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第六章 一年次・夏
第117話 ヴィオレス
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結果から言えば、チェリシアたちの報告は、国王たちの度肝を抜いたと言う他ない。
その原因はアイリスだ。
蒼鱗魚という幻獣と契約し、実は失われた職業である神獣使いの子孫だというのだから。
実際に目の前に蒼鱗魚を召喚して、一言二言会話をしてみたのだが、国王たちは驚きのあまり、まともな会話は成立しなかった。
ついでに、蒼鱗魚たちは水中でなくても普通に空中を泳いでいた。召喚体であるからかも知れないが、何とも言えない不思議な現象であった。
「おおお、幻獣なるものが実在していようとは……。そして、この目で実際に見る事ができるとは……」
国王が感動で打ち震えていた。
しかし、だ。その幻獣を使役しているのは、先日のサファイア湖での魔物襲撃で、我が子を殺そうとしていた犯人の一人だ。そういう事ゆえに、女王や宰相は感動しつつも、どこか浮かない顔をしているのである。
この事はアイリスも自覚している。神獣使いの子孫だからといって、驕り高ぶる真似はしない。自分はあくまで犯罪者だし、その贖罪の真っ只中なのだから。
さて、報告の済んだロゼリアたちは、国王たちに連れられて騎士団の演習場へと向かう。
しかし、この演習場には予想外の人物が居た。
「あれは……、確かヴィオレス・パープリア?」
アイリスの兄である、ヴィオレスが居たのだ。どういうわけか、騎士団の演習に加わっていたのだ。近くにはオフライトが居たので、話を聞いてみる。
「おう、ペシエラたちか。また城に居るとは、よほど気に入られてるんだな」
どういうわけかペシエラの名前を呼ぶ。
「そんな事よりも、なぜここに居るのですか? 学生は騎士団の演習に参加できないはずですが」
ロゼリアが質問する。
「なに、俺の場合は親父に無理やり参加させられたんだ。息子だからって事で納得させてたぞ」
オフライトは苦笑いをしている。
「それはそうと、なぜヴィオレス・パープリアがここに?」
ロゼリアは苦笑いをスルーして、オフライトに尋ねる。
チェリシアたちがサファイア湖に出掛けている間、ロゼリアはシアンを通じてパープリア男爵家を探らせていたが、ヴィオレスの姿を見つける事ができなかったのだ。
「あぁ、ヴィオレスか。親とケンカして家を飛び出てきたらしくてな。今は俺の所で預かってるんだ」
「なるほど」
オフライトから事情を聞いて、ロゼリアたちは納得していた。
ちなみにこの様子は、騎士たちに気付かれていない。なにせ国王と女王に宰相まで居るのだ。一瞬たりとも気が抜けない。
「ちょっとヴィオレス様をお呼び願えますか?」
騎士たちが緊張する中、こっそりとオフライトに頼むロゼリア。オフライトは了承して、ヴィオレスを呼んできた。
「何ですか、一体。私は何としても騎士にならねばならないのです」
文句を言いつつもやって来たヴィオレス。意外にも口調は丁寧だった。さすが逆行前では近衛騎士になっただけの事はある。
「お兄様」
小声ではあるが、アイリスは我慢できずに声を掛ける。それに対してヴィオレスは声を上げそうになったが、アイリスが慌てて口を塞ぐ。
「お兄様、静かにして下さい。私は死んだ事になってるのです。騒がれては困ります」
「す、すまない。しかし、魔物に襲われて死んだのではないのか? 血塗れのドレスを見せられたのですよ?」
アイリスに謝ると、ヴィオレスは事情を聞いてきた。しかし、変装したアイリスを、いくら声を聞いたからとはいえ、簡単に見抜けるものなのだろうか。
「実際はこの三人に庇ってもらったのよ。お父様を欺くために、そのように装っただけです」
「やはり、父上は何か良からぬ事をしているというわけですか」
アイリスの説明にヴィオレスは納得する。
「ええ。そういうわけなので、お兄様も黙っていてくれません?」
「ああ、そうですね。では、アイリスも私の事は名前で呼ぶようにしてもらいませんとね」
「……そうですね」
アイリスは自分がやらかしていた事に、今さら気が付いた。
さてさて、ヴィオレス・パープリアは、逆行前同様に父親に反発して家出をしたようである。一応オフライトには、不審な点が無いか警戒するようにはお願いしておいた。
このアイリスとヴィオレスの兄妹は、今後の鍵となりそうである。
その原因はアイリスだ。
蒼鱗魚という幻獣と契約し、実は失われた職業である神獣使いの子孫だというのだから。
実際に目の前に蒼鱗魚を召喚して、一言二言会話をしてみたのだが、国王たちは驚きのあまり、まともな会話は成立しなかった。
ついでに、蒼鱗魚たちは水中でなくても普通に空中を泳いでいた。召喚体であるからかも知れないが、何とも言えない不思議な現象であった。
「おおお、幻獣なるものが実在していようとは……。そして、この目で実際に見る事ができるとは……」
国王が感動で打ち震えていた。
しかし、だ。その幻獣を使役しているのは、先日のサファイア湖での魔物襲撃で、我が子を殺そうとしていた犯人の一人だ。そういう事ゆえに、女王や宰相は感動しつつも、どこか浮かない顔をしているのである。
この事はアイリスも自覚している。神獣使いの子孫だからといって、驕り高ぶる真似はしない。自分はあくまで犯罪者だし、その贖罪の真っ只中なのだから。
さて、報告の済んだロゼリアたちは、国王たちに連れられて騎士団の演習場へと向かう。
しかし、この演習場には予想外の人物が居た。
「あれは……、確かヴィオレス・パープリア?」
アイリスの兄である、ヴィオレスが居たのだ。どういうわけか、騎士団の演習に加わっていたのだ。近くにはオフライトが居たので、話を聞いてみる。
「おう、ペシエラたちか。また城に居るとは、よほど気に入られてるんだな」
どういうわけかペシエラの名前を呼ぶ。
「そんな事よりも、なぜここに居るのですか? 学生は騎士団の演習に参加できないはずですが」
ロゼリアが質問する。
「なに、俺の場合は親父に無理やり参加させられたんだ。息子だからって事で納得させてたぞ」
オフライトは苦笑いをしている。
「それはそうと、なぜヴィオレス・パープリアがここに?」
ロゼリアは苦笑いをスルーして、オフライトに尋ねる。
チェリシアたちがサファイア湖に出掛けている間、ロゼリアはシアンを通じてパープリア男爵家を探らせていたが、ヴィオレスの姿を見つける事ができなかったのだ。
「あぁ、ヴィオレスか。親とケンカして家を飛び出てきたらしくてな。今は俺の所で預かってるんだ」
「なるほど」
オフライトから事情を聞いて、ロゼリアたちは納得していた。
ちなみにこの様子は、騎士たちに気付かれていない。なにせ国王と女王に宰相まで居るのだ。一瞬たりとも気が抜けない。
「ちょっとヴィオレス様をお呼び願えますか?」
騎士たちが緊張する中、こっそりとオフライトに頼むロゼリア。オフライトは了承して、ヴィオレスを呼んできた。
「何ですか、一体。私は何としても騎士にならねばならないのです」
文句を言いつつもやって来たヴィオレス。意外にも口調は丁寧だった。さすが逆行前では近衛騎士になっただけの事はある。
「お兄様」
小声ではあるが、アイリスは我慢できずに声を掛ける。それに対してヴィオレスは声を上げそうになったが、アイリスが慌てて口を塞ぐ。
「お兄様、静かにして下さい。私は死んだ事になってるのです。騒がれては困ります」
「す、すまない。しかし、魔物に襲われて死んだのではないのか? 血塗れのドレスを見せられたのですよ?」
アイリスに謝ると、ヴィオレスは事情を聞いてきた。しかし、変装したアイリスを、いくら声を聞いたからとはいえ、簡単に見抜けるものなのだろうか。
「実際はこの三人に庇ってもらったのよ。お父様を欺くために、そのように装っただけです」
「やはり、父上は何か良からぬ事をしているというわけですか」
アイリスの説明にヴィオレスは納得する。
「ええ。そういうわけなので、お兄様も黙っていてくれません?」
「ああ、そうですね。では、アイリスも私の事は名前で呼ぶようにしてもらいませんとね」
「……そうですね」
アイリスは自分がやらかしていた事に、今さら気が付いた。
さてさて、ヴィオレス・パープリアは、逆行前同様に父親に反発して家出をしたようである。一応オフライトには、不審な点が無いか警戒するようにはお願いしておいた。
このアイリスとヴィオレスの兄妹は、今後の鍵となりそうである。
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