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第四章 ロゼリア10歳
第46話 ペシエラの話
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装飾工が集まる場所にやって来たロゼリア。そこで目にしたのは、職人たちに囲まれて、自身の装飾についてあれこれ説明するペシエラだった。たった七歳であれだけの装飾を施すペシエラは、職人たちからすれば天才そのもので、もうその眼差しは尊敬そのものだった。
ただ、前回チェリシアだった状態ならここで天狗となっていただろうが、今回のペシエラは意外に謙虚で、相手を馬鹿にする事なく装飾の技巧について惜しみなく説明している。
「ペシエラ、ずいぶんと慕われてるわ」
「ロゼリア……様」
ロゼリアが声を掛けると、ペシエラが反応する。職人である装飾工たちが居る手前、“様”をためらいながらも付け加えていた。
「七歳でこれだけ緻密な装飾を施せるものね。彫刻刀の扱いも慣れたものだわ」
置かれている装飾を施した筒を見ながら、ロゼリアは言う。
「しかも、デザインは独自性もあるわ。本当に優秀な子で嬉しいわ」
装飾工たちの目の前で、ロゼリアはペシエラの頭を撫でる。当のペシエラは、嫌な気分がしつつも撫でられてる事自体は気持ちがいいので、なんとも複雑な顔をしている。
(顔が歪んでる。よっぽど私に撫でられるのは嫌なのね)
前回の時間軸の事を思えば、ペシエラのこの反応は当然だろう。ところが、いわゆるツンデレさんと化したペシエラは思った以上に可愛く、ロゼリアにとってはお気に入りでしかなかった。
本当はもっと愛でていたいロゼリアだったが、本題に入る。
「向こうでチェリシアが、新しい照明器具を作り出したの。そこで、ペシエラには、その照明を取り付ける器具の台座の装飾を施して欲しいのよ」
「照明器具?」
「そう。魔力を伝えて離れた位置の魔石に光を灯すものよ。これがあれば壁や天井に照明を設置する事が可能になるわ。それに、例えば玄関から家中の明かりを点ける事だって可能になる。これはとんでもない事だわ」
ロゼリアが息を荒くして説明している。
「現状はチェリシアだけが使える魔法だけど、私とあなたも少し練習すれば可能になると思うわ。そこで、チェリシアの魔法とペシエラの装飾を施した照明を、このマゼンダ商会で試しに運用してみるの。どうかしら」
「どうかしらって……うーん」
ペシエラは悩んだ。しかし、チェリシアと自分の合同で作った物が評判となるのも悪くはない。前回ではあり得なかった悩み方をしている。
「うん、それ受けるわ」
悩んだ結果、引き受ける事にした。元の自分と今の自分による共同作業なのだから、どう転んでも自分の功績だし、コーラル子爵の株も上がる。悪い話ではなかった。
「今からじゃないから、もう少し装飾談義をしていて構わないわ。帰る時になったら呼びに来るから」
「分かったわ」
と、ロゼリアがチェリシアの方に戻ろうとしたその時だった。
「あっ!」
突然、ペシエラが声を上げる。
「どうしたの、ペシエラ」
その声にロゼリアは振り返る。
「ロゼリア……様。今っていつでしたっけ」
「えっ? 春の二の月よ、それがどうかしたの?」
「ロゼリア……様は、十歳ですよね?」
「そうよ」
確認するように簡単な質問をするペシエラ。そして、すぐに考え込んだ。
「……何かありそうね。チェリシアも読んで執務室へ行くわよ」
何かを察したように、ロゼリアはペシエラを連れてその場を離れた。そこには、事情の分からない装飾工たちが、呆然とした様子で残されていた。だが、ロゼリアたちが見えなくなってからしばらくして、ペシエラの残した装飾を見て議論を再開させた。
チェリシアとゴルドの所まで戻ってきたロゼリアは、
「チェリシア、至急、執務室に行くわよ。ペシエラの様子を見ると、只事じゃないわ」
ロゼリアの言葉に戸惑うチェリシアを、強引に引っ張って連れ出す。
「ゴルドさん、申し訳ないけど、話はまた今度で」
「お、おう」
あまりに急な出来事に、ゴルドは固まって見送る事しかできなかった。
執務室にやって来たロゼリアたち。
真っ先に口を開いたのはロゼリアである。
「ペシエラ、血相を変えてどうしたというの?」
心配そうな顔で言葉を掛ける。少し間を置いて、ペシエラが口を開く。
「前回の私、チェリシアが十歳の夏の一の月、コーラル領を魔物氾濫が襲うわ」
とんでもない言葉が口から発せられた。
ただ、前回チェリシアだった状態ならここで天狗となっていただろうが、今回のペシエラは意外に謙虚で、相手を馬鹿にする事なく装飾の技巧について惜しみなく説明している。
「ペシエラ、ずいぶんと慕われてるわ」
「ロゼリア……様」
ロゼリアが声を掛けると、ペシエラが反応する。職人である装飾工たちが居る手前、“様”をためらいながらも付け加えていた。
「七歳でこれだけ緻密な装飾を施せるものね。彫刻刀の扱いも慣れたものだわ」
置かれている装飾を施した筒を見ながら、ロゼリアは言う。
「しかも、デザインは独自性もあるわ。本当に優秀な子で嬉しいわ」
装飾工たちの目の前で、ロゼリアはペシエラの頭を撫でる。当のペシエラは、嫌な気分がしつつも撫でられてる事自体は気持ちがいいので、なんとも複雑な顔をしている。
(顔が歪んでる。よっぽど私に撫でられるのは嫌なのね)
前回の時間軸の事を思えば、ペシエラのこの反応は当然だろう。ところが、いわゆるツンデレさんと化したペシエラは思った以上に可愛く、ロゼリアにとってはお気に入りでしかなかった。
本当はもっと愛でていたいロゼリアだったが、本題に入る。
「向こうでチェリシアが、新しい照明器具を作り出したの。そこで、ペシエラには、その照明を取り付ける器具の台座の装飾を施して欲しいのよ」
「照明器具?」
「そう。魔力を伝えて離れた位置の魔石に光を灯すものよ。これがあれば壁や天井に照明を設置する事が可能になるわ。それに、例えば玄関から家中の明かりを点ける事だって可能になる。これはとんでもない事だわ」
ロゼリアが息を荒くして説明している。
「現状はチェリシアだけが使える魔法だけど、私とあなたも少し練習すれば可能になると思うわ。そこで、チェリシアの魔法とペシエラの装飾を施した照明を、このマゼンダ商会で試しに運用してみるの。どうかしら」
「どうかしらって……うーん」
ペシエラは悩んだ。しかし、チェリシアと自分の合同で作った物が評判となるのも悪くはない。前回ではあり得なかった悩み方をしている。
「うん、それ受けるわ」
悩んだ結果、引き受ける事にした。元の自分と今の自分による共同作業なのだから、どう転んでも自分の功績だし、コーラル子爵の株も上がる。悪い話ではなかった。
「今からじゃないから、もう少し装飾談義をしていて構わないわ。帰る時になったら呼びに来るから」
「分かったわ」
と、ロゼリアがチェリシアの方に戻ろうとしたその時だった。
「あっ!」
突然、ペシエラが声を上げる。
「どうしたの、ペシエラ」
その声にロゼリアは振り返る。
「ロゼリア……様。今っていつでしたっけ」
「えっ? 春の二の月よ、それがどうかしたの?」
「ロゼリア……様は、十歳ですよね?」
「そうよ」
確認するように簡単な質問をするペシエラ。そして、すぐに考え込んだ。
「……何かありそうね。チェリシアも読んで執務室へ行くわよ」
何かを察したように、ロゼリアはペシエラを連れてその場を離れた。そこには、事情の分からない装飾工たちが、呆然とした様子で残されていた。だが、ロゼリアたちが見えなくなってからしばらくして、ペシエラの残した装飾を見て議論を再開させた。
チェリシアとゴルドの所まで戻ってきたロゼリアは、
「チェリシア、至急、執務室に行くわよ。ペシエラの様子を見ると、只事じゃないわ」
ロゼリアの言葉に戸惑うチェリシアを、強引に引っ張って連れ出す。
「ゴルドさん、申し訳ないけど、話はまた今度で」
「お、おう」
あまりに急な出来事に、ゴルドは固まって見送る事しかできなかった。
執務室にやって来たロゼリアたち。
真っ先に口を開いたのはロゼリアである。
「ペシエラ、血相を変えてどうしたというの?」
心配そうな顔で言葉を掛ける。少し間を置いて、ペシエラが口を開く。
「前回の私、チェリシアが十歳の夏の一の月、コーラル領を魔物氾濫が襲うわ」
とんでもない言葉が口から発せられた。
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