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第七章 一年次・後半
第134話 出し物は喫茶店
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ロゼリアたちのクラスの出し物は喫茶店である。
ペシエラの出る試合はすべて初日に集まっており、チェリシアはほぼ見学に出ているので、ロゼリアはその分出し物にかかりっきりであった。
「こんなに、忙しいとは、聞いてませんわっ!」
裏方に徹しているロゼリアは悲鳴を上げていた。なにせ、料理のできる人員が少ないからだ。そのせいで、侯爵令嬢にも関わらず、料理ができるという理由でロゼリアは裏方に居るのだ。
包丁の使い方には慣れているし、地水風の三属性の魔法である程度対処ができるが、なにせ火の魔法だけは使えない。チェリシアに作ってもらった加熱装置のおかげで、料理がなんとかなっているのだ。
この加熱装置、チェリシアの前世の電気コンロが元になっている。仕組みは、内部に埋め込んだ魔石が熱を帯びる事で天板部分が熱くなるというものである。ちなみに天板部分以外は熱くならない。
全部で四台持ち込んでの調理なのだが、噂の特待生の居るクラスの出し物という事で、無駄に人を呼び込んでいる。一様にペシエラが居ないと分かると、食事していくが落ち込んで出ていくという、ありがたくない宣伝をしてくれている。営業妨害である。
しかし、料理自体の評判はいい。
材料はマゼンダ、コーラル、アクアマリンの各領地の産物を使っている。フルーツたっぷりのパフェは男女問わずに人気だ。
だが、それよりも魚のフライのランチは人気だった。ちなみにこのランチは、チェリシアの号令の下、シェリアで漁れた魚をこのためだけに造られた冷凍馬車で運んでまでして作られた一品なのだ。
この冷凍して運ぶという技術は、実に画期的ではある。しかし、これにも問題はたくさんある。
まず、シェリアから王都まで、通常の馬車で十日の道のりである。ところが、この冷凍馬車の場合は、これが二頭馬車で十五日前後にまで延びる。いくらチェリシアの魔法を使って完璧な冷凍庫を作ったとしても、日数はかなり問題であった。
しかし、この喫茶店で出されている魚は、その懸念をすべて吹き飛ばした。
わざわざチェリシアが出向いて、釣ったそばから下処理をして、水魔法で凍らせて運んできたのである。王都に着いた時もしっかりと冷凍状態が維持されており、傷んだ様子は見られなかった。
そうして提供されている魚のフライは、実に人気である。
もちろん学園の中という事で、大量の油で揚げるわけにはいかないので、平鍋に張った少ない油で焼くに近い感じの揚げ物である。
ちなみにこの揚げ物だけは、ロゼリア一人で全部対処しており、注文が入りまくるので冒頭の悲鳴に繋がるのだった。
「ロゼリア様、手伝いましょうか?」
クラスメイトが心配して声を掛けてくる。
「代わって頂けると助かりますが、コツを覚えてないと焦がしてしまいます。これ以外の対処をお願いします」
「わ、分かりました」
結局、揚げ物は任せられないと、ロゼリアは断ってしまう。揚げ物を目の前に、ロゼリアの額からは汗が流れ落ちていた。
「チェリシア、明日は絶対任せますからねっ!」
文句を言いつつ、ロゼリアは鍋と睨めっこを続けるのだった。
チェリシアがこの喫茶店のために作った魔道具は数知れず、ロゼリアが使っている加熱装置の他に、果物から飲み物を作るミキサーだとか、片付けた食器のための食器洗浄機とか、一般に売り出せばひと儲けできそうな物ばかりである。
ペシエラだけでなく、商売敵のドール商会のロイエールからも売りに出さないかと聞かれたが、チェリシアは現状考えていないと断っていた。チェリシアからすれば、単純にクラスメイトの負担を軽くしたかっただけらしいので、らしいと言えばらしい返答である。
というわけで、喫茶店という割には街の食堂並みのランチがあるという事で、ペシエラ抜きにしても初日は大盛況に終わった。
翌日はチェリシアとペシエラの姉妹も加わるので、より混む事が懸念される。ロゼリアは揚げ物を頑張りながら、クラスメイトとの打ち合わせに入れ込むのだった。
ペシエラの出る試合はすべて初日に集まっており、チェリシアはほぼ見学に出ているので、ロゼリアはその分出し物にかかりっきりであった。
「こんなに、忙しいとは、聞いてませんわっ!」
裏方に徹しているロゼリアは悲鳴を上げていた。なにせ、料理のできる人員が少ないからだ。そのせいで、侯爵令嬢にも関わらず、料理ができるという理由でロゼリアは裏方に居るのだ。
包丁の使い方には慣れているし、地水風の三属性の魔法である程度対処ができるが、なにせ火の魔法だけは使えない。チェリシアに作ってもらった加熱装置のおかげで、料理がなんとかなっているのだ。
この加熱装置、チェリシアの前世の電気コンロが元になっている。仕組みは、内部に埋め込んだ魔石が熱を帯びる事で天板部分が熱くなるというものである。ちなみに天板部分以外は熱くならない。
全部で四台持ち込んでの調理なのだが、噂の特待生の居るクラスの出し物という事で、無駄に人を呼び込んでいる。一様にペシエラが居ないと分かると、食事していくが落ち込んで出ていくという、ありがたくない宣伝をしてくれている。営業妨害である。
しかし、料理自体の評判はいい。
材料はマゼンダ、コーラル、アクアマリンの各領地の産物を使っている。フルーツたっぷりのパフェは男女問わずに人気だ。
だが、それよりも魚のフライのランチは人気だった。ちなみにこのランチは、チェリシアの号令の下、シェリアで漁れた魚をこのためだけに造られた冷凍馬車で運んでまでして作られた一品なのだ。
この冷凍して運ぶという技術は、実に画期的ではある。しかし、これにも問題はたくさんある。
まず、シェリアから王都まで、通常の馬車で十日の道のりである。ところが、この冷凍馬車の場合は、これが二頭馬車で十五日前後にまで延びる。いくらチェリシアの魔法を使って完璧な冷凍庫を作ったとしても、日数はかなり問題であった。
しかし、この喫茶店で出されている魚は、その懸念をすべて吹き飛ばした。
わざわざチェリシアが出向いて、釣ったそばから下処理をして、水魔法で凍らせて運んできたのである。王都に着いた時もしっかりと冷凍状態が維持されており、傷んだ様子は見られなかった。
そうして提供されている魚のフライは、実に人気である。
もちろん学園の中という事で、大量の油で揚げるわけにはいかないので、平鍋に張った少ない油で焼くに近い感じの揚げ物である。
ちなみにこの揚げ物だけは、ロゼリア一人で全部対処しており、注文が入りまくるので冒頭の悲鳴に繋がるのだった。
「ロゼリア様、手伝いましょうか?」
クラスメイトが心配して声を掛けてくる。
「代わって頂けると助かりますが、コツを覚えてないと焦がしてしまいます。これ以外の対処をお願いします」
「わ、分かりました」
結局、揚げ物は任せられないと、ロゼリアは断ってしまう。揚げ物を目の前に、ロゼリアの額からは汗が流れ落ちていた。
「チェリシア、明日は絶対任せますからねっ!」
文句を言いつつ、ロゼリアは鍋と睨めっこを続けるのだった。
チェリシアがこの喫茶店のために作った魔道具は数知れず、ロゼリアが使っている加熱装置の他に、果物から飲み物を作るミキサーだとか、片付けた食器のための食器洗浄機とか、一般に売り出せばひと儲けできそうな物ばかりである。
ペシエラだけでなく、商売敵のドール商会のロイエールからも売りに出さないかと聞かれたが、チェリシアは現状考えていないと断っていた。チェリシアからすれば、単純にクラスメイトの負担を軽くしたかっただけらしいので、らしいと言えばらしい返答である。
というわけで、喫茶店という割には街の食堂並みのランチがあるという事で、ペシエラ抜きにしても初日は大盛況に終わった。
翌日はチェリシアとペシエラの姉妹も加わるので、より混む事が懸念される。ロゼリアは揚げ物を頑張りながら、クラスメイトとの打ち合わせに入れ込むのだった。
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