逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第六章 一年次・夏

第96話 魔物の襲撃

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 関所を出てしばらくした頃、ペシエラが何かを感じ取る。
「……この気配、魔物ですわ」
 楽しそうに話をしている中での、ペシエラの呟き。同じ馬車に乗るアイリス、グレイア、男爵家令嬢の二人は、表情が固まった。
「えっ、魔物? アクアマリン領は魔物が少ないんじゃなかったの?」
 グレイアが疑わしそうに聞いてくる。しかし、ペシエラの表情は変わらない。
「この数は、少ないとは言えないですわね。……誰かが意図的に呼び出したとしか言えませんわ」
 ペシエラはそう言うと、馬車の扉を開けて馬車の屋根へとするっと登る。そして、
「皆さまはそのままにしていて下さいませ。すぐに終わらせてきますわ」
 そう言い残して、扉を閉めて魔法を使う。
 空飛ぶ魔法、エアリアルボードだ。
 このエアリアルボード、チェリシアが生み出した魔法だったが、ロゼリアたち三人揃って普通に使えるようになっていた。本当はコーラル領へ行く際に使う予定だったが、今回は緊急事態だ。やむを得ない。
「お姉様、魔物の群れが近付いてきてますので、討伐して参りますわ。ガレン先生たちにお伝え下さいませ」
 ペシエラは隣の馬車のチェリシアに伝言すると、さっと飛び立ってしまった。
 上空から周りを見るペシエラ。すると、馬車の進行方向に、多くの魔物が出現していた。
 ペシエラは更に、風と土の魔法を使い、魔物の探索を行う。
(大部分は進行方向に集中してますけれど、その手前には左右に隠れた魔物が居ますわね。明らかに私たちを狙った配置ですわ)
 同じ事を、馬車に乗ったロゼリアも行っていた。魔物の総数としては二百は下らないだろう。しかも挟撃の配置。これは明らかに人為的なものが感じられた。
「ペシエラ一人でも大丈夫でしょうが、私たちも備えましょう、チェリシア」
「うん、そうだね」
 チェリシアは頷くと、馬車群を囲むように広域の防御魔法を展開する。同じ動く物でも、個体指定でなければこれくらいは楽勝である。
「チェリシア、私はガレン先生に伝えてきます。防御魔法をしばらくお願いね」
 ロゼリアはそう言って、馬車の扉を開けて飛び出した。エアリアルボードの個人用展開、エアリアルスーツと名付けた魔法で、ロゼリアはガレンの所まで飛んでいく。ちなみに馬車の扉はチェリシアが魔法で閉じた。
「皆さんは落ち着いてこのままいれば大丈夫です。妹は強いですから」
 チェリシアはそう笑ってはいるが、馬車の中には不安な空気が広がっていた。
 さて、上空から見ているペシエラ。
(魔物が組織だって動いている事自体がおかしいですわ。待ち伏せに挟撃は、敵軍の迎撃の主たる戦法。……間違いなく背後には知恵を持つ者が居ますわね)
 ペシエラの感知魔法では、待ち伏せは数の割には強くなく、挟撃部隊の方に主力が集まっていると分析された。つまり、数押しで手間取っているところを一気に叩くという事だ。
 しかし、不可解なのは、多くが未熟な学生の団体だというのに、まるで戦争のような組織だった戦法を取っている事である。
 何が狙いか分からないが、王族に公爵家など身分の高い子女が居るので、それを狙っている可能性はある。
(うん、黙って叩き潰すだけですわね)
 ペシエラは意を決すると、待ち伏せ部隊に挨拶代わりの一撃を撃ち込む。
 ペシエラの手から放たれた魔法は、雨のように待ち伏せの魔物たちを貫いていく。
 一瞬にして、待ち伏せ部隊の半数以上が消える。突然の事で統率が乱れたか、挟撃部隊は空に浮かぶペシエラ目掛けて襲い掛かってきた。
「地べたでも這いつくばっている方が、お似合いではなくって?」
 挟撃部隊も飛べる魔物はほとんど居ない。なので、必然的に馬車群が危険に晒される事になる。そんな事は許されるはずもなく、
「潰れなさい!」
 ペシエラは土魔法と闇魔法の合成で、広範囲の魔物を地面に押し潰した。チェリシアから聞いていた重力を操る魔法である。
 さすがは元ヒロイン、反則的な魔力量である。
 あっという間に両サイドの挟撃部隊を壊滅させる。たった魔法二発で魔物の群れを制してみせたのだ。これが十歳だというのだから、末恐ろしいものである。
 この様子を遠くから見ていた者が居たのだが、全身ローブで覆われたその人物は、悔しそうな表情を見せてその場を立ち去ったのだった。
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