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第七章 一年次・後半
第156話 帰省の終わりに
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無事に神獣や幻獣との契約も終わったロゼリアたち。領地の視察を終えて、現段階の問題は砂糖の生産という事になった。
アクアマリン領はマゼンダ領から見てコーラル領とは反対側にあるのだが、地形のせいで輸送がままならないのだ。しかも、砂糖の生産量は少なく、ジャムはいまだに高価な商品である。
だが、ジャムを作るために砂糖の購入量を増やすと、今度は砂糖が品薄となってしまう。それでは意味がない。
砂糖の原材料となるサトウキビについては、マゼンダ領で栽培を試みたが失敗した過去がある。アクアマリン領と同じ栽培法では合わなかったようなのだ。
そこで、チェリシアは前世の記憶にあった甜菜の事を周囲に話していた。寒い地域でも育ち、サトウキビと並んで砂糖を精製できる植物だ。すぐに文献を調べて調査が行われた。
チェリシアの描いた甜菜の詳細なイラストがあったので、探すのは簡単かと思われたが、実はチェリシアが十三歳となった今でも発見には至っていなかった。とりあえず、チェリシアが甜菜の育て方を記したノートをトムに預けて、マゼンダ領はの視察という名の帰省は終わりを告げた。
マゼンダ領には、神獣インフェルノと幻獣ファントムの二体が居るので、パープリア男爵の手の者の襲撃があっても、まあ大丈夫だろうと思われる。
しかし、アイリスたちの持っていた道具から察するに、相当強い使役の道具を持っている可能性がある。念のために二体には、チェリシアとペシエラが防護の魔力を込めた装飾品を渡しておいた。契約を結ぶアイリスも同様であるが、契約やら撮影魔法やらでアイリスの装飾品が増えてきてしまった。そこで、撮影魔法と防護魔法を、インフェルノが契約に使った脚の装飾品にまとめて付与する事にした。
隠れた場所に撮影魔法など、その効果があるのか疑わしいが、この魔法で肝心なのはアイリスの視覚である。視覚と魔石を魔力で繋ぐ事で、見たものを魔石に記憶させる事ができるのだ。とても謎な技術である。
こういう事もあってか、アイリスの立場はあまりパープリア男爵令嬢の時と変わってはいない感じである。しかし、手駒として動かされている自覚はあるが、今の方が楽しく感じている。なにせ、今の主人は破天荒な貴族令嬢たちだからだ。
無茶振りされる事はあるものの、何かあれば心配はしてくれるし、待遇だって悪くはない。
命を狙った事だってあったのに、信用してくれるお人好し。アイリスからのロゼリアたちの印象は、概ねそんな感じである。
この三人についてからというもの、アイリスの環境は激変した。なによりも神獣使いという事が発覚した事だ。母方の家系が、失われた神獣使いの子孫だという事は衝撃を通り越した。正直、うまく飲み込めなかった。
それも、こうやって契約を重ねていくうちに、少しずつ自覚できるようになってきた。それと同時なのかは疑わしいが、マゼンダ商会の一員としての自覚も出てきた。平民落ちをしたが、これで良かったとすら思っているらしい。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
チェリシアとペシエラとアイリスの三人は、ロゼリアと別れて王都のコーラル伯爵邸に戻る。そこで、ニーズヘッグの出迎えを受ける。
「留守の間、ご苦労でした。動きはありましたか?」
チェリシアがニーズヘッグに質問をする。
「あぁ、活発に動いていた。全部空回りだったがな」
ニーズヘッグは笑いながら答える。
「しかし、いつまで放っておくんだ? 我が本気で動けばいつでも潰せるぞ」
急に真面目な顔をして、ニーズヘッグはチェリシアたちに問い掛ける。
「私たちは普通の貴族。できれば悪巧みを白日の下に晒してやりたいのですわ」
ペシエラはそう答えた。
「……まったく面倒な事だな」
「連中が王国にとって害悪だと思われてませんもの。仕方ありませんわ」
「つまり、その悪巧みの場に、王国の兵士を踏み込ませればいいって事か」
「まあそうですね」
このやり取りをして、ニーズヘッグはニヤッと笑う。
「任せておけ、我は厄災と呼ばれた龍ぞ」
「お任せしますが、深追いしないで下さいね」
「任せておけ」
ニーズヘッグの自信たっぷりの顔に、チェリシアたちは不安になるのだった。
アクアマリン領はマゼンダ領から見てコーラル領とは反対側にあるのだが、地形のせいで輸送がままならないのだ。しかも、砂糖の生産量は少なく、ジャムはいまだに高価な商品である。
だが、ジャムを作るために砂糖の購入量を増やすと、今度は砂糖が品薄となってしまう。それでは意味がない。
砂糖の原材料となるサトウキビについては、マゼンダ領で栽培を試みたが失敗した過去がある。アクアマリン領と同じ栽培法では合わなかったようなのだ。
そこで、チェリシアは前世の記憶にあった甜菜の事を周囲に話していた。寒い地域でも育ち、サトウキビと並んで砂糖を精製できる植物だ。すぐに文献を調べて調査が行われた。
チェリシアの描いた甜菜の詳細なイラストがあったので、探すのは簡単かと思われたが、実はチェリシアが十三歳となった今でも発見には至っていなかった。とりあえず、チェリシアが甜菜の育て方を記したノートをトムに預けて、マゼンダ領はの視察という名の帰省は終わりを告げた。
マゼンダ領には、神獣インフェルノと幻獣ファントムの二体が居るので、パープリア男爵の手の者の襲撃があっても、まあ大丈夫だろうと思われる。
しかし、アイリスたちの持っていた道具から察するに、相当強い使役の道具を持っている可能性がある。念のために二体には、チェリシアとペシエラが防護の魔力を込めた装飾品を渡しておいた。契約を結ぶアイリスも同様であるが、契約やら撮影魔法やらでアイリスの装飾品が増えてきてしまった。そこで、撮影魔法と防護魔法を、インフェルノが契約に使った脚の装飾品にまとめて付与する事にした。
隠れた場所に撮影魔法など、その効果があるのか疑わしいが、この魔法で肝心なのはアイリスの視覚である。視覚と魔石を魔力で繋ぐ事で、見たものを魔石に記憶させる事ができるのだ。とても謎な技術である。
こういう事もあってか、アイリスの立場はあまりパープリア男爵令嬢の時と変わってはいない感じである。しかし、手駒として動かされている自覚はあるが、今の方が楽しく感じている。なにせ、今の主人は破天荒な貴族令嬢たちだからだ。
無茶振りされる事はあるものの、何かあれば心配はしてくれるし、待遇だって悪くはない。
命を狙った事だってあったのに、信用してくれるお人好し。アイリスからのロゼリアたちの印象は、概ねそんな感じである。
この三人についてからというもの、アイリスの環境は激変した。なによりも神獣使いという事が発覚した事だ。母方の家系が、失われた神獣使いの子孫だという事は衝撃を通り越した。正直、うまく飲み込めなかった。
それも、こうやって契約を重ねていくうちに、少しずつ自覚できるようになってきた。それと同時なのかは疑わしいが、マゼンダ商会の一員としての自覚も出てきた。平民落ちをしたが、これで良かったとすら思っているらしい。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
チェリシアとペシエラとアイリスの三人は、ロゼリアと別れて王都のコーラル伯爵邸に戻る。そこで、ニーズヘッグの出迎えを受ける。
「留守の間、ご苦労でした。動きはありましたか?」
チェリシアがニーズヘッグに質問をする。
「あぁ、活発に動いていた。全部空回りだったがな」
ニーズヘッグは笑いながら答える。
「しかし、いつまで放っておくんだ? 我が本気で動けばいつでも潰せるぞ」
急に真面目な顔をして、ニーズヘッグはチェリシアたちに問い掛ける。
「私たちは普通の貴族。できれば悪巧みを白日の下に晒してやりたいのですわ」
ペシエラはそう答えた。
「……まったく面倒な事だな」
「連中が王国にとって害悪だと思われてませんもの。仕方ありませんわ」
「つまり、その悪巧みの場に、王国の兵士を踏み込ませればいいって事か」
「まあそうですね」
このやり取りをして、ニーズヘッグはニヤッと笑う。
「任せておけ、我は厄災と呼ばれた龍ぞ」
「お任せしますが、深追いしないで下さいね」
「任せておけ」
ニーズヘッグの自信たっぷりの顔に、チェリシアたちは不安になるのだった。
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