逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
68 / 431
第四章 ロゼリア10歳

第66話 正直に

しおりを挟む
 チェリシアが目覚める少し前。
 ペシエラは、父親に呼び出されて村長の家に居た。重苦しい雰囲気を纏う父親を前に、ペシエラは逃げ出したくなっていた。それはまさに“まな板の上の鯉”のような状態だった。
 朝食を終えた後から、父親プラウスから当然のように降ってくる質問の数々。前回では受けた事のなかった攻め句の嵐に、ペシエラのHPはもはや風前の灯だった。
(お父様が、怖すぎるぅぅっ!!)
 バツが悪そうに口をすぼめ、肩を張って縮こまっている。いつ目を回してもおかしくない状態だ。
「失礼致します」
 ペシエラが本当に限界になろうとしていた時、ロゼリアが部屋へとやって来た。
(ロゼリアっ! ナイスタイミング!)
 精神的限界に、ロゼリアが救いの女神に見えた。部屋に入ると、ロゼリアは挨拶をする。
「チェリシアさんはスミレさんが任せて欲しいと言われましたので、お任せしております。ご安心下さい」
 聞かれる前に答えるロゼリア。
「ロゼリア嬢、ちょうど良かった。今、ペシエラからいろいろと話を聞いていたところだ。君からも聞かせてもらえないかな?」
「はい、私でよければ」
 プラウスの顔は笑顔だ。しかし、まとっている空気が怒髪天だ。静かに怒っているのは明白である。
 自分の可愛い娘たちが勝手に子どもだけで王都を抜け、それだけではなく魔物氾濫を鎮圧したのだ。なに危険な事をやってるんだ、それがプラウスの心境というものだろう。
「しかし、君たちはチェリシアとペシエラの見た予知夢を元に、ここに来たと言っていたね?」
 プラウスが確認するようにロゼリアに尋ねる。
「はい、その通りでございます」
 ロゼリアは事前の打ち合わせどおりに答える。ところが、
「それは嘘だな。最初から魔物氾濫の事を知っていたのだろう?」
 プラウスから断言される。ロゼリアは動揺の表情を浮かべる。
「規格外の魔法についてもだ。十歳では魔法に目覚めたばかり、あのような魔法の行使ができるほど技術が固まってはいない。考えれば考えるほどおかしな事だらけだ」
 さすがは不毛の地とも言われる子爵領を運営しているだけの事はある。この頭の回転があるからこそ、暴動も起こさせずに領地運営ができるのだろう。
 しかし、ロゼリアは困った事になって眉がハの字になっている。普段が強気なだけに、なかなか見られた表情ではない。
 ロゼリアとペシエラは、お互いの顔を見る。共に困りきった表情を浮かべ、大きくため息をついた。
「いつまで黙っている。それ程に言えない事なのか?」
 プラウスの追及は厳しくなっている。そのあまりの剣幕に、二人はとうとう観念した。
「お父様。今から話す事は他言無用でお願いしますわ」
 二人で頷き合った後、ペシエラがまずは口を開いた。
 それから二人が話す内容は、とても信じられないような事だった。もちろん、二人はチェリシアの事は黙っておいた。本人に内緒で勝手に喋るわけにはいかないからだ。
「そうか……。二人はそれほどまでの経験をしてきたのか。どうりで話し方や所作に違和感があったはずだが、それなら納得がいく」
 衝撃的な内容すぎて、プラウスの中では消化しきれてないのだろう。表情がすごく複雑だ。
「という事は、ペシエラも魔法が使える状態、というわけだな?」
 ペシエラは黙って頷く。
「なるほど、ペシエラが一度経験していたからこそ、今回の魔物氾濫を予見できたというわけか」
 プラウスは、どうにか理解できたようだ。
「はい。ですが、チェリシアさんの膨大な魔力があったからこそ、どうにかできたわけです。黙って王都から出てきた事へのお叱りはきちんと受けます。ですから、目が覚めたら褒めてあげて下さい。下手に咎めると、落ち込んでしまいそうですから」
 ロゼリアは、必死に訴えた。その様子を見たプラウスは、
「分かった」
 と、短くロゼリアの訴えを受け入れた。
 ちょうどそこへ、
「領主様、失礼致します。スミレです」
 チェリシアの世話をしていたスミレがやって来た。
「どうした、入れ」
「お話のところ、恐れ入ります。チェリシア様が一度目を覚まされました」
 スミレの報告に、プラウスたちは「おおっ」といろめき立つ。
「はい。一応服を着替えられましたが、まだだるい様子でございまして、今は再び眠っておられます」
「そうか……」
 再び眠ったという言葉に、プラウスは椅子に深く寄りかかった。
「ならば、回復するまでもうしばらく頼む。どのみちもうしばらく居るつもりだ。村の事も相談に乗ろう」
「畏まりました。村長をお呼びしてから、チェリシア様のお世話に戻ります」
「ああ、頼む」
 スミレは部屋を出ていった。
「ペシエラの時で一週間だったな……。気長に待つしかあるまい」
 プラウスはしばらく祈るような格好で黙り込むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...