逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
119 / 433
第六章 一年次・夏

第117話 ヴィオレス

しおりを挟む
 結果から言えば、チェリシアたちの報告は、国王たちの度肝を抜いたと言う他ない。
 その原因はアイリスだ。
 蒼鱗魚サファイアフィッシュという幻獣と契約し、実は失われた職業である神獣使いの子孫だというのだから。
 実際に目の前に蒼鱗魚を召喚して、一言二言会話をしてみたのだが、国王たちは驚きのあまり、まともな会話は成立しなかった。
 ついでに、蒼鱗魚たちは水中でなくても普通に空中を泳いでいた。召喚体であるからかも知れないが、何とも言えない不思議な現象であった。
「おおお、幻獣なるものが実在していようとは……。そして、この目で実際に見る事ができるとは……」
 国王が感動で打ち震えていた。
 しかし、だ。その幻獣を使役しているのは、先日のサファイア湖での魔物襲撃で、我が子を殺そうとしていた犯人の一人だ。そういう事ゆえに、女王や宰相は感動しつつも、どこか浮かない顔をしているのである。
 この事はアイリスも自覚している。神獣使いの子孫だからといって、驕り高ぶる真似はしない。自分はあくまで犯罪者だし、その贖罪の真っ只中なのだから。
 さて、報告の済んだロゼリアたちは、国王たちに連れられて騎士団の演習場へと向かう。
 しかし、この演習場には予想外の人物が居た。
「あれは……、確かヴィオレス・パープリア?」
 アイリスの兄である、ヴィオレスが居たのだ。どういうわけか、騎士団の演習に加わっていたのだ。近くにはオフライトが居たので、話を聞いてみる。
「おう、ペシエラたちか。また城に居るとは、よほど気に入られてるんだな」
 どういうわけかペシエラの名前を呼ぶ。
「そんな事よりも、なぜここに居るのですか? 学生は騎士団の演習に参加できないはずですが」
 ロゼリアが質問する。
「なに、俺の場合は親父に無理やり参加させられたんだ。息子だからって事で納得させてたぞ」
 オフライトは苦笑いをしている。
「それはそうと、なぜヴィオレス・パープリアがここに?」
 ロゼリアは苦笑いをスルーして、オフライトに尋ねる。
 チェリシアたちがサファイア湖に出掛けている間、ロゼリアはシアンを通じてパープリア男爵家を探らせていたが、ヴィオレスの姿を見つける事ができなかったのだ。
「あぁ、ヴィオレスか。親とケンカして家を飛び出てきたらしくてな。今は俺の所で預かってるんだ」
「なるほど」
 オフライトから事情を聞いて、ロゼリアたちは納得していた。
 ちなみにこの様子は、騎士たちに気付かれていない。なにせ国王と女王に宰相まで居るのだ。一瞬たりとも気が抜けない。
「ちょっとヴィオレス様をお呼び願えますか?」
 騎士たちが緊張する中、こっそりとオフライトに頼むロゼリア。オフライトは了承して、ヴィオレスを呼んできた。
「何ですか、一体。私は何としても騎士にならねばならないのです」
 文句を言いつつもやって来たヴィオレス。意外にも口調は丁寧だった。さすが逆行前では近衛騎士になっただけの事はある。
「お兄様」
 小声ではあるが、アイリスは我慢できずに声を掛ける。それに対してヴィオレスは声を上げそうになったが、アイリスが慌てて口を塞ぐ。
「お兄様、静かにして下さい。私は死んだ事になってるのです。騒がれては困ります」
「す、すまない。しかし、魔物に襲われて死んだのではないのか? 血塗れのドレスを見せられたのですよ?」
 アイリスに謝ると、ヴィオレスは事情を聞いてきた。しかし、変装したアイリスを、いくら声を聞いたからとはいえ、簡単に見抜けるものなのだろうか。
「実際はこの三人に庇ってもらったのよ。お父様を欺くために、そのように装っただけです」
「やはり、父上は何か良からぬ事をしているというわけですか」
 アイリスの説明にヴィオレスは納得する。
「ええ。そういうわけなので、お兄様も黙っていてくれません?」
「ああ、そうですね。では、アイリスも私の事は名前で呼ぶようにしてもらいませんとね」
「……そうですね」
 アイリスは自分がやらかしていた事に、今さら気が付いた。
 さてさて、ヴィオレス・パープリアは、逆行前同様に父親に反発して家出をしたようである。一応オフライトには、不審な点が無いか警戒するようにはお願いしておいた。
 このアイリスとヴィオレスの兄妹は、今後の鍵となりそうである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...