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第六章 一年次・夏
第127話 繋がりのベル
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神獣使い。
それは、神獣や幻獣、そして精霊と契約を交わし、使役できる存在だ。一部の神獣使いは、魔物とも契約して使役する事ができたとも言われている。
ニーズヘッグの語ったベル・フラウアードは、その魔物すらも使役できるという、稀代の神獣使いだったらしい。
ところが、現代ではこの記録はどこにも残っていない。この世界の生き証人である神獣、幻獣、精霊にしか伝わっていない話なのだ。
だが、その血は細々と受け継がれ、こうしてアイリスの中で顕現した。本人はまだ自覚しきれていないが、蒼鱗魚と契約できた事は、神獣使いの血を受け継いでいる証左であった。
アイリスは、自分の持っている宝珠をニーズヘッグに見せる。すると、彼はその宝珠にも見覚えがあった。
その記憶によれば、そもそもは神獣使いと神獣や幻獣との契約に使われた宝珠だったそうだ。アイリスの持つその宝珠は、ベルの使っていた物らしく、そのため、魔物の使役も可能になっているそうだ。
「なるほど、それでサファイア湖に現れたケルピーも操れたというわけですわね」
合点がいったように話すペシエラ。
「しかし、使う本人が何も聞かされていなかった上に、ケルピーにびびっていましたからね。これが宝の持ち腐れというものなのかしらね」
当時を思い出して、呆れ顔になるペシエラ。そう言われてしまうと、アイリスは顔を赤くして縮こまるしかなかった。
「はっはっはっ、なかなかに手厳しい事を言う。まぁ、使いこなせねばそういう事になるな」
ニーズヘッグは大声で笑う。
とこらが、ここでペシエラはふと何かを思い出した。
「そういえば、三年前の討伐で魔石も取って解体してしまったはず。なのに、なぜあなたは存在してられるのかしら?」
そう、三年前の魔物氾濫では、厄災の暗龍も討伐されて解体されてしまっていた。本人であるなら存在しているはずがなかったのだ。
「ああ、我は幻獣ぞ? あれは瘴気が作り出した仮初の器に過ぎんわ」
けらけらと笑うニーズヘッグ。いや、今の説明でも分からない。
「幻獣やボクら精霊は、魔力そのものが体を作り出すんだ。だから、三年前に君に倒されたのは、仮初の肉体である瘴気だけで、本体の魔力は無事だったからこうやって普通に生きてるんだよ」
……なるほど、分からん。
だが、確かに厄災の暗龍は、魔石以外はゴミという判断を下された。不完全な顕現であったとはいえ、瘴気で構成された肉体であるなら納得のいく話である。
これをまともに理解するなら、ニーズヘッグと厄災の暗龍は別物という事になる。純粋な魔力体である幻獣ニーズヘッグが、瘴気という肉体を纏った存在が厄災の暗龍という事になる。そういう事なのだろう。
「あれから三年経つが、まだ本来の魔力には戻らん。少なくともこの倍の大きさはあるのだがな。よっぽどあの時の魔法が強力だったのだな」
ニーズヘッグは何か呟いている。
考え込むようにしていたニーズヘッグだったが、何かを決意したかのような表情をして、急にアイリスを見る。
「そうだ。懐かしきベルの気配を持つ娘。我と契約を交わそう」
唐突な申し出に、アイリスの表情が固まる。
「うん、実はな……。ベルと契約している間は、暗龍として暴れる事はなかったのだ。それに、我は約束をした。ベルの子孫を見守ると」
キリッと真面目な顔をするニーズヘッグ。
いや、見守れてないでしょ! と内心ツッコミを入れるペシエラ。ニーズヘッグもそれを察したようで、
「いや面目ない。ベルの死があまりに悲しくてな。寝ている間にすっかり忘れてしまっていたようだ。……懐かしさのあまり、今思い出したのだ」
正直に話してきた。
「まったく、情けない話ですわ。あなたが忘れていたせいで、その大事な人の子孫が、国家転覆の片棒を担がさせれたのですからね」
ペシエラは片目を瞑り、小馬鹿にするように言う。すると、ニーズヘッグは非常に驚いていた。
「なんだと?! そいつはどこのどいつだ、八つ裂きにしてくれる!」
うん、怒り狂っている。
ペシエラはさらにため息をつく。
「パープリア男爵という男ですわ。ただ証拠が無いので、正式に吊し上げる事ができませんのよ」
「ぬうう……。その男は許せんな。……よし、そこのベルの子孫よ、我と契約するぞ」
「え、ええ?!」
次の瞬間、目の前からニーズヘッグは消え、アイリスの持っていた宝珠がネックレスへと変化していた。
それは、神獣や幻獣、そして精霊と契約を交わし、使役できる存在だ。一部の神獣使いは、魔物とも契約して使役する事ができたとも言われている。
ニーズヘッグの語ったベル・フラウアードは、その魔物すらも使役できるという、稀代の神獣使いだったらしい。
ところが、現代ではこの記録はどこにも残っていない。この世界の生き証人である神獣、幻獣、精霊にしか伝わっていない話なのだ。
だが、その血は細々と受け継がれ、こうしてアイリスの中で顕現した。本人はまだ自覚しきれていないが、蒼鱗魚と契約できた事は、神獣使いの血を受け継いでいる証左であった。
アイリスは、自分の持っている宝珠をニーズヘッグに見せる。すると、彼はその宝珠にも見覚えがあった。
その記憶によれば、そもそもは神獣使いと神獣や幻獣との契約に使われた宝珠だったそうだ。アイリスの持つその宝珠は、ベルの使っていた物らしく、そのため、魔物の使役も可能になっているそうだ。
「なるほど、それでサファイア湖に現れたケルピーも操れたというわけですわね」
合点がいったように話すペシエラ。
「しかし、使う本人が何も聞かされていなかった上に、ケルピーにびびっていましたからね。これが宝の持ち腐れというものなのかしらね」
当時を思い出して、呆れ顔になるペシエラ。そう言われてしまうと、アイリスは顔を赤くして縮こまるしかなかった。
「はっはっはっ、なかなかに手厳しい事を言う。まぁ、使いこなせねばそういう事になるな」
ニーズヘッグは大声で笑う。
とこらが、ここでペシエラはふと何かを思い出した。
「そういえば、三年前の討伐で魔石も取って解体してしまったはず。なのに、なぜあなたは存在してられるのかしら?」
そう、三年前の魔物氾濫では、厄災の暗龍も討伐されて解体されてしまっていた。本人であるなら存在しているはずがなかったのだ。
「ああ、我は幻獣ぞ? あれは瘴気が作り出した仮初の器に過ぎんわ」
けらけらと笑うニーズヘッグ。いや、今の説明でも分からない。
「幻獣やボクら精霊は、魔力そのものが体を作り出すんだ。だから、三年前に君に倒されたのは、仮初の肉体である瘴気だけで、本体の魔力は無事だったからこうやって普通に生きてるんだよ」
……なるほど、分からん。
だが、確かに厄災の暗龍は、魔石以外はゴミという判断を下された。不完全な顕現であったとはいえ、瘴気で構成された肉体であるなら納得のいく話である。
これをまともに理解するなら、ニーズヘッグと厄災の暗龍は別物という事になる。純粋な魔力体である幻獣ニーズヘッグが、瘴気という肉体を纏った存在が厄災の暗龍という事になる。そういう事なのだろう。
「あれから三年経つが、まだ本来の魔力には戻らん。少なくともこの倍の大きさはあるのだがな。よっぽどあの時の魔法が強力だったのだな」
ニーズヘッグは何か呟いている。
考え込むようにしていたニーズヘッグだったが、何かを決意したかのような表情をして、急にアイリスを見る。
「そうだ。懐かしきベルの気配を持つ娘。我と契約を交わそう」
唐突な申し出に、アイリスの表情が固まる。
「うん、実はな……。ベルと契約している間は、暗龍として暴れる事はなかったのだ。それに、我は約束をした。ベルの子孫を見守ると」
キリッと真面目な顔をするニーズヘッグ。
いや、見守れてないでしょ! と内心ツッコミを入れるペシエラ。ニーズヘッグもそれを察したようで、
「いや面目ない。ベルの死があまりに悲しくてな。寝ている間にすっかり忘れてしまっていたようだ。……懐かしさのあまり、今思い出したのだ」
正直に話してきた。
「まったく、情けない話ですわ。あなたが忘れていたせいで、その大事な人の子孫が、国家転覆の片棒を担がさせれたのですからね」
ペシエラは片目を瞑り、小馬鹿にするように言う。すると、ニーズヘッグは非常に驚いていた。
「なんだと?! そいつはどこのどいつだ、八つ裂きにしてくれる!」
うん、怒り狂っている。
ペシエラはさらにため息をつく。
「パープリア男爵という男ですわ。ただ証拠が無いので、正式に吊し上げる事ができませんのよ」
「ぬうう……。その男は許せんな。……よし、そこのベルの子孫よ、我と契約するぞ」
「え、ええ?!」
次の瞬間、目の前からニーズヘッグは消え、アイリスの持っていた宝珠がネックレスへと変化していた。
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