逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第六章 一年次・夏

第115話 今後を見据えて

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 予想外な事はあったものの、チェリシアたちは無事に召喚の宝珠二個を回収して持ち帰った。
 ちなみにこの青色の宝珠は、召喚の宝珠と便宜上命名したものの、召喚できるのは魔物だけで、神獣も幻獣も召喚できないものだそうだ。蒼鱗魚たちの話とチェリシアの鑑定魔法の結果、そう判明した。しかも、魔力を込め直せばまた使える事が判明。めでたくチェリシアの収納魔法行きとなった。
「壊してもいいんだけど、技術を解明してみたい」
 チェリシアがそんな事を言うからである。
 とにかく、サファイア湖での回収作業を終えたチェリシアたちは、アクアマリン子爵に挨拶をしてから、来た道を二日間で王都まで戻っていった。
 王都に戻ったチェリシアたちは、マゼンダ商会でロゼリアと合流する。そして、情報を共有するために調査報告をするのだが、口で説明するよりも見せた方が早いという事で、アイリスの髪飾りに付けた録画魔法の魔石を取り出した。
 見せるのはもちろん、サファイア湖の調査の時の映像。
 当たり前のように水着に着替え、水中を移動する空気の防御膜を張って、サファイア湖にダイブした映像に、ロゼリアは頭を抱えた。もういろいろとツッコミどころしかない。
 しかし、そんなツッコミも、続く映像で吹き飛んだ。念話で話す魚が出てきたのだ。蒼鱗魚サファイアフィッシュと名乗った魚の事は、ロゼリアも知らなかった。
 ただ気になるのは、えらく年寄りじみた言葉遣いをしているという点。これは相当に古くから生きてきた存在だという事を窺い知らされる。
 そして、アイリスがその蒼鱗魚と契約を交わしたところで、ロゼリアは変な声を出して驚いた。
「神獣使い……、聞いた事ないわ」
 ひとしきり驚いた後は、真剣な面持ちで考え込むロゼリア。しばらくして、
「ダメね、これは王家に報告しましょう」
 そう結論付けた。
 まあ仕方のない事だろう。それに、王家になら出回っていない情報が眠っているかも知れない。ロゼリアはそう考えたのだ。
「それはそうとロゼリア」
「なぁに?」
 すくっと立ち上がったロゼリアに、チェリシアが声を掛ける。ロゼリアはきょとんとする。
「私の持ってる乙女ゲームの知識、もう役に立たないと思うの。……かなりゲームとずれちゃってるし」
 チェリシアがおそるおそる語る。だが、ロゼリアは呆れるどころか、どっちかいえば優しく微笑んだ。
「ええ、それはこっちも同じよ。私やペシエラの知る前回ともかけ離れているわ。もう何が起こるか誰にも分からない。でも、アイリスを信じるのなら、敵はパープリア男爵という事よ」
 サファイア湖での襲撃の黒幕は、アイリスの証言からしてパープリア男爵で間違いないだろう。しかし、それ以外の証拠が一切無い。これでは、男爵を問い詰める事もできない。
「でも、ロゼリアの言う通りですわ。つまり、パープリア男爵にとって、少なくともアイヴォリー王国は邪魔という事ですわ」
 ペシエラの言葉は力強かった。
 だが、これは説得力も伴っている。
 実際、逆行前ではロゼリアが死んで、モスグリネが攻め入る口実が与えられた。その後の防戦に入ったアイヴォリー王国軍には、謎の妨害が続いた。この事から言えるのは、確実にアイヴォリー王国を滅ぼす意思が働いていたという事だろう。
 理由は分からない。陰でパープリア男爵が動いていたという証拠も無い。アイリスを生かそうと動いた事で浮上した疑惑に過ぎなかったのだ。しかしながら、これからの三人の行動の指針とするには十分だった。
 三人が話し合う現場で、アイリスは一人理解できないでいた。“乙女ゲーム”や“前回”などの単語のせいである。
「アイリス」
 ペシエラが声を掛けると、アイリスは現実に引き戻されて身を強ばらせた。
「私たちの話は理解できなかったでしょうけど、あなたをただの駒扱いした男を潰すために、協力して頂戴」
 ペシエラにこう言われたアイリスは、一瞬躊躇した。実の父親との敵対となれば、それも仕方のない事だろう。アイリスは少し考えた。
 そして、結論を出す。
「……畏まりました。どうせ、一度は死んだはずの身。協力させて頂きます」
 この三人を敵に回しては、きっと死ぬより恐ろしい目に遭う。アイリスは父親に味方するのとどちらがまだマシか、それを比べて結論を出した。ただの生存本能である。
 しかし、この選択が、この後紡がれなかったアイリスの人生を、筆舌し難いほどに波瀾万丈なものとするとは、一体誰が予想できたであっただろうか。
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