逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
89 / 431
第五章 学園編

第87話 元ヒロインですもの

しおりを挟む
 入学式と初日の試験をやり過ごせば、夏の期間までは特にイベントは無い。
 そういう事もあり、ロゼリアたちはのんびりと学生生活を過ごしていた。
 ……と思われたが、試験でペシエラが目立ち過ぎてしまったので、しばらくは大量のストーカーが発生していて大変だった。
 そんな中で、ペシエラは新しい魔法を開発してしまう。『ミラージュ』という幻影魔法だった。魔力までは消せないが、姿と気配を消してしまえる優れもの。廊下の曲がり角などで発動すれば、確実にストーカーを撒く事ができた。
「はぁ……、実に面倒ですわね」
 半ば自業自得ではあるが、さすがにストーカーの度が過ぎていた。
 そこで、ガレンに相談して、商会の商品開発という名目で、しばらくペシエラを休学させる事にした。入学直後の試験でも好成績だったので、意外とあっさりと認められた。その際、
「本当なら飛び級でもよかったのですが、規則は規則ですからね」
 と苦笑いをしていた。
 とりあえず、定期試験だけは受けてもらって、その成績だけで判定するという事だそうだ。
 クラスメイトに説明すれば非常に残念がってはいたが、その原因を作ったのはクラスメイトをはじめとした生徒たちだ。ロゼリアとチェリシアは呆れて物も言えなかった。
 その当のペシエラは、商会のある工房で商品への彫刻を行なっていた。現在はマゼンダ商会だけではなく、ドール商会にも赴いて彫刻の指導をしている。
 なにぶん、ペシエラの彫刻の腕前は両商会の中でもトップクラスなのだから仕方がない。
 ただ、これが編み物とかになると話は別。なので、ペシエラの生み出した彫刻の図案を元に、編み物や染色の職人たちが再現している。そして、そのデザインは、常に上位の売り上げを誇る人気商品ともなっていた。
 ところが、ずっと同じ作業をしていると、どうしても飽きてしまうし、そうなると疲れ方が著しくなる。作業が一段落したところで、ペシエラは机に突っ伏した。
「はぁ……、さすがに退屈ですわ」
 ストーカー騒ぎのせいで、王都のコーラル伯爵邸と二つの商会の中でしか行動できず、ペシエラは精神的に参り始めていた。
 何と言ってもストーカーが一人ではないし、影でコソコソではなく大挙して押し寄せるのだ。それを毎日やられれば、ペシエラでなくても精神的なダメージは計り知れなかった。
「ペシエラ様、失礼致します」
「あら、ロゼリアのところのシアンではありませんか。どうされたのかしら」
 ペシエラが休憩を入れていると、シアンがやって来た。いつもながら、元子爵令嬢であるシアンは表情が読めない。
「はい、入学式の後のお茶会の面々の身辺調査の途中経過のまとめをお持ちしたのですが、いかが致しましょうか」
「ロゼリアとお姉様が戻るまで、待ってもらえないかしら。私はまだ十歳ですし、お姉様たちほどの権限はありませんし、判断を仰ぎたいと思いますので」
「畏まりました。では、お嬢様たちが戻られる夕刻にまたお持ち致します」
「ええ、頼みますわ」
 シアンが部屋を出ていく。
 そして、ペシエラはしばらくしていい事を思いついた。
「そうだわ。写真魔法で新しい魔道具が作れないかしら。ちょうど私は休学で暇な身。時間ならいくらでもあるではありませんの」
 バタバタと部屋の片隅から魔石を取り出すペシエラ。
「写真魔法を記憶させて、それを写し出せるように魔術式を組み込めば、誰でも写真を撮って現像できるようになりますわ。あとは光と音を調整できれば、様々な場面で使える魔道具となるはずですわ」
 思い立ったが吉日と言わんばかりに、ペシエラは工房へ出向き、作業に取り掛かる。
 工房の職人と交流した結果、ある程度の部品製作までできるようになっていたペシエラ。魔石を収める箱や、写真魔法を使う時の手で作る四角の枠など、あっという間に作り上げていく。
 さすがは本来のヒロイン枠に生まれた少女。チート能力炸裂である。
 昼食の後からロゼリアたちが訪問するまでのたった四時間の間に、写真撮影機の試作品を二つも作り上げてしまった。
「一つは写真魔法と同じように音と光が出る物、もう一つは音も光もほとんど抑えた物。早速動作確認ですわ」
 しばらくはうきうきで、写真撮影に熱中するペシエラであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...