110 / 431
第六章 一年次・夏
第108話 男性陣の会話
しおりを挟む
帰路最初の野営。
アイリスはペシエラを伴って、シルヴァノとペイルの元を訪れた。そこでは、今回の二回の魔物の襲撃のうち、サファイア湖での一件について、父親から言われた事をすべて告白した。
しかし、往路の襲撃についてはまったく関与していなかったようで、こちらについての情報はまったく得られなかった。
ペシエラが感じた不穏な魔力は、ガレンに制圧された二人の教官とも異なっており、往路の襲撃はサファイア湖の一件の三人とは別の実行犯だったと考えられる。
「それにしても、ペシエラ嬢は懐が広い方のようですね」
攻略対象五人は、野営でもしっかり固まっている。
「あぁ、殿下たちを狙った三人に対して極刑を求めないどころか、自分の側に引き込もうとしているらしい。普通は考えられん話だな」
チークウッドとオフライトは、ペシエラの考え方を理解しきれないまでも、評価はしているようである。
「パープリア男爵は食えない方だと、父から伺っております。三人ともうまく丸め込まれたのではないのかという事ですよね?」
「ペシエラ嬢の考えでは、そういう事なのでしょうね」
ロイエールの見解に、シルヴァノはそう相槌を入れる。
「だが、自国の王子のみならぬ、隣国の俺まで巻き込んだんだ。そのパープリアとかいう男爵をどうにかできぬのなら、最悪戦争という選択肢になるぞ?」
「それはそうですね。ペイル王子、誠に申し訳ありませんでした」
ペイルに対して、シルヴァノが謝罪する。自国の者が他国の王族を害しようとしたのだ。謝罪は当然であろう。
「まぁ、俺もそこまで心は狭くない。一応今回の事は親父に報告させてもらうが、偶然という事にはしておく」
ペイルはそう言って、大きくため息をついた。
「しかし、ペシエラとは何者なのだろうな。十歳という魔法の使える最低年齢で大規模魔法は使うし、剣術の腕前も相当なものだ。俺もかなり努力をしたが、あの程度は本当に説明がつかん」
自分より若くて、自分の努力の更に上を行くペシエラの存在は、羨ましくて憎たらしくて、そして眩しかった。それは、他の面々も同じだった。
「そのペシエラ様とその姉チェリシア様、友人ロゼリア様は仲が良いですし、マゼンダ商会の要はあの三人だと、父をはじめとしてドール商会は認識しております」
「ああ、ロゼリア嬢は侯爵家の娘とあって交友関係が広いし、自身も努力家だ。チェリシア嬢は体力こそ無いが、発想自体は柔軟だし奇抜でもある。しかし、やはり頭一つ以上飛び抜けているな、ペシエラ嬢は」
オフライトも、三人の事をよく見ている。
「しかし、婚約者が居る身として、他の令嬢にうつつを抜かすのはどうかと思いますよ、オフライト」
「誰が浮気なんぞするものか。ただ、あの三人は誰もが注目する存在だ。シルヴァノ、誰を選ぶんだ?」
「わ、私ですか?!」
オフライトが話を振れば、シルヴァノは慌てたように反応する。
だが、オフライトの言い分は分からなくもない。
シルヴァノは現状国王夫妻の唯一の子である。そして、先ほど挙げた三人を婚約者候補としており、この中から誰を伴侶として選ぶのかが、貴族たちの間では賭けにまで発展している状態なのである。
「隣国の婚約者の話には深入りしないが、それよりもそのパープリアとかいう男爵の方をどうにかした方がいい。ペシエラに近付いたアイリスとかいう娘も、直前まで殺意を悟らせなかったらしいし、秘密裏に足元を掬われかねんぞ」
「そうですね。早馬として王都に向かわせた護衛も、パープリア男爵の息がかかっていないとは言い切れませんし、これは調査が難航しそうですね」
ペイルの言葉に、シルヴァノは相槌を打つ。
「確かに、父上もパープリア男爵には苦労しているようですからね。聞けば陛下の下知すらも、理由を付けて断る事もあるらしいです。その度に調整を掛ける父上の心労は察せます」
チークウッドは額に手を当てて、首を左右に振る。
「何にしても、その食わせ者のパープリアを、処罰できないものか……。今回の襲撃は利用できそうだ」
「日数がありましたし、失敗はもう伝わっている可能性はありますけれどね」
「それでも、せっかくの機会です。実の娘を囮にした下種に、制裁を下してくれましょう」
シルヴァノのたちは、自分たちの命を狙ったならず者を成敗しようと、決意を固めるのだった。
アイリスはペシエラを伴って、シルヴァノとペイルの元を訪れた。そこでは、今回の二回の魔物の襲撃のうち、サファイア湖での一件について、父親から言われた事をすべて告白した。
しかし、往路の襲撃についてはまったく関与していなかったようで、こちらについての情報はまったく得られなかった。
ペシエラが感じた不穏な魔力は、ガレンに制圧された二人の教官とも異なっており、往路の襲撃はサファイア湖の一件の三人とは別の実行犯だったと考えられる。
「それにしても、ペシエラ嬢は懐が広い方のようですね」
攻略対象五人は、野営でもしっかり固まっている。
「あぁ、殿下たちを狙った三人に対して極刑を求めないどころか、自分の側に引き込もうとしているらしい。普通は考えられん話だな」
チークウッドとオフライトは、ペシエラの考え方を理解しきれないまでも、評価はしているようである。
「パープリア男爵は食えない方だと、父から伺っております。三人ともうまく丸め込まれたのではないのかという事ですよね?」
「ペシエラ嬢の考えでは、そういう事なのでしょうね」
ロイエールの見解に、シルヴァノはそう相槌を入れる。
「だが、自国の王子のみならぬ、隣国の俺まで巻き込んだんだ。そのパープリアとかいう男爵をどうにかできぬのなら、最悪戦争という選択肢になるぞ?」
「それはそうですね。ペイル王子、誠に申し訳ありませんでした」
ペイルに対して、シルヴァノが謝罪する。自国の者が他国の王族を害しようとしたのだ。謝罪は当然であろう。
「まぁ、俺もそこまで心は狭くない。一応今回の事は親父に報告させてもらうが、偶然という事にはしておく」
ペイルはそう言って、大きくため息をついた。
「しかし、ペシエラとは何者なのだろうな。十歳という魔法の使える最低年齢で大規模魔法は使うし、剣術の腕前も相当なものだ。俺もかなり努力をしたが、あの程度は本当に説明がつかん」
自分より若くて、自分の努力の更に上を行くペシエラの存在は、羨ましくて憎たらしくて、そして眩しかった。それは、他の面々も同じだった。
「そのペシエラ様とその姉チェリシア様、友人ロゼリア様は仲が良いですし、マゼンダ商会の要はあの三人だと、父をはじめとしてドール商会は認識しております」
「ああ、ロゼリア嬢は侯爵家の娘とあって交友関係が広いし、自身も努力家だ。チェリシア嬢は体力こそ無いが、発想自体は柔軟だし奇抜でもある。しかし、やはり頭一つ以上飛び抜けているな、ペシエラ嬢は」
オフライトも、三人の事をよく見ている。
「しかし、婚約者が居る身として、他の令嬢にうつつを抜かすのはどうかと思いますよ、オフライト」
「誰が浮気なんぞするものか。ただ、あの三人は誰もが注目する存在だ。シルヴァノ、誰を選ぶんだ?」
「わ、私ですか?!」
オフライトが話を振れば、シルヴァノは慌てたように反応する。
だが、オフライトの言い分は分からなくもない。
シルヴァノは現状国王夫妻の唯一の子である。そして、先ほど挙げた三人を婚約者候補としており、この中から誰を伴侶として選ぶのかが、貴族たちの間では賭けにまで発展している状態なのである。
「隣国の婚約者の話には深入りしないが、それよりもそのパープリアとかいう男爵の方をどうにかした方がいい。ペシエラに近付いたアイリスとかいう娘も、直前まで殺意を悟らせなかったらしいし、秘密裏に足元を掬われかねんぞ」
「そうですね。早馬として王都に向かわせた護衛も、パープリア男爵の息がかかっていないとは言い切れませんし、これは調査が難航しそうですね」
ペイルの言葉に、シルヴァノは相槌を打つ。
「確かに、父上もパープリア男爵には苦労しているようですからね。聞けば陛下の下知すらも、理由を付けて断る事もあるらしいです。その度に調整を掛ける父上の心労は察せます」
チークウッドは額に手を当てて、首を左右に振る。
「何にしても、その食わせ者のパープリアを、処罰できないものか……。今回の襲撃は利用できそうだ」
「日数がありましたし、失敗はもう伝わっている可能性はありますけれどね」
「それでも、せっかくの機会です。実の娘を囮にした下種に、制裁を下してくれましょう」
シルヴァノのたちは、自分たちの命を狙ったならず者を成敗しようと、決意を固めるのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる