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第五章 学園編
第75話 四角を作って
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学園に足を踏み入れたロゼリアたちは、やはりというか目立っていた。なにせ、王子の婚約者候補という立場にあるのは、ロゼリアとチェリシアの二人だけである。貴族社会ではそういった話の伝わりは速いし、もう何年もその状態にあるので、正式な婚約者になるのはどちらなのか、賭けの対象になるくらいだった。
更に目立つ原因がペシエラだ。
彼女は十歳なので、他の学生と比べて明らかに背が低い。十三歳から入学できる学園に、十歳で特別に入学してきたとあって、目立たないわけがないのだ。
ロゼリアたちは、そういった視線をやり過ごし、人気の少ない場所へとやって来た。
ここでペシエラがロゼリアに話し掛けてきた。
「ロゼリア」
「何かしら」
「お姉様が開発した魔法を、一つ見せてさしあげますわ」
ペシエラが言った言葉に、ロゼリアは訳が分からなくなった。
「え、魔法を開発? また?」
ロゼリアが混乱しているのを無視して、ペシエラは両手の親指と人差し指を直角にして、四角形を作ってロゼリアに向けて構える。
ペシエラの手に魔力が集まった瞬間、明るい光とパシャッという音がペシエラの手から放たれた。
「な、何なの、今のは……」
不意を突かれたロゼリアの目が、少しチカチカしている。
「お姉様が開発した、写真魔法ですわ。……少し待って下さいませ」
ペシエラはそう言って、チェリシアから紙を受け取る。そして、その紙の上で、先程と同じように手で四角形を作って魔力を集める。すると、紙の表面に、先程のロゼリアの顔と風景が浮かび上がったのである。
「えっ、どういう事?」
ロゼリアはとても混乱している。
「これが写真魔法なんですよ。指で作った四角形の中の景色を写し取って、それを紙や板の上に再現させるんです。……今はまだ一枚しか記憶できませんけれど」
「ちなみに、写真っていうのはこの写し出された絵の事を言いますの。お姉様に初めて見せて頂いた時には、それは興奮しましたわ」
「お父様とお母様のお姿も撮りましたけれど、とても喜ばれていました」
チェリシアとペシエラが興奮気味に説明している。
「その魔法は、コツさえ掴めば、誰でも使えるのかしら」
ロゼリアもとても興味あるようで、二人に尋ねてみる。
「残念ながら、光魔法でないと使えないようなんです。ですので、ロゼリアには適性がありません」
チェリシアから申し訳なさそうに言われて、ロゼリアは天を仰いだ。とても残念がって悔しそうだ。
「ですが、魔道具化する事ができれば、誰でも使えるようになりますよ。うちの商会はそういう所でしょう?」
「ははっ、そうね」
ロゼリアは呆れた感じで返事をしているが、大きな可能性を感じていた。
その時を短時間で記録し、長時間残せるとあれば、貴族にとっては、いや庶民にとっても需要のある事には違いない。
「ちなみに、この写真ってどのくらいの期間残せるものなのかしら」
ロゼリアが尋ねる。
「魔法で写し取ったものであれば、次に別の魔法を使うまで残ります。紙などに写したものは、同時に保護魔法を掛けてますので、紙などが朽ちない限りは大丈夫ですね」
チェリシアが答えた。
「お姉様といろいろ試してみましたから、これは間違いありませんわ」
ペシエラも両手を腰に当てて、自慢げに答えた。ペシエラのこういうところは、前回の歪んだ性格の癖を持ち越している。人間簡単には変わらないのだ。
(まあ、前に比べると親しくなったし、まだ幼いから可愛く思えるわね)
気が付いたら、ロゼリアはペシエラの頭を撫でていた。急に頭を撫でられてペシエラは驚いていたが、まんざらでもない様子だった。
「さて、チェリシア」
「はい、何でしょうか」
ペシエラを撫で終えたロゼリアが、チェリシアに話を振る。
「今日は入学式後、攻略対象との顔合わせになるお茶会があるのよね?」
「はい、そうですね」
「でしたら早速、この写真魔法を使う機会になるわね」
ロゼリアが少し悪い顔をしたが、チェリシアもペシエラも気にせずに頷いた。
「何事も最初が肝心。学園生活の最初を華麗に決めましょう」
そう言って、ロゼリアは悪役令嬢らしい高笑いを決めるのだった。
更に目立つ原因がペシエラだ。
彼女は十歳なので、他の学生と比べて明らかに背が低い。十三歳から入学できる学園に、十歳で特別に入学してきたとあって、目立たないわけがないのだ。
ロゼリアたちは、そういった視線をやり過ごし、人気の少ない場所へとやって来た。
ここでペシエラがロゼリアに話し掛けてきた。
「ロゼリア」
「何かしら」
「お姉様が開発した魔法を、一つ見せてさしあげますわ」
ペシエラが言った言葉に、ロゼリアは訳が分からなくなった。
「え、魔法を開発? また?」
ロゼリアが混乱しているのを無視して、ペシエラは両手の親指と人差し指を直角にして、四角形を作ってロゼリアに向けて構える。
ペシエラの手に魔力が集まった瞬間、明るい光とパシャッという音がペシエラの手から放たれた。
「な、何なの、今のは……」
不意を突かれたロゼリアの目が、少しチカチカしている。
「お姉様が開発した、写真魔法ですわ。……少し待って下さいませ」
ペシエラはそう言って、チェリシアから紙を受け取る。そして、その紙の上で、先程と同じように手で四角形を作って魔力を集める。すると、紙の表面に、先程のロゼリアの顔と風景が浮かび上がったのである。
「えっ、どういう事?」
ロゼリアはとても混乱している。
「これが写真魔法なんですよ。指で作った四角形の中の景色を写し取って、それを紙や板の上に再現させるんです。……今はまだ一枚しか記憶できませんけれど」
「ちなみに、写真っていうのはこの写し出された絵の事を言いますの。お姉様に初めて見せて頂いた時には、それは興奮しましたわ」
「お父様とお母様のお姿も撮りましたけれど、とても喜ばれていました」
チェリシアとペシエラが興奮気味に説明している。
「その魔法は、コツさえ掴めば、誰でも使えるのかしら」
ロゼリアもとても興味あるようで、二人に尋ねてみる。
「残念ながら、光魔法でないと使えないようなんです。ですので、ロゼリアには適性がありません」
チェリシアから申し訳なさそうに言われて、ロゼリアは天を仰いだ。とても残念がって悔しそうだ。
「ですが、魔道具化する事ができれば、誰でも使えるようになりますよ。うちの商会はそういう所でしょう?」
「ははっ、そうね」
ロゼリアは呆れた感じで返事をしているが、大きな可能性を感じていた。
その時を短時間で記録し、長時間残せるとあれば、貴族にとっては、いや庶民にとっても需要のある事には違いない。
「ちなみに、この写真ってどのくらいの期間残せるものなのかしら」
ロゼリアが尋ねる。
「魔法で写し取ったものであれば、次に別の魔法を使うまで残ります。紙などに写したものは、同時に保護魔法を掛けてますので、紙などが朽ちない限りは大丈夫ですね」
チェリシアが答えた。
「お姉様といろいろ試してみましたから、これは間違いありませんわ」
ペシエラも両手を腰に当てて、自慢げに答えた。ペシエラのこういうところは、前回の歪んだ性格の癖を持ち越している。人間簡単には変わらないのだ。
(まあ、前に比べると親しくなったし、まだ幼いから可愛く思えるわね)
気が付いたら、ロゼリアはペシエラの頭を撫でていた。急に頭を撫でられてペシエラは驚いていたが、まんざらでもない様子だった。
「さて、チェリシア」
「はい、何でしょうか」
ペシエラを撫で終えたロゼリアが、チェリシアに話を振る。
「今日は入学式後、攻略対象との顔合わせになるお茶会があるのよね?」
「はい、そうですね」
「でしたら早速、この写真魔法を使う機会になるわね」
ロゼリアが少し悪い顔をしたが、チェリシアもペシエラも気にせずに頷いた。
「何事も最初が肝心。学園生活の最初を華麗に決めましょう」
そう言って、ロゼリアは悪役令嬢らしい高笑いを決めるのだった。
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