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第六章 一年次・夏
第109話 アイリス変身
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一方で、ロゼリアたちも動いていた。
「アイリス、一応あなたの事は死んだものとして、早馬には言伝てあります。ですので、容姿を変えておきましょうか」
ロゼリアがアイリスにこう告げる。一体何をされるのかと、アイリスは身構えた。
「ペシエラに聞いた話、パープリアは暗殺術の扱える家系らしいですからね。でしたら、隠密の役に立つように、変装とかできると便利ですよ」
チェリシアはにっこりと笑う。
「そうそう。あなたに渡したその髪飾り、昨夜のうちにちょっと細工しましてね、面白い魔法を付与したんですのよ」
ロゼリアもにっこりと笑う。二人の笑顔に、アイリスは恐怖を感じた。
「元々は防護の魔法だけだったんですけどね。アイリスさんが予想外の人物だったので、付け足したんですよ」
そう言って、アイリスが手に持つ髪飾りを手に取るロゼリア。中心くらいに据えられた魔石を取り出すと、それにチェリシアが光魔法の魔力を流す。
するとどうだろう。魔石から光が溢れ、先程までの会話が音声付きで動く絵として映し出された。
「写真魔法を発展させた、録画魔法です。持ち主の視覚と聴覚を共有して、映像として残す魔法です。写真ができたから、これもできるかなと思って、ようやく完成させたんですよ」
「これを用いて、国の諜報として働いてもらうのよ。容姿を変える必要性が分かるでしょ?」
安心したような表情のチェリシアに、強気な表情でアイリスを見るロゼリア。アイリスはまだ抵抗を試みようとするが、
「逃げても無駄ですわよ。もはやあなたには拒否権は無いのですから、観念しなさい」
後ろから現れたペシエラに阻まれた。
「うっ……、分かったわよ」
前門の虎後門の狼、アイリスはその場に崩れ落ちた。
結局、アイリスは髪型と髪色を変えた。胸上まであったストレートの髪は軽くウェーブさせて、それをポニーテールにする。髪色も薄紫だったものをコーラル伯爵家に近いピンク色へと、魔法で染色する。
着ているドレスも、ロゼリア付のシアンが予備に持っていたメイド服へと着替えさせる。名前はあえて変えず、アイリスのままにしておいた。同名の人間なんて珍しくもない。
渡していた髪飾りは、ポニーテールでも問題なく着けられた。
「あとは伊達メガネでも掛けときましょう」
どこで用意していたか、レンズの入っていないメガネをアイリスに掛けさせる。
「うん、随分と印象が変わりましたね」
「この姿も似合ってるわね」
ロゼリアとチェリシアが褒める中、鏡を覗き込んだアイリスは、自分の姿に驚いた。
「アイリス、これからはチェリシア、ペシエラのどちらかと一緒に行動して下さい。裏切らなければ身の安全は保証しましょう」
ロゼリアの言葉に、アイリスは黙って頷く。どのみち死ぬ予定だったのを、温情を掛けられて生き延びたのだ。男爵令嬢から平民への降格は屈辱だが、ペシエラが相手とあってはむしろ生き地獄のように思える。なので、アイリスは逆らう事を諦めた。
野営の天幕から外へ出ると、朝食を準備していたシェイディアやグレイアがアイリスの姿を見て驚いた。
「えっ、そのメガネのメイドって、アイリスさん?」
「ええ、そうよ。よく似合っているでしょう?」
メイド姿のアイリスは、緊張したような動きをしている。
「どう見てもメイドさんね。でも、どうしてそのような姿に?」
グレイアが尋ねてくる。
「おそらくこのままパープリア家に戻っても、酷い仕打ちを受けるでしょう。だから、その前に手を打たせてもらったのよ。詳しくは王都に戻ってから説明するわ」
ロゼリアがこう言うと、グレイアたち五人は詮索をやめて、王都まで我慢する事にした。
食事をしながら、ペシエラはアイリスに小声で話し掛ける。
「爵位が無くなるつらいでしょうけど、私たちの侍女になるなら特典はありますわよ。マゼンダ商会の新作を、タダでいち早く手に入れられるんですからね。丁重に扱いますから、黙って使われなさい」
微笑むペシエラに、アイリスは恐怖しか感じられなかった。
なんとも異様な空気の中、夏の合宿は終わりを告げようとしているのだった。
「アイリス、一応あなたの事は死んだものとして、早馬には言伝てあります。ですので、容姿を変えておきましょうか」
ロゼリアがアイリスにこう告げる。一体何をされるのかと、アイリスは身構えた。
「ペシエラに聞いた話、パープリアは暗殺術の扱える家系らしいですからね。でしたら、隠密の役に立つように、変装とかできると便利ですよ」
チェリシアはにっこりと笑う。
「そうそう。あなたに渡したその髪飾り、昨夜のうちにちょっと細工しましてね、面白い魔法を付与したんですのよ」
ロゼリアもにっこりと笑う。二人の笑顔に、アイリスは恐怖を感じた。
「元々は防護の魔法だけだったんですけどね。アイリスさんが予想外の人物だったので、付け足したんですよ」
そう言って、アイリスが手に持つ髪飾りを手に取るロゼリア。中心くらいに据えられた魔石を取り出すと、それにチェリシアが光魔法の魔力を流す。
するとどうだろう。魔石から光が溢れ、先程までの会話が音声付きで動く絵として映し出された。
「写真魔法を発展させた、録画魔法です。持ち主の視覚と聴覚を共有して、映像として残す魔法です。写真ができたから、これもできるかなと思って、ようやく完成させたんですよ」
「これを用いて、国の諜報として働いてもらうのよ。容姿を変える必要性が分かるでしょ?」
安心したような表情のチェリシアに、強気な表情でアイリスを見るロゼリア。アイリスはまだ抵抗を試みようとするが、
「逃げても無駄ですわよ。もはやあなたには拒否権は無いのですから、観念しなさい」
後ろから現れたペシエラに阻まれた。
「うっ……、分かったわよ」
前門の虎後門の狼、アイリスはその場に崩れ落ちた。
結局、アイリスは髪型と髪色を変えた。胸上まであったストレートの髪は軽くウェーブさせて、それをポニーテールにする。髪色も薄紫だったものをコーラル伯爵家に近いピンク色へと、魔法で染色する。
着ているドレスも、ロゼリア付のシアンが予備に持っていたメイド服へと着替えさせる。名前はあえて変えず、アイリスのままにしておいた。同名の人間なんて珍しくもない。
渡していた髪飾りは、ポニーテールでも問題なく着けられた。
「あとは伊達メガネでも掛けときましょう」
どこで用意していたか、レンズの入っていないメガネをアイリスに掛けさせる。
「うん、随分と印象が変わりましたね」
「この姿も似合ってるわね」
ロゼリアとチェリシアが褒める中、鏡を覗き込んだアイリスは、自分の姿に驚いた。
「アイリス、これからはチェリシア、ペシエラのどちらかと一緒に行動して下さい。裏切らなければ身の安全は保証しましょう」
ロゼリアの言葉に、アイリスは黙って頷く。どのみち死ぬ予定だったのを、温情を掛けられて生き延びたのだ。男爵令嬢から平民への降格は屈辱だが、ペシエラが相手とあってはむしろ生き地獄のように思える。なので、アイリスは逆らう事を諦めた。
野営の天幕から外へ出ると、朝食を準備していたシェイディアやグレイアがアイリスの姿を見て驚いた。
「えっ、そのメガネのメイドって、アイリスさん?」
「ええ、そうよ。よく似合っているでしょう?」
メイド姿のアイリスは、緊張したような動きをしている。
「どう見てもメイドさんね。でも、どうしてそのような姿に?」
グレイアが尋ねてくる。
「おそらくこのままパープリア家に戻っても、酷い仕打ちを受けるでしょう。だから、その前に手を打たせてもらったのよ。詳しくは王都に戻ってから説明するわ」
ロゼリアがこう言うと、グレイアたち五人は詮索をやめて、王都まで我慢する事にした。
食事をしながら、ペシエラはアイリスに小声で話し掛ける。
「爵位が無くなるつらいでしょうけど、私たちの侍女になるなら特典はありますわよ。マゼンダ商会の新作を、タダでいち早く手に入れられるんですからね。丁重に扱いますから、黙って使われなさい」
微笑むペシエラに、アイリスは恐怖しか感じられなかった。
なんとも異様な空気の中、夏の合宿は終わりを告げようとしているのだった。
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