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第四章 ロゼリア10歳
第43話 商会の我慢期
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万年筆の一件から半年が経過した。
ロゼリアとチェリシアは十歳、ペシエラは七歳となり、ロゼリアの兄カーマイルは王都の学園へと入学していた。本当に時が経つのは早いものである。
チェリシアは十歳の誕生日を迎えた数日後に、プラウスに魔法を披露してプラウスは腰を抜かしていた。
ちなみに、ロゼリアもチェリシアの魔法を、万年筆の一件の数日後に見せてもらっていた。その時にチェリシアが使ったのは、なんと氷柱を生み出して撃ち抜く魔法。氷なのに強度があって、撃ち抜かれた木を数本なぎ倒す程の威力。このチェリシアの魔力は、逆行前と比べてみても規格外だった。
「多分、異世界転生した事による影響だと思います。私が知っている限りでは、ゲームでも小説でも大体は反則的な能力を授かってましたので」
理由を聞かれたチェリシアは、そのように答えていた。ロゼリアとペシエラは「訳が分からないわ」と叫んでいた。
一方のペシエラも魔法を見せてくれた。逆行前にも使っていた炎の魔法で、威力もそのまま。ただ、ペシエラは回復魔法も使える稀有な存在だったので、十歳を迎えるまでは使用は極力控えるように念を押しておいた。
その理由は、使えるからと言っても、適齢期を迎える前に使い過ぎれば、魔力枯れを起こすか体に悪影響を及ぼす事が考えられるからだ。これにはペシエラもおとなしく従った。逆行前とは比べ物にならないくらい素直だ。
結局のところ、チェリシア、ペシエラ姉妹は揃いも揃って地水火風闇光の全属性への適性を示し、回復魔法までも使える化け物だった。
それに対して、ロゼリアが使えるのは地水風の三属性。だが、それ以上に魔法の制御が天才的で、チェリシアの提案するトンデモ事案を形にできるのだ。塩を精製したり、魔石の魔力をインクに変換したりできるのも、その天才的な魔力運用があってこそだった。それこそ「もうあいつらだけで十分じゃね?」の状態だった。
カーマイルが学園に入学した後、ヴァミリオやプラウスはそれぞれの領地の視察に戻っており、王都の事はその子どもたちに任されていた。学園を卒業はおろか、入学すらしていない子どもに任せるのは異例中の異例。それくらいまでにロゼリアたちへの信頼は厚かった。
この日もロゼリアたちはマゼンダ商会へと足を運ぶ。商会の状況を直に確認するためである。
ちなみに、万年筆と修正筆以降は新商品の開発はしていない。安定供給を確保するためだ。あまりに商品開発を乱発すると、開発、製造、販売のバランスが崩れて商会の機能が立ち行かなくなってしまう。それを防ぐためには仕方のない事だった。
現在、商会で取り扱っている商品は以下の通り。
・塩
・ジャム(いちご、りんご)
・植物油(菜種、椿、オリーブ)
・酒(りんご、ワイン)
・酢(りんご、ワイン)
・石けん
・万年筆
・修正筆
中でもジャムは、砂糖の価値のせいでかなりの高額。それでも珍しい甘味とあって、人気の商品となっていた。
石けんもお風呂に衣服に食器にと何でも使えて、更に綺麗になるとあって人気となっている。香り付きも売れている。
「こちらがここ一年の収支報告書となります」
ロゼリアは、商会で事務のトップを務めているハイビスから書類を手渡される。
普通なら、十歳になったばかりの子どもに重要書類を渡すような事はない。しかし、ロゼリアたちの聡明さは商会の中では当然のように知れ渡っており、ヴァミリオやプラウスが不在の時には、代理で商会をまとめる執務を行っている。
「鑑定魔法と目視の二つでチェックしてみたけど、不正の後は無いわね。まだ安定供給とまではいかないから、利益が薄いのは仕方ないわね」
ロゼリアはひと通りチェックを入れて、ハイビスに伝える。
ちなみにチェリシアとペシエラの二人とは別行動をしており、執務室に居るのはロゼリア一人だけである。父の信頼するハイビスと二人で、書類の精査を行なっているところだ。
「はい。面接で信頼できる者を集めたとはいえ、多大なお金が動くので、やはりこの点は心配でございました。お嬢様に確認して頂けて安心致しました」
ハイビスも、ロゼリアの能力の高さに驚いてはいたが、同時に頼もしくも思っている。
「レシピに関して、チェリシアはジャムは別に広げても大丈夫と言っていたわ。作るには大量の砂糖が必要だから、安易に真似はできないもの。後の物に関しては、魔法が使えないと年単位で時間が必要だから、粗悪な物を作られないように秘匿して欲しいわ」
「畏まりました」
「それと、万年筆の量産をしたいので、魔石を用意してもらえないかしら」
「すぐにでございますか?」
「ええ。学園でお兄様が使っているから、そのうち広まると思うの。在庫があるからといっても、さすがに学園の生徒全員に対応はできないわよ」
「……左様でございますな。すぐに用意致します」
ハイビスは早速部屋を出ていった。
「ふう、当分は新規の商品の開発は無理ね」
ロゼリアは椅子に座ったまま、天井を見上げてため息をついた。
ロゼリアとチェリシアは十歳、ペシエラは七歳となり、ロゼリアの兄カーマイルは王都の学園へと入学していた。本当に時が経つのは早いものである。
チェリシアは十歳の誕生日を迎えた数日後に、プラウスに魔法を披露してプラウスは腰を抜かしていた。
ちなみに、ロゼリアもチェリシアの魔法を、万年筆の一件の数日後に見せてもらっていた。その時にチェリシアが使ったのは、なんと氷柱を生み出して撃ち抜く魔法。氷なのに強度があって、撃ち抜かれた木を数本なぎ倒す程の威力。このチェリシアの魔力は、逆行前と比べてみても規格外だった。
「多分、異世界転生した事による影響だと思います。私が知っている限りでは、ゲームでも小説でも大体は反則的な能力を授かってましたので」
理由を聞かれたチェリシアは、そのように答えていた。ロゼリアとペシエラは「訳が分からないわ」と叫んでいた。
一方のペシエラも魔法を見せてくれた。逆行前にも使っていた炎の魔法で、威力もそのまま。ただ、ペシエラは回復魔法も使える稀有な存在だったので、十歳を迎えるまでは使用は極力控えるように念を押しておいた。
その理由は、使えるからと言っても、適齢期を迎える前に使い過ぎれば、魔力枯れを起こすか体に悪影響を及ぼす事が考えられるからだ。これにはペシエラもおとなしく従った。逆行前とは比べ物にならないくらい素直だ。
結局のところ、チェリシア、ペシエラ姉妹は揃いも揃って地水火風闇光の全属性への適性を示し、回復魔法までも使える化け物だった。
それに対して、ロゼリアが使えるのは地水風の三属性。だが、それ以上に魔法の制御が天才的で、チェリシアの提案するトンデモ事案を形にできるのだ。塩を精製したり、魔石の魔力をインクに変換したりできるのも、その天才的な魔力運用があってこそだった。それこそ「もうあいつらだけで十分じゃね?」の状態だった。
カーマイルが学園に入学した後、ヴァミリオやプラウスはそれぞれの領地の視察に戻っており、王都の事はその子どもたちに任されていた。学園を卒業はおろか、入学すらしていない子どもに任せるのは異例中の異例。それくらいまでにロゼリアたちへの信頼は厚かった。
この日もロゼリアたちはマゼンダ商会へと足を運ぶ。商会の状況を直に確認するためである。
ちなみに、万年筆と修正筆以降は新商品の開発はしていない。安定供給を確保するためだ。あまりに商品開発を乱発すると、開発、製造、販売のバランスが崩れて商会の機能が立ち行かなくなってしまう。それを防ぐためには仕方のない事だった。
現在、商会で取り扱っている商品は以下の通り。
・塩
・ジャム(いちご、りんご)
・植物油(菜種、椿、オリーブ)
・酒(りんご、ワイン)
・酢(りんご、ワイン)
・石けん
・万年筆
・修正筆
中でもジャムは、砂糖の価値のせいでかなりの高額。それでも珍しい甘味とあって、人気の商品となっていた。
石けんもお風呂に衣服に食器にと何でも使えて、更に綺麗になるとあって人気となっている。香り付きも売れている。
「こちらがここ一年の収支報告書となります」
ロゼリアは、商会で事務のトップを務めているハイビスから書類を手渡される。
普通なら、十歳になったばかりの子どもに重要書類を渡すような事はない。しかし、ロゼリアたちの聡明さは商会の中では当然のように知れ渡っており、ヴァミリオやプラウスが不在の時には、代理で商会をまとめる執務を行っている。
「鑑定魔法と目視の二つでチェックしてみたけど、不正の後は無いわね。まだ安定供給とまではいかないから、利益が薄いのは仕方ないわね」
ロゼリアはひと通りチェックを入れて、ハイビスに伝える。
ちなみにチェリシアとペシエラの二人とは別行動をしており、執務室に居るのはロゼリア一人だけである。父の信頼するハイビスと二人で、書類の精査を行なっているところだ。
「はい。面接で信頼できる者を集めたとはいえ、多大なお金が動くので、やはりこの点は心配でございました。お嬢様に確認して頂けて安心致しました」
ハイビスも、ロゼリアの能力の高さに驚いてはいたが、同時に頼もしくも思っている。
「レシピに関して、チェリシアはジャムは別に広げても大丈夫と言っていたわ。作るには大量の砂糖が必要だから、安易に真似はできないもの。後の物に関しては、魔法が使えないと年単位で時間が必要だから、粗悪な物を作られないように秘匿して欲しいわ」
「畏まりました」
「それと、万年筆の量産をしたいので、魔石を用意してもらえないかしら」
「すぐにでございますか?」
「ええ。学園でお兄様が使っているから、そのうち広まると思うの。在庫があるからといっても、さすがに学園の生徒全員に対応はできないわよ」
「……左様でございますな。すぐに用意致します」
ハイビスは早速部屋を出ていった。
「ふう、当分は新規の商品の開発は無理ね」
ロゼリアは椅子に座ったまま、天井を見上げてため息をついた。
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