逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第五章 学園編

第80話 試験 その2

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 魔法試験の会場は、学園内にある数カ所の訓練場のうちの一つだ。周りは魔法が逸れた時の対処のための、防護魔法の掛けられた塀で囲まれている。
「本日は新入生の適性を確かめるための試験だ。遠慮はしなくていいぞ」
 魔法試験の教官が、声を大にして説明している。しかし、内容がどう聞いても脳筋の発想のそれである。
 魔法試験の会場に現れた新入生は三十人ほど。新入生全体の四分の一程度である。
 それにしても、貴族と一部平民の子どもが入学しているというのに、新入生の数が少ない印象を受ける。
「チェリシア、貴族はそれほど多くはないわ。それに王国の人口の八割は貴族領の住民なのだから、この程度の人数になるのよ」
 小声でチェリシアに説明するロゼリア。その説明で、チェリシアは人数の少なさに納得したようである。
 新入生は十三歳の男女のはずなので、唯一の十歳での入学を認められたペシエラは、その背丈の小ささで逆に目立っている。そのためか、一部の生徒がざわつき始めていた。
 そして、ついに大声が響き渡る。
「なんでこのチビが魔法試験に居るんだ!」
 服装を見るに下位貴族だろう男子学生が、ペシエラの存在にケチをつけ始めた。
「そうよ、その子は十歳よね? どうしてここに居るのかしら」
 触発されるように、別の女子生徒が騒ぐ。
 十歳の子が魔法試験の会場に居るという事は、普通に常識から考えればあり得ないだろう。なにせ魔法は、十歳から十二歳で発露する能力だからだ。その最低年齢の少女など、場違いにも程があると言いたいのだろう。……どんどんと罵声が広がっていく。
 その時だった。
 ズドンと大きな音がして、遠くにあった魔法試験の的に雷が落ちたのだ。その威力が桁違いに大きかったので、塀同様に防護魔法が掛けられた的が激しく燃え上がっていた。
「な、何だ今のは?」
 生徒たちが騒然とするが、その騒ぎもすぐに沈黙してしまった。
 彼らが見たものは、手を前に出して怒りを滲ませた表情をしているペシエラの姿だった。そう、ブチ切れモードである。
「……うるさい。あんたたちも、ああなりたいの?」
 静かに重苦しい口調で言うペシエラ。その睨みに、騒いでいた学生たちは息を飲んだ。
「え、えっと、ペシエラと言ったか? 今のは何なんだ?」
 監督役の教官が、ビビりながら尋ねてくる。魔法の教官ですら怯えさせるとは、どれだけ強力な魔法だったかがよく分かる。
「光属性の攻撃魔法ですわ。雷を魔法で再現しましたの」
 表情を変えず、淡々と答えるペシエラ。その鬼気迫る表情と低いトーンの声に、その場の全員が黙り込んだ。……頭を抱えるロゼリアと目を輝かせるチェリシアを除いて。
(まったく、分かってはいましたが、ここまで悪口を言われて黙っていられる程、私は大人ではありませんわ)
 ペシエラは間違いなくキレていたのだが、人ではなくキチンと的に当てている分、まだ冷静である。周りの学生は、この瞬間にこの少女を怒らせてはいけないと強く誓った。
「光属性でのこの魔法は、見た事がありませんね。この発想力と威力、間違いなくトップクラスの実力ですね」
 魔法の試験会場に、別の教官が現れた。
「しかし、そもそも光魔法に攻撃魔法はありません。そのような危険な魔法を生み出すなど、どういうおつもりですか?」
 新たに現れた教官の言葉に、学生たちが騒めいた。ロゼリアが頭を抱えた理由の一つがこれである。
 光魔法は回復や防御に長けている。攻撃と呼べるのは対アンデッドの浄化魔法くらいである。
「別に。日々の魔法の研究成果を、ここで一つ披露したに過ぎませんわ。あまりに頭に来たので、牽制に使っただけですわ。どういった風に役立てる事ができるのかが、これからの学園生活の中での、私の課題でしてよ」
 明らかに立場の上の人物にも臆さない、ペシエラチェリシアの良い点であり悪い点である。
「ふむ。魔法の才能はあるけれど、性格に難ありと認めておきますが、構いませんか?」
 中性的な面持ちの教官が、半ば脅しの入った言葉を掛けるが、
「構いませんわ。ですが、使いどころは弁えておりますし、先生方の手を煩わせるほど、私も愚かではありませんわ」
 ペシエラは正面から受けて立った。
「ふふふっ、そうですか。それは実に楽しみですね」
 教官は楽しそうに笑っている。
 周りの学生たちはどよめき、ロゼリアは再び頭を抱えていた。そして、教官にケンカを売ったペシエラの態度に、さすがのチェリシアも苦笑いを浮かべていた。
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