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第六章 一年次・夏
第120話 プライベートビーチ
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午後はお待ちかね、海を堪能する。
陽の高いうちは、近くに確保したコーラル伯爵家専用の浜辺を使う。
この浜辺は元々要人の接待用にあつらえたプライベートビーチだ。開けてはいるが、柵で区画を分けてあるので、一般人はそうそう入れない場所となっている。
「ご苦労様です」
チェリシアは、入口を守る衛兵に労いの言葉を掛ける。
プライベートビーチには、ちゃんと男女別の更衣室が備え付けられており、どちらも鍵が掛けられるようになっている。全員初めて着る水着に悪戦苦闘していた。
さて、水着に着替えて浜辺に出たはいいが、誰も何をしたらいいのか分からない。唯一知っているのはチェリシアだけだ。
というわけで、チェリシアが海辺での楽しみ方の講釈を始めた。
その流れの中で、ドール商会に発注して完成させていたビーチパラソルとビーチチェアとビーチボールを、収納魔法から取り出した。ビーチサンダルは更衣室に備えられているので、それを履いてもらっている。何が落ちているのか分からないので、さすがに裸足は危険だからだ。
まずはビーチボールで遊ぶ。魔法を使わずに、どれだけ地面に落とさないでいられるかという遊びだ。ビーチボールは動物の皮でできており、風魔法で送り込んだ空気で膨らませたものである。隙間は土魔法で塞いだ。
これが地味に難しく、微妙に重量はあるが、打ち上げられた後は軌道が読めない。それに加えて令嬢の非力な腕では思うように続かなかった。しかし、負けず嫌いが居たのか、意地になってビーチボールに興じる事となる。
その様子を見ながらチェリシアは、追加で出した机の上に飲み物を並べ、それをみんなに伝えておいた。
それにしても、浜辺で遊ぶ美少女というのは絵になるものだ。
チェリシアが謎の満足感に浸っていると、ロゼリアがとあるスペースに気が付いた。
「チェリシア、あれは?」
ロゼリアが指差した方向を見たチェリシア。
「あぁ、あそこは釣りスペースです。ほら、シェリアに初めて来た時に、ロゼリアが魚を釣った場所ですよ」
思い出したかのように話す。
確かに初めて来た時に、岩壁で魚を釣っていた。しかし、その時とはかなり景色が変わっていたので、ロゼリアはすぐには分からなかった。
「岩壁でゴツゴツしていて危ないからって、板で足場を作っちゃったのよ。あの辺りは小さな入江になってるから、足場を作った今でも魚は来てるのよ」
チェリシアの説明に、ロゼリアは納得していた。貴族のプライベートビーチになったのだ。それなのに怪我などされてはたまらない。なので、少しでも安全になるように手を加えた。そういう事なのだろう。
「それにしても、今になって思えば、ロゼリアって魚釣りができたのね。ゲームでは一切そういう設定が出てこなかったわ」
チェリシアが、ロゼリアを覗き込むようにして言う。
「ええ。実は八歳より前は結構お転婆でして、マゼンダ侯爵領に居た頃は、時々使用人に手伝ってもらって、領内の沼で釣りをしてましたの。……お父様やシアンには、よく怒られましたけれどね」
もうやらロゼリアの釣りスキルは元々持っていたらしい。しかし、侯爵令嬢として立派に振る舞うロゼリアが、まさかお転婆とは思わなかった。
「せっかくですし、あちらはペシエラに任せて少し釣りません?」
「それもいいですね」
ロゼリアとチェリシアは一旦更衣室に戻る。見渡せば釣竿が数本置かれており、どうやらこの浜辺の利用には、釣りも織り込み済みだったようである。
ロゼリアとチェリシアは釣竿を一本ずつ抱えると、外に居たペシエラに釣りをする事を伝える。当然ながらペシエラは嫌な顔をしたが、仕方ないわねと結局アイリスたちの事を引き受けていた。
そして、夕方になる。
ロゼリアたちは合流して、シェリア別邸へと引き上げていく。
さすがに貴族令嬢の体力では三時間も続きはしなかったが、浜辺での時間はいい気分転換になったようである。ちなみに、ロゼリアとチェリシアが釣り上げた魚は鑑定魔法にかけてから、食卓に並ぶ事になった。
このコーラル伯爵領は、アイヴォリー王国で海に接している唯一の領地だ。この点だけでも優位性はある。
チェリシアは、このシェリアを本格的な海洋観光地にできないか、本気で考え始めた。
ただ浜辺に来ただけでは面白くもなんともないし、日常からの一時的な逃避に過ぎなかった。
というわけで、チェリシアとペシエラは、食事の時間などを使って、アイリスやプラティナたちから感想と意見を集めた。
様々な意見を集められたので、チェリシアは満足している。その後のチェリシアは、寝る直前までロゼリア、ペシエラ、アイリス、それとブラッサとの五人で会議が持たれたのだった。
陽の高いうちは、近くに確保したコーラル伯爵家専用の浜辺を使う。
この浜辺は元々要人の接待用にあつらえたプライベートビーチだ。開けてはいるが、柵で区画を分けてあるので、一般人はそうそう入れない場所となっている。
「ご苦労様です」
チェリシアは、入口を守る衛兵に労いの言葉を掛ける。
プライベートビーチには、ちゃんと男女別の更衣室が備え付けられており、どちらも鍵が掛けられるようになっている。全員初めて着る水着に悪戦苦闘していた。
さて、水着に着替えて浜辺に出たはいいが、誰も何をしたらいいのか分からない。唯一知っているのはチェリシアだけだ。
というわけで、チェリシアが海辺での楽しみ方の講釈を始めた。
その流れの中で、ドール商会に発注して完成させていたビーチパラソルとビーチチェアとビーチボールを、収納魔法から取り出した。ビーチサンダルは更衣室に備えられているので、それを履いてもらっている。何が落ちているのか分からないので、さすがに裸足は危険だからだ。
まずはビーチボールで遊ぶ。魔法を使わずに、どれだけ地面に落とさないでいられるかという遊びだ。ビーチボールは動物の皮でできており、風魔法で送り込んだ空気で膨らませたものである。隙間は土魔法で塞いだ。
これが地味に難しく、微妙に重量はあるが、打ち上げられた後は軌道が読めない。それに加えて令嬢の非力な腕では思うように続かなかった。しかし、負けず嫌いが居たのか、意地になってビーチボールに興じる事となる。
その様子を見ながらチェリシアは、追加で出した机の上に飲み物を並べ、それをみんなに伝えておいた。
それにしても、浜辺で遊ぶ美少女というのは絵になるものだ。
チェリシアが謎の満足感に浸っていると、ロゼリアがとあるスペースに気が付いた。
「チェリシア、あれは?」
ロゼリアが指差した方向を見たチェリシア。
「あぁ、あそこは釣りスペースです。ほら、シェリアに初めて来た時に、ロゼリアが魚を釣った場所ですよ」
思い出したかのように話す。
確かに初めて来た時に、岩壁で魚を釣っていた。しかし、その時とはかなり景色が変わっていたので、ロゼリアはすぐには分からなかった。
「岩壁でゴツゴツしていて危ないからって、板で足場を作っちゃったのよ。あの辺りは小さな入江になってるから、足場を作った今でも魚は来てるのよ」
チェリシアの説明に、ロゼリアは納得していた。貴族のプライベートビーチになったのだ。それなのに怪我などされてはたまらない。なので、少しでも安全になるように手を加えた。そういう事なのだろう。
「それにしても、今になって思えば、ロゼリアって魚釣りができたのね。ゲームでは一切そういう設定が出てこなかったわ」
チェリシアが、ロゼリアを覗き込むようにして言う。
「ええ。実は八歳より前は結構お転婆でして、マゼンダ侯爵領に居た頃は、時々使用人に手伝ってもらって、領内の沼で釣りをしてましたの。……お父様やシアンには、よく怒られましたけれどね」
もうやらロゼリアの釣りスキルは元々持っていたらしい。しかし、侯爵令嬢として立派に振る舞うロゼリアが、まさかお転婆とは思わなかった。
「せっかくですし、あちらはペシエラに任せて少し釣りません?」
「それもいいですね」
ロゼリアとチェリシアは一旦更衣室に戻る。見渡せば釣竿が数本置かれており、どうやらこの浜辺の利用には、釣りも織り込み済みだったようである。
ロゼリアとチェリシアは釣竿を一本ずつ抱えると、外に居たペシエラに釣りをする事を伝える。当然ながらペシエラは嫌な顔をしたが、仕方ないわねと結局アイリスたちの事を引き受けていた。
そして、夕方になる。
ロゼリアたちは合流して、シェリア別邸へと引き上げていく。
さすがに貴族令嬢の体力では三時間も続きはしなかったが、浜辺での時間はいい気分転換になったようである。ちなみに、ロゼリアとチェリシアが釣り上げた魚は鑑定魔法にかけてから、食卓に並ぶ事になった。
このコーラル伯爵領は、アイヴォリー王国で海に接している唯一の領地だ。この点だけでも優位性はある。
チェリシアは、このシェリアを本格的な海洋観光地にできないか、本気で考え始めた。
ただ浜辺に来ただけでは面白くもなんともないし、日常からの一時的な逃避に過ぎなかった。
というわけで、チェリシアとペシエラは、食事の時間などを使って、アイリスやプラティナたちから感想と意見を集めた。
様々な意見を集められたので、チェリシアは満足している。その後のチェリシアは、寝る直前までロゼリア、ペシエラ、アイリス、それとブラッサとの五人で会議が持たれたのだった。
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