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第六章 一年次・夏
第111話 調査開始
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翌日、チェリシアとペシエラの二人は、アイリスも連れてサファイア湖を目指していた。目的は、教官二人が投げ捨てたという宝珠の回収。場所は湖なのだから、よっぽどの事がない限り、その場に沈んでいるはずである。時間的にも一週間で、土砂の堆積もそう深くはないはずである。
この時アイリスが着ているメイド服は、マゼンダ侯爵家のものではなく、コーラル伯爵家のものへと変わっていた。
移動手段はエアリアルボード。馬車で六日掛けて移動した道のりを、たったの二日で移動してしまう優れ物だ。
「……あなたたちを殺せなかった理由が分かるわ」
アイリスはため息をついた。
「ねえ、アイリス。あなた、どういった技能を持っているのかしら」
ペシエラが尋ねる。
「裏稼業をやっている感じですけれど、具体的に何ができるのか知りたいですわ」
せがまれるように聞かれて、アイリスは困惑している。
「一応、一種の色仕掛けと暗器の扱いくらいよ。魔法は得意じゃないし、薬学知識も乏しいわ」
しかし、今は主人となった二人に逆らう事はできず、正直に話す。
「薬学……。という事は、パープリア男爵家には毒や薬の扱えるという者が居るという事かしら」
「そういう事。お父様や一部の使用人が扱えるわ。ちなみに、お母様やお兄様は裏稼業の事は知らないわ。私は女だったから選ばれたようなものよ」
チェリシアの疑問に答えるアイリス。加えて、母と兄は無関係という情報が引き出せた。
それと同時に、ペシエラは逆行前のヴィオレスの行動に合点がいった。関わっていないが、薄々は家の事には気付いていたのだろう。そして、妹の死で父親に詰め寄り、冷たくあしらわれて袂を分かったのだ。近衛騎士に志願したのは、おそらく父親への当てつけだったのだろう。
さて、話しているうちに、合宿の往路で魔物の襲撃があった地点に到着する。時間的にもここで野営をする事になる。
チェリシアが収納魔法で天幕やら夕ご飯などを取り出していると、
「な、な、何よそれ!」
目撃したアイリスが騒ぎ始めた。
「何って、収納魔法よ。いろいろしまえてとても便利なのよ」
「し、信じられない。そんなの扱える人物なんてそう居るものじゃないのよ? あなたたち、どれだけ規格外なのよ……」
淡々と答えるチェリシアだが、アイリスは今にも腰を抜かしそうなくらい驚いていた。
「アイリス? 今は私たちだけですが、今のあなたは侍女、言葉遣いには気を付ける事ですわね」
「うっ……。か、畏まりました」
ペシエラがひと睨みして忠告すれば、アイリスは顔を引き攣らせながら従った。
「一応、主従の関係にはなるけど、アイリスさんは私たちの庇護下にあるわ。ペシエラだってきつくは言うけど、本心はあなたの事を心配してるんだから」
「お、お姉様! ……余計な事は言わないで下さいませ」
チェリシアがバラしてしまうと、ペシエラは慌てたようにチェリシアを責めた。
「ふふっ、本当にお二人は仲がいいのですね」
その光景に、アイリスはつい笑ってしまった。微笑ましく、どこか羨ましいとも思えた。
「さて、それじゃ、ちょっと鍛えてあげましょうかね」
ほのぼのな雰囲気かと思っていたら、一転してペシエラが剣を取り出す。それを見たアイリスはスカートに隠した短剣を取り出して構える。
「へぇ、暗器の扱いに慣れてるとは言ってたけど、その丈の長いスカートから最小限のまくりで短剣を取り出すとは、本当に必死に練習したのでしょうね」
ペシエラは、まるで悪役のように呟く。
「お姉様。二人で少し稽古してますので、湯浴みができるようにお願いしますわ」
「了解。無理しないでよ」
「分かってますわ」
そう言って、チェリシアは新たな天幕を一張り取り出していた。
「さぁ、いきますわよ?」
「くっ、やってやるわよ」
ペシエラが剣を構えると、アイリスも短剣を持った両手をクロスさせて深く構えた。
こうして、ペシエラによる剣の稽古は、辺りが暗くなるまで続けられたのだった。
この時アイリスが着ているメイド服は、マゼンダ侯爵家のものではなく、コーラル伯爵家のものへと変わっていた。
移動手段はエアリアルボード。馬車で六日掛けて移動した道のりを、たったの二日で移動してしまう優れ物だ。
「……あなたたちを殺せなかった理由が分かるわ」
アイリスはため息をついた。
「ねえ、アイリス。あなた、どういった技能を持っているのかしら」
ペシエラが尋ねる。
「裏稼業をやっている感じですけれど、具体的に何ができるのか知りたいですわ」
せがまれるように聞かれて、アイリスは困惑している。
「一応、一種の色仕掛けと暗器の扱いくらいよ。魔法は得意じゃないし、薬学知識も乏しいわ」
しかし、今は主人となった二人に逆らう事はできず、正直に話す。
「薬学……。という事は、パープリア男爵家には毒や薬の扱えるという者が居るという事かしら」
「そういう事。お父様や一部の使用人が扱えるわ。ちなみに、お母様やお兄様は裏稼業の事は知らないわ。私は女だったから選ばれたようなものよ」
チェリシアの疑問に答えるアイリス。加えて、母と兄は無関係という情報が引き出せた。
それと同時に、ペシエラは逆行前のヴィオレスの行動に合点がいった。関わっていないが、薄々は家の事には気付いていたのだろう。そして、妹の死で父親に詰め寄り、冷たくあしらわれて袂を分かったのだ。近衛騎士に志願したのは、おそらく父親への当てつけだったのだろう。
さて、話しているうちに、合宿の往路で魔物の襲撃があった地点に到着する。時間的にもここで野営をする事になる。
チェリシアが収納魔法で天幕やら夕ご飯などを取り出していると、
「な、な、何よそれ!」
目撃したアイリスが騒ぎ始めた。
「何って、収納魔法よ。いろいろしまえてとても便利なのよ」
「し、信じられない。そんなの扱える人物なんてそう居るものじゃないのよ? あなたたち、どれだけ規格外なのよ……」
淡々と答えるチェリシアだが、アイリスは今にも腰を抜かしそうなくらい驚いていた。
「アイリス? 今は私たちだけですが、今のあなたは侍女、言葉遣いには気を付ける事ですわね」
「うっ……。か、畏まりました」
ペシエラがひと睨みして忠告すれば、アイリスは顔を引き攣らせながら従った。
「一応、主従の関係にはなるけど、アイリスさんは私たちの庇護下にあるわ。ペシエラだってきつくは言うけど、本心はあなたの事を心配してるんだから」
「お、お姉様! ……余計な事は言わないで下さいませ」
チェリシアがバラしてしまうと、ペシエラは慌てたようにチェリシアを責めた。
「ふふっ、本当にお二人は仲がいいのですね」
その光景に、アイリスはつい笑ってしまった。微笑ましく、どこか羨ましいとも思えた。
「さて、それじゃ、ちょっと鍛えてあげましょうかね」
ほのぼのな雰囲気かと思っていたら、一転してペシエラが剣を取り出す。それを見たアイリスはスカートに隠した短剣を取り出して構える。
「へぇ、暗器の扱いに慣れてるとは言ってたけど、その丈の長いスカートから最小限のまくりで短剣を取り出すとは、本当に必死に練習したのでしょうね」
ペシエラは、まるで悪役のように呟く。
「お姉様。二人で少し稽古してますので、湯浴みができるようにお願いしますわ」
「了解。無理しないでよ」
「分かってますわ」
そう言って、チェリシアは新たな天幕を一張り取り出していた。
「さぁ、いきますわよ?」
「くっ、やってやるわよ」
ペシエラが剣を構えると、アイリスも短剣を持った両手をクロスさせて深く構えた。
こうして、ペシエラによる剣の稽古は、辺りが暗くなるまで続けられたのだった。
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