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第三章 ロゼリア9歳
第29話 油はどこに
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「チェリシア、この学園でのイベントですけど」
話の最中、ロゼリアはチェリシアに別の話題を振る。
「はい、なんでしょう?」
きょとんとして返事をするチェリシア。
「例の乙女ゲームの通りにイベントは起こしていって欲しいわ」
「なぜでしょう?」
チェリシアは首を傾げている。
「無理にシナリオを変える必要はないわ。私は女王になるつもりはないから、シナリオ通りに進んで国外追放……というか他国に嫁ごうかと考えいるの」
ここで、ロゼリアは驚く事を許さずに、発言と同時にペシエラへチェリシアから渡されたシナリオを手渡した。
「なに、これ」
「チェリシアの前世の世界にある乙女ゲームのシナリオよ。逆行前の私たち二人の関係よりだいぶマシだから、よかったら読んでみて」
無表情でペシエラにシナリオを押し付けるロゼリア。ペシエラは「分かったわ」とだけ答えて受け取った。
「学園に入るまで二年半ほど。それまでに商品開発はひと通り済ませておきたいわね」
「油がもっと確保できれば、炒め物や揚げ物といった料理も作れるようになるんですけどね」
ロゼリアとチェリシアは、うーんと腕を組んで悩んでいる。その横で、ペシエラは渡されたシナリオの束に目を通している。
「この世界で油といえば、動物や魔物から採取された脂肪の塊くらいよ。量を確保するとなれば、乱獲レベルになるわよ?」
油に関して、ロゼリアが逆行前の知識を伝える。やはり、油はその方法でしか手に入らないようだ。
「うーん、植物の実や種から作れればいいのに。菜種油とかオリーブオイルとか、あとは美容にいい椿油とかあるのになぁ」
チェリシアが呟けば、ロゼリアの目が光る。
「美容にいい? それは本当なの?」
「つ、椿油は髪につけてツヤを出すんです。植物の油なので料理にも使えますし……。作り方が少し面倒ですけれど」
ロゼリアの勢いに押されながら、チェリシアは答える。
「椿と菜種なら、マゼンダ領にあるわ。実が採れたら取り寄せるわよ」
果物だけかと思ったら、そんな物まで自生しているらしい。さすが農業の土地である。
「オリーブならコーラル子爵領にあるわよ、お姉様」
シナリオを読みながら、ペシエラも口を挟んでくる。
「本当?」
「ええ、逆行前もそうだけど、塩害に負けずしっかりと実をつけているわ。シェリアとは違う場所だから、私もあまり行った事ないけど」
次々と意外な情報が出てくる。しかし、これで油の大量生産の可能性が出てきた。となれば、次はその入れ物だ。
「入れ物だったら、ワインの容器を使えばいいのでは? 茶色の瓶で容量はありますし」
「あっ、それもそうね。でも、ワインと油なら容器の特徴を変えないと、間違ったら大変だわ」
「そうね。その時に職人に伝えておくわ」
トントンと決まっていく。
話し合いをしている間も、ペシエラはシナリオに目を通しつつ頭を抱えるような仕草を見せている。
「何これ、確かに立ち位置は私だけど、私より甘っちょろじゃないの。鳥肌が立ってくるわ。……このシナリオ考えた人は三流ね」
シナリオを読みながら愚痴をこぼしている。
……確かに、こちらの逆行前のチェリシアは、ロゼリアに多大な恨みを抱いて、マゼンダ侯爵一家を諸共罠の巻き添えにしたのだ。一番悪くても国外追放のシナリオは、考えが甘いと感じるのも無理はない。
「とはいえ、さすがに私も愚かだったわ。マゼンダ侯爵家の力を考えずに、個人的な恨みで滅ぼしてしまったんですもの。……かえってこのシナリオくらいでよかったのかも知れないわね」
だが、その後の顛末ゆえに反省と後悔はしているようだ。
「反省は次に活かせばいいのよ。運命の悪戯か、こうやって過去に戻って来れたんだから」
ロゼリアは、チェリシアから油を搾る方法を聞きながら、ペシエラの独り言にも対応していた。さすが侯爵家令嬢、スペックが違う。
「そうね。あんたが私に絡んできたのが、ただのお節介だって分かったし。ところで、私ってそんなに酷いの?」
「ええ、酷いわ。貴族社会というよりも、他人と関わる上で、最低限の礼節は必要よ。しっかり学んで頂戴」
「はーい……」
ロゼリアに酷い性格だという事を肯定され、更にはマゼンダ家での勉強に打ち込むように言われ、ペシエラは露骨に嫌な顔をした。
「まったく、そういうところよ。内心で思っても、表面的には笑顔。愚痴は見てないところか、信用できる人の前で言いなさい」
「うっ……」
「ロゼリアってお姉さんね」
ロゼリアとペシエラのやりとりを見ていたチェリシアは、微笑ましく言う。
当然という顔をするロゼリアに対して、ペシエラはもう見るからに不満顔だった。
「ペシエラも、前みたいな事を繰り返したくないのだったら、しっかり取り組んで頂戴。落ち着いて物事を見れるようにならないと、また身を滅ぼすわよ」
身を滅ぼすと言われて、ようやくペシエラは嫌々ながら取り組む姿勢を見せた。
(今のペシエラさんの状態でも、逆行前よりは幾分マシになっているのよね。小さい頃から接触して正解だったわ)
ロゼリアはしみじみと思いながら、時間ギリギリまで今後について話し合うのだった。
話の最中、ロゼリアはチェリシアに別の話題を振る。
「はい、なんでしょう?」
きょとんとして返事をするチェリシア。
「例の乙女ゲームの通りにイベントは起こしていって欲しいわ」
「なぜでしょう?」
チェリシアは首を傾げている。
「無理にシナリオを変える必要はないわ。私は女王になるつもりはないから、シナリオ通りに進んで国外追放……というか他国に嫁ごうかと考えいるの」
ここで、ロゼリアは驚く事を許さずに、発言と同時にペシエラへチェリシアから渡されたシナリオを手渡した。
「なに、これ」
「チェリシアの前世の世界にある乙女ゲームのシナリオよ。逆行前の私たち二人の関係よりだいぶマシだから、よかったら読んでみて」
無表情でペシエラにシナリオを押し付けるロゼリア。ペシエラは「分かったわ」とだけ答えて受け取った。
「学園に入るまで二年半ほど。それまでに商品開発はひと通り済ませておきたいわね」
「油がもっと確保できれば、炒め物や揚げ物といった料理も作れるようになるんですけどね」
ロゼリアとチェリシアは、うーんと腕を組んで悩んでいる。その横で、ペシエラは渡されたシナリオの束に目を通している。
「この世界で油といえば、動物や魔物から採取された脂肪の塊くらいよ。量を確保するとなれば、乱獲レベルになるわよ?」
油に関して、ロゼリアが逆行前の知識を伝える。やはり、油はその方法でしか手に入らないようだ。
「うーん、植物の実や種から作れればいいのに。菜種油とかオリーブオイルとか、あとは美容にいい椿油とかあるのになぁ」
チェリシアが呟けば、ロゼリアの目が光る。
「美容にいい? それは本当なの?」
「つ、椿油は髪につけてツヤを出すんです。植物の油なので料理にも使えますし……。作り方が少し面倒ですけれど」
ロゼリアの勢いに押されながら、チェリシアは答える。
「椿と菜種なら、マゼンダ領にあるわ。実が採れたら取り寄せるわよ」
果物だけかと思ったら、そんな物まで自生しているらしい。さすが農業の土地である。
「オリーブならコーラル子爵領にあるわよ、お姉様」
シナリオを読みながら、ペシエラも口を挟んでくる。
「本当?」
「ええ、逆行前もそうだけど、塩害に負けずしっかりと実をつけているわ。シェリアとは違う場所だから、私もあまり行った事ないけど」
次々と意外な情報が出てくる。しかし、これで油の大量生産の可能性が出てきた。となれば、次はその入れ物だ。
「入れ物だったら、ワインの容器を使えばいいのでは? 茶色の瓶で容量はありますし」
「あっ、それもそうね。でも、ワインと油なら容器の特徴を変えないと、間違ったら大変だわ」
「そうね。その時に職人に伝えておくわ」
トントンと決まっていく。
話し合いをしている間も、ペシエラはシナリオに目を通しつつ頭を抱えるような仕草を見せている。
「何これ、確かに立ち位置は私だけど、私より甘っちょろじゃないの。鳥肌が立ってくるわ。……このシナリオ考えた人は三流ね」
シナリオを読みながら愚痴をこぼしている。
……確かに、こちらの逆行前のチェリシアは、ロゼリアに多大な恨みを抱いて、マゼンダ侯爵一家を諸共罠の巻き添えにしたのだ。一番悪くても国外追放のシナリオは、考えが甘いと感じるのも無理はない。
「とはいえ、さすがに私も愚かだったわ。マゼンダ侯爵家の力を考えずに、個人的な恨みで滅ぼしてしまったんですもの。……かえってこのシナリオくらいでよかったのかも知れないわね」
だが、その後の顛末ゆえに反省と後悔はしているようだ。
「反省は次に活かせばいいのよ。運命の悪戯か、こうやって過去に戻って来れたんだから」
ロゼリアは、チェリシアから油を搾る方法を聞きながら、ペシエラの独り言にも対応していた。さすが侯爵家令嬢、スペックが違う。
「そうね。あんたが私に絡んできたのが、ただのお節介だって分かったし。ところで、私ってそんなに酷いの?」
「ええ、酷いわ。貴族社会というよりも、他人と関わる上で、最低限の礼節は必要よ。しっかり学んで頂戴」
「はーい……」
ロゼリアに酷い性格だという事を肯定され、更にはマゼンダ家での勉強に打ち込むように言われ、ペシエラは露骨に嫌な顔をした。
「まったく、そういうところよ。内心で思っても、表面的には笑顔。愚痴は見てないところか、信用できる人の前で言いなさい」
「うっ……」
「ロゼリアってお姉さんね」
ロゼリアとペシエラのやりとりを見ていたチェリシアは、微笑ましく言う。
当然という顔をするロゼリアに対して、ペシエラはもう見るからに不満顔だった。
「ペシエラも、前みたいな事を繰り返したくないのだったら、しっかり取り組んで頂戴。落ち着いて物事を見れるようにならないと、また身を滅ぼすわよ」
身を滅ぼすと言われて、ようやくペシエラは嫌々ながら取り組む姿勢を見せた。
(今のペシエラさんの状態でも、逆行前よりは幾分マシになっているのよね。小さい頃から接触して正解だったわ)
ロゼリアはしみじみと思いながら、時間ギリギリまで今後について話し合うのだった。
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