。シルヴァノはできるだけ力を込め、ペシエラを押しとどめようとしているようだ。
当然ながら、この間にペイルがペシエラの死角から詰め寄ってくる。それを見ているロゼリアだが、チェリシアが声を出さないように口をしっかりと押さえていた。チェリシアがもごもご言っているが気にしない。
「殿下、それで気を引いたおつもりで?」
「なにっ?!」
ペシエラがそう言うと、突然ペシエラの背後を守るように土壁が出現する。しかも、ペイルが斬りかかろうとしている、その方向にピンポイントで。
斬りかかろうとしたペイルの剣は、当然ながら土壁に弾かれる。
「くっ、見破られたか」
ペイルは悔しそうだ。しかし、その瞬間もペシエラは見逃さない。目の前のシルヴァノの剣を弾き返しつつ、ペイルを牽制するように土壁を通して魔法を放つ。土壁の一部が棒のように変化して、ペイルに襲いかかったのだ。
「なっ!」
攻撃を防がれたショックの一瞬の隙。それを突かれたペイルは、まともにその攻撃を喰らってしまった。
「まだまだ甘いですわね」
剣で押し込まれているはずのペシエラは、どういうわけか余裕がある。
それもそうだろう。ペシエラは六属性全てに適性があるのだ。背後に土魔法を使いながら、シルヴァノに対しても魔法を使っていた。その魔法も少しずつ強くなってきているので、さすがにシルヴァノも気が付いたようだ。
「これは、風か!」
「ご名答」
だが、時既に遅し。シルヴァノは風によって弾き返されてしまった。ちなみに、ペシエラは更に二人が怪我をしないように、風で包み込んでおいた。剣が刺さらない様にもちゃんと対応済み。この幼女、強すぎる。
「まったく、単調すぎますわ。騎士の試合ならそれで十分でしょうけど、戦争や魔物との戦いでは、その甘さが命取りになりますわ」
尻餅をつく王子二人に、バッサリ言い放つペシエラ。そして、ペシエラは二人から視線を外し、訓練場の上の方を見る。
「文字通り高みの見物とは、いいものですわね。私の魔力に干渉しようなど、片腹痛いですわ」
ペシエラが大声で語りかけた方向を見るが、そこには誰も居ない。どういう事だ。
「無視を決め込むのですわね。……よろしいですわ。ならばこの場に引き摺り出すまで!」
ペシエラから膨大な魔力が解き放たれた。
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