逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
143 / 488
第七章 一年次・後半

第141話 王子対決

しおりを挟む
 シルヴァノとペイルは、開始の合図と同時に一気に距離を詰める。そして、互いに剣を振り抜いた。
 潰れた模擬剣ではあるが、甲高い金属音が会場に響き渡る。音の大きさからして、どれ程の力で振り抜かれたのかが分かる。
 しかし、この後決勝戦、オフライト戦が控えているというのに、全力で試合をしている。こんな調子で大丈夫なのか。
 だが、この二人にはそんな事を言っている余裕などなかった。これはただの意地とプライドのぶつかり合いなのだ。
 この二人が見ているもの……。それはペシエラただ一人である。あの年齢と小さな体躯で、年齢と体格差を物ともしない剣技。さすがにオフライトには体力負けをしてしまったが、二人が真剣に打ち込むきっかけになったのは、間違いなくペシエラなのである。それが故に、ペシエラが見守る前で最高の試合をしてやろうじゃないかと、決勝戦の相手オフライトを差し置いて、二人はすべてをここに賭けていた。
 まさか「私のために争わないで」の状況にあるとは知らず、ペシエラは冷静に二人の試合を見ているのだが、そこはお互いが知らない話である。
 さて、この王子対決はどちらに軍配が上がるのか。
 剣をぶつけ合ってしばらく睨み合う二人。
「ふっ、なかなかやるな。アイヴォリーの王子は容姿が綺麗なだけのお坊ちゃんだと聞いていたんだが、なかなかやるじゃないか」
「モスグリネの王子は乱暴なだけと聞いていたが、意外と真面目なんだな」
 煽り合いにお互いが不敵に笑うと、その瞬間に二人は距離を取り合う。力が拮抗しているのか、剣の押し合いでは埒が開かないと判断したからだ。
 仕切り直したかと思うと、二人は同時に飛び込んでいく。剣と剣がぶつかり合う音が響き渡り、会場はその凄まじさに息を飲むばかりだ。
 かと思えば、時折拳や蹴りまで織り交ぜていく。よくこうも動けるものである。
 武術大会であって剣術大会ではないので、こういった攻撃へのお咎めはない。だが、あの剣戟の合間にそういった剣以外の攻撃を織り交ぜられるのは、二人の戦闘センスの高さが窺い知れる。どれ程の鍛錬を積んできたのだろうか。
 お互い一歩も引かない攻防、……いや、ほとんど攻めっぱなしである。当たりそうな攻撃は躱しているにはいるが、半分くらいはそのまま受けている。剣でなければそこそこ気にしないくらいには、体を鍛えているのだろう。筋骨隆々のイケメン王子……、悪くはないかも知れない。
 盛り上がりを見せているこの二人の王子の対決だったが、力が拮抗しており、なかなか終わる気配が見られない。二人の息は上がってきており、体力勝負になってきた。完全に決め手を欠いている。
 観客たちも長くなってきた事で、次第に飽きが見えてきている。だが、王子二人相手とあっては、ヤジも飛ばせない。会場が騒めき始めた。
 武台上のシルヴァノとペイルも、この空気を感じ取ったようである。二人揃って深く腰を落とす。……次の一撃で決めるつもりだ。
「ハァッ!!」
 気合いを込めた声が響くと、一気に詰め寄る。互いに互い目掛けて剣を振るう。
 ……しかし、その攻撃は共に当たる事はなかった。シルヴァノは上から、ペイルは横から剣を振り抜こうとしたのだが、そこで二人ともに動きを止めざるを得なかった。
「そこまでだっ!」
 会場に響く大きな男性の声。
 試合にドクターストップが入ったのだ。これには会場が騒めく。
「……スノーフィールド公爵、なぜ止めたのです」
 武台の脇には、銀髪を靡かせた男性が立っていた。スノーフィールド公爵と呼ばれたので、プラティナの父親なのだろう。
「……二人は王子だ。何かあっては一大事だ。これ以上は危険と判断して、私権で止めさせてもらった」
「しかし、これは大会ですぞ。勝手な真似をされては……」
「国際問題化しても構わぬと言うのか?」
「……っ!」
 実行委員の男が責めようとするが、公爵のひと睨みで黙ってしまった。
 武台の上では、力尽きたシルヴァノとペイルが、剣を支えにして肩で大きく息をしている。
「お楽しみのところ悪いが、この場は私の判断で引き分けとしたい。よって、決勝戦は相手がおらず、オフライト君の勝利とする!」
 会場からは響めきが起きるが、公爵の決定は重く、納得せざるを得なかった。
 こうして、武術大会はオフライトの優勝で幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...