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第三章 ロゼリア9歳
第42話 殿下との面会
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一時間もしないうちに、ロゼリアたち三人は、王宮でシルヴァノ殿下と面会していた。
しかし、あまりの急な招集にロゼリアたちの困惑は隠しきれなかった。
(一体、なぜ急に呼ばれたのかしら。うーん、意図が読めないわ)
考え事をしているところで呼び出されたため、ロゼリアの思考はとても鈍っていた。
「急なお呼び出しに応じて頂き、感謝致します。私、シルヴァノ殿下付きの執事アンバスと申します。以後、お見知りおきを」
シルヴァノ殿下の隣に立つ、少し歳のいった男性が挨拶をする。風貌を見るからに、長年王家に仕えてきた熟練だと思われる。周りには男女複数名の使用人たちの姿も見える。
今居る部屋は、当然ながら王子の私室ではない。来客用の応接室であるために、こうして使用人たちがぞろぞろと待機しているのだ。そして、アンバスがシルヴァノ殿下に目を遣る。シルヴァノ殿下はその視線に気付くと、無言でこくりと頷いた。
「殿下は先日お送り頂いた万年筆を、大層気に入っておいでです。本日はそのお礼という事で、お越し頂いのでございます」
ロゼリアたちの正面に座るシルヴァノ殿下は、ずっとにこにこしている。
一方のロゼリアは、このためだけに呼ばれたと聞いて少し呆れた。しかし、わざわざ先触れを出して二カ所回るより、その二方を自分の所に呼んだ方が早いし効率が良いのは間違いなかった。
「この万年筆はとても書きやすくて、勉学が捗ります。本当に良い物をくれて嬉しく思います」
唐突にシルヴァノ殿下からお礼を言われて、ロゼリアたちは驚いた。なにせまともに話はした事がないし、全員が大きくなってからの印象しかなかったので、まだ一桁年齢のあどけない王子の姿に度肝を抜かれていた。
特に衝撃を受けていたのが、前回夫婦となったペシエラだった。前回はロゼリアへの反発から射止めた座ではあったが、この時のシルヴァノ殿下の笑顔に、素直に心を射抜かれてしまった。
それにしても、この日は殿下とよく話をしたと思う。万年筆の事から始まり、商会の話に移り、終いには領地の事まで話してしまった。いや、シルヴァノ殿下も本当に九歳か疑いたくなる。
畏れ多くも、ロゼリアはここまで話を聞いてくる理由を尋ねた。するとシルヴァノ殿下は、
「お父様とお母様が、国の事をよく知りなさいと仰るので、個人的な好奇心からです」
と、これまた屈託のない笑顔で答えてきた。どうやら、未来の国王として相応しくあるように、この年から努力をしているようだった。
ところが、これに対して、ロゼリアの対抗心に火が付いた。
「殿下がそこまで考えていらっしゃるとは、思いもしませんでしたわ。でしたら、私も婚約者候補として負けていられませんわね。ええ、国を豊かにするために、精一杯努力させて頂きますわ」
いつもは使わない口調で、シルヴァノ殿下を煽る。
「そうか。それは楽しみだな」
しかし、シルヴァノ殿下はまったく動じずに、笑顔で呑気に呟いた。分かってないのか見透かしているのか分からないが、その笑顔に、ロゼリアは少しイラッとしたのだった。
(うぅ、前回の恨みがあるとはいえ、ここは我慢我慢……。殿下がまともに成長しているなら、むしろ喜ぶべき)
思わず口を突いて出そうになる言葉を、ギリギリ耐えるロゼリア。
「それにしても、三人と話をしていると、まるで大人の人と話しているような感覚になりますね」
唐突に言い放ったシルヴァノ殿下の言葉に、ロゼリアはつい、含んだ紅茶を吹きそうになった。
「げほっげほっ」
堪えた結果、咽せていた。
「大丈夫ですか、ロゼリア様」
「ええ、大丈夫よ、チェリシア」
心配するチェリシアと呆れ返るペシエラ。一応姉妹だが、中身は赤の他人なので、反応が対照的だった。
「な、何を仰られますか、殿下?」
咽せた状態で、ロゼリアの顔は少し青くなっている。
ところが、ロゼリアはこうは言ったものの、実際のところはまったく年相応の行動をしていない。十歳未満では基本使えない魔法をバンバン使うわ、言動がやけに落ち着いているわ、育ち盛りの子どもとは実にかけ離れている。それを見た目同い年のシルヴァノ殿下から、どストレートに指摘されてしまったのだ。
「あははは。本当にロゼリアたちは、見てて飽きないね。うん、時々遊びに来て欲しいよ」
殿下から曇りのない笑顔でお願いされてしまっては、もうロゼリアたちに断るだけの体力は残されていなかった。
「……ど、努力しますわ」
「うん、楽しみにしてるね」
こうして、そこそこ疎遠でいる予定はずが、かえって親密になりそうな状態に陥ってしまうのだった。
しかし、あまりの急な招集にロゼリアたちの困惑は隠しきれなかった。
(一体、なぜ急に呼ばれたのかしら。うーん、意図が読めないわ)
考え事をしているところで呼び出されたため、ロゼリアの思考はとても鈍っていた。
「急なお呼び出しに応じて頂き、感謝致します。私、シルヴァノ殿下付きの執事アンバスと申します。以後、お見知りおきを」
シルヴァノ殿下の隣に立つ、少し歳のいった男性が挨拶をする。風貌を見るからに、長年王家に仕えてきた熟練だと思われる。周りには男女複数名の使用人たちの姿も見える。
今居る部屋は、当然ながら王子の私室ではない。来客用の応接室であるために、こうして使用人たちがぞろぞろと待機しているのだ。そして、アンバスがシルヴァノ殿下に目を遣る。シルヴァノ殿下はその視線に気付くと、無言でこくりと頷いた。
「殿下は先日お送り頂いた万年筆を、大層気に入っておいでです。本日はそのお礼という事で、お越し頂いのでございます」
ロゼリアたちの正面に座るシルヴァノ殿下は、ずっとにこにこしている。
一方のロゼリアは、このためだけに呼ばれたと聞いて少し呆れた。しかし、わざわざ先触れを出して二カ所回るより、その二方を自分の所に呼んだ方が早いし効率が良いのは間違いなかった。
「この万年筆はとても書きやすくて、勉学が捗ります。本当に良い物をくれて嬉しく思います」
唐突にシルヴァノ殿下からお礼を言われて、ロゼリアたちは驚いた。なにせまともに話はした事がないし、全員が大きくなってからの印象しかなかったので、まだ一桁年齢のあどけない王子の姿に度肝を抜かれていた。
特に衝撃を受けていたのが、前回夫婦となったペシエラだった。前回はロゼリアへの反発から射止めた座ではあったが、この時のシルヴァノ殿下の笑顔に、素直に心を射抜かれてしまった。
それにしても、この日は殿下とよく話をしたと思う。万年筆の事から始まり、商会の話に移り、終いには領地の事まで話してしまった。いや、シルヴァノ殿下も本当に九歳か疑いたくなる。
畏れ多くも、ロゼリアはここまで話を聞いてくる理由を尋ねた。するとシルヴァノ殿下は、
「お父様とお母様が、国の事をよく知りなさいと仰るので、個人的な好奇心からです」
と、これまた屈託のない笑顔で答えてきた。どうやら、未来の国王として相応しくあるように、この年から努力をしているようだった。
ところが、これに対して、ロゼリアの対抗心に火が付いた。
「殿下がそこまで考えていらっしゃるとは、思いもしませんでしたわ。でしたら、私も婚約者候補として負けていられませんわね。ええ、国を豊かにするために、精一杯努力させて頂きますわ」
いつもは使わない口調で、シルヴァノ殿下を煽る。
「そうか。それは楽しみだな」
しかし、シルヴァノ殿下はまったく動じずに、笑顔で呑気に呟いた。分かってないのか見透かしているのか分からないが、その笑顔に、ロゼリアは少しイラッとしたのだった。
(うぅ、前回の恨みがあるとはいえ、ここは我慢我慢……。殿下がまともに成長しているなら、むしろ喜ぶべき)
思わず口を突いて出そうになる言葉を、ギリギリ耐えるロゼリア。
「それにしても、三人と話をしていると、まるで大人の人と話しているような感覚になりますね」
唐突に言い放ったシルヴァノ殿下の言葉に、ロゼリアはつい、含んだ紅茶を吹きそうになった。
「げほっげほっ」
堪えた結果、咽せていた。
「大丈夫ですか、ロゼリア様」
「ええ、大丈夫よ、チェリシア」
心配するチェリシアと呆れ返るペシエラ。一応姉妹だが、中身は赤の他人なので、反応が対照的だった。
「な、何を仰られますか、殿下?」
咽せた状態で、ロゼリアの顔は少し青くなっている。
ところが、ロゼリアはこうは言ったものの、実際のところはまったく年相応の行動をしていない。十歳未満では基本使えない魔法をバンバン使うわ、言動がやけに落ち着いているわ、育ち盛りの子どもとは実にかけ離れている。それを見た目同い年のシルヴァノ殿下から、どストレートに指摘されてしまったのだ。
「あははは。本当にロゼリアたちは、見てて飽きないね。うん、時々遊びに来て欲しいよ」
殿下から曇りのない笑顔でお願いされてしまっては、もうロゼリアたちに断るだけの体力は残されていなかった。
「……ど、努力しますわ」
「うん、楽しみにしてるね」
こうして、そこそこ疎遠でいる予定はずが、かえって親密になりそうな状態に陥ってしまうのだった。
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