逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
144 / 431
第七章 一年次・後半

第142話 白銀の狼

しおりを挟む
 武術大会は無事に終了した。……とはいかなかった。
 何が起きたのか。
 スノーフィールド公爵が引き分け宣言をし、オフライトの優勝を言い渡した後、満身創痍のシルヴァノとペイルが武台から降ろされた。
 まさにその時だった。
 気のせいか、武台の中央が光ったかと思えば、急に一帯が寒くなった。そして、突如として武台の中央で吹雪が巻き起こる。その吹雪が止むと現れたのは、スノーフィールド公爵と同じ銀色の毛並みを備えた、大きな犬、いや狼だった。
「あれは、フェンリル?」
「嘘っ、魔物の襲撃なら、本来は二年次で起きるイベントのはずよ」
 ロゼリアとチェリシアが大声を出す。
「むう、どこだっ! 我を呼ぶのは、どこの誰だっ!」
 観客が慌てふためく中、武台の上に居る狼が突然大声で騒ぎ始めた。言葉を話す事に、多くの観客が更に混乱している。
「出せっ、すぐに差し出せっ! 出さぬと言うなら、この場を凍てつかせるだけだっ!」
 うん、何を言っているのか分からない。
 しかし、学園側からすると学生や一般人に被害が出かねない。しばらくするとぞろぞろと兵士たちがやって来た。
「どういう事なのかしら。あのフェンリルはここに来た事を不本意のような言い方をしているわ」
「ロゼリア、落ち着いている場合ですか!」
 状況を冷静に見ようとしているロゼリアだが、ペシエラはどうにか被害を出さないようにするか考えている。
 そして、体力が回復してきたので、ペシエラはフェンリルの前へと出ていった。
「ここに何の用です」
「なんだ、小娘。我に楯突く気か?」
「話し合いで済むのなら、その方がいいですわ」
「それにしては、その手に持つ物は何だ?」
 風魔法で武台の近くに降りたペシエラは、剣を構えてフェンリルと向かい合う。そして、話をしながら周りを確認する。
 武台の周りには、呼ばれて出てきた兵士となぜか残っているスノーフィールド公爵の姿がある。見るからに戦う気でいるようだ。
 しかし、その時。
「おい、犬コロ。久しぶりだな」
 武台の前に執事姿の男、ニーズヘッグが現れた。
「その魔力、ニーズヘッグか。人の姿とは珍しいな」
「こっちもいろいろ事情があるのさ」
 フェンリルの問い掛けに、ふんぞり返って答えるニーズヘッグ。
「それより、なんでお前がここに居る。お前の住処ははるか極寒の地だろう?」
「それは我が聞きたい。急に光ったかと思えばここに居たのだからな。だが、それとは別に、誰かに呼ばれている気がするのだ」
「ほう……。お前の実力なら抗えたものを、わざわざのこのこやって来たというわけか」
 二人の会話に誰もついていけない。だが、話は分からなくとも、目の前の存在が脅威なのは分かる。それが故に、兵士たちは武器を構える姿勢を崩さなかった。
「まぁいい。お前とは久しぶりに戦ってみたかったからな。我よりも上の神獣の力、見せてもらおうか」
「ふっ、お前のようなひよっこなどに、我の相手が務まると思うてか?」
 何やら一触即発の雰囲気である。
 ところが、次の瞬間、その空気が一変する。再び、武台の中央が光ったのだ。今度は魔力の渦と共に、複数の魔物が現れた。
「くっ、どこかの馬鹿が、召喚陣を仕掛けていたようだな」
 スノーフィールド公爵たちが身構える。
「雑魚どもが! 我の邪魔をするなっ!!」
 そうかと思えば、フェンリルが怒り狂い、後発で現れた魔物たちを一蹴してしまった。スノーフィールド公爵たちは、呆気に取られる。
「まったく忌々しい。……これが召喚陣か」
 フェンリルが武台に仕込まれた陣を睨む。
「よく気付かれずに、これだけの物を仕込んだものよのう。だが、我を呼び出した事は後悔するがよい」
 こう言って、フェンリルは武台の中心部分を粉々に砕いた。
「武術大会の武台そのものが、召喚陣だと言うの?」
「いかにも」
 驚くペシエラに、フェンリルは肯定する。
 これはまったくもって予想外だった。外部からの侵入を想定していたのに、実は準備に紛れて、既に工作済みだったのだ。今すぐにでも犯人探しをしたいところだが、現状はとてもそういう状況ではない。
 神獣フェンリルとペシエラたち王国の者たちとの睨み合いが続いている。
「待って!」
 こう着状態の中、一人の女性の声が響き渡るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...