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第六章 一年次・夏
第114話 幻獣
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蒼鱗魚たちから呼び止められて、チェリシアたちは固まった。なぜ呼び止められたのかが分からないからだ。
『そこの変わったピンクの髪の子や』
「私?」
蒼鱗魚が動かすヒレを見て、アイリスは自分が声を掛けられていると理解する。
『そうそう、君』
蒼鱗魚は嬉しそうに言う。
それにしても“変わったピンク”と言うあたり、この蒼鱗魚は色を認識している事になる。これは驚きだ。
『この世界には動物、魔物以外にも、幻獣や神獣が居るのは知っているかな?』
唐突なファンタジーな単語に、チェリシアが少し興奮気味だ。どうどう、ペシエラが宥めようとしている。
「初耳です。あなた方が伝説の生き物とは聞いていますが」
『そうかい。まあ、あながち間違いじゃあないねえ』
アイリスの返答に、蒼鱗魚たちはおかしそうに笑顔を見せる。
『私らは幻獣さね。そして、その変わったピンクの子は、それを使役する能力があるようだ』
なんと蒼鱗魚たちは、自分たちが幻獣だと言い始めた。ペシエラやアイリスどころか、ゲームの世界と認識しているチェリシアも聞いた事のない話だった。
『なにさ、あんたが持ってるオレンジ色の球体、それを持たされている事がその証左さね』
「オレンジの球体? ……お父様に持たされた、使役の宝珠の事かしら」
アイリスはエプロンからゴソゴソと、使役の宝珠と呼んだオレンジの球体を取り出した。
『そうそう、それさね』
『だが、あんたはそれが無くても、幻獣や神獣を使役できる。その球体はあくまでも補助じゃ。……まあ、言っても理屈じゃ理解はできんだろうが、わしらは確かに繋がりを感じられる』
アイリスは驚いた。使役の宝珠を渡されたのは、ただの捨て駒だからと思っていた。まさか自分に、そんな能力があるなんて思わなかった。
『はっはっはっ、失われた技術だからねぇ、分からないなんて仕方のない事さね』
『だが、それが君の手に渡った事は、意味があったという事だ。どれ、手を出しなさい』
「こ、こう?」
アイリスはチェリシアとペシエラの二人に確認を取ってから、蒼鱗魚たちに手をゆっくりと差し出す。
すると蒼鱗魚たちは、その手に順番に口を当てる。その次の瞬間、眩いばかりの光が溢れる。
しばらくして光が収まると、蒼鱗魚たちの姿はそこになかった。
「えっ、どうなったの?」
そう言ったアイリスが、差し出していた右手の甲を見ると、そこには青色の魚の絵が浮き上がっていた。これにはチェリシアとペシエラは混乱している。
ところが、アイリスは冷静というか静かだった。そして、ポツリと呟く。
「召喚、蒼鱗魚」
その声に反応して魚の絵が光り輝き、目の前に再び、二匹の蒼鱗魚が姿を現した。
『うむ、やはり嬢ちゃんは古に失われた神獣使いの子孫じゃな』
『そのようですねえ』
なにやら頷いている二匹。
「ちょっと待って? 私が……“神獣使い”?」
アイリスが困惑の表情を浮かべるが、チェリシアとペシエラも反応できない。
だが、二匹はそれに構わず話を続ける。
『さっきの召喚の呼び声がそれさね。自然と頭の中に浮かんできたろう?』
アイリスはハッとする。
「た、確かに……」
そう、誰に教えられたわけでもないのに、アイリスの頭の中にその言葉は確かに浮かんできたのだ。
『わしらを必要とする時に、その言葉を叫べばいい。わしらは、その声に応えようぞ』
「……はい。ありがとうございます」
蒼鱗魚たちの言葉に、アイリスはきゅっと表情を引き締めた。
この様子を見ていたチェリシアたち。
「お姉様、これはもうゲームのイベントだとか、そういう事は言ってられませんわね」
「ええ。もう元と違い過ぎて、どうしたらいいのか分からないわ」
冷静に言うペシエラに対して、明らかに動揺しているチェリシア。
元々、ペシエラという未来から逆行してきたチェリシアが居た時点で、本来の筋書きからは外れていた。
しかし、ロゼリアとペシエラの居た世界線とも、アイリスを救った事で分岐してしまった。
そもそもイベントは共通しながらも、規模が大げさになっていたりと違いはあったのだが、幻獣という未知の存在が出現した事で、本格的に未知の未来へと世界は動き出していた。
もうゲームの知識が役に立たないかも知れない。
言い知れない不安が、チェリシアを襲い始めたのだった。
『そこの変わったピンクの髪の子や』
「私?」
蒼鱗魚が動かすヒレを見て、アイリスは自分が声を掛けられていると理解する。
『そうそう、君』
蒼鱗魚は嬉しそうに言う。
それにしても“変わったピンク”と言うあたり、この蒼鱗魚は色を認識している事になる。これは驚きだ。
『この世界には動物、魔物以外にも、幻獣や神獣が居るのは知っているかな?』
唐突なファンタジーな単語に、チェリシアが少し興奮気味だ。どうどう、ペシエラが宥めようとしている。
「初耳です。あなた方が伝説の生き物とは聞いていますが」
『そうかい。まあ、あながち間違いじゃあないねえ』
アイリスの返答に、蒼鱗魚たちはおかしそうに笑顔を見せる。
『私らは幻獣さね。そして、その変わったピンクの子は、それを使役する能力があるようだ』
なんと蒼鱗魚たちは、自分たちが幻獣だと言い始めた。ペシエラやアイリスどころか、ゲームの世界と認識しているチェリシアも聞いた事のない話だった。
『なにさ、あんたが持ってるオレンジ色の球体、それを持たされている事がその証左さね』
「オレンジの球体? ……お父様に持たされた、使役の宝珠の事かしら」
アイリスはエプロンからゴソゴソと、使役の宝珠と呼んだオレンジの球体を取り出した。
『そうそう、それさね』
『だが、あんたはそれが無くても、幻獣や神獣を使役できる。その球体はあくまでも補助じゃ。……まあ、言っても理屈じゃ理解はできんだろうが、わしらは確かに繋がりを感じられる』
アイリスは驚いた。使役の宝珠を渡されたのは、ただの捨て駒だからと思っていた。まさか自分に、そんな能力があるなんて思わなかった。
『はっはっはっ、失われた技術だからねぇ、分からないなんて仕方のない事さね』
『だが、それが君の手に渡った事は、意味があったという事だ。どれ、手を出しなさい』
「こ、こう?」
アイリスはチェリシアとペシエラの二人に確認を取ってから、蒼鱗魚たちに手をゆっくりと差し出す。
すると蒼鱗魚たちは、その手に順番に口を当てる。その次の瞬間、眩いばかりの光が溢れる。
しばらくして光が収まると、蒼鱗魚たちの姿はそこになかった。
「えっ、どうなったの?」
そう言ったアイリスが、差し出していた右手の甲を見ると、そこには青色の魚の絵が浮き上がっていた。これにはチェリシアとペシエラは混乱している。
ところが、アイリスは冷静というか静かだった。そして、ポツリと呟く。
「召喚、蒼鱗魚」
その声に反応して魚の絵が光り輝き、目の前に再び、二匹の蒼鱗魚が姿を現した。
『うむ、やはり嬢ちゃんは古に失われた神獣使いの子孫じゃな』
『そのようですねえ』
なにやら頷いている二匹。
「ちょっと待って? 私が……“神獣使い”?」
アイリスが困惑の表情を浮かべるが、チェリシアとペシエラも反応できない。
だが、二匹はそれに構わず話を続ける。
『さっきの召喚の呼び声がそれさね。自然と頭の中に浮かんできたろう?』
アイリスはハッとする。
「た、確かに……」
そう、誰に教えられたわけでもないのに、アイリスの頭の中にその言葉は確かに浮かんできたのだ。
『わしらを必要とする時に、その言葉を叫べばいい。わしらは、その声に応えようぞ』
「……はい。ありがとうございます」
蒼鱗魚たちの言葉に、アイリスはきゅっと表情を引き締めた。
この様子を見ていたチェリシアたち。
「お姉様、これはもうゲームのイベントだとか、そういう事は言ってられませんわね」
「ええ。もう元と違い過ぎて、どうしたらいいのか分からないわ」
冷静に言うペシエラに対して、明らかに動揺しているチェリシア。
元々、ペシエラという未来から逆行してきたチェリシアが居た時点で、本来の筋書きからは外れていた。
しかし、ロゼリアとペシエラの居た世界線とも、アイリスを救った事で分岐してしまった。
そもそもイベントは共通しながらも、規模が大げさになっていたりと違いはあったのだが、幻獣という未知の存在が出現した事で、本格的に未知の未来へと世界は動き出していた。
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言い知れない不安が、チェリシアを襲い始めたのだった。
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