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第七章 一年次・後半
第143話 惹き合う者
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「アイリス、なぜここに?」
そう、出てきたのはアイリスだった。
実はこの少し前、アイリスに接触してきた人物が居た。
「ちょっとそこの眼鏡のお嬢さん、いいかな?」
「はい?」
アイリスの元の髪色より濃い紫の髪の女性だった。見た感じは同い年くらいっぽいのに、どこか大人びた雰囲気を持つ不思議な女性だ。
「武術大会の会場に、不穏な魔力が集まっている。だが、お嬢さんの魔力なら相性はいいはずだ。すぐに向かって欲しい」
アイリスは驚く。
「ちょっと待って、それってどういう……」
ところが、一瞬しか目を離さなかったのに、その女性の姿は周りに見当たらなかった。一体彼女は何者なのか……。
しかし、いくら考えても一瞬すぎて分からない。なので、その女性が指摘した、武術大会の会場へと、アイリスは急いで移動する。
「待って!」
武術大会の会場に着いたアイリスは、無意識にそう叫んでいた。
息を切らせるアイリスに、フェンリルは威嚇の視線を送る。
しかし、すぐさま、その視線は驚きへと変化する。
「ベ……ル……?」
ベル……。フェンリルはかつての神獣使いの女性の名を呟いたのだ。
「ほう、やはりその名を口にしたか。あの少女はお前が懇意にしていたベルの子孫だ」
「な……に……?」
フェンリルの驚く様を見たニーズヘッグは、すかさず揺さぶりを掛ける。
「懇意……、人間に惚れていたという事かしら?」
そばで聞いていたペシエラが反応する。
「左様。誇り高き神狼が、人間に惚れてただの犬コロと化していたんだからな。それはそれは見ものだったぞ」
ニーズヘッグが笑いながら話す。
「だ、黙れっ!」
恥ずかしい過去を暴露されたフェンリルは、怒りのあまり吹雪を巻き起こす。観客はほとんど退避しており、一般人への被害がほぼ無いのだが、これは強力すぎる力である。
「きゃあっ!」
あまりの吹雪にアイリスが悲鳴を上げる。
「主人っ!」
「ベル?!」
ニーズヘッグとフェンリルが同時に声を上げる。そして、ニーズヘッグはフェンリルを睨みつける。
「お前、主人に害をもたらすというのなら、許さぬぞ。格上の神獣相手とはいえ、厄災とまで言われた我だ。ただではすまさん……」
ニーズヘッグがお怒りモードである。
その様子を見たペシエラは、
「公爵様、早く皆さんを避難させて下さいっ! あの二人が暴れてはただでは済みませんわ!」
強く叫ぶ。
ところが、スノーフィールド公爵も兵士たちも、恐怖に固まってしまって動けそうになかった。焦るペシエラが辺りを見回すと、観客席にまだ人影がある。……ロゼリアとチェリシアだった。
(なぜまだ二人はあそこに居ますの?)
表情をよく見れば、チェリシアがフェンリルに興奮してしまい、ロゼリアが必死にこの場を離れるように怒鳴っているように感じられた。
(何をしていますの、お姉様……)
ペシエラはさすがに呆れた。
だが、ペシエラはすぐにフェンリルに視線を向け、剣を構える。体力は回復しきってはいないが、十分に戦える。
ところがだ、どうにもフェンリルの様子がおかしい。
「ニーズヘッグ」
「なんだ?」
突然話しかけられたニーズヘッグが、つっけんどんに返す。
「ここで貴公と見える気は無い。貴公が主人とするその少女と話がしたい。……どうやら、その少女から我を呼ぶ声が聞こえるのだ」
「どういう事だ?」
「……我にも分からん。だが、呼ぶ声の発生源が、ベルの子孫というのも不思議な巡り合わせなのかも知れん」
フェンリルの言葉に、ニーズヘッグは構えを解いて直立する。分かったという意思表示だ。
ペシエラや多くの兵が武器を構える中、フェンリルはアイリスに近付いていく。ペシエラが剣を強く握り直すが、ニーズヘッグがペシエラたちを無言で止める。
「ニーズヘッグ?」
「なに、主人なら大丈夫だ。格の違いはあれど、あやつとは長い付き合いだからな」
ニーズヘッグはペシエラにそっと言うと、周りに居る人間にも牽制をかける。観客席に居るロゼリアとチェリシアも、それを察した。
周りが静かに見守る中、フェンリルはアイリスの前に立つ。アイリスは大きな狼を前に震えているが、フェンリルが座った瞬間、アイリスの胸元から光が溢れるのだった。
そう、出てきたのはアイリスだった。
実はこの少し前、アイリスに接触してきた人物が居た。
「ちょっとそこの眼鏡のお嬢さん、いいかな?」
「はい?」
アイリスの元の髪色より濃い紫の髪の女性だった。見た感じは同い年くらいっぽいのに、どこか大人びた雰囲気を持つ不思議な女性だ。
「武術大会の会場に、不穏な魔力が集まっている。だが、お嬢さんの魔力なら相性はいいはずだ。すぐに向かって欲しい」
アイリスは驚く。
「ちょっと待って、それってどういう……」
ところが、一瞬しか目を離さなかったのに、その女性の姿は周りに見当たらなかった。一体彼女は何者なのか……。
しかし、いくら考えても一瞬すぎて分からない。なので、その女性が指摘した、武術大会の会場へと、アイリスは急いで移動する。
「待って!」
武術大会の会場に着いたアイリスは、無意識にそう叫んでいた。
息を切らせるアイリスに、フェンリルは威嚇の視線を送る。
しかし、すぐさま、その視線は驚きへと変化する。
「ベ……ル……?」
ベル……。フェンリルはかつての神獣使いの女性の名を呟いたのだ。
「ほう、やはりその名を口にしたか。あの少女はお前が懇意にしていたベルの子孫だ」
「な……に……?」
フェンリルの驚く様を見たニーズヘッグは、すかさず揺さぶりを掛ける。
「懇意……、人間に惚れていたという事かしら?」
そばで聞いていたペシエラが反応する。
「左様。誇り高き神狼が、人間に惚れてただの犬コロと化していたんだからな。それはそれは見ものだったぞ」
ニーズヘッグが笑いながら話す。
「だ、黙れっ!」
恥ずかしい過去を暴露されたフェンリルは、怒りのあまり吹雪を巻き起こす。観客はほとんど退避しており、一般人への被害がほぼ無いのだが、これは強力すぎる力である。
「きゃあっ!」
あまりの吹雪にアイリスが悲鳴を上げる。
「主人っ!」
「ベル?!」
ニーズヘッグとフェンリルが同時に声を上げる。そして、ニーズヘッグはフェンリルを睨みつける。
「お前、主人に害をもたらすというのなら、許さぬぞ。格上の神獣相手とはいえ、厄災とまで言われた我だ。ただではすまさん……」
ニーズヘッグがお怒りモードである。
その様子を見たペシエラは、
「公爵様、早く皆さんを避難させて下さいっ! あの二人が暴れてはただでは済みませんわ!」
強く叫ぶ。
ところが、スノーフィールド公爵も兵士たちも、恐怖に固まってしまって動けそうになかった。焦るペシエラが辺りを見回すと、観客席にまだ人影がある。……ロゼリアとチェリシアだった。
(なぜまだ二人はあそこに居ますの?)
表情をよく見れば、チェリシアがフェンリルに興奮してしまい、ロゼリアが必死にこの場を離れるように怒鳴っているように感じられた。
(何をしていますの、お姉様……)
ペシエラはさすがに呆れた。
だが、ペシエラはすぐにフェンリルに視線を向け、剣を構える。体力は回復しきってはいないが、十分に戦える。
ところがだ、どうにもフェンリルの様子がおかしい。
「ニーズヘッグ」
「なんだ?」
突然話しかけられたニーズヘッグが、つっけんどんに返す。
「ここで貴公と見える気は無い。貴公が主人とするその少女と話がしたい。……どうやら、その少女から我を呼ぶ声が聞こえるのだ」
「どういう事だ?」
「……我にも分からん。だが、呼ぶ声の発生源が、ベルの子孫というのも不思議な巡り合わせなのかも知れん」
フェンリルの言葉に、ニーズヘッグは構えを解いて直立する。分かったという意思表示だ。
ペシエラや多くの兵が武器を構える中、フェンリルはアイリスに近付いていく。ペシエラが剣を強く握り直すが、ニーズヘッグがペシエラたちを無言で止める。
「ニーズヘッグ?」
「なに、主人なら大丈夫だ。格の違いはあれど、あやつとは長い付き合いだからな」
ニーズヘッグはペシエラにそっと言うと、周りに居る人間にも牽制をかける。観客席に居るロゼリアとチェリシアも、それを察した。
周りが静かに見守る中、フェンリルはアイリスの前に立つ。アイリスは大きな狼を前に震えているが、フェンリルが座った瞬間、アイリスの胸元から光が溢れるのだった。
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