逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
122 / 431
第六章 一年次・夏

第120話 プライベートビーチ

しおりを挟む
 午後はお待ちかね、海を堪能する。
 陽の高いうちは、近くに確保したコーラル伯爵家専用の浜辺を使う。
 この浜辺は元々要人の接待用にあつらえたプライベートビーチだ。開けてはいるが、柵で区画を分けてあるので、一般人はそうそう入れない場所となっている。
「ご苦労様です」
 チェリシアは、入口を守る衛兵に労いの言葉を掛ける。
 プライベートビーチには、ちゃんと男女別の更衣室が備え付けられており、どちらも鍵が掛けられるようになっている。全員初めて着る水着に悪戦苦闘していた。
 さて、水着に着替えて浜辺に出たはいいが、誰も何をしたらいいのか分からない。唯一知っているのはチェリシアだけだ。
 というわけで、チェリシアが海辺での楽しみ方の講釈を始めた。
 その流れの中で、ドール商会に発注して完成させていたビーチパラソルとビーチチェアとビーチボールを、収納魔法から取り出した。ビーチサンダルは更衣室に備えられているので、それを履いてもらっている。何が落ちているのか分からないので、さすがに裸足は危険だからだ。
 まずはビーチボールで遊ぶ。魔法を使わずに、どれだけ地面に落とさないでいられるかという遊びだ。ビーチボールは動物の皮でできており、風魔法で送り込んだ空気で膨らませたものである。隙間は土魔法で塞いだ。
 これが地味に難しく、微妙に重量はあるが、打ち上げられた後は軌道が読めない。それに加えて令嬢の非力な腕では思うように続かなかった。しかし、負けず嫌いが居たのか、意地になってビーチボールに興じる事となる。
 その様子を見ながらチェリシアは、追加で出した机の上に飲み物を並べ、それをみんなに伝えておいた。

 それにしても、浜辺で遊ぶ美少女というのは絵になるものだ。
 チェリシアが謎の満足感に浸っていると、ロゼリアがとあるスペースに気が付いた。
「チェリシア、あれは?」
 ロゼリアが指差した方向を見たチェリシア。
「あぁ、あそこは釣りスペースです。ほら、シェリアに初めて来た時に、ロゼリアが魚を釣った場所ですよ」
 思い出したかのように話す。
 確かに初めて来た時に、岩壁で魚を釣っていた。しかし、その時とはかなり景色が変わっていたので、ロゼリアはすぐには分からなかった。
「岩壁でゴツゴツしていて危ないからって、板で足場を作っちゃったのよ。あの辺りは小さな入江になってるから、足場を作った今でも魚は来てるのよ」
 チェリシアの説明に、ロゼリアは納得していた。貴族のプライベートビーチになったのだ。それなのに怪我などされてはたまらない。なので、少しでも安全になるように手を加えた。そういう事なのだろう。
「それにしても、今になって思えば、ロゼリアって魚釣りができたのね。ゲームでは一切そういう設定が出てこなかったわ」
 チェリシアが、ロゼリアを覗き込むようにして言う。
「ええ。実は八歳より前は結構お転婆でして、マゼンダ侯爵領に居た頃は、時々使用人に手伝ってもらって、領内の沼で釣りをしてましたの。……お父様やシアンには、よく怒られましたけれどね」
 もうやらロゼリアの釣りスキルは元々持っていたらしい。しかし、侯爵令嬢として立派に振る舞うロゼリアが、まさかお転婆とは思わなかった。
「せっかくですし、あちらはペシエラに任せて少し釣りません?」
「それもいいですね」
 ロゼリアとチェリシアは一旦更衣室に戻る。見渡せば釣竿が数本置かれており、どうやらこの浜辺の利用には、釣りも織り込み済みだったようである。
 ロゼリアとチェリシアは釣竿を一本ずつ抱えると、外に居たペシエラに釣りをする事を伝える。当然ながらペシエラは嫌な顔をしたが、仕方ないわねと結局アイリスたちの事を引き受けていた。
 そして、夕方になる。
 ロゼリアたちは合流して、シェリア別邸へと引き上げていく。
 さすがに貴族令嬢の体力では三時間も続きはしなかったが、浜辺での時間はいい気分転換になったようである。ちなみに、ロゼリアとチェリシアが釣り上げた魚は鑑定魔法にかけてから、食卓に並ぶ事になった。
 このコーラル伯爵領は、アイヴォリー王国で海に接している唯一の領地だ。この点だけでも優位性はある。
 チェリシアは、このシェリアを本格的な海洋観光地にできないか、本気で考え始めた。
 ただ浜辺に来ただけでは面白くもなんともないし、日常からの一時的な逃避に過ぎなかった。
 というわけで、チェリシアとペシエラは、食事の時間などを使って、アイリスやプラティナたちから感想と意見を集めた。
 様々な意見を集められたので、チェリシアは満足している。その後のチェリシアは、寝る直前までロゼリア、ペシエラ、アイリス、それとブラッサとの五人で会議が持たれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...