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第七章 一年次・後半
第138話 姉馬鹿ヒロイン
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チェリシアは気が気ではなかった。
ペシエラの決勝トーナメント初戦の相手は、王国の騎士団副団長の息子、攻略対象の一人のオフライトだったのだ。
武術大会で勝ち残る面々なのだから、誰が出てきても強敵である。しかし、よりにもよって、中でも最強クラスのオフライトと当たってしまったのだ。今ではすっかり姉馬鹿と化していたチェリシアは、ペシエラの身が心配で仕方ないのだ。
「チェリシア、落ち着きなさい。いくらペシエラが気の強い子だからと言っても、あなたがそんな状態でどうするのです!」
「で、で、でも、オフライト様相手なのよ。あぁ、怪我したりしないかしら……」
ロゼリアが落ち着かせようとするが、チェリシアは口に両手を当てておろおろと混乱していた。
オフライトは魔法の才が弱い代わりに、物理攻撃に特化したキャラだ。魔法がほとんど使えないとはいえ、それを補って余りある剣術の使い手。特に後に習得する横薙ぎ一閃は、夏の合宿でペシエラが見せた魔物殲滅が再現できるくらいには強力な攻撃である。
そして、彼が得意武器とするのが、今会場で手にしているロングソードだ。
「うう、いくら模擬剣で刃を潰してあるとはいっても……。傷なんか付いたらどうしよう」
さっきから心配しまくりのチェリシア。横で見ているロゼリアがドン引きするくらい、しきりにペシエラの事を心配している。
「防護の魔法があるから、怪我はそこまで心配要らないと思うわよ。さあ、始まるわよ」
ロゼリアは呆れ返りながらチェリシアに声を掛け、じっと武台を見る。そこには、ロングソードを片手に直立するオフライトと、サーベルを両手で持って、半身の状態で腰を落としたペシエラの姿があった。
「始めっ!!」
審判の声と同時に、ペシエラとオフライトは飛び込んで剣を振り下ろす。会場には、金属のぶつかり合う音が響き渡る。
一瞬目を背けたチェリシアがおそるおそる目を向けてみると、会場の真ん中で剣をぶつけ合って睨み合う二人の姿が見えた。
そして、距離を取って少し呼吸を置いた後、ペシエラの体が軽く光ったかと思うと、再び剣戟が繰り広げられる。戦いにくい服装のペシエラが、騎士団副団長の息子のオフライトと同等に渡り合っていて、会場はこの上ない興奮状態に包まれている。
しかし、チェリシアは気が付いていた。徐々にペシエラの動きが悪くなっている。鍛えまくっているとはいえ、十歳と十三歳、女性と男性の身体能力の差は埋められないのだ。
それに、今のペシエラは正々堂々を好む性格となっている。おそらく、使っている魔法は身体強化だけだろう。
しばらくすると、ペシエラの動きは完全に止まる。剣を持ってはいるが、それが精一杯という感じだ。
そして、チェリシアの耳にもペシエラの声がはっきり聞こえる。
「降参ですわ」
ペシエラが負けを認めたのである。
一瞬目の前が暗くなったチェリシアだが、ロゼリアが肩に手を置くと、意識を取り直した。
「ペシエラが満足そうにしているのよ? 取り乱すよりも、今すぐにでも抱きしめてあげる方がよろしくないかしら」
ロゼリアはそう言って、チェリシアに微笑みを向ける。その顔を見て、チェリシアは落ち着いたようである。
「そうね。年上相手に頑張ったんですものね。労ってあげなきゃ」
本当にすっかり姉馬鹿ムーブである。どうしてこうなった。
話も落ち着いたところで、ロゼリアとチェリシアは、席を立ってペシエラの元へと移動する。
選手控室にやって来た二人は、扉をノックしてから中へと入る。そこには、先程試合を終えたばかりのペシエラが、淑女らしからぬぐだっとした状態で椅子に座っていた。
「残念だったわね、ペシエラ」
「お疲れ様。もう私、ハラハラしっぱなしだったわ」
ロゼリアとチェリシアが、それぞれに労う。
「それにしてもはしたないわね」
「仕方ありませんわ。ちょっと疲れてしまったので、体勢が保てませんもの」
ロゼリアは姿勢を咎めるものの、あれだけ動いた後だから仕方ない。
「疲れているとは思うけど、観客席に行って残りも観戦しましょう」
「そうですわね。すぐに参りますわ」
ペシエラが立ち上がると、少しふらついた。それをチェリシアがそっと支える。
「まだ疲れてるみたいね」
チェリシアはそう言って、ペシエラに背中を向ける。背負うつもりらしい。
「やめて下さい。は、恥ずかしいですわ」
ペシエラは真っ赤になって抵抗する。しかし、目眩が起きるような状態なのだから、いつまでも抵抗はできなかった。
結局、ペシエラはチェリシアにおんぶされて観客席まで移動する事になったのであった。その間、チェリシアはとても幸せそうな笑顔をしていた。
ペシエラの決勝トーナメント初戦の相手は、王国の騎士団副団長の息子、攻略対象の一人のオフライトだったのだ。
武術大会で勝ち残る面々なのだから、誰が出てきても強敵である。しかし、よりにもよって、中でも最強クラスのオフライトと当たってしまったのだ。今ではすっかり姉馬鹿と化していたチェリシアは、ペシエラの身が心配で仕方ないのだ。
「チェリシア、落ち着きなさい。いくらペシエラが気の強い子だからと言っても、あなたがそんな状態でどうするのです!」
「で、で、でも、オフライト様相手なのよ。あぁ、怪我したりしないかしら……」
ロゼリアが落ち着かせようとするが、チェリシアは口に両手を当てておろおろと混乱していた。
オフライトは魔法の才が弱い代わりに、物理攻撃に特化したキャラだ。魔法がほとんど使えないとはいえ、それを補って余りある剣術の使い手。特に後に習得する横薙ぎ一閃は、夏の合宿でペシエラが見せた魔物殲滅が再現できるくらいには強力な攻撃である。
そして、彼が得意武器とするのが、今会場で手にしているロングソードだ。
「うう、いくら模擬剣で刃を潰してあるとはいっても……。傷なんか付いたらどうしよう」
さっきから心配しまくりのチェリシア。横で見ているロゼリアがドン引きするくらい、しきりにペシエラの事を心配している。
「防護の魔法があるから、怪我はそこまで心配要らないと思うわよ。さあ、始まるわよ」
ロゼリアは呆れ返りながらチェリシアに声を掛け、じっと武台を見る。そこには、ロングソードを片手に直立するオフライトと、サーベルを両手で持って、半身の状態で腰を落としたペシエラの姿があった。
「始めっ!!」
審判の声と同時に、ペシエラとオフライトは飛び込んで剣を振り下ろす。会場には、金属のぶつかり合う音が響き渡る。
一瞬目を背けたチェリシアがおそるおそる目を向けてみると、会場の真ん中で剣をぶつけ合って睨み合う二人の姿が見えた。
そして、距離を取って少し呼吸を置いた後、ペシエラの体が軽く光ったかと思うと、再び剣戟が繰り広げられる。戦いにくい服装のペシエラが、騎士団副団長の息子のオフライトと同等に渡り合っていて、会場はこの上ない興奮状態に包まれている。
しかし、チェリシアは気が付いていた。徐々にペシエラの動きが悪くなっている。鍛えまくっているとはいえ、十歳と十三歳、女性と男性の身体能力の差は埋められないのだ。
それに、今のペシエラは正々堂々を好む性格となっている。おそらく、使っている魔法は身体強化だけだろう。
しばらくすると、ペシエラの動きは完全に止まる。剣を持ってはいるが、それが精一杯という感じだ。
そして、チェリシアの耳にもペシエラの声がはっきり聞こえる。
「降参ですわ」
ペシエラが負けを認めたのである。
一瞬目の前が暗くなったチェリシアだが、ロゼリアが肩に手を置くと、意識を取り直した。
「ペシエラが満足そうにしているのよ? 取り乱すよりも、今すぐにでも抱きしめてあげる方がよろしくないかしら」
ロゼリアはそう言って、チェリシアに微笑みを向ける。その顔を見て、チェリシアは落ち着いたようである。
「そうね。年上相手に頑張ったんですものね。労ってあげなきゃ」
本当にすっかり姉馬鹿ムーブである。どうしてこうなった。
話も落ち着いたところで、ロゼリアとチェリシアは、席を立ってペシエラの元へと移動する。
選手控室にやって来た二人は、扉をノックしてから中へと入る。そこには、先程試合を終えたばかりのペシエラが、淑女らしからぬぐだっとした状態で椅子に座っていた。
「残念だったわね、ペシエラ」
「お疲れ様。もう私、ハラハラしっぱなしだったわ」
ロゼリアとチェリシアが、それぞれに労う。
「それにしてもはしたないわね」
「仕方ありませんわ。ちょっと疲れてしまったので、体勢が保てませんもの」
ロゼリアは姿勢を咎めるものの、あれだけ動いた後だから仕方ない。
「疲れているとは思うけど、観客席に行って残りも観戦しましょう」
「そうですわね。すぐに参りますわ」
ペシエラが立ち上がると、少しふらついた。それをチェリシアがそっと支える。
「まだ疲れてるみたいね」
チェリシアはそう言って、ペシエラに背中を向ける。背負うつもりらしい。
「やめて下さい。は、恥ずかしいですわ」
ペシエラは真っ赤になって抵抗する。しかし、目眩が起きるような状態なのだから、いつまでも抵抗はできなかった。
結局、ペシエラはチェリシアにおんぶされて観客席まで移動する事になったのであった。その間、チェリシアはとても幸せそうな笑顔をしていた。
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