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第四章 ロゼリア10歳
第51話 未開の森へ
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少し休んだ後、なんとか気を取り直したチェリシアを交えて昼食を取る。
昼食を終えると、ロゼリアは地図を取り出した。
「飛んできた方向と見える景色を合わせると、今は大体この辺りね」
ロゼリアが指し示す位置は、コーラル子爵領に少し入った未開の森と呼ばれる位置だ。
先程も説明したが、コーラル子爵領の西端は手付かずの未開発の地域で、そのせいか魔物の生息域として落ち着いてしまっていた。
「魔物氾濫では大量に魔物を倒すので、先程とは比べ物にならないくらい、魔物を殺す事になるわ。一匹程度で気分が悪くなるようでは、卒倒しかねないわね」
ロゼリアはチェリシアに言い聞かせるように話す。
「でも、さっきみたいに世の中何が起こるか分からない。ですので、自分の身は自分で守れるようにならないといけないわ」
強い口調でロゼリアに言われて、チェリシアは驚いた表情を引き締め、力強く頷いた。
「そうね。郷に入れば郷に従え、ですね」
改めて、異世界に来た事を実感するチェリシア。表情と共に、胸の前で軽く握った拳に力が入る。
完全に気持ちを持ち直したチェリシアは、この日は移動をしないという提案を受け入れ、野営地に結界を張る。これで盗賊たちも入ってこれないので安心だ。
「この結界は、私が許可した人しか入れないから、安全ですよ」
チェリシアは笑った。
「ではお姉様、私と一緒に狩りに行きましょう」
唐突に、ペシエラから誘われるチェリシア。一瞬首を傾げたチェリシアだったが、さっきの決意もあるのでペシエラの誘いに乗る事にした。
「では、ロゼリア。留守番頼みますわよ」
「ええ、任せてよ。設営はしておくから、無事に帰ってきてよ?」
「もちろんですわ」
「ふふっ、お嬢様言葉で強がっちゃって」
「べ、別にいいでしょう?!」
ロゼリアが揶揄うと、ペシエラは顔を真っ赤にして文句を言ってきた。もはやただの可愛い妹である。
「ふんっ! 行きましょう、お姉様」
「ええ……。ロゼリア、ここは頼みます」
「ええ、いってらっしゃい」
ぷりぷり怒るペシエラと戸惑うチェリシアを、ロゼリアは笑顔で見送った。
「さて、天幕を張りましょうか」
残されたロゼリアは、チェリシアに出させておいた三人分の天幕を、魔法を使って組み立て始めた。
チェリシアはペシエラに連れられて、未開の森へと入っていく。
未開の森は広大な紅葉樹の森で、意外と所狭しと木が生い茂っている。
「お姉様。この森は主に小動物系の魔物が住んでいます。ただ、ウルフとフォレストバードにはご注意下さい」
ペシエラの言葉に、ごくりと頷くチェリシア。ペシエラはそれを確認して、更に森へと分け入っていく。
森の風景はごく普通の森といった感じだ。木が密集しているので、全体的に少し暗い感じだが、所々木漏れ日が差して明るくなっている。
とても神秘的な光景に、この森が魔物の住処になっているなど微塵も感じられなかった。
ところが、森に分け入ってから三十分もすると、ピリピリとした魔力波が伝わってきた。
……魔物が現れたのだ。
ペシエラが構える。七歳というお子様にも関わらず、その表情は険しい。
「お姉様、魔物ですわ」
その言葉に、チェリシアも構える。視線の先に現れたのは、犬が二足歩行をしているような魔物、コボルトだった。
「しっ……!」
コボルトの姿を認めたチェリシアが声を上げそうになるが、ペシエラがそれを牽制する。
だが、次の瞬間にはコボルトは、チェリシアたちの姿を見つけて襲い掛かってきた。
「グルァアッ!!」
獣らしい叫び声と共に、手に持つ太い棒切れで殴り掛かろうとする。が、その攻撃は放たれる事はなかった。
「草よっ!」
ペシエラがそう叫ぶと、地面から複数のツタが伸び、コボルトの喉を掻き切った。あっという間の出来事に、コボルトはそのまま地面に倒れて動かなくなった。
コボルトは弱い部類になるとはいえ、駆け出しの冒険者がそこそこ苦戦する相手。それを七歳の少女の魔法で一撃である。逆行してきたとはいえ、恐ろしい話だ。
「お姉様、油断しないで下さい。コボルトは基本的に群れで行動します。近くにまだ居るかも知れません」
ペシエラは、チェリシアに警戒させた。
しかし、しばらく経っても他のコボルトはおろか魔物も姿を見せなかった。
警戒を緩めたペシエラは、チェリシアを横に立たせて、コボルトの解体を始めた。
昼食を終えると、ロゼリアは地図を取り出した。
「飛んできた方向と見える景色を合わせると、今は大体この辺りね」
ロゼリアが指し示す位置は、コーラル子爵領に少し入った未開の森と呼ばれる位置だ。
先程も説明したが、コーラル子爵領の西端は手付かずの未開発の地域で、そのせいか魔物の生息域として落ち着いてしまっていた。
「魔物氾濫では大量に魔物を倒すので、先程とは比べ物にならないくらい、魔物を殺す事になるわ。一匹程度で気分が悪くなるようでは、卒倒しかねないわね」
ロゼリアはチェリシアに言い聞かせるように話す。
「でも、さっきみたいに世の中何が起こるか分からない。ですので、自分の身は自分で守れるようにならないといけないわ」
強い口調でロゼリアに言われて、チェリシアは驚いた表情を引き締め、力強く頷いた。
「そうね。郷に入れば郷に従え、ですね」
改めて、異世界に来た事を実感するチェリシア。表情と共に、胸の前で軽く握った拳に力が入る。
完全に気持ちを持ち直したチェリシアは、この日は移動をしないという提案を受け入れ、野営地に結界を張る。これで盗賊たちも入ってこれないので安心だ。
「この結界は、私が許可した人しか入れないから、安全ですよ」
チェリシアは笑った。
「ではお姉様、私と一緒に狩りに行きましょう」
唐突に、ペシエラから誘われるチェリシア。一瞬首を傾げたチェリシアだったが、さっきの決意もあるのでペシエラの誘いに乗る事にした。
「では、ロゼリア。留守番頼みますわよ」
「ええ、任せてよ。設営はしておくから、無事に帰ってきてよ?」
「もちろんですわ」
「ふふっ、お嬢様言葉で強がっちゃって」
「べ、別にいいでしょう?!」
ロゼリアが揶揄うと、ペシエラは顔を真っ赤にして文句を言ってきた。もはやただの可愛い妹である。
「ふんっ! 行きましょう、お姉様」
「ええ……。ロゼリア、ここは頼みます」
「ええ、いってらっしゃい」
ぷりぷり怒るペシエラと戸惑うチェリシアを、ロゼリアは笑顔で見送った。
「さて、天幕を張りましょうか」
残されたロゼリアは、チェリシアに出させておいた三人分の天幕を、魔法を使って組み立て始めた。
チェリシアはペシエラに連れられて、未開の森へと入っていく。
未開の森は広大な紅葉樹の森で、意外と所狭しと木が生い茂っている。
「お姉様。この森は主に小動物系の魔物が住んでいます。ただ、ウルフとフォレストバードにはご注意下さい」
ペシエラの言葉に、ごくりと頷くチェリシア。ペシエラはそれを確認して、更に森へと分け入っていく。
森の風景はごく普通の森といった感じだ。木が密集しているので、全体的に少し暗い感じだが、所々木漏れ日が差して明るくなっている。
とても神秘的な光景に、この森が魔物の住処になっているなど微塵も感じられなかった。
ところが、森に分け入ってから三十分もすると、ピリピリとした魔力波が伝わってきた。
……魔物が現れたのだ。
ペシエラが構える。七歳というお子様にも関わらず、その表情は険しい。
「お姉様、魔物ですわ」
その言葉に、チェリシアも構える。視線の先に現れたのは、犬が二足歩行をしているような魔物、コボルトだった。
「しっ……!」
コボルトの姿を認めたチェリシアが声を上げそうになるが、ペシエラがそれを牽制する。
だが、次の瞬間にはコボルトは、チェリシアたちの姿を見つけて襲い掛かってきた。
「グルァアッ!!」
獣らしい叫び声と共に、手に持つ太い棒切れで殴り掛かろうとする。が、その攻撃は放たれる事はなかった。
「草よっ!」
ペシエラがそう叫ぶと、地面から複数のツタが伸び、コボルトの喉を掻き切った。あっという間の出来事に、コボルトはそのまま地面に倒れて動かなくなった。
コボルトは弱い部類になるとはいえ、駆け出しの冒険者がそこそこ苦戦する相手。それを七歳の少女の魔法で一撃である。逆行してきたとはいえ、恐ろしい話だ。
「お姉様、油断しないで下さい。コボルトは基本的に群れで行動します。近くにまだ居るかも知れません」
ペシエラは、チェリシアに警戒させた。
しかし、しばらく経っても他のコボルトはおろか魔物も姿を見せなかった。
警戒を緩めたペシエラは、チェリシアを横に立たせて、コボルトの解体を始めた。
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