140 / 543
第七章 一年次・後半
第138話 姉馬鹿ヒロイン
しおりを挟む
チェリシアは気が気ではなかった。
ペシエラの決勝トーナメント初戦の相手は、王国の騎士団副団長の息子、攻略対象の一人のオフライトだったのだ。
武術大会で勝ち残る面々なのだから、誰が出てきても強敵である。しかし、よりにもよって、中でも最強クラスのオフライトと当たってしまったのだ。今ではすっかり姉馬鹿と化していたチェリシアは、ペシエラの身が心配で仕方ないのだ。
「チェリシア、落ち着きなさい。いくらペシエラが気の強い子だからと言っても、あなたがそんな状態でどうするのです!」
「で、で、でも、オフライト様相手なのよ。あぁ、怪我したりしないかしら……」
ロゼリアが落ち着かせようとするが、チェリシアは口に両手を当てておろおろと混乱していた。
オフライトは魔法の才が弱い代わりに、物理攻撃に特化したキャラだ。魔法がほとんど使えないとはいえ、それを補って余りある剣術の使い手。特に後に習得する横薙ぎ一閃は、夏の合宿でペシエラが見せた魔物殲滅が再現できるくらいには強力な攻撃である。
そして、彼が得意武器とするのが、今会場で手にしているロングソードだ。
「うう、いくら模擬剣で刃を潰してあるとはいっても……。傷なんか付いたらどうしよう」
さっきから心配しまくりのチェリシア。横で見ているロゼリアがドン引きするくらい、しきりにペシエラの事を心配している。
「防護の魔法があるから、怪我はそこまで心配要らないと思うわよ。さあ、始まるわよ」
ロゼリアは呆れ返りながらチェリシアに声を掛け、じっと武台を見る。そこには、ロングソードを片手に直立するオフライトと、サーベルを両手で持って、半身の状態で腰を落としたペシエラの姿があった。
「始めっ!!」
審判の声と同時に、ペシエラとオフライトは飛び込んで剣を振り下ろす。会場には、金属のぶつかり合う音が響き渡る。
一瞬目を背けたチェリシアがおそるおそる目を向けてみると、会場の真ん中で剣をぶつけ合って睨み合う二人の姿が見えた。
そして、距離を取って少し呼吸を置いた後、ペシエラの体が軽く光ったかと思うと、再び剣戟が繰り広げられる。戦いにくい服装のペシエラが、騎士団副団長の息子のオフライトと同等に渡り合っていて、会場はこの上ない興奮状態に包まれている。
しかし、チェリシアは気が付いていた。徐々にペシエラの動きが悪くなっている。鍛えまくっているとはいえ、十歳と十三歳、女性と男性の身体能力の差は埋められないのだ。
それに、今のペシエラは正々堂々を好む性格となっている。おそらく、使っている魔法は身体強化だけだろう。
しばらくすると、ペシエラの動きは完全に止まる。剣を持ってはいるが、それが精一杯という感じだ。
そして、チェリシアの耳にもペシエラの声がはっきり聞こえる。
「降参ですわ」
ペシエラが負けを認めたのである。
一瞬目の前が暗くなったチェリシアだが、ロゼリアが肩に手を置くと、意識を取り直した。
「ペシエラが満足そうにしているのよ? 取り乱すよりも、今すぐにでも抱きしめてあげる方がよろしくないかしら」
ロゼリアはそう言って、チェリシアに微笑みを向ける。その顔を見て、チェリシアは落ち着いたようである。
「そうね。年上相手に頑張ったんですものね。労ってあげなきゃ」
本当にすっかり姉馬鹿ムーブである。どうしてこうなった。
話も落ち着いたところで、ロゼリアとチェリシアは、席を立ってペシエラの元へと移動する。
選手控室にやって来た二人は、扉をノックしてから中へと入る。そこには、先程試合を終えたばかりのペシエラが、淑女らしからぬぐだっとした状態で椅子に座っていた。
「残念だったわね、ペシエラ」
「お疲れ様。もう私、ハラハラしっぱなしだったわ」
ロゼリアとチェリシアが、それぞれに労う。
「それにしてもはしたないわね」
「仕方ありませんわ。ちょっと疲れてしまったので、体勢が保てませんもの」
ロゼリアは姿勢を咎めるものの、あれだけ動いた後だから仕方ない。
「疲れているとは思うけど、観客席に行って残りも観戦しましょう」
「そうですわね。すぐに参りますわ」
ペシエラが立ち上がると、少しふらついた。それをチェリシアがそっと支える。
「まだ疲れてるみたいね」
チェリシアはそう言って、ペシエラに背中を向ける。背負うつもりらしい。
「やめて下さい。は、恥ずかしいですわ」
ペシエラは真っ赤になって抵抗する。しかし、目眩が起きるような状態なのだから、いつまでも抵抗はできなかった。
結局、ペシエラはチェリシアにおんぶされて観客席まで移動する事になったのであった。その間、チェリシアはとても幸せそうな笑顔をしていた。
ペシエラの決勝トーナメント初戦の相手は、王国の騎士団副団長の息子、攻略対象の一人のオフライトだったのだ。
武術大会で勝ち残る面々なのだから、誰が出てきても強敵である。しかし、よりにもよって、中でも最強クラスのオフライトと当たってしまったのだ。今ではすっかり姉馬鹿と化していたチェリシアは、ペシエラの身が心配で仕方ないのだ。
「チェリシア、落ち着きなさい。いくらペシエラが気の強い子だからと言っても、あなたがそんな状態でどうするのです!」
「で、で、でも、オフライト様相手なのよ。あぁ、怪我したりしないかしら……」
ロゼリアが落ち着かせようとするが、チェリシアは口に両手を当てておろおろと混乱していた。
オフライトは魔法の才が弱い代わりに、物理攻撃に特化したキャラだ。魔法がほとんど使えないとはいえ、それを補って余りある剣術の使い手。特に後に習得する横薙ぎ一閃は、夏の合宿でペシエラが見せた魔物殲滅が再現できるくらいには強力な攻撃である。
そして、彼が得意武器とするのが、今会場で手にしているロングソードだ。
「うう、いくら模擬剣で刃を潰してあるとはいっても……。傷なんか付いたらどうしよう」
さっきから心配しまくりのチェリシア。横で見ているロゼリアがドン引きするくらい、しきりにペシエラの事を心配している。
「防護の魔法があるから、怪我はそこまで心配要らないと思うわよ。さあ、始まるわよ」
ロゼリアは呆れ返りながらチェリシアに声を掛け、じっと武台を見る。そこには、ロングソードを片手に直立するオフライトと、サーベルを両手で持って、半身の状態で腰を落としたペシエラの姿があった。
「始めっ!!」
審判の声と同時に、ペシエラとオフライトは飛び込んで剣を振り下ろす。会場には、金属のぶつかり合う音が響き渡る。
一瞬目を背けたチェリシアがおそるおそる目を向けてみると、会場の真ん中で剣をぶつけ合って睨み合う二人の姿が見えた。
そして、距離を取って少し呼吸を置いた後、ペシエラの体が軽く光ったかと思うと、再び剣戟が繰り広げられる。戦いにくい服装のペシエラが、騎士団副団長の息子のオフライトと同等に渡り合っていて、会場はこの上ない興奮状態に包まれている。
しかし、チェリシアは気が付いていた。徐々にペシエラの動きが悪くなっている。鍛えまくっているとはいえ、十歳と十三歳、女性と男性の身体能力の差は埋められないのだ。
それに、今のペシエラは正々堂々を好む性格となっている。おそらく、使っている魔法は身体強化だけだろう。
しばらくすると、ペシエラの動きは完全に止まる。剣を持ってはいるが、それが精一杯という感じだ。
そして、チェリシアの耳にもペシエラの声がはっきり聞こえる。
「降参ですわ」
ペシエラが負けを認めたのである。
一瞬目の前が暗くなったチェリシアだが、ロゼリアが肩に手を置くと、意識を取り直した。
「ペシエラが満足そうにしているのよ? 取り乱すよりも、今すぐにでも抱きしめてあげる方がよろしくないかしら」
ロゼリアはそう言って、チェリシアに微笑みを向ける。その顔を見て、チェリシアは落ち着いたようである。
「そうね。年上相手に頑張ったんですものね。労ってあげなきゃ」
本当にすっかり姉馬鹿ムーブである。どうしてこうなった。
話も落ち着いたところで、ロゼリアとチェリシアは、席を立ってペシエラの元へと移動する。
選手控室にやって来た二人は、扉をノックしてから中へと入る。そこには、先程試合を終えたばかりのペシエラが、淑女らしからぬぐだっとした状態で椅子に座っていた。
「残念だったわね、ペシエラ」
「お疲れ様。もう私、ハラハラしっぱなしだったわ」
ロゼリアとチェリシアが、それぞれに労う。
「それにしてもはしたないわね」
「仕方ありませんわ。ちょっと疲れてしまったので、体勢が保てませんもの」
ロゼリアは姿勢を咎めるものの、あれだけ動いた後だから仕方ない。
「疲れているとは思うけど、観客席に行って残りも観戦しましょう」
「そうですわね。すぐに参りますわ」
ペシエラが立ち上がると、少しふらついた。それをチェリシアがそっと支える。
「まだ疲れてるみたいね」
チェリシアはそう言って、ペシエラに背中を向ける。背負うつもりらしい。
「やめて下さい。は、恥ずかしいですわ」
ペシエラは真っ赤になって抵抗する。しかし、目眩が起きるような状態なのだから、いつまでも抵抗はできなかった。
結局、ペシエラはチェリシアにおんぶされて観客席まで移動する事になったのであった。その間、チェリシアはとても幸せそうな笑顔をしていた。
1
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-
牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。
どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。
少女は過労死で死んだ記憶がある。
働くなら絶対にホワイトな職場だ。
神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。
少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。
そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。
だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。
この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる