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第五章 学園編
第85話 チェリシア・コーラル・アイヴォリー
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逆行前の話である。
障害だったロゼリア・マゼンダを一族ごと排除したチェリシア・コーラルは、晴れて王子のシルヴァノ・アイヴォリーと婚約し、翌年に結婚した。
次代の女王となるべくして行われた妃教育と国政の勉強は大変だったが、そこは貧乏子爵領で鍛えた根性でなんとか乗り切ってみせた。
二十五で王位を継承する事も婚姻時に決まっており、継承までの間に子も二人授かった。
この間、チェリシアは学生時代に散々ロゼリアに言われた事を思い出していた。憎い相手だったから忘れていたがったのだが、女王となるべく行われた勉強を受けている間に、無意識に思い出してしまったようなのだ。
最初の頃こそ忌々しく思っていたのだが、王位継承の時期が近付くにつれて、言われていた事の正しさに気付き始めていた。
しかし、彼女は既にこの世に居ない。ロゼリアの亡霊を振り払うかのように、チェリシアは剣術にも打ち込んだ。その時に選んだ剣が、サーベルである。
そして、二十五で王位を継承する頃には、騎士団の誰もが敵わないレベルにまで剣術の腕前を上げた。
性格も随分と変わり、統治者として申し分ないレベルまでに成長した。政治力も、さすがは荒地同然のコーラル領を運営してきたコーラル子爵譲りの手腕を発揮しており、アイヴォリー王国の繁栄は約束されたかのように見えた。
夫であり国王のシルヴァノも、決して見劣りするような王ではなかった。
そうであるにもかかわらず、アイヴォリー王国は滅んでしまった。
直接的な最大の原因は、シルヴァノとチェリシアが王位を継承した直後、同盟関係にあったはずのモスグリネ王国が、アイヴォリー王国に対して宣戦布告、戦争へと突入した事だった。
新国王の誕生に湧く、王国が浮き足立った瞬間を狙いすましたかのように侵攻してきたのだ。
アイヴォリー王国とて、決して弱い国ではない。しかし、体制が移行する瞬間に生じた隙を突かれてしまい、迎撃に失敗してしまった。しかも、国内に間者を送り込まれていたようで、統制に狂いが生じていた。
侵攻を食い止める防衛戦の最中、前国王と前女王も前線に打って出るが、善戦虚しく戦死してしまった。
勢い付くモスグリネ王国軍。そして、間者の存在からうまく機能しないアイヴォリー王国軍の勢力差は、火を見るよりも明らかなくらいにまで拡大する。
いよいよ王都が戦場となり、シルヴァノとチェリシアも戦場に立たざるを得なくなってしまった。
王都攻防戦の最中、シルヴァノが戦死する。しかも相手はモスグリネ王国国王のペイルだった。その時のペイルの表情は、まるで蔑むような冷たい瞳をしていた。
チェリシアはその現場を目撃していた。そして、すぐさま膨大な魔力をもって、モスグリネ王国軍を半壊させる。しかし、相手の数が多すぎた。
剣術と魔法で敵を削ってはいくものの、なにぶん多勢に無勢。身辺警護程度の僅かな兵力では、波のように押し寄せるモスグリネ王国軍を退ける事は叶わなかった。
その上、消し去ったはずのマゼンダ侯爵家の派閥の暗躍もあって、チェリシアは敗走を決意。
しかし、そのチェリシアを、ペイルが自ら追撃する。焦燥し切ったチェリシアに退ける力はもはや無く、護衛の騎士たちが自ら盾となって、チェリシアは命からがら逃げ延びたのだった。
こうして、アイヴォリー王国の王都は陥落した。そして、チェリシアたちの子どもたちや国王たちに近かった忠臣たちは次々と処刑され、モスグリネ王国の属領とされ、アイヴォリー王国は滅亡したのだった。
逃げ延びたチェリシアは故郷に戻り、そこで細々と暮らしていたのだが、数年経ったある時に飢饉が起きる。元々蓄えのある土地ではなかったが故にすぐに食糧は尽き、チェリシアもその時に亡くなった。
……はずだった。
チェリシアが次に目を覚ました時、懐かしい天井を見上げていた。
チェリシアが驚いていると、視界に信じられないものが入ってきた。
幼い頃の自分の顔だった。
これでチェリシアは瞬時に理解した。自分は過去の自分の妹として生まれたのだと。そして、ペシエラと名付けられたチェリシアは、とりあえずはおとなしく様子を見る事にした。
そして、五歳になったある日、信じられない人物と再会する事となった。……そう、自分が死に追いやった令嬢、ロゼリア・マゼンダだ。
懐かしさと後悔と憎らしさと、様々な感情が入り混じる。なので、最初のうちは、ロゼリアを睨み付けていた。そのロゼリアと仲良くする姉も同じだ。
しかし、それもすぐに終わる。ロゼリアが「仲良くしたかった」と言って抱き締めてきたのだ。思いがけない行動に、ペシエラであるチェリシアは思考が混乱した。どうにも素直になれない。
しばらく付き合ってみて、ロゼリアの気持ちが本物と知った元チェリシアは、ようやく素直になる。
こうして、時空を超えた和解が成立し、今日に至るのだった。
障害だったロゼリア・マゼンダを一族ごと排除したチェリシア・コーラルは、晴れて王子のシルヴァノ・アイヴォリーと婚約し、翌年に結婚した。
次代の女王となるべくして行われた妃教育と国政の勉強は大変だったが、そこは貧乏子爵領で鍛えた根性でなんとか乗り切ってみせた。
二十五で王位を継承する事も婚姻時に決まっており、継承までの間に子も二人授かった。
この間、チェリシアは学生時代に散々ロゼリアに言われた事を思い出していた。憎い相手だったから忘れていたがったのだが、女王となるべく行われた勉強を受けている間に、無意識に思い出してしまったようなのだ。
最初の頃こそ忌々しく思っていたのだが、王位継承の時期が近付くにつれて、言われていた事の正しさに気付き始めていた。
しかし、彼女は既にこの世に居ない。ロゼリアの亡霊を振り払うかのように、チェリシアは剣術にも打ち込んだ。その時に選んだ剣が、サーベルである。
そして、二十五で王位を継承する頃には、騎士団の誰もが敵わないレベルにまで剣術の腕前を上げた。
性格も随分と変わり、統治者として申し分ないレベルまでに成長した。政治力も、さすがは荒地同然のコーラル領を運営してきたコーラル子爵譲りの手腕を発揮しており、アイヴォリー王国の繁栄は約束されたかのように見えた。
夫であり国王のシルヴァノも、決して見劣りするような王ではなかった。
そうであるにもかかわらず、アイヴォリー王国は滅んでしまった。
直接的な最大の原因は、シルヴァノとチェリシアが王位を継承した直後、同盟関係にあったはずのモスグリネ王国が、アイヴォリー王国に対して宣戦布告、戦争へと突入した事だった。
新国王の誕生に湧く、王国が浮き足立った瞬間を狙いすましたかのように侵攻してきたのだ。
アイヴォリー王国とて、決して弱い国ではない。しかし、体制が移行する瞬間に生じた隙を突かれてしまい、迎撃に失敗してしまった。しかも、国内に間者を送り込まれていたようで、統制に狂いが生じていた。
侵攻を食い止める防衛戦の最中、前国王と前女王も前線に打って出るが、善戦虚しく戦死してしまった。
勢い付くモスグリネ王国軍。そして、間者の存在からうまく機能しないアイヴォリー王国軍の勢力差は、火を見るよりも明らかなくらいにまで拡大する。
いよいよ王都が戦場となり、シルヴァノとチェリシアも戦場に立たざるを得なくなってしまった。
王都攻防戦の最中、シルヴァノが戦死する。しかも相手はモスグリネ王国国王のペイルだった。その時のペイルの表情は、まるで蔑むような冷たい瞳をしていた。
チェリシアはその現場を目撃していた。そして、すぐさま膨大な魔力をもって、モスグリネ王国軍を半壊させる。しかし、相手の数が多すぎた。
剣術と魔法で敵を削ってはいくものの、なにぶん多勢に無勢。身辺警護程度の僅かな兵力では、波のように押し寄せるモスグリネ王国軍を退ける事は叶わなかった。
その上、消し去ったはずのマゼンダ侯爵家の派閥の暗躍もあって、チェリシアは敗走を決意。
しかし、そのチェリシアを、ペイルが自ら追撃する。焦燥し切ったチェリシアに退ける力はもはや無く、護衛の騎士たちが自ら盾となって、チェリシアは命からがら逃げ延びたのだった。
こうして、アイヴォリー王国の王都は陥落した。そして、チェリシアたちの子どもたちや国王たちに近かった忠臣たちは次々と処刑され、モスグリネ王国の属領とされ、アイヴォリー王国は滅亡したのだった。
逃げ延びたチェリシアは故郷に戻り、そこで細々と暮らしていたのだが、数年経ったある時に飢饉が起きる。元々蓄えのある土地ではなかったが故にすぐに食糧は尽き、チェリシアもその時に亡くなった。
……はずだった。
チェリシアが次に目を覚ました時、懐かしい天井を見上げていた。
チェリシアが驚いていると、視界に信じられないものが入ってきた。
幼い頃の自分の顔だった。
これでチェリシアは瞬時に理解した。自分は過去の自分の妹として生まれたのだと。そして、ペシエラと名付けられたチェリシアは、とりあえずはおとなしく様子を見る事にした。
そして、五歳になったある日、信じられない人物と再会する事となった。……そう、自分が死に追いやった令嬢、ロゼリア・マゼンダだ。
懐かしさと後悔と憎らしさと、様々な感情が入り混じる。なので、最初のうちは、ロゼリアを睨み付けていた。そのロゼリアと仲良くする姉も同じだ。
しかし、それもすぐに終わる。ロゼリアが「仲良くしたかった」と言って抱き締めてきたのだ。思いがけない行動に、ペシエラであるチェリシアは思考が混乱した。どうにも素直になれない。
しばらく付き合ってみて、ロゼリアの気持ちが本物と知った元チェリシアは、ようやく素直になる。
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