逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
86 / 526
第五章 学園編

第84話 豹変

しおりを挟む
 シルヴァノ王子ルートのイベント『能力試験』。
 このイベントではチェリシアが魔法試験に臨み、魔力を暴走させて倒れてしまうというものだった。
 そして、医務室で目を覚ましたチェリシアに、シルヴァノ王子が「これからが楽しみだ」と声を掛けるというものである。
 ペシエラはチェリシアだし、この言葉が聞けたので、イベントは達成したと見ていいのだろう。チェリシアは慌ててペシエラ、シルヴァノ王子、ペイル王子の三人を写真魔法に収めた。
 今日だけでペシエラ関係の写真が四枚増えて、チェリシアはとても満足そうだった。
「……ここまで浮かれたチェリシアは、初めて見るわね」
 うきうきの笑顔を見せるチェリシアを見て、ロゼリアは隣で呆れていた。

「よし、これで全員の試験が終わった。結果は明日講義棟に貼り出されるから、各々で確認してくれ。以上、解散」
 武術教官の声で、学生たちが帰り始める。……はずだった。
「ペシエラちゃん、凄い!」
「あの剣捌きはどこで覚えたんだ?」
「魔法も凄いらしいね。本当に十歳かな?」
 ペシエラが学生たちに囲まれてしまった。あれだけの剣術を見せたのだ、仕方がない。
 そこへ、ロゼリアが颯爽と現れる。
「ペシエラ様、ガレン先生がお呼びですので参りましょう」
「そうでしたわね。それではみなさん、ごきげんよう」
 差し出されたロゼリアの手を取って、ペシエラは優雅に歩き出す。その美しい光景に、学生たちが見惚れた。
「天使だ……」
「あれで十歳……。天才って存在してますのね」
「こてんぱんにされたい」
 何か怪しい言葉も聞こえた気がしたが、ロゼリアとペシエラはチェリシアと合流して、ガレンの待つ職員室へと向かった。
 そして、ガレンの待つ職員室へやって来た。扉をノックして中へと入る。
 中では教官たちが採点に追われていた。
 この日はなにも新入生だけが試験だったわけではない。六年次生まで全学年で試験が行われたのだ。学年によって学生の人数に差があり、全体ではおおよそ八百人といったところだ。そんなわけで、多くの教官が採点に当たっているのだ。
 ガレンの席は奥の方にあった。自分の担当した学生の採点は終えているようで、職員室の中では暇にしている教官の一人だった。
「よく来ましたね」
 そう言って、ガレンがロゼリアたちの方を見る。
「ここまで来てくれたのに、ここでは話せませんので、場所を変えましょう」
 ガレンはそう言って席を立つ。そして、その歩く後ろをついていく。
 ガレンに連れられてやって来た場所は、空き教室だった。
 中へ入って扉を閉めると、ガレンが早速魔法を展開する。
「防音魔法を掛けました。これで外には話が漏れないでしょう」
 防音魔法、音を遮断する魔法であり、声以外にも物音を漏らさないようにする事ができる魔法だ。ちなみにこの音の遮断の方向性は、使う時に指定ができる。つまり、中から外へ、外から中へと、音の伝わりを遮断する方向を決められるのだ。
 四人は適当な椅子に座る。
 ロゼリアたちはどんな話を聞かされるのか、その事で緊張した面持ちとなっている。
 ガレンは静かに口を開く。
「単刀直入に聞こう。君たちは何者かな?」
 口調を変え、すごく重い声で尋ねてくるガレン。その雰囲気に、ロゼリアたちは背筋が凍る。
「な、何者って。私たちは普通の侯爵令嬢と伯爵令嬢ですわ」
「……あの魔力量で不思議な魔法まで使って、それでいて普通と言うのか……」
 ロゼリアの弁明に、ガレンが重苦しく言う。
 先程までの雰囲気と違い過ぎて、ロゼリアたちは飲まれそうになる。
「私はこれでも魔力を見る事ができるのでね。君たちには二人分の魔力が見えるのだよ」
 ロゼリアたちは青ざめて、息を飲み込む。
「二人分とは……どういう事なのかしら?」
 ロゼリアが完全に引いているため、ペシエラが代わりに質問する。
「通常、一人に見える魔力の層は一つしかない。だが、君たちはその層が二重になっているんだ。一つは一般的な魔力量だ。だが、それとは別に膨大な魔力の層が見える。これはどういう事かなと聞いているんだ」
 魔法試験の時からはとても想像できない、激しい口調である。このままでは追及も厳しくなると見て、ペシエラがロゼリアとチェリシアを見て、ぐっと拳を握る。
「分かりましたわ。このままじゃ何されるか分かりませんし、私がお答えしますわ」
 ペシエラが、ガレンを見て強い口調で答える。そう、逆行前、無理矢理ではあったが射止めた女王の座を務めた、チェリシア・コーラル・アイヴォリーの時のように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...