61 / 488
第四章 ロゼリア10歳
第59話 全力の勝利
しおりを挟む
(ブレスが来る!)
チェリシアは咄嗟に光魔法を厄災の暗龍の頭部に放つ。エアリアルボードに二重の防御壁を展開している上で、更に魔法を使っている。どれだけ規格外なんだよと突っ込みたくなる。
ゲームでの厄災の暗龍のブレスは、高確率で開幕にぶち込まれる無属性の防御貫通攻撃である。ただでさえ高火力である上に無属性なので属性対処も意味を成さない。そんな攻撃が戦闘開始直後に高確率で飛んでくるのだ。理不尽この上ない話である。
チェリシアが無茶してでもブレスを潰しにかかったのは、この防御貫通という特性のせいである。
そう、厄災の暗龍のブレスの前には、チェリシアが展開している二重の防御壁が意味を成さないのだ。だからこそ、チェリシアは無茶とも言える四つめの魔法を使っているのだ。だが、さすがに同時に四つの魔法ともなれば十歳の少女への負担が大きく、チェリシアは大粒の汗を流し始めている。
そうして展開されたチェリシアの魔法は、厄災の暗龍の頭部を眩いばかりの光で包み込んでいく。瘴気の収束が阻害される。これで威力を潰す事に成功する。
だが、これで終わりではない。厄災の暗龍はまだブレスを発射できる状態にある。多少強引に口を開けば、この程度の光魔法など無視できてしまうのだ。
チェリシアは次の行動に出る。
「ロゼリア、私の光魔法に風魔法をかぶせて、暗龍の口を塞いで! 早くっ!」
泥を形成したロゼリアの手が空いているのだ。使わない手はない。
「分かったわ」
すぐさまロゼリアは、厄災の暗龍の口を縛り付けるように風魔法で包み込む。これで無理に口を開こうとするなら、光魔法に口内を焼かれる事になる。
厄災の暗龍は頭部を包み込む光魔法と風魔法を振り払おうと、ブレスが発射待機の状態でありながら頭を激しく振る。しかし、頭を激しく振れば振るほど、ブレスに変換された魔力と瘴気が口の中を傷付けていく。
やがて、行き場を失ったブレスは、厄災の暗龍の口の中で炸裂する。防御貫通のブレスは、高い防御力を誇る厄災の暗龍の頭部を吹き飛ばした。
この瞬間、防御壁内に溜め込んだペシエラの光魔法を、素早く内側の防御壁を解除して解き放つ。
次の瞬間、防御壁の内部に光魔法が満たされる。雑魚の魔物は当然ながら、厄災の暗龍も吹き飛んだ頭部と不完全な部分から、全身を余す事なく光魔法に焼かれていく。
頭部の吹き飛んだ厄災の暗龍は、断末魔を上げる事も叶わず、大きな音を立ててその場に崩れ去った。
……十歳と七歳の少女の完全勝利であった。
不完全な状態とはいえ、厄災の暗龍に勝ってしまった。チェリシアたちは腰が抜け、エアリアルボードの上で座り込んだ。
しかし、まだ油断はできない。
使い過ぎたチェリシアの魔力が、いつ切れるか分からない。チェリシアは腰が抜けた状態でありながら、エアリアルボードを素早く慎重に地上へと降ろしていく。
地上にどうにか降りたロゼリアたちは、凹地の方へと目を向ける。防御壁はまだ一つ展開しているが、一部は魔力切れを示すように形が維持できなくなってきている。もし魔物が残っていれば非常に危険な状態だった。
まだ魔力が残っているロゼリアが、凹地に舞う土埃を風魔法で取り除く。土埃は防御壁が欠けた部分から外へと吹き抜けていく。
防御壁の内部がはっきりと見える。
中央部分に厄災の暗龍が、周辺部に無数の(厄災の暗龍に比べれば)小さな魔物が倒れていた。慎重に見ているが、動き出すような魔物は居ないようだった。
「わ、私たちが魔物氾濫を抑えたのね……」
「はは……、厄災の暗龍に勝ってしまいましたわ」
ロゼリアとペシエラが信じられない表情で見ている。呆然とするロゼリアたちの後ろで、チェリシアもまた魔物氾濫を抑えて、疲れ果てながらも笑顔を見せていた。
「えへへ……、良かった……」
「チェリシア!」
魔力を使い果たしたチェリシアは、防御壁が消え去ると同時に、気を失ってその場に倒れ込んでしまうのだった。
チェリシアは咄嗟に光魔法を厄災の暗龍の頭部に放つ。エアリアルボードに二重の防御壁を展開している上で、更に魔法を使っている。どれだけ規格外なんだよと突っ込みたくなる。
ゲームでの厄災の暗龍のブレスは、高確率で開幕にぶち込まれる無属性の防御貫通攻撃である。ただでさえ高火力である上に無属性なので属性対処も意味を成さない。そんな攻撃が戦闘開始直後に高確率で飛んでくるのだ。理不尽この上ない話である。
チェリシアが無茶してでもブレスを潰しにかかったのは、この防御貫通という特性のせいである。
そう、厄災の暗龍のブレスの前には、チェリシアが展開している二重の防御壁が意味を成さないのだ。だからこそ、チェリシアは無茶とも言える四つめの魔法を使っているのだ。だが、さすがに同時に四つの魔法ともなれば十歳の少女への負担が大きく、チェリシアは大粒の汗を流し始めている。
そうして展開されたチェリシアの魔法は、厄災の暗龍の頭部を眩いばかりの光で包み込んでいく。瘴気の収束が阻害される。これで威力を潰す事に成功する。
だが、これで終わりではない。厄災の暗龍はまだブレスを発射できる状態にある。多少強引に口を開けば、この程度の光魔法など無視できてしまうのだ。
チェリシアは次の行動に出る。
「ロゼリア、私の光魔法に風魔法をかぶせて、暗龍の口を塞いで! 早くっ!」
泥を形成したロゼリアの手が空いているのだ。使わない手はない。
「分かったわ」
すぐさまロゼリアは、厄災の暗龍の口を縛り付けるように風魔法で包み込む。これで無理に口を開こうとするなら、光魔法に口内を焼かれる事になる。
厄災の暗龍は頭部を包み込む光魔法と風魔法を振り払おうと、ブレスが発射待機の状態でありながら頭を激しく振る。しかし、頭を激しく振れば振るほど、ブレスに変換された魔力と瘴気が口の中を傷付けていく。
やがて、行き場を失ったブレスは、厄災の暗龍の口の中で炸裂する。防御貫通のブレスは、高い防御力を誇る厄災の暗龍の頭部を吹き飛ばした。
この瞬間、防御壁内に溜め込んだペシエラの光魔法を、素早く内側の防御壁を解除して解き放つ。
次の瞬間、防御壁の内部に光魔法が満たされる。雑魚の魔物は当然ながら、厄災の暗龍も吹き飛んだ頭部と不完全な部分から、全身を余す事なく光魔法に焼かれていく。
頭部の吹き飛んだ厄災の暗龍は、断末魔を上げる事も叶わず、大きな音を立ててその場に崩れ去った。
……十歳と七歳の少女の完全勝利であった。
不完全な状態とはいえ、厄災の暗龍に勝ってしまった。チェリシアたちは腰が抜け、エアリアルボードの上で座り込んだ。
しかし、まだ油断はできない。
使い過ぎたチェリシアの魔力が、いつ切れるか分からない。チェリシアは腰が抜けた状態でありながら、エアリアルボードを素早く慎重に地上へと降ろしていく。
地上にどうにか降りたロゼリアたちは、凹地の方へと目を向ける。防御壁はまだ一つ展開しているが、一部は魔力切れを示すように形が維持できなくなってきている。もし魔物が残っていれば非常に危険な状態だった。
まだ魔力が残っているロゼリアが、凹地に舞う土埃を風魔法で取り除く。土埃は防御壁が欠けた部分から外へと吹き抜けていく。
防御壁の内部がはっきりと見える。
中央部分に厄災の暗龍が、周辺部に無数の(厄災の暗龍に比べれば)小さな魔物が倒れていた。慎重に見ているが、動き出すような魔物は居ないようだった。
「わ、私たちが魔物氾濫を抑えたのね……」
「はは……、厄災の暗龍に勝ってしまいましたわ」
ロゼリアとペシエラが信じられない表情で見ている。呆然とするロゼリアたちの後ろで、チェリシアもまた魔物氾濫を抑えて、疲れ果てながらも笑顔を見せていた。
「えへへ……、良かった……」
「チェリシア!」
魔力を使い果たしたチェリシアは、防御壁が消え去ると同時に、気を失ってその場に倒れ込んでしまうのだった。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる