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第六章 一年次・夏
第101話 乖離する歴史
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その後も順調にチェックポイントの課題をこなし、お昼を迎える。お腹が空いては無理もできないので、地図に示された休憩ポイントで、ペシエラたちは他の班と一緒に食事を取る。
「このポイントは、随分と湖に近いですわね」
食事の支度をしながら、ペシエラは地図を覗き込んでいる。
「ペシエラちゃん、手元見てよ」
「ん? 大丈夫ですわよ。本気を出せば見てなくても、ちゃんと切れますわよ?」
なぜ突っ込まれているかと言うと、ペシエラは今は包丁というかナイフを扱っている。調理の下ごしらえの最中なのだ。その最中によそ見をするから、周りが慌てているわけである。
実はナイフは持っているだけで使っていない。全部風魔法で切っている。逆行したペシエラは、その魔法の精度を高める努力をしてきたので、魔法だけで料理する事が可能になっていたのだ。それを知っているのは、ロゼリアとチェリシアのみである。
休憩ポイントに居るメンバーはそんな事は知らないので、ペシエラの行動が危なっかしく見えている。そこで、ペシエラは種明かしをする。
「ほら、こうやって魔法で調理してますので、まったく大丈夫なのですよ」
ペシエラが体を捻ると、食材が勝手に切り刻まれる様子が目に入ってきた。もうその場の全員の目が点になったのは言うまでもない。
「もちろん、自分の手で作るのも好きなのですが、魔法の鍛錬のために魔法で料理をしているのですわ。おかげでかなり繊細な魔法運用ができるようになりましたの」
ペシエラはそう言いながら、パンとスープを魔法だけで作り上げてしまった。ちなみにこれ以外にも防御魔法も常に展開しているので、普段からどれだけの魔力を垂れ流しにしているのか分からないほどになっていた。
「うっまーい!」
「これが魔法を駆使した料理なのか!?」
結局ペシエラ一人で作った料理だったが、休憩ポイントに居た全員から絶賛だった。
「ペシエラ様って、何でもできますのね」
「まったくね。魔法や剣術もできるし、料理もこの腕前。それでいてあたしたちより年下なんだから、信じられないわね」
アイリスとグレイアが褒めてくる。しかし、今のペシエラは謙虚だった。
「私の出身地、コーラル領は不毛の土地でろくな産業もありませんでしたからね、子どもながらにどうにかできないかと努力した結果ですわ。……私にはたまたま才能も伴っていたからこそ、できた事だと思いますわよ」
逆行前なら驕り高ぶっていただろうペシエラ。本当にアイヴォリー王国の滅亡を経験して、その時の事を反省しているのである。そのせいか、周りはペシエラの言葉にとても納得しているように見えた。
「はっ! せっかくのご飯です。湿っぽいのはやめに致しましょう」
ペシエラは暗い顔をやめて、思いっきり笑ってみせた。すると、それに釣られるように、周りも笑顔になった。
そうして、食事を再開した次の瞬間の事だった。
ザパーンと、水が弾ける音が響き渡った。
常に感知魔法も展開していたペシエラにとっても、それは本当に意外な展開だった。
音のした方を見て、ペシエラたちは恐怖に襲われる。
体の周りに浮かぶ水の粒。全身から漏れ出る青色の魔力。その中心に立つ体は水色で、まるで馬のような姿をしている。
「ケルピー……」
ペシエラは呟く。
ケルピーは水場に棲む、水を操る魔物だ。陸上では馬の姿だが、水中では後ろ脚が魚に変化する両性の魔物である。気性が荒い上に肉食で、陸地で襲った獲物を水中に引き込んで食い殺すとして、危険度は上位に分類されている。
(感知に引っ掛からなかったなんて、どういう事ですの?)
ペシエラだけは、ケルピーの存在よりもそちらに驚いていた。しかもこのケルピー、逆行前では出現しなかった魔物である。
三年前の魔物氾濫の厄災の暗龍といい、往路の魔物の襲撃といい、逆行前とは明らかに違う展開がペシエラたちを襲っている。
ペシエラは、目の前の魔物よりも、前回の出来事との狂い過ぎた差異の方に冷や汗を流すのだった。
「このポイントは、随分と湖に近いですわね」
食事の支度をしながら、ペシエラは地図を覗き込んでいる。
「ペシエラちゃん、手元見てよ」
「ん? 大丈夫ですわよ。本気を出せば見てなくても、ちゃんと切れますわよ?」
なぜ突っ込まれているかと言うと、ペシエラは今は包丁というかナイフを扱っている。調理の下ごしらえの最中なのだ。その最中によそ見をするから、周りが慌てているわけである。
実はナイフは持っているだけで使っていない。全部風魔法で切っている。逆行したペシエラは、その魔法の精度を高める努力をしてきたので、魔法だけで料理する事が可能になっていたのだ。それを知っているのは、ロゼリアとチェリシアのみである。
休憩ポイントに居るメンバーはそんな事は知らないので、ペシエラの行動が危なっかしく見えている。そこで、ペシエラは種明かしをする。
「ほら、こうやって魔法で調理してますので、まったく大丈夫なのですよ」
ペシエラが体を捻ると、食材が勝手に切り刻まれる様子が目に入ってきた。もうその場の全員の目が点になったのは言うまでもない。
「もちろん、自分の手で作るのも好きなのですが、魔法の鍛錬のために魔法で料理をしているのですわ。おかげでかなり繊細な魔法運用ができるようになりましたの」
ペシエラはそう言いながら、パンとスープを魔法だけで作り上げてしまった。ちなみにこれ以外にも防御魔法も常に展開しているので、普段からどれだけの魔力を垂れ流しにしているのか分からないほどになっていた。
「うっまーい!」
「これが魔法を駆使した料理なのか!?」
結局ペシエラ一人で作った料理だったが、休憩ポイントに居た全員から絶賛だった。
「ペシエラ様って、何でもできますのね」
「まったくね。魔法や剣術もできるし、料理もこの腕前。それでいてあたしたちより年下なんだから、信じられないわね」
アイリスとグレイアが褒めてくる。しかし、今のペシエラは謙虚だった。
「私の出身地、コーラル領は不毛の土地でろくな産業もありませんでしたからね、子どもながらにどうにかできないかと努力した結果ですわ。……私にはたまたま才能も伴っていたからこそ、できた事だと思いますわよ」
逆行前なら驕り高ぶっていただろうペシエラ。本当にアイヴォリー王国の滅亡を経験して、その時の事を反省しているのである。そのせいか、周りはペシエラの言葉にとても納得しているように見えた。
「はっ! せっかくのご飯です。湿っぽいのはやめに致しましょう」
ペシエラは暗い顔をやめて、思いっきり笑ってみせた。すると、それに釣られるように、周りも笑顔になった。
そうして、食事を再開した次の瞬間の事だった。
ザパーンと、水が弾ける音が響き渡った。
常に感知魔法も展開していたペシエラにとっても、それは本当に意外な展開だった。
音のした方を見て、ペシエラたちは恐怖に襲われる。
体の周りに浮かぶ水の粒。全身から漏れ出る青色の魔力。その中心に立つ体は水色で、まるで馬のような姿をしている。
「ケルピー……」
ペシエラは呟く。
ケルピーは水場に棲む、水を操る魔物だ。陸上では馬の姿だが、水中では後ろ脚が魚に変化する両性の魔物である。気性が荒い上に肉食で、陸地で襲った獲物を水中に引き込んで食い殺すとして、危険度は上位に分類されている。
(感知に引っ掛からなかったなんて、どういう事ですの?)
ペシエラだけは、ケルピーの存在よりもそちらに驚いていた。しかもこのケルピー、逆行前では出現しなかった魔物である。
三年前の魔物氾濫の厄災の暗龍といい、往路の魔物の襲撃といい、逆行前とは明らかに違う展開がペシエラたちを襲っている。
ペシエラは、目の前の魔物よりも、前回の出来事との狂い過ぎた差異の方に冷や汗を流すのだった。
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