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第七章 一年次・後半
第133話 惹かれるもの
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ペシエラの完勝で盛り上がる中、アイリスとニーズヘッグは学園内を調査している。ニーズヘッグが異変が無いか調べ、アイリスが録画魔法で学園内の様子を保存する。そんなわけで、二人一緒に行動をしている。
「特段、怪しい行動を取る者は見当たらんな」
「私が言うのもなんですけれど、何も起きないのが一番ですから」
ニーズヘッグは執事服、アイリスは標準型の庶民向けに生産されている学生服に身を包んでいる。側から見れば、一平民が生意気に執事を連れているようにも見える。
「父親の命令だったとはいえ、私は恐ろしい事に手を出してしまったもの。その私を庇ってくれたあの三人には頭が上がらないわ」
「主人は義理堅いのだな。……本当にベルと似ている。だからこそ、我は力を貸すと決めたのだがな」
「ニーズヘッグ……」
少し会話をすると、しばらく沈黙が続く。見回っている学園内に、今のところ異常はない。
アイリスたちは、気が付けばドール商会の出店にやって来ていた。ドール商会は学園に通うブラッサとロイエール姉弟の親が経営する随一の商会だ。マゼンダ商会が台頭するまでは、王国一を誇っていた。今はマゼンダ商会との取引の住み分けをする事で、王国一の面目を保っていた。
ドール商会の出店では、駆け出し職人のアクセサリーを売っていた。正規の店では出せない出来の悪い物らしいが、見た目にはどこが悪いのか分からない物ばかりで、懐事情の悪い学生には人気のようである。
出店を見ていた二人だが、ニーズヘッグはアイリスに質問をぶつける。
「主人、クラスの出し物は手伝わないのか?」
唐突な質問だが、アイリスは落ち着いていた。
「あのクラスには、変装前の私が知られているのよ? バレて騒ぎになるのは、問題でしかないのよ」
アイリスは小さくため息をつく。
「チェリシア様は気にはされないでしょうけど、ペシエラ様がね……」
アイリスは顔を目を逸らしながら呟く。それにはニーズヘッグも察したようである。
「あぁ、あの小さな女子か。あの三人は面白い魂を持っておるが、あのペシエラとかいうのは、こと強力な光と闇を持っておるぞ」
「面白いって?」
「あの器の中に収まっておるのが不思議なくらいだ。我とてそれくらいまでしか分からぬが、不相応さだけでも面白い」
ニーズヘッグは不敵に笑っている。ペシエラは不完全で暴走状態とはいえ、顕現した自分を倒した相手だ。興味が無いと言えば嘘でしかない。
「それよりも、ちゃんと見回りをしましょう。自分もそっち側だったからか、こういうお祭り騒ぎの際に何か仕掛けていそうだわ。お父様の性格から言って」
「うむ、そうだな。こういう時は何かと気が緩むからな。“厄災の”と言われていただけあって、我はそういう悪意には敏感ぞ?」
自分の父親の事で頭を抱えるアイリスに対して、大船に乗った気でいろと言わんばかりのニーズヘッグ。その様子はなんとも近寄り難い雰囲気を醸し出しており、同じ出店に居る他の客たちは少し距離を置いている。
「まぁ、頼りにしてるわよ。私だって助けて頂いた恩を返さなきゃいけないし……ね」
アイリスはそう言いながら、品定めをしている。
すると、とあるペンダントに目が止まった。
「おや、そこの眼鏡のお嬢さん。そのペンダントが気になりますか?」
店員が目ざとく反応する。まったく、よく見ているものだ。
「えっ、ええ……。使われている宝石が、ちょっと気になったので」
アイリスが見ているのは、不思議な透明感を持った無色の宝石が付いたペンダントだった。どういうわけか、とても惹きつけられる感じがする。
「これを下さい」
気が付けば、アイリスはそう声を出していた。
「そちら、銀貨五枚でございます」
銀貨五枚は装飾品の価格としてはかなり安いが、庶民の給料二日分に相当する。庶民にしてみれば安くはない。しかし、アイリスはペンダントの魅力には抗えなかった。
「毎度ありがとうございます」
気が付けば購入していた。
ペンダントを包んだ紙を受け取ると、アイリスは胸のポケットにそれをしまい込んだ。その顔はなにか安心したような、不思議と穏やかな顔だった。
「特段、怪しい行動を取る者は見当たらんな」
「私が言うのもなんですけれど、何も起きないのが一番ですから」
ニーズヘッグは執事服、アイリスは標準型の庶民向けに生産されている学生服に身を包んでいる。側から見れば、一平民が生意気に執事を連れているようにも見える。
「父親の命令だったとはいえ、私は恐ろしい事に手を出してしまったもの。その私を庇ってくれたあの三人には頭が上がらないわ」
「主人は義理堅いのだな。……本当にベルと似ている。だからこそ、我は力を貸すと決めたのだがな」
「ニーズヘッグ……」
少し会話をすると、しばらく沈黙が続く。見回っている学園内に、今のところ異常はない。
アイリスたちは、気が付けばドール商会の出店にやって来ていた。ドール商会は学園に通うブラッサとロイエール姉弟の親が経営する随一の商会だ。マゼンダ商会が台頭するまでは、王国一を誇っていた。今はマゼンダ商会との取引の住み分けをする事で、王国一の面目を保っていた。
ドール商会の出店では、駆け出し職人のアクセサリーを売っていた。正規の店では出せない出来の悪い物らしいが、見た目にはどこが悪いのか分からない物ばかりで、懐事情の悪い学生には人気のようである。
出店を見ていた二人だが、ニーズヘッグはアイリスに質問をぶつける。
「主人、クラスの出し物は手伝わないのか?」
唐突な質問だが、アイリスは落ち着いていた。
「あのクラスには、変装前の私が知られているのよ? バレて騒ぎになるのは、問題でしかないのよ」
アイリスは小さくため息をつく。
「チェリシア様は気にはされないでしょうけど、ペシエラ様がね……」
アイリスは顔を目を逸らしながら呟く。それにはニーズヘッグも察したようである。
「あぁ、あの小さな女子か。あの三人は面白い魂を持っておるが、あのペシエラとかいうのは、こと強力な光と闇を持っておるぞ」
「面白いって?」
「あの器の中に収まっておるのが不思議なくらいだ。我とてそれくらいまでしか分からぬが、不相応さだけでも面白い」
ニーズヘッグは不敵に笑っている。ペシエラは不完全で暴走状態とはいえ、顕現した自分を倒した相手だ。興味が無いと言えば嘘でしかない。
「それよりも、ちゃんと見回りをしましょう。自分もそっち側だったからか、こういうお祭り騒ぎの際に何か仕掛けていそうだわ。お父様の性格から言って」
「うむ、そうだな。こういう時は何かと気が緩むからな。“厄災の”と言われていただけあって、我はそういう悪意には敏感ぞ?」
自分の父親の事で頭を抱えるアイリスに対して、大船に乗った気でいろと言わんばかりのニーズヘッグ。その様子はなんとも近寄り難い雰囲気を醸し出しており、同じ出店に居る他の客たちは少し距離を置いている。
「まぁ、頼りにしてるわよ。私だって助けて頂いた恩を返さなきゃいけないし……ね」
アイリスはそう言いながら、品定めをしている。
すると、とあるペンダントに目が止まった。
「おや、そこの眼鏡のお嬢さん。そのペンダントが気になりますか?」
店員が目ざとく反応する。まったく、よく見ているものだ。
「えっ、ええ……。使われている宝石が、ちょっと気になったので」
アイリスが見ているのは、不思議な透明感を持った無色の宝石が付いたペンダントだった。どういうわけか、とても惹きつけられる感じがする。
「これを下さい」
気が付けば、アイリスはそう声を出していた。
「そちら、銀貨五枚でございます」
銀貨五枚は装飾品の価格としてはかなり安いが、庶民の給料二日分に相当する。庶民にしてみれば安くはない。しかし、アイリスはペンダントの魅力には抗えなかった。
「毎度ありがとうございます」
気が付けば購入していた。
ペンダントを包んだ紙を受け取ると、アイリスは胸のポケットにそれをしまい込んだ。その顔はなにか安心したような、不思議と穏やかな顔だった。
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