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第七章 一年次・後半
第154話 禁法の主人
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「なるほど、二人が剣術にも魔法にも秀でている理由が分かりました」
幻獣ファントムとの話を終えて、ようやく気持ちが落ち着いたアイリスは、ロゼリアたちにそんな言葉をぶつけていた。
「しかし、あり得ない事ですね。以前の能力を引き継いだまま、若返るような事なんて、普通じゃないです」
「だからこそ、禁法と言われるわけじゃないの」
アイリスの感想を、さらっと一言で片付けるロゼリア。容赦無し。
「それと、私を助けようとした理由って……」
「そう、逆行前の合宿では何人か死んでたから、誰も死なせたくなかっただけですわ。まあ、助けようとせいで、あの一件の犯人があなただと分かってしまいましたが」
アイリスのもう一つの疑問には、ペシエラが平然とした表情でさらりと答えていた。
一人蚊帳の外状態のチェリシアは、気を紛らわせるようにご飯を用意し始めた。トムも黙ってそれを手伝っていた。
一方その頃……。
「お呼びでしょうか、我が主人」
薄暗い部屋の中に、濃い紫の髪の毛の女性が現れる。そして、主人と呼んだ人物の前に跪いた。
「ええ、頼んでおいた事は、順調かしら」
「はい。アイリス嬢とは接触しました。そして、見事にフェンリルを手懐けておりましたね。さすがはベル様の子孫でございます」
尋ねられた事に対し、女性は一つ一つ報告を重ねていく。それを聞きつつ、主人と呼ばれた人物は少しずつ表情を曇らせていく。
「あの腹黒男爵は、まだ諦めていないというのかしら」
「その様でございます。ロゼリア嬢、チェリシア嬢、ペシエラ嬢の三人の防壁魔法に、神獣幻獣の警備もあって計画が進まない事に苛つくばかりでして、諦める気配はまったくございません」
主人も女性も大きなため息をつく。
「ならば、無理やり大勢の目につく場所でやらかしをお披露目するしかないかしらね」
「その様に存じます」
言いながら、二人はもう一度大きなため息をついた。
二人の言う腹黒男爵とは、当然パープリア男爵の事だ。表向きは人の良さをアピールしているが、裏ではいろいろと悪どい事をしている。特に得意なのが暗殺。元々そういった事が得意な一族だから仕方がないが、貴族に取り立てられながらも、ここまで国に染まらないのも珍しいものである。
「まあともかく、あの腹黒男爵は止めないといけませんね。あの一族は昔から魔物並みに洒落にならない事をやらかしてくれていましたから」
女性の方が、額に手を当てながら首を振って言う。
「ええ、頼みましたよ、スミレ。……いや、幻獣クロノアと呼んだ方がいいかしら」
「スミレでお願いします。この様に人に紛れて活動する事など、普通はあり得ないんですから、幻獣の名は伏せ続けさせて頂きます」
主人と呼ばれて人物から、衝撃的な単語が飛び出た。
なんと、この女性はロゼリアたちがカイスの村で会ったスミレであり、幻獣であったのだ。
「ええ、そうね。精霊レイニには勘付かれていたけど、カイスの村での一件、本当にありがとう」
「いえ。ですが、お辛いですよね、主人」
「ええ。でも、それを分かって自分で選んだ道。……後悔なんて無いわ」
スミレに言われて、主人は少し言葉を詰まらせる。二人の会話では、何が辛いのかがよく分からない。
「……そらよりも、早めにあの腹黒男爵を潰す方法を考えましょう。いう暴挙に出るか分かったものではないわ」
「畏まりました。では、もうしばらく潜入して、交流網を調べ上げてきます」
「頼んだわよ」
スミレはそう言うと、主人の返事を待たずにその場から姿を消した。
主人の方はスミレを見送ると、座っている椅子に深く寄り掛かって天井を見る。
「前回もあの男爵の企みに気が付いたのに、あの時は何もできなかった。その結果を思うと、後悔してもしきれないわ」
主人はちらりと机の上に目をやる。一枚の写し絵のようだ。
「だからこそ、絶対お救いすると誓ったのです。……たとえ、自分が消えてしまうとしても」
そう言った主人の目からは、一筋の光る物が流れているのであった。
幻獣ファントムとの話を終えて、ようやく気持ちが落ち着いたアイリスは、ロゼリアたちにそんな言葉をぶつけていた。
「しかし、あり得ない事ですね。以前の能力を引き継いだまま、若返るような事なんて、普通じゃないです」
「だからこそ、禁法と言われるわけじゃないの」
アイリスの感想を、さらっと一言で片付けるロゼリア。容赦無し。
「それと、私を助けようとした理由って……」
「そう、逆行前の合宿では何人か死んでたから、誰も死なせたくなかっただけですわ。まあ、助けようとせいで、あの一件の犯人があなただと分かってしまいましたが」
アイリスのもう一つの疑問には、ペシエラが平然とした表情でさらりと答えていた。
一人蚊帳の外状態のチェリシアは、気を紛らわせるようにご飯を用意し始めた。トムも黙ってそれを手伝っていた。
一方その頃……。
「お呼びでしょうか、我が主人」
薄暗い部屋の中に、濃い紫の髪の毛の女性が現れる。そして、主人と呼んだ人物の前に跪いた。
「ええ、頼んでおいた事は、順調かしら」
「はい。アイリス嬢とは接触しました。そして、見事にフェンリルを手懐けておりましたね。さすがはベル様の子孫でございます」
尋ねられた事に対し、女性は一つ一つ報告を重ねていく。それを聞きつつ、主人と呼ばれた人物は少しずつ表情を曇らせていく。
「あの腹黒男爵は、まだ諦めていないというのかしら」
「その様でございます。ロゼリア嬢、チェリシア嬢、ペシエラ嬢の三人の防壁魔法に、神獣幻獣の警備もあって計画が進まない事に苛つくばかりでして、諦める気配はまったくございません」
主人も女性も大きなため息をつく。
「ならば、無理やり大勢の目につく場所でやらかしをお披露目するしかないかしらね」
「その様に存じます」
言いながら、二人はもう一度大きなため息をついた。
二人の言う腹黒男爵とは、当然パープリア男爵の事だ。表向きは人の良さをアピールしているが、裏ではいろいろと悪どい事をしている。特に得意なのが暗殺。元々そういった事が得意な一族だから仕方がないが、貴族に取り立てられながらも、ここまで国に染まらないのも珍しいものである。
「まあともかく、あの腹黒男爵は止めないといけませんね。あの一族は昔から魔物並みに洒落にならない事をやらかしてくれていましたから」
女性の方が、額に手を当てながら首を振って言う。
「ええ、頼みましたよ、スミレ。……いや、幻獣クロノアと呼んだ方がいいかしら」
「スミレでお願いします。この様に人に紛れて活動する事など、普通はあり得ないんですから、幻獣の名は伏せ続けさせて頂きます」
主人と呼ばれて人物から、衝撃的な単語が飛び出た。
なんと、この女性はロゼリアたちがカイスの村で会ったスミレであり、幻獣であったのだ。
「ええ、そうね。精霊レイニには勘付かれていたけど、カイスの村での一件、本当にありがとう」
「いえ。ですが、お辛いですよね、主人」
「ええ。でも、それを分かって自分で選んだ道。……後悔なんて無いわ」
スミレに言われて、主人は少し言葉を詰まらせる。二人の会話では、何が辛いのかがよく分からない。
「……そらよりも、早めにあの腹黒男爵を潰す方法を考えましょう。いう暴挙に出るか分かったものではないわ」
「畏まりました。では、もうしばらく潜入して、交流網を調べ上げてきます」
「頼んだわよ」
スミレはそう言うと、主人の返事を待たずにその場から姿を消した。
主人の方はスミレを見送ると、座っている椅子に深く寄り掛かって天井を見る。
「前回もあの男爵の企みに気が付いたのに、あの時は何もできなかった。その結果を思うと、後悔してもしきれないわ」
主人はちらりと机の上に目をやる。一枚の写し絵のようだ。
「だからこそ、絶対お救いすると誓ったのです。……たとえ、自分が消えてしまうとしても」
そう言った主人の目からは、一筋の光る物が流れているのであった。
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