逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第六章 一年次・夏

第130話 暗龍が仲間に加わった

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召喚サモン、ニーズヘッグ!」
 アイリスがそう唱えると、目の前に魔力の渦が現れる。そして、それが霧散すると、そこには思ったよりもずっと小さな暗龍が現れた。
「ここがアイヴォリーの城か、懐かしいな」
 ニーズヘッグ、第一声がこれだった。
 厄災の暗龍と聞いて警戒していた国王たちは、あまりの小ささに、目を丸くしている。
「お主が、厄災の暗龍なのか?」
 尋ねたのは宰相ブラウニルだった。よく見れば腰が引けている。
「いかにも。ただ不完全な顕現とその討伐の反動で、力はほとんど失っているがな。本来の姿には程遠いが、性格的にはこちらの方が本性だ」
 人間相手とあって、少し睨みを利かせるニーズヘッグ。それだけで宰相は腰どころか身まで引いた。
「して、厄災の暗龍よ」
 少し躊躇して、国王はニーズヘッグに声を掛ける。
「なんだ、アイヴォリー国王よ」
 体躯はあまり大きくないが、さすがに鋭い目つきとあって、国王は少し震え上がる。だが、さすがそこは国王。すぐに気を取り直す。
「ニーズヘッグと呼ばれておったが、それがその方の真の名か?」
 国王の質問に、ニーズヘッグは不敵に笑う。
「真名ではない。昔、勝手に付けられただけの名よ。だが、我は気に入っておるから、今後はその名で呼ぶとよい」
 ニーズヘッグの笑みに気圧され、国王はすんなりと首を縦に振った。
「しかし、我が正気を失っている間に、かなり面白い、いや不愉快な事になっているようだな」
 ギラリとした視線で周りを見る。
「我の主人であり友人であったベルの子孫をぞんざいに扱った者、確かパープリア男爵と言ったか?」
 ニーズヘッグは確認するように、再び周りを見る。
「ええ、そうですわ。アイリスはパープリア男爵の娘。男爵の妻が、そのベルの子孫のようですわ」
 これに答えたのはペシエラだった。内心びびってはいるが、実に堂々とした受け答えだ。
「ほう……。しかもそやつ、ベルが使っていた道具を悪用しているらしいな。これだけで万死に値する」
 ニーズヘッグはかなりご立腹のようだ。
「だが、人間には人間のやり方があるようだな。そこで、我も力を貸そう。ベルはこの地を気に入っておったしな。ベルの子孫が味方をするなら、我にとっても身内のようなもの、存分に使うとよい」
 ニーズヘッグはそう言うと、すうっと龍としては小さな体躯が更に縮んでいく。そして、それが落ち着いた時、そこに立っていたのは成人男性ほどの背丈の、容姿の整った執事姿の男だった。
「龍の姿は目立つからな。この姿ならば、人に紛れていても問題あるまい」
 ニーズヘッグは体の状態を確認するように、手を開いたり閉じたり、軽く跳んでみたりしている。
「ふむ、思ったより調子が良さそうだ」
 動きを止めると、ニーズヘッグは国王たちを見る。
「改めて言う。今の我の主人はアイリスだが、主人の命により貴様たちにも従おう。我は龍だ。多少の無茶くらいなら聞いてやろう」
 国王たち相手でも、実に尊大な態度と口調である。しかし、国王たちも下手に逆らえば国を瓦礫にされかねないので、不敬には目を瞑る方針を固めたようだった。
 龍が味方になったのは心強いはずなのに、相手が厄災の暗龍なものだから、ペシエラとアイリス以外の気がまったく休まらなかった。
「ニーズヘッグ、当面はアイリスと共に行動して下さいませんこと?」
 まったく動じていないペシエラが、ニーズヘッグに話し掛ける。
「うむ、知らずに主人が危険に巻き込まれる可能性はある。よかろう、その意見、受け入れてやる」
 ニーズヘッグはニヤリと笑ってペシエラに近付く。
「お前もなかなか面白い魂の持ち主のようだからな。我もなかなか楽しめそうだ」
 凄く邪悪な雰囲気を出しているニーズヘッグだが、ペシエラは本当に動じていない。
「アイリスの主人は、私とチェリシアお姉様ですわ。アイリスと共に行動するという事は、私たちの下につくという事をお忘れなく」
「まったく物怖じせぬとは、気に入ったぞ!」
 ニーズヘッグの高笑いが響き渡る謁見の間。周りには状況についていない面々が呆然としているだけだった。
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