41 / 433
第三章 ロゼリア9歳
第40話 装飾
しおりを挟む
「ほおほお、これはなかなか素晴らしいな!」
紙にペンを走らせるだけで、スラスラと文字が書ける事に目を輝かせる国王陛下。まるで子どものようである。
「魔石を使っていると聞かされても、これはなかなか不思議な光景よのう」
女王陛下もその様子を食い入るように見ている。
「しかし、ペン先が物に当たるとインクが出てしまうのでは、持ち歩きができぬのではないのか?」
女王陛下から指摘が入る。
しかし、ロゼリアたちは動じない。これは想定内の指摘だからだ。ここで動いたのはペシエラ。
「恐れ入ります、女王陛下。そのために、こちらのペンカバーも同時に作成しております。こちらをペン先にかぶせる事で、ペン先がどこにも触れず、インクが出る事を防ぐ事ができます」
スラスラと説明している。
実はこれは事前に行った役割分担である。発案はチェリシア、魔法の行使はロゼリアで、ペシエラだけが浮いてしまっていたからだ。ここで何もさせなければ、仲間はずれと感じて性格が歪むかも知れない、そういう懸念がロゼリアにはあった。
しかし、予想外にペシエラも積極的に開発に関わってきた。それが万年筆のデザインだ。形状や装飾など、ペシエラには予想外の才能があった。
そういえば、前回のチェリシア、つまり現在のペシエラは芸術系の成績は良かった。あと、料理の腕も確かだった。さすが過酷な地を治める貧乏子爵の令嬢。なんとかして領地を保とうとした結果なのだろう。
だが、前回はそれが悪用されてしまった。捏造された書類は、ペシエラが拵えたもので、ロゼリアの筆跡やマゼンダ侯爵家の紋を偽造するという暴挙に活かされてしまったのだった。
しかし、今回はキチンと良い方向で活かされている。万年筆の筒の持ちやすさと男女それぞれの好むような装飾を施し、かぶせる蓋にしても貴族の好むような高級感溢れる装飾がされている。もちろん、庶民用の装飾の少ないもしくは無い物も用意されてはいるが。ペシエラはこれをいとも容易くやってのけたのだ。
カーマイルの使った物は試用のため無装飾だったが、さすがに献上用ともなればそうもいかなかったから仕方がない。これも、ペシエラは文句の一つもなくこなしていた。
「ペシエラって、実は器用だったのね」
「うちの貧乏具合を考えたら、やむを得なかったのよ」
万年筆の作製中には、こんな会話も飛んだくらいだった。
しかし、ペシエラの腕前は確かで、今は女王陛下の手にある万年筆の飾り細工はとても細かい。ペンとしての強度を保ち、手に触れる部分は滑らかだが滑りにくく、それでいて気品に満ちたデザインとなっている。ペシエラは、この装飾をペンカバーを含めて三日で完成させていた。
「書きやすさもそうだが、この万年筆の握りやすさといい、この装飾といい、腕の良い職人も居たものだな」
女王陛下もべた褒めである。
握りやすさに関しては、万年筆の形状に関してはチェリシアが描いた絵を元に詰め、ヴァミリオとカーマイルからの感想を取り込んで最終的に形にした。それも踏まえ、ペシエラの装飾もよく考えられたものだ。装飾を入れる位置は、チェリシアとペシエラで相談をしたらしいので、これは二人の功績だった。
女王陛下が褒めてくれるので、自分たち三人の事を言いたくてたまらなくなったが、ロゼリアは二人を制して黙っておく事にした。建前上の理由は、職人の意向という事にしておいた。すると、女王陛下は残念そうな顔をしていた。
「そうか、これほどまでに見事な物、褒美を取らせても良いと思うたのに……」
ペシエラの耳がピクリと動く。しかし、手早くロゼリアが動きを制する。
「恐れ入りますが、女王陛下。職人とは頑固なものなのです。しかし、折角お言葉を賜りましたので、後ほど職人に伝えておきます」
ロゼリアはそう言って、にこりと微笑んだ。そして、間髪入れずに、
「実は、殿下にも一本ご用意させて頂いております。どうぞ、ご改め下さい」
ロゼリアは発言すると、包みをチェリシアから受け取り、中身を取り出した。
女王陛下が「確認致せ」と近衛兵に命令すると、ロゼリアの元にやって来た兵が万年筆と木箱を確認する。
「問題ありません」
「そうか。ならば、こちらまで持って参れ」
「はっ!」
手元に来た万年筆を、国王陛下と女王陛下が確認する。王族用と思われる豪華な装飾を施されてはいるが、先に渡された一本に比べれば華やかさは劣る物だった。
「はて、少し質素のようだが、どういう事だ?」
国王陛下が理由を尋ねる。
「はい。後に学園に入られた時の事も考え、持ち運びを妨げないように飾りを抑えました。手や服に引っ掛かる事を憂慮しての事でございます」
ロゼリアはスラスラと答えた。
「そこまで考えておるとはな。この万年筆とやら、王宮でも数十本購入させてもらおう。納期は一週間、できるな?」
「はい、もちろんですとも」
女王陛下からの注文に、ロゼリアたち三人は笑顔で答える。その後ろで、父親たちが胃を痛めているとも知らず。
こうして、マゼンダ商会に新たな商品“万年筆”が加わるのであった。
紙にペンを走らせるだけで、スラスラと文字が書ける事に目を輝かせる国王陛下。まるで子どものようである。
「魔石を使っていると聞かされても、これはなかなか不思議な光景よのう」
女王陛下もその様子を食い入るように見ている。
「しかし、ペン先が物に当たるとインクが出てしまうのでは、持ち歩きができぬのではないのか?」
女王陛下から指摘が入る。
しかし、ロゼリアたちは動じない。これは想定内の指摘だからだ。ここで動いたのはペシエラ。
「恐れ入ります、女王陛下。そのために、こちらのペンカバーも同時に作成しております。こちらをペン先にかぶせる事で、ペン先がどこにも触れず、インクが出る事を防ぐ事ができます」
スラスラと説明している。
実はこれは事前に行った役割分担である。発案はチェリシア、魔法の行使はロゼリアで、ペシエラだけが浮いてしまっていたからだ。ここで何もさせなければ、仲間はずれと感じて性格が歪むかも知れない、そういう懸念がロゼリアにはあった。
しかし、予想外にペシエラも積極的に開発に関わってきた。それが万年筆のデザインだ。形状や装飾など、ペシエラには予想外の才能があった。
そういえば、前回のチェリシア、つまり現在のペシエラは芸術系の成績は良かった。あと、料理の腕も確かだった。さすが過酷な地を治める貧乏子爵の令嬢。なんとかして領地を保とうとした結果なのだろう。
だが、前回はそれが悪用されてしまった。捏造された書類は、ペシエラが拵えたもので、ロゼリアの筆跡やマゼンダ侯爵家の紋を偽造するという暴挙に活かされてしまったのだった。
しかし、今回はキチンと良い方向で活かされている。万年筆の筒の持ちやすさと男女それぞれの好むような装飾を施し、かぶせる蓋にしても貴族の好むような高級感溢れる装飾がされている。もちろん、庶民用の装飾の少ないもしくは無い物も用意されてはいるが。ペシエラはこれをいとも容易くやってのけたのだ。
カーマイルの使った物は試用のため無装飾だったが、さすがに献上用ともなればそうもいかなかったから仕方がない。これも、ペシエラは文句の一つもなくこなしていた。
「ペシエラって、実は器用だったのね」
「うちの貧乏具合を考えたら、やむを得なかったのよ」
万年筆の作製中には、こんな会話も飛んだくらいだった。
しかし、ペシエラの腕前は確かで、今は女王陛下の手にある万年筆の飾り細工はとても細かい。ペンとしての強度を保ち、手に触れる部分は滑らかだが滑りにくく、それでいて気品に満ちたデザインとなっている。ペシエラは、この装飾をペンカバーを含めて三日で完成させていた。
「書きやすさもそうだが、この万年筆の握りやすさといい、この装飾といい、腕の良い職人も居たものだな」
女王陛下もべた褒めである。
握りやすさに関しては、万年筆の形状に関してはチェリシアが描いた絵を元に詰め、ヴァミリオとカーマイルからの感想を取り込んで最終的に形にした。それも踏まえ、ペシエラの装飾もよく考えられたものだ。装飾を入れる位置は、チェリシアとペシエラで相談をしたらしいので、これは二人の功績だった。
女王陛下が褒めてくれるので、自分たち三人の事を言いたくてたまらなくなったが、ロゼリアは二人を制して黙っておく事にした。建前上の理由は、職人の意向という事にしておいた。すると、女王陛下は残念そうな顔をしていた。
「そうか、これほどまでに見事な物、褒美を取らせても良いと思うたのに……」
ペシエラの耳がピクリと動く。しかし、手早くロゼリアが動きを制する。
「恐れ入りますが、女王陛下。職人とは頑固なものなのです。しかし、折角お言葉を賜りましたので、後ほど職人に伝えておきます」
ロゼリアはそう言って、にこりと微笑んだ。そして、間髪入れずに、
「実は、殿下にも一本ご用意させて頂いております。どうぞ、ご改め下さい」
ロゼリアは発言すると、包みをチェリシアから受け取り、中身を取り出した。
女王陛下が「確認致せ」と近衛兵に命令すると、ロゼリアの元にやって来た兵が万年筆と木箱を確認する。
「問題ありません」
「そうか。ならば、こちらまで持って参れ」
「はっ!」
手元に来た万年筆を、国王陛下と女王陛下が確認する。王族用と思われる豪華な装飾を施されてはいるが、先に渡された一本に比べれば華やかさは劣る物だった。
「はて、少し質素のようだが、どういう事だ?」
国王陛下が理由を尋ねる。
「はい。後に学園に入られた時の事も考え、持ち運びを妨げないように飾りを抑えました。手や服に引っ掛かる事を憂慮しての事でございます」
ロゼリアはスラスラと答えた。
「そこまで考えておるとはな。この万年筆とやら、王宮でも数十本購入させてもらおう。納期は一週間、できるな?」
「はい、もちろんですとも」
女王陛下からの注文に、ロゼリアたち三人は笑顔で答える。その後ろで、父親たちが胃を痛めているとも知らず。
こうして、マゼンダ商会に新たな商品“万年筆”が加わるのであった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる