逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
61 / 433
第四章 ロゼリア10歳

第59話 全力の勝利

しおりを挟む
(ブレスが来る!)
 チェリシアは咄嗟に光魔法を厄災の暗龍の頭部に放つ。エアリアルボードに二重の防御壁を展開している上で、更に魔法を使っている。どれだけ規格外なんだよと突っ込みたくなる。
 ゲームでの厄災の暗龍のブレスは、高確率で開幕にぶち込まれる無属性の防御貫通攻撃である。ただでさえ高火力である上に無属性なので属性対処も意味を成さない。そんな攻撃が戦闘開始直後に高確率で飛んでくるのだ。理不尽この上ない話である。
 チェリシアが無茶してでもブレスを潰しにかかったのは、このという特性のせいである。
 そう、厄災の暗龍のブレスの前には、チェリシアが展開している二重の防御壁が意味を成さないのだ。だからこそ、チェリシアは無茶とも言える四つめの魔法を使っているのだ。だが、さすがに同時に四つの魔法ともなれば十歳の少女への負担が大きく、チェリシアは大粒の汗を流し始めている。
 そうして展開されたチェリシアの魔法は、厄災の暗龍の頭部を眩いばかりの光で包み込んでいく。瘴気の収束が阻害される。これで威力を潰す事に成功する。
 だが、これで終わりではない。厄災の暗龍はまだブレスを発射できる状態にある。多少強引に口を開けば、この程度の光魔法など無視できてしまうのだ。
 チェリシアは次の行動に出る。
「ロゼリア、私の光魔法に風魔法をかぶせて、暗龍の口を塞いで! 早くっ!」
 泥を形成したロゼリアの手が空いているのだ。使わない手はない。
「分かったわ」
 すぐさまロゼリアは、厄災の暗龍の口を縛り付けるように風魔法で包み込む。これで無理に口を開こうとするなら、光魔法に口内を焼かれる事になる。
 厄災の暗龍は頭部を包み込む光魔法と風魔法を振り払おうと、ブレスが発射待機の状態でありながら頭を激しく振る。しかし、頭を激しく振れば振るほど、ブレスに変換された魔力と瘴気が口の中を傷付けていく。
 やがて、行き場を失ったブレスは、厄災の暗龍の口の中で炸裂する。のブレスは、高い防御力を誇る厄災の暗龍の頭部を吹き飛ばした。
 この瞬間、防御壁内に溜め込んだペシエラの光魔法を、素早く内側の防御壁を解除して解き放つ。
 次の瞬間、防御壁の内部に光魔法が満たされる。雑魚の魔物は当然ながら、厄災の暗龍も吹き飛んだ頭部と不完全な部分から、全身を余す事なく光魔法に焼かれていく。
 頭部の吹き飛んだ厄災の暗龍は、断末魔を上げる事も叶わず、大きな音を立ててその場に崩れ去った。
 ……十歳と七歳の少女の完全勝利であった。
 不完全な状態とはいえ、厄災の暗龍に勝ってしまった。チェリシアたちは腰が抜け、エアリアルボードの上で座り込んだ。
 しかし、まだ油断はできない。
 使い過ぎたチェリシアの魔力が、いつ切れるか分からない。チェリシアは腰が抜けた状態でありながら、エアリアルボードを素早く慎重に地上へと降ろしていく。
 地上にどうにか降りたロゼリアたちは、凹地の方へと目を向ける。防御壁はまだ一つ展開しているが、一部は魔力切れを示すように形が維持できなくなってきている。もし魔物が残っていれば非常に危険な状態だった。
 まだ魔力が残っているロゼリアが、凹地に舞う土埃を風魔法で取り除く。土埃は防御壁が欠けた部分から外へと吹き抜けていく。
 防御壁の内部がはっきりと見える。
 中央部分に厄災の暗龍が、周辺部に無数の(厄災の暗龍に比べれば)小さな魔物が倒れていた。慎重に見ているが、動き出すような魔物は居ないようだった。
「わ、私たちが魔物氾濫を抑えたのね……」
「はは……、厄災の暗龍に勝ってしまいましたわ」
 ロゼリアとペシエラが信じられない表情で見ている。呆然とするロゼリアたちの後ろで、チェリシアもまた魔物氾濫を抑えて、疲れ果てながらも笑顔を見せていた。
「えへへ……、良かった……」
「チェリシア!」
 魔力を使い果たしたチェリシアは、防御壁が消え去ると同時に、気を失ってその場に倒れ込んでしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

処理中です...