逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
120 / 431
第六章 一年次・夏

第118話 お互いのわがまま

しおりを挟む
 話がついたところで、エアリアルボードの実験をする。チェリシアはいつもの魔力量でエアリアルボードを作り、それに重装備の騎士が何人乗れるか試してみた。
 半日余裕で持つエアリアルボードは、重装備の騎士十三人が乗っても平気だった。そこにはチェリシアも乗っているので、相当の耐重量があるようだ。しかし、十四人目が乗ろうとすると見えない壁に阻まれて、騎士は尻餅をついていた。重量オーバーのようである。
 しかし、さすがに騎士十三人は、絵面的にきつい。ゴテゴテの鎧に身を包んだ人間が所狭しと立っているのだ。実際、チェリシアは圧迫されていた。
「重量的にかなり乗れますが、快適の限界は六人くらいまでですね……」
 実験を終えて、チェリシアは疲れた表情で結論を話す。
 エアリアルボードの大きさは、円形ではあるものの、畳四畳半より少し広い程度だ。
 座って半畳、寝て一畳。
 ゴテゴテ重装備十三人で乗れば、窮屈なのは当たり前である。
 ちなみにエアリアルボードの魔法は、ペシエラが同性能で、ロゼリアのは少し劣る。魔力総量の差であろう。とはいえ、重装備の騎士六人と術者の七人で、高さ五十メートルの空の旅ができるとは、かなり高性能と言えるだろう。
「ふむ、気に入ったぞ。必要な時は依頼するから、その時は頼むぞ」
 女王はご満悦のようである。
 障害物を無視して乗り越え、しかも雨風飛来物を防いで移動できる快適な乗り物なのだ。これを知ってしまえば、馬車など二度とは使えなくなってしまう。王族の乗る馬車は悪路であっても振動が少ない、サスペンションのよく効いた馬車ではあるが、エアリアルボードの前にはそれも霞んでしまったのだ。馬車は豪華に装飾を施しているが、それがどうしたと言わんばかりの快適さ。勝ち目は無かった。
 このエアリアルボードの快適さには、オフライトやヴィオレスも驚いていた。一往復乗った事のあるアイリスが、兄に自慢げにしていたが、身バレは危険じゃなかったのだろうか?
 その中で、アイリスはヴィオレスに疑問をぶつけてみる。
「ヴィオレス様は、神獣使いについて聞いた事はございますか?」
 唐突な質問に、ヴィオレスは目を丸くした。何を言っているのか分からないといったところだろう。
「すまないけれど、聞いた事は無いですね」
 ヴィオレスがそう答えれば、
「そうですか。それならいいです」
 アイリスはばっさりとそこで言葉を切った。
 どうやら兄は何も聞かされていないし、知らないのだろう。アイリスは次の行動に出る。
「ヴィオレス様、訓練の邪魔をして失礼しました」
 ヴィオレスからあっさり離れると、アイリスは宰相のところに行く。
「失礼致します、宰相閣下」
「どうしたのかね?」
「神獣使いについて調べたいと思いますので、王家の書庫の利用を許可頂きたいのです」
 アイリスの申し出に、宰相は大いに悩んだ。
 アイリスは今は大罪人として平民落ちした立場だ。こうして王宮に立ち入れているのも、ロゼリアやチェリシアたちの功績あってのこと。そこで、宰相はこう結論を出す。
「あの三人のうち誰かと一緒であるなら、許可を出しましょう。ただし、己が立場をゆめゆめ忘れぬように」
「重々承知しております。……許可を下さり、感謝致します」
 宰相の言葉に、アイリスは深々と頭を下げた。
 神獣使いの子孫とはいっても、父方、母方、どちらからなのかが分からない。となれば、文献に頼らざるを得ないのは明白である。
 というわけで、アイリスは国王たちにせがまれるロゼリアたちに、王家の書庫の事を報告に行く。同時に国王と女王の耳に入る事になったが、宰相が言った事と同じ事を言われ、ロゼリアたち三人に許可証が発行された。これで、アイリスは三人のうち誰かを伴えば、いつでも王家の書庫を閲覧できるようになったのだった。
 この世界は謎が多過ぎる。改めて、知識の必要性を感じるロゼリアたちであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...