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第七章 一年次・後半
第131話 一年目の学園祭
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気が付けば、秋の二月に入っていた。
この時期になると、学園では大きなイベントが待ち構えている。
ゲームとか小説とかではお馴染みの、学園祭である。科やクラスといった単位で出し物が用意されたり、外部の商会がやって来て店を開いたりもあるが、一番盛り上がるのは武術大会である。
ただ、この一年次の武術大会は、ゲーム内ではただの好感度イベントであり、攻略対象の誰について学園祭を楽しむかというものである。キャラによって二、三枚のスチルが用意されているので、周回は必須であった。
ところが、ロゼリアとペシエラの記憶にもあまり残っていない一年次の学園祭なのだが、気の抜けない状態となっていた。それもこれも、すべてはパープリア男爵のせいだ。
パープリア男爵は薬や毒に見識があるので、夏の合宿で教官二人に仕掛けていたものは、継続性のある催眠効果を持った毒であろうと推測された。実際、教官たちはほぼ朧げな状態の記憶しか無かったのだ。まず間違いないだろう。
そんなこんなで、こんな大規模イベントで仕掛けてこない可能性は低いと見られたのだ。
さてさて、夏の合宿で死んだ事になっているアイリスだが、生徒として学園に無事に通っている。ただ、アイリス・パープリアではなく、アイリス・フラウアードとしてだ。
フラウアードの名はとっくの昔に失われているものの、アイリスの母方の祖先の名であるので、アイリスの偽名に使う事にしたのである。
その契約幻獣であるニーズヘッグは、表向きはチェリシアとペシエラの執事という事で学園に入る許可を得ている。
ちなみに、二人には学園内の不穏な動きのチェックを命じてある。
ロゼリア付きのシアンには、商会の仕事を手伝いつつ、外部の調査をお願いしてある。
というわけで、学園の内外ともに警戒の目が光っているのだ。
ロゼリアたちのクラスも、出し物について議論が交わされていた。しかし、
「ええ、私は武術大会に出ますわ」
ペシエラは頑として、武術大会に出ると息巻いているのだ。まあ、入学直後の武術試験の事を思うと、分かる気はする。
しかしながら、十歳で特別入学した貴族令嬢であり、しかも王子の婚約者候補であるペシエラの参加は、多くが止めに入る案件である。気持ちは分からなくはない。
「逆行前と比べると、かなり豪快な性格になったわね」
「あれでも、ゲームではヒロインだった子なのよね……」
ロゼリアとチェリシアは、呆れて様子を見守っている。ちなみに二人は止める気はない。
逆行前のペシエラは、どこか屈折したような性格をしていた。ところが、女王としての自覚を得た上に、ロゼリアとの確執が消失した事で、吹っ切れたように戦闘狂の道を歩み始めている。
武術大会に出ると意気込むペシエラと、必死に止めようとするクラスメイト。その論争が激しさを増す中、一人の人物によって終止符が打たれた。
「ペシエラ嬢」
「あら、ペイル殿下ではありませんか」
そう、隣国モスグリネ王国のペイル王子である。
「よもや、嬢との再戦が叶う日が来ようとはな。出場の件、俺からも教官たちに話をつけておこう。逃げるなよ?」
「あら、誰に向かって仰っているのかしら。私は逃げも隠れもしませんわ」
ペシエラとペイルの間で、バチバチと火花が飛ぶ。ロゼリアとチェリシアは頭を抱えた。
こうなると脳筋は止められない。クラスの面々も、出し物の目玉を失ったように消沈し切ってしまった。
「心配なさらないで下さいな。武術大会のない時間は、ちゃんとクラスを手伝いますわ」
あまりにみんなが落ち込むので、胸に手を当てて、ドヤ顔を決めるペシエラ。あまりの堂々っぷりに、クラスからは笑いが起きた。
ちなみにクラスの出し物は喫茶店となった。これも比較的よく選ばれる出し物である。
ほとんどが貴族の通う学園なので、こういった庶民じみた出し物は敬遠されるかと思われがちだが、学生たちはむしろ積極的である。庶民の生活の中でも接客業を体験する事で、自身の社交界スキルを磨こうというのである。なかなか見上げた根性である。
そんなこんなで、学園生活一年目の学園祭の日を迎えようとしているのだった。
この時期になると、学園では大きなイベントが待ち構えている。
ゲームとか小説とかではお馴染みの、学園祭である。科やクラスといった単位で出し物が用意されたり、外部の商会がやって来て店を開いたりもあるが、一番盛り上がるのは武術大会である。
ただ、この一年次の武術大会は、ゲーム内ではただの好感度イベントであり、攻略対象の誰について学園祭を楽しむかというものである。キャラによって二、三枚のスチルが用意されているので、周回は必須であった。
ところが、ロゼリアとペシエラの記憶にもあまり残っていない一年次の学園祭なのだが、気の抜けない状態となっていた。それもこれも、すべてはパープリア男爵のせいだ。
パープリア男爵は薬や毒に見識があるので、夏の合宿で教官二人に仕掛けていたものは、継続性のある催眠効果を持った毒であろうと推測された。実際、教官たちはほぼ朧げな状態の記憶しか無かったのだ。まず間違いないだろう。
そんなこんなで、こんな大規模イベントで仕掛けてこない可能性は低いと見られたのだ。
さてさて、夏の合宿で死んだ事になっているアイリスだが、生徒として学園に無事に通っている。ただ、アイリス・パープリアではなく、アイリス・フラウアードとしてだ。
フラウアードの名はとっくの昔に失われているものの、アイリスの母方の祖先の名であるので、アイリスの偽名に使う事にしたのである。
その契約幻獣であるニーズヘッグは、表向きはチェリシアとペシエラの執事という事で学園に入る許可を得ている。
ちなみに、二人には学園内の不穏な動きのチェックを命じてある。
ロゼリア付きのシアンには、商会の仕事を手伝いつつ、外部の調査をお願いしてある。
というわけで、学園の内外ともに警戒の目が光っているのだ。
ロゼリアたちのクラスも、出し物について議論が交わされていた。しかし、
「ええ、私は武術大会に出ますわ」
ペシエラは頑として、武術大会に出ると息巻いているのだ。まあ、入学直後の武術試験の事を思うと、分かる気はする。
しかしながら、十歳で特別入学した貴族令嬢であり、しかも王子の婚約者候補であるペシエラの参加は、多くが止めに入る案件である。気持ちは分からなくはない。
「逆行前と比べると、かなり豪快な性格になったわね」
「あれでも、ゲームではヒロインだった子なのよね……」
ロゼリアとチェリシアは、呆れて様子を見守っている。ちなみに二人は止める気はない。
逆行前のペシエラは、どこか屈折したような性格をしていた。ところが、女王としての自覚を得た上に、ロゼリアとの確執が消失した事で、吹っ切れたように戦闘狂の道を歩み始めている。
武術大会に出ると意気込むペシエラと、必死に止めようとするクラスメイト。その論争が激しさを増す中、一人の人物によって終止符が打たれた。
「ペシエラ嬢」
「あら、ペイル殿下ではありませんか」
そう、隣国モスグリネ王国のペイル王子である。
「よもや、嬢との再戦が叶う日が来ようとはな。出場の件、俺からも教官たちに話をつけておこう。逃げるなよ?」
「あら、誰に向かって仰っているのかしら。私は逃げも隠れもしませんわ」
ペシエラとペイルの間で、バチバチと火花が飛ぶ。ロゼリアとチェリシアは頭を抱えた。
こうなると脳筋は止められない。クラスの面々も、出し物の目玉を失ったように消沈し切ってしまった。
「心配なさらないで下さいな。武術大会のない時間は、ちゃんとクラスを手伝いますわ」
あまりにみんなが落ち込むので、胸に手を当てて、ドヤ顔を決めるペシエラ。あまりの堂々っぷりに、クラスからは笑いが起きた。
ちなみにクラスの出し物は喫茶店となった。これも比較的よく選ばれる出し物である。
ほとんどが貴族の通う学園なので、こういった庶民じみた出し物は敬遠されるかと思われがちだが、学生たちはむしろ積極的である。庶民の生活の中でも接客業を体験する事で、自身の社交界スキルを磨こうというのである。なかなか見上げた根性である。
そんなこんなで、学園生活一年目の学園祭の日を迎えようとしているのだった。
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