113 / 473
第六章 一年次・夏
第111話 調査開始
しおりを挟む
翌日、チェリシアとペシエラの二人は、アイリスも連れてサファイア湖を目指していた。目的は、教官二人が投げ捨てたという宝珠の回収。場所は湖なのだから、よっぽどの事がない限り、その場に沈んでいるはずである。時間的にも一週間で、土砂の堆積もそう深くはないはずである。
この時アイリスが着ているメイド服は、マゼンダ侯爵家のものではなく、コーラル伯爵家のものへと変わっていた。
移動手段はエアリアルボード。馬車で六日掛けて移動した道のりを、たったの二日で移動してしまう優れ物だ。
「……あなたたちを殺せなかった理由が分かるわ」
アイリスはため息をついた。
「ねえ、アイリス。あなた、どういった技能を持っているのかしら」
ペシエラが尋ねる。
「裏稼業をやっている感じですけれど、具体的に何ができるのか知りたいですわ」
せがまれるように聞かれて、アイリスは困惑している。
「一応、一種の色仕掛けと暗器の扱いくらいよ。魔法は得意じゃないし、薬学知識も乏しいわ」
しかし、今は主人となった二人に逆らう事はできず、正直に話す。
「薬学……。という事は、パープリア男爵家には毒や薬の扱えるという者が居るという事かしら」
「そういう事。お父様や一部の使用人が扱えるわ。ちなみに、お母様やお兄様は裏稼業の事は知らないわ。私は女だったから選ばれたようなものよ」
チェリシアの疑問に答えるアイリス。加えて、母と兄は無関係という情報が引き出せた。
それと同時に、ペシエラは逆行前のヴィオレスの行動に合点がいった。関わっていないが、薄々は家の事には気付いていたのだろう。そして、妹の死で父親に詰め寄り、冷たくあしらわれて袂を分かったのだ。近衛騎士に志願したのは、おそらく父親への当てつけだったのだろう。
さて、話しているうちに、合宿の往路で魔物の襲撃があった地点に到着する。時間的にもここで野営をする事になる。
チェリシアが収納魔法で天幕やら夕ご飯などを取り出していると、
「な、な、何よそれ!」
目撃したアイリスが騒ぎ始めた。
「何って、収納魔法よ。いろいろしまえてとても便利なのよ」
「し、信じられない。そんなの扱える人物なんてそう居るものじゃないのよ? あなたたち、どれだけ規格外なのよ……」
淡々と答えるチェリシアだが、アイリスは今にも腰を抜かしそうなくらい驚いていた。
「アイリス? 今は私たちだけですが、今のあなたは侍女、言葉遣いには気を付ける事ですわね」
「うっ……。か、畏まりました」
ペシエラがひと睨みして忠告すれば、アイリスは顔を引き攣らせながら従った。
「一応、主従の関係にはなるけど、アイリスさんは私たちの庇護下にあるわ。ペシエラだってきつくは言うけど、本心はあなたの事を心配してるんだから」
「お、お姉様! ……余計な事は言わないで下さいませ」
チェリシアがバラしてしまうと、ペシエラは慌てたようにチェリシアを責めた。
「ふふっ、本当にお二人は仲がいいのですね」
その光景に、アイリスはつい笑ってしまった。微笑ましく、どこか羨ましいとも思えた。
「さて、それじゃ、ちょっと鍛えてあげましょうかね」
ほのぼのな雰囲気かと思っていたら、一転してペシエラが剣を取り出す。それを見たアイリスはスカートに隠した短剣を取り出して構える。
「へぇ、暗器の扱いに慣れてるとは言ってたけど、その丈の長いスカートから最小限のまくりで短剣を取り出すとは、本当に必死に練習したのでしょうね」
ペシエラは、まるで悪役のように呟く。
「お姉様。二人で少し稽古してますので、湯浴みができるようにお願いしますわ」
「了解。無理しないでよ」
「分かってますわ」
そう言って、チェリシアは新たな天幕を一張り取り出していた。
「さぁ、いきますわよ?」
「くっ、やってやるわよ」
ペシエラが剣を構えると、アイリスも短剣を持った両手をクロスさせて深く構えた。
こうして、ペシエラによる剣の稽古は、辺りが暗くなるまで続けられたのだった。
この時アイリスが着ているメイド服は、マゼンダ侯爵家のものではなく、コーラル伯爵家のものへと変わっていた。
移動手段はエアリアルボード。馬車で六日掛けて移動した道のりを、たったの二日で移動してしまう優れ物だ。
「……あなたたちを殺せなかった理由が分かるわ」
アイリスはため息をついた。
「ねえ、アイリス。あなた、どういった技能を持っているのかしら」
ペシエラが尋ねる。
「裏稼業をやっている感じですけれど、具体的に何ができるのか知りたいですわ」
せがまれるように聞かれて、アイリスは困惑している。
「一応、一種の色仕掛けと暗器の扱いくらいよ。魔法は得意じゃないし、薬学知識も乏しいわ」
しかし、今は主人となった二人に逆らう事はできず、正直に話す。
「薬学……。という事は、パープリア男爵家には毒や薬の扱えるという者が居るという事かしら」
「そういう事。お父様や一部の使用人が扱えるわ。ちなみに、お母様やお兄様は裏稼業の事は知らないわ。私は女だったから選ばれたようなものよ」
チェリシアの疑問に答えるアイリス。加えて、母と兄は無関係という情報が引き出せた。
それと同時に、ペシエラは逆行前のヴィオレスの行動に合点がいった。関わっていないが、薄々は家の事には気付いていたのだろう。そして、妹の死で父親に詰め寄り、冷たくあしらわれて袂を分かったのだ。近衛騎士に志願したのは、おそらく父親への当てつけだったのだろう。
さて、話しているうちに、合宿の往路で魔物の襲撃があった地点に到着する。時間的にもここで野営をする事になる。
チェリシアが収納魔法で天幕やら夕ご飯などを取り出していると、
「な、な、何よそれ!」
目撃したアイリスが騒ぎ始めた。
「何って、収納魔法よ。いろいろしまえてとても便利なのよ」
「し、信じられない。そんなの扱える人物なんてそう居るものじゃないのよ? あなたたち、どれだけ規格外なのよ……」
淡々と答えるチェリシアだが、アイリスは今にも腰を抜かしそうなくらい驚いていた。
「アイリス? 今は私たちだけですが、今のあなたは侍女、言葉遣いには気を付ける事ですわね」
「うっ……。か、畏まりました」
ペシエラがひと睨みして忠告すれば、アイリスは顔を引き攣らせながら従った。
「一応、主従の関係にはなるけど、アイリスさんは私たちの庇護下にあるわ。ペシエラだってきつくは言うけど、本心はあなたの事を心配してるんだから」
「お、お姉様! ……余計な事は言わないで下さいませ」
チェリシアがバラしてしまうと、ペシエラは慌てたようにチェリシアを責めた。
「ふふっ、本当にお二人は仲がいいのですね」
その光景に、アイリスはつい笑ってしまった。微笑ましく、どこか羨ましいとも思えた。
「さて、それじゃ、ちょっと鍛えてあげましょうかね」
ほのぼのな雰囲気かと思っていたら、一転してペシエラが剣を取り出す。それを見たアイリスはスカートに隠した短剣を取り出して構える。
「へぇ、暗器の扱いに慣れてるとは言ってたけど、その丈の長いスカートから最小限のまくりで短剣を取り出すとは、本当に必死に練習したのでしょうね」
ペシエラは、まるで悪役のように呟く。
「お姉様。二人で少し稽古してますので、湯浴みができるようにお願いしますわ」
「了解。無理しないでよ」
「分かってますわ」
そう言って、チェリシアは新たな天幕を一張り取り出していた。
「さぁ、いきますわよ?」
「くっ、やってやるわよ」
ペシエラが剣を構えると、アイリスも短剣を持った両手をクロスさせて深く構えた。
こうして、ペシエラによる剣の稽古は、辺りが暗くなるまで続けられたのだった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる