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第六章 一年次・夏
第129話 報告は驚きと共に
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結局、王都に戻った翌日に、王宮に向かう事になってしまったロゼリアたち。一応、プラティナたちを送り届けた後、親たちに相談した結果がこれである。アイリスに着けられた録画魔法の映像があるので、ヴァミリオやプラウスの説得は簡単だった。
今回の事で一番驚く事が、あれだけ世界をボロボロに破壊してきた厄災の暗龍が、実はニーズヘッグという幻獣の龍だった事だ。しかも、大昔には神獣使いと契約までしていたのだから、その事実の衝撃は計り知れないというものだ。
元々、商会の視察を兼ねた旅行で、コーラル領の現状を報告する予定にはしていたのだが、とんでもない爆弾を投げ込まれたものである。
翌日、早いうちから王宮に赴くマゼンダ商会一行。今回の面々は、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリスの四人以外は、ヴァミリオ、プラウス、ハイビス、リモス、シアンという面々である。つまりは、商会の主力が全員揃っているという事だ。
「おお、待ちくたびれたぞ。よく来たな、マゼンダ商会一同」
国王がそう言って出迎える。
今回は人数が多いので、謁見の間で国王たちと謁見する。それにしても、前日夜に使いを出して、よくもまあすぐに対応してもらえたものである。それくらいには、マゼンダ商会はアイヴォリー王国で重用されているという事だ。
最初は簡単に、チェリシアたちの行った視察の報告から始まる。この時点では外部に漏れても問題のない話なのだが、後で面倒になりかねないため、近衛兵を含めて謁見の間は人払いがされている。
報告内容はシェリアとカイスの二カ所の話だけだが、結構盛りだくさんであった。
「ふむ、シェリアの気候を活かして、寒い時期の保養地とする……か。それはそれで大事業になりそうだな」
「左様でございます。昔は温暖な海に面した小さな村のような場所でしたが、今では塩と漁業で大きく発展した街になりました。そして、今度はそこに更なる価値を付与しようとしているのです。我々も聞いた時は驚きました」
プラウスはこう話す。
娘の勝手な行動で迷惑を被っているのは事実だが、プラスの効果が大きいので目を瞑っているのだろう。実際、コーラル領の経営は今までの苦境が嘘のように改善しており、資金も潤沢である。
しかし、すっかり身に付いていた貧乏生活に、そのお金を使う度胸はなく、多くを国へと寄付している状態である。これには、ヴァミリオはもちろん、国王や女王といった国の上層部への心象もよく写っていた。陞爵されたのも、そういう点が評価されたからだ。
それはさておき、ドール商会との絡みも含めて、領地の状態の報告が終わると、いよいよ本題だ。
ここで一歩前に出たのはペシエラだった。
「では、本題の報告を始めさせて頂きます」
ペシエラは国王たちの前に跪くと、手に持った魔石から作られた模造宝石を掲げる。そこから映し出されたのは、カイス近くの湖の浮島であった出来事だ。
光と水の精霊であるレイニとの会話だけでも驚く事だというのに、その後に映し出された姿に、国王や女王をはじめとした全員が、昨夜のマゼンダ商会関係者同様に驚きに言葉を失っていた。
そして、浮島での出来事の映像が終わると、しばしの沈黙の後、国王が徐ろに口を開く。
「あの厄災の暗龍が、伝説と言われている幻獣だというのか?」
信じられないという気持ちが、表情にも言葉にも如実に表れている。それは女王も宰相も同じである。
「信じられないというのは、私たちも同様でございます。なにせ、あの場に居たのは私とアイリスの二人だけ。この映像とて、未知なものゆえ、説得の材料としては不足でございます」
淡々と言葉を紡ぐペシエラ。本人、見た目が十歳なのを忘れていそうなくらいに落ち着き払っている。だが、驚きが支配しているこの場に、それを指摘できる者は居なかった。
ペシエラは、すっと一瞬だけアイリスを見ると、再び国王たちに向き直る。そして、とんでもない事を言い放つ。
「やはり、ここは本人の口から話してもらう事が一番かと存じます。……アイリス、お願いできますか?」
全員がぎょっと目を見開く。
厄災の暗龍といえば、とても大きな黒色の龍だ。謁見の間が広いとはいえ、下手をすれば破壊しかねない。安易に了承できる話ではない。
しかし、ペシエラの表情は自信たっぷりだ。その表情を見た女王は、ため息を一つつく。
「そこまで自信があるのなら、ここに呼ぶとよいぞ」
「はっ、ありがたく存じます」
許可が下りた事で、ペシエラはアイリスに合図を送る。すると、アイリスはカチコチに緊張しながらも、ペシエラの無茶振りに諦めたようだ。
そして、ペシエラよりも前にゆっくり出ると、手を前にかざす。
「召喚、ニーズヘッグ!」
今回の事で一番驚く事が、あれだけ世界をボロボロに破壊してきた厄災の暗龍が、実はニーズヘッグという幻獣の龍だった事だ。しかも、大昔には神獣使いと契約までしていたのだから、その事実の衝撃は計り知れないというものだ。
元々、商会の視察を兼ねた旅行で、コーラル領の現状を報告する予定にはしていたのだが、とんでもない爆弾を投げ込まれたものである。
翌日、早いうちから王宮に赴くマゼンダ商会一行。今回の面々は、ロゼリア、チェリシア、ペシエラ、アイリスの四人以外は、ヴァミリオ、プラウス、ハイビス、リモス、シアンという面々である。つまりは、商会の主力が全員揃っているという事だ。
「おお、待ちくたびれたぞ。よく来たな、マゼンダ商会一同」
国王がそう言って出迎える。
今回は人数が多いので、謁見の間で国王たちと謁見する。それにしても、前日夜に使いを出して、よくもまあすぐに対応してもらえたものである。それくらいには、マゼンダ商会はアイヴォリー王国で重用されているという事だ。
最初は簡単に、チェリシアたちの行った視察の報告から始まる。この時点では外部に漏れても問題のない話なのだが、後で面倒になりかねないため、近衛兵を含めて謁見の間は人払いがされている。
報告内容はシェリアとカイスの二カ所の話だけだが、結構盛りだくさんであった。
「ふむ、シェリアの気候を活かして、寒い時期の保養地とする……か。それはそれで大事業になりそうだな」
「左様でございます。昔は温暖な海に面した小さな村のような場所でしたが、今では塩と漁業で大きく発展した街になりました。そして、今度はそこに更なる価値を付与しようとしているのです。我々も聞いた時は驚きました」
プラウスはこう話す。
娘の勝手な行動で迷惑を被っているのは事実だが、プラスの効果が大きいので目を瞑っているのだろう。実際、コーラル領の経営は今までの苦境が嘘のように改善しており、資金も潤沢である。
しかし、すっかり身に付いていた貧乏生活に、そのお金を使う度胸はなく、多くを国へと寄付している状態である。これには、ヴァミリオはもちろん、国王や女王といった国の上層部への心象もよく写っていた。陞爵されたのも、そういう点が評価されたからだ。
それはさておき、ドール商会との絡みも含めて、領地の状態の報告が終わると、いよいよ本題だ。
ここで一歩前に出たのはペシエラだった。
「では、本題の報告を始めさせて頂きます」
ペシエラは国王たちの前に跪くと、手に持った魔石から作られた模造宝石を掲げる。そこから映し出されたのは、カイス近くの湖の浮島であった出来事だ。
光と水の精霊であるレイニとの会話だけでも驚く事だというのに、その後に映し出された姿に、国王や女王をはじめとした全員が、昨夜のマゼンダ商会関係者同様に驚きに言葉を失っていた。
そして、浮島での出来事の映像が終わると、しばしの沈黙の後、国王が徐ろに口を開く。
「あの厄災の暗龍が、伝説と言われている幻獣だというのか?」
信じられないという気持ちが、表情にも言葉にも如実に表れている。それは女王も宰相も同じである。
「信じられないというのは、私たちも同様でございます。なにせ、あの場に居たのは私とアイリスの二人だけ。この映像とて、未知なものゆえ、説得の材料としては不足でございます」
淡々と言葉を紡ぐペシエラ。本人、見た目が十歳なのを忘れていそうなくらいに落ち着き払っている。だが、驚きが支配しているこの場に、それを指摘できる者は居なかった。
ペシエラは、すっと一瞬だけアイリスを見ると、再び国王たちに向き直る。そして、とんでもない事を言い放つ。
「やはり、ここは本人の口から話してもらう事が一番かと存じます。……アイリス、お願いできますか?」
全員がぎょっと目を見開く。
厄災の暗龍といえば、とても大きな黒色の龍だ。謁見の間が広いとはいえ、下手をすれば破壊しかねない。安易に了承できる話ではない。
しかし、ペシエラの表情は自信たっぷりだ。その表情を見た女王は、ため息を一つつく。
「そこまで自信があるのなら、ここに呼ぶとよいぞ」
「はっ、ありがたく存じます」
許可が下りた事で、ペシエラはアイリスに合図を送る。すると、アイリスはカチコチに緊張しながらも、ペシエラの無茶振りに諦めたようだ。
そして、ペシエラよりも前にゆっくり出ると、手を前にかざす。
「召喚、ニーズヘッグ!」
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