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第五章 学園編
第93話 合宿に備えろ
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ペシエラの話を信じるのならば、アイリスはこの後の夏の合宿で、魔物に襲われて亡くなる事になる。
「確かに、夏の合宿では魔物に襲われて、学生が数名犠牲になったとは聞いていましたが、その中にアイリスさんがいらっしゃるとは……」
「あの時、私たちを襲った魔物は、アイリス様たちを歯牙に掛けた後だったのですわ。その事を語るヴィオレス様は、とても沈んだ顔をされてましたから」
ロゼリアたちは、当時の事を思い出したようだった。それはもちろんだが、
「嘘……、あのイベントの陰でそんな事が起きていたなんて」
チェリシアもショックを受けているようだ。
「それはそうでしょう。ゲームも創作物ですから、聞こえや見た目がいいように取り繕うものよ。端役の生死なんて曖昧されても仕方ありません」
ロゼリアは、そう言った後に更に言葉を続ける。
「ですが、ここは現実。端役なんて存在しないわ。救えるというのなら、救った方がいいに決まっているわよ」
すごく言葉が力強い。
確かにそうだ。物語のような創作の場合、すべてを語ると描写が膨大になってしまう。どうしても切り捨てられる描写が出てきてしまう。主人公を中心に追いかけるのだから、それ以外の出来事は描写が省かれがちになるのだ。
しかし、その部分には実は重要な事件が起きているかも知れない。今回のアイリス・パープリアの死亡も、前回のペシエラにしてみれば重要な事件となっていたのだ。
「今回はせっかく一緒にお出かけの約束もした友人なのですから、どうにかして救いたいですわね」
ペシエラは腕を組んで考え始める。
「出現してすぐの対処は難しいわね。それだったら、あなたたち二人が得意な防御魔法を発動させる装飾品とかどうかしら」
「それはいいわね」
ロゼリアが思いついたように言った案を、二人は即採用する。
対応できないなら合流まで持ち堪えてもらえばいい。ただそれだけの事だが、有効な作戦ではある。
学園の行事という中ではあるが、試験とかは無いので、多少の魔道具は持ち込んでも大丈夫だろう。
「それでも目立ちにくいように、首飾りや髪飾りに擬態させた物がいいでしょうね」
「それでしたら、私にお任せあれですわ」
ロゼリアとチェリシアが相談していると、ペシエラが自信満々に引き受けようとする。
「いろいろあって装飾品の製作は得意ですし、なによりアイリス様を護る事は、前回私の為に命を投げ出して下さったヴィオレス様に報いるものですわ」
そう、逆行前の忠義に、ペシエラは報いたいと思ったのである。
ロゼリアのお小言に癇癪を起こしていた人間とは思えないくらい、女王という立場はペシエラという人物を大きく変化させていた。それが巡り巡って、逆行後のペシエラの人格を形成している。その姿にどこか安心するロゼリアだった。
「では、早速髪飾りを作ってきますわ。アイリス様の髪によく合う特製ですわよ」
そう言って、ペシエラはマゼンダ商会隣接の工房へと足を運んでいった。
夏の二の月と三の月の半々程を使う夏の合宿。移動で半分は潰れるが、一年次の中では大きなイベントである。森と水の豊かなアクアマリン領での生活は、避暑的な一面もあったりする。
しかし、その場所で惨劇が起きるというのだから、ロゼリアたちは戦々恐々である。
対策をペシエラ一人に任せず、自分たちもできうる限りの対策を用意する。
「アイリスさん一人だけじゃなくて、他の方の犠牲もありましたからね。チェリシア、その時になったら防御魔法を全員に展開できるかしら?」
「可能は可能よ。個別展開も二十人くらいまでなら、なんとかできると思うわ」
ふんすとチェリシアは気合を入れている。
やはり、広域防御と個別防御ではその難易度が変わってくる。個別防御では対象が常に動き回るのだ。その動きに対応できる繊細な魔法運用は、並大抵の魔法使いには無理な話なのである。
「さて、チェリシアとペシエラが頑張っているのです。私も合宿を乗り越える為に手を打ちませんとね」
ロゼリアはそう言って、紙と万年筆を取り出し、当時の状況を思い出しながら紙に記していった。
同じ過ちは二度と繰り返さない。
その思いが三人を動かしていた。
「確かに、夏の合宿では魔物に襲われて、学生が数名犠牲になったとは聞いていましたが、その中にアイリスさんがいらっしゃるとは……」
「あの時、私たちを襲った魔物は、アイリス様たちを歯牙に掛けた後だったのですわ。その事を語るヴィオレス様は、とても沈んだ顔をされてましたから」
ロゼリアたちは、当時の事を思い出したようだった。それはもちろんだが、
「嘘……、あのイベントの陰でそんな事が起きていたなんて」
チェリシアもショックを受けているようだ。
「それはそうでしょう。ゲームも創作物ですから、聞こえや見た目がいいように取り繕うものよ。端役の生死なんて曖昧されても仕方ありません」
ロゼリアは、そう言った後に更に言葉を続ける。
「ですが、ここは現実。端役なんて存在しないわ。救えるというのなら、救った方がいいに決まっているわよ」
すごく言葉が力強い。
確かにそうだ。物語のような創作の場合、すべてを語ると描写が膨大になってしまう。どうしても切り捨てられる描写が出てきてしまう。主人公を中心に追いかけるのだから、それ以外の出来事は描写が省かれがちになるのだ。
しかし、その部分には実は重要な事件が起きているかも知れない。今回のアイリス・パープリアの死亡も、前回のペシエラにしてみれば重要な事件となっていたのだ。
「今回はせっかく一緒にお出かけの約束もした友人なのですから、どうにかして救いたいですわね」
ペシエラは腕を組んで考え始める。
「出現してすぐの対処は難しいわね。それだったら、あなたたち二人が得意な防御魔法を発動させる装飾品とかどうかしら」
「それはいいわね」
ロゼリアが思いついたように言った案を、二人は即採用する。
対応できないなら合流まで持ち堪えてもらえばいい。ただそれだけの事だが、有効な作戦ではある。
学園の行事という中ではあるが、試験とかは無いので、多少の魔道具は持ち込んでも大丈夫だろう。
「それでも目立ちにくいように、首飾りや髪飾りに擬態させた物がいいでしょうね」
「それでしたら、私にお任せあれですわ」
ロゼリアとチェリシアが相談していると、ペシエラが自信満々に引き受けようとする。
「いろいろあって装飾品の製作は得意ですし、なによりアイリス様を護る事は、前回私の為に命を投げ出して下さったヴィオレス様に報いるものですわ」
そう、逆行前の忠義に、ペシエラは報いたいと思ったのである。
ロゼリアのお小言に癇癪を起こしていた人間とは思えないくらい、女王という立場はペシエラという人物を大きく変化させていた。それが巡り巡って、逆行後のペシエラの人格を形成している。その姿にどこか安心するロゼリアだった。
「では、早速髪飾りを作ってきますわ。アイリス様の髪によく合う特製ですわよ」
そう言って、ペシエラはマゼンダ商会隣接の工房へと足を運んでいった。
夏の二の月と三の月の半々程を使う夏の合宿。移動で半分は潰れるが、一年次の中では大きなイベントである。森と水の豊かなアクアマリン領での生活は、避暑的な一面もあったりする。
しかし、その場所で惨劇が起きるというのだから、ロゼリアたちは戦々恐々である。
対策をペシエラ一人に任せず、自分たちもできうる限りの対策を用意する。
「アイリスさん一人だけじゃなくて、他の方の犠牲もありましたからね。チェリシア、その時になったら防御魔法を全員に展開できるかしら?」
「可能は可能よ。個別展開も二十人くらいまでなら、なんとかできると思うわ」
ふんすとチェリシアは気合を入れている。
やはり、広域防御と個別防御ではその難易度が変わってくる。個別防御では対象が常に動き回るのだ。その動きに対応できる繊細な魔法運用は、並大抵の魔法使いには無理な話なのである。
「さて、チェリシアとペシエラが頑張っているのです。私も合宿を乗り越える為に手を打ちませんとね」
ロゼリアはそう言って、紙と万年筆を取り出し、当時の状況を思い出しながら紙に記していった。
同じ過ちは二度と繰り返さない。
その思いが三人を動かしていた。
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